彼らが『チカラ』を求める理由   作:クワ型まりも

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時系列はゲーム版3のエクストラシナリオ後です。よろしくお願いします。


牛肉は意識へ

 

 

 

「ううっ……疲れた……」

「理科の範囲が大体142ページまでだっけ?ミソラちゃんの場合、前期のおさらいも必要になっちゃうからなかなかハードなテストになりそうだ……」

「もうやだ、ホシきらい……」

「!?」

 

 満身創痍なミソラのぼやきに予想外のクリティカルを食らうスバル。

 

『がーすかぴーすか』

『いびきうるさいわよ』

「あ、叩き起こしちゃっていいよ」

『ぐがーすぅごぉわっ!テキシュウか!?か、カラダが痺れっ……!』

 

ハープのショックノートにより全身麻痺という苦しい寝覚めを味わうウォーロック。

 

 場は鬱屈とし日はとうに沈み、空を包む闇が自分達の心にまで侵食しているかのような錯覚を覚える最中。

 

 

「……ふふっ」

 

 

ミソラがからからと楽しげに笑いだした。

 

 

 

 

 

 

 

「ハープ、ミソラちゃん壊れちゃったよ」

『ポロロン、どうしましょう?』

『叩けば直るだろ?『ビーストス』』

「わあ!?タンマタンマ!危ないから!ロックくんのそれ、叩くとかいうレベルじゃないから!」

 

 てかみんな私に失礼だし……とミソラがむくれる。

 

「いやでも突然笑い出すから……」

「……」

 

 未だ頭に疑問符を浮かべつつ話すスバルに対し、ミソラはからかうような顔をつくって、

 

「……じゃあ問題です。私は今なにに対して笑っていたでしょーかっ?」

 

スバルに自らの感情を問いかけた。しかしスバルはそんなミソラの問いかけにではなく、なんとなく、なんとなくであるが、ミソラのころころ変わっていく表情に意識が奪われた。スバルがミソラを目にする機会はふたつ。ひとつは当然であるが一緒にいるとき、つまり今このようなとき。そしてもうひとつは、テレビを観ているときである。人気のある歌手なのだから何気ないテレビ番組にも出演していて、それをさほど驚くでもなく眺めていた。仕事に勤しむミソラの顔を、画面越しになら枚挙に暇がないほど見てきた。だからスバルにはわかる。視聴者としてのみでなく、友達としてもミソラと接してきたスバルだからわかる。ミソラが出演しているテレビ番組をすべて確認しているわけではないが、スバルの隣にいるときのミソラが放つその笑顔や、話に沿って素直に変わっていくその表情を、果たして自分は画面の向こう側にいるミソラに見いだしていただろうか。答えなんてわかりきってる。自分の出した答えが間違っているなんてことはありえないという確信もある。友達と話しているときの響ミソラという表情は、友達でなければ見ることのできないものなのだから。

 

 

「友達と一緒にいれて、なんとなく楽しかったこと?」

 

 スバルの回答にミソラは一瞬鼻白む。

 

「……まーったく、出題者としてはこれほど問題のつくり甲斐がない答案者もいないよ」

「正解だけどあっさり解きすぎってことかな?」

「うん、パーフェクトっ」

 

 スバルたちはどちらからともなく笑い出す。心地のいい温かな笑壺の会が静寂を取り戻しだしたころ、スバルはポツリと心情をこぼす。

 

「僕もおんなじだからね」

「え?なにか言った?」

「……いや、なんにも」

 

 自身の呟きをはっきりと聞き取られなかったことにスバルは安堵した。ミソラが正直に伝えたその気持ちを、しかしスバルは気恥ずかしくて言葉にできない。これがもし、本当にミソラと同じ心境で、ミソラと同じことを、ミソラの言ったことと同じ意味で口にする行為であったならば、滞ることなく思いが零れていただろう。そうならなかったのはスバルの持つ“想い”が、その思いを遮ることになったというだけのことである。

 そのことに小さな罪悪感が募り、スバルは気を晴らすように話を切り替える。

 

 

「そういえば結局ゴン太こないね」

「あー言われてみるとたしかにね、すっかり忘れてたよ」

「ゴン太のための勉強合宿なのにね」

 

 そこでふと、スバルは先ほどの気恥ずかしさを蒸し返すような違和感にたどり着く。

 

「……いや、ないない」

 

『ポロロン、そろそろお夕食の時間よ』

「あっほんとだ」

 

スバルが1人で葛藤していると、ミソラがスバルの部屋のドアを開けて階段を下りだす。

 

「ってミソラちゃん?」

 

 呼びかけるスバルの疑問を察し、ミソラはくるりと踵を返して敬礼。

 

「晩ごはんを作ってくるであります!スバル殿!」

 

 それから、腹が減ってはなんとやらです!と続けて台所に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は母さんいないからレトルトで済まそうと思ってたけど」

『こりゃ随分な出来上がりじゃねえの?料理できたんだな』

「そりゃ一人暮らししてれば嫌でも覚えるよ!はーい、じゃあいただきましょー!」

 

 ミソラが用意した料理はカレーライスだった。好きな食材を使ってもいいと事前にスバルの母、星河茜から聞かされていたのだという。

 

 

「すごくおいしいよ!母さんのカレーに並ぶかも!」

『ほう、これはなかなか』

 

 スバルはもちろん、ぶっきらぼうながらあのウォーロックまでもがミソラの料理の腕を認める。二人は日夜料理の上手い茜の手料理を食しているため、それなりに舌が肥えている。その舌が満足できるほどにミソラの作ったカレーは出来のよい仕上がりだった。

 

「へへっ!そこまで言われると照れちゃうなー。家庭の味だってさハープ!」

『そこまでは言われてないわよ……まあ前よりはよっぽど進歩してるけどね』

 

「これはゴン太、もったいないことしたね」

『てかアイツはなにをやってんだ?約束を破っといてメールのひとつも送ってこねえとは』

「ゴン太のことだから食べ物にがっつくあまりハンターを鍋に落としたりとかしてそうだよね」

『あながち間違ってもなさそうなところがゴン太らしいな、つまり今は連絡とれねぇってことか』

 

 と、そこでスバルのハンターが主人を呼び始めた。噂をすればというやつだ。

 

『すまねえスバル!実は……』

「あーはいはい、わかってるから気にしなくていいよ。明日は来るよね?合宿じゃなくなっちゃうけど」

『ハンターを鍋に……って、い、いいのか?なんか軽いな?』

「明日ゆっくり聞かせてもらうよ。じゃあね、また明日」

『おお!明日付き合ってくれんのか!さすがスバル!心がデカイぜ!おう!明日こそ、よろしくお願いします!』

「うん、ばいばい」

 

 用件を簡潔に済ませ別れの挨拶をかけて電話を切った。

 

「それにしても……」

 

これはスバルが今日抱いた疑念を晴らすチャンスである。すぐさまスバルは頭の中を整理し始める。

 

「どちら様から?」

「ゴン太。明日は来るってさ」

「ほー、今日はどうしてこれなかったの?」

「うーん、どうもね……いや、これはゴン太の名誉のために黙っとくよ。いくらミソラちゃんでも答えられないかな」

「えー、スバルくんはまたオトコの友情ってやつを取るの?私たちのブラザーバンドはただの遊びだったの?」

 

 ミソラが言及していることはおそらく修学旅行での一件だろう。委員長、ゴン太、ミソラの盗難品の中からどれかひとつを掴まなくてはならなくなったとき、スバルはゴン太のTシャツを選んだ。このことは委員長、ミソラを大いに怒らせ回り回ってキザマロの寿命を縮めたと言われている。

 

「そこを突かれると痛いなぁ……でもごめん、これだけは言えないんだ。明日本人に聞いてください」

 

 スバルは苦笑いを浮かべて今回もオトコの友情を選択。それに対しミソラは頬を膨らませてむくれる。

 

「ちぇっ、スバルくんのケチー」

 

しかしスバルはそんなミソラを宥めるでもなく、努めて平静に自らの考えをまとめて、

 

「ごちそうさま、カレーおいしかったよ……ハープ、悪いんだけどちょっとついてきてくれない?」

 

食器を片付けながら、ミソラではなくハープを食後の散歩に誘ったのだった。まとまった考え、それに付随してくる仮説。切っ掛けはウォーロック、ミソラ。証拠兼それを聞いてほしい人はハープ。

 

「?ハープ?どして?」

『どうかしたのスバル君?ワタシ食べたばかりであまり動きたくないんだけど。ミソラなら連れてって構わないわよ?』

「いや私も食べたばかりは……って、そーじゃなくって」

 

 スバル自身、ミソラとブラザーを結ぶほど仲がいいのだから、当然そのウィザードであるハープとの関係は良好と言えるだろう。とはいえスバルとハープが二人っきりといったシチュエーションなど、そうあるものでもない。

 

「ダメかな?ハープ?」

『……ポロロン、しょうがないわね。少しだけよ』

「ありがとう。ミソラちゃん、ロック、すぐに戻ってくるから。あ、食器は後で僕がまとめて洗っとくから水にだけ浸けといて」

 

普段であればスバルとミソラ、ハープとウォーロックの組み合わせとなることが多いため、これにはミソラとウォーロックも顔を見合わせる。それからミソラが思ったことをそのまま口にした。

 

「どうかしたのスバルくん?なんだかわりとレアな光景を目の当たりにしてる気がするんだけど……」

「うん、まあ、そのうち話すよ。そう遠くないうちに、ね」

 

 

 そう言ってスバルとハープは外に出かけていった。

 

 

 

 

 

 

 星河家の側を流れる小川を眺めながら、スバルは先ほど積み上げた推論を打ち明けた。推論と言えば大袈裟だろうか。しかしスバルにとっては大切な友達に関する真面目な話であり、顔つきはいくらか神妙なものとなっている。が、どことなく穏やかでもあった。

 

「ねえハープ」

『なにかしらスバル君』

「ミソラちゃんってさ、ハープと出会ったころ、今よりずっと無理してたのかな」

『…………』

「当たり前だよね、こんな小さいうちから親がいなくなっちゃったんだから。……たまたまさ、今朝ロックと泉に斧を落とす話をしてたんだけどね。ああえっと、なんでもない斧を泉に落としたら……」

『ポロロン、その説明はいらないわよ、知ってるから。続けてちょうだい』

「そっか、助かるよ。それでね、くだらないやり取りしてた自覚はあるんだけど、ミソラちゃんがなんとなくそこに引っかかるように思えてさ」

『今のミソラって実は金、みたいな?』

「そういう物理的なことじゃなくて、なんだろうなぁ……精神的?」

『……』

「ミソラちゃんってさ、初めてまともに話したときから、えっと、だいたいムー大陸の騒動が終わるときくらいまでかな、しゃべり方が大人びてた記憶があるんだ」

『……ポロロン、それは今のミソラが子どもっぽいってことでいいのかしら?』

「あはは、でもそういうことかもしれない。……なんの変鉄もないとか、金とか銀とか、良し悪しをどうこう語るつもりはないけど、ただ僕からすると今のミソラちゃんのほうが自分をありのままさらけ出せてるっていうか……背伸びしないでいてくれてるようで、なんだか好ましいかなって」

『……ミソラはきっと心を落ち着かせたり、弾ませたりできる居場所に乏しかったんでしょうね』

 

 幼いうちから親に先立たれ、スバルたちと出会うまでたった独りで過ごしてきたミソラ。誰かを頼るでもなく自らの足で歩き続けていたその姿は、身体が軋むようなことがあっても、激痛に倒れこんでしまいそうになっても、ついぞ寄り添うブラザーにもたれ掛かる様子を見せなかった。そんなミソラがここまでの道のりを経てようやく寄りかかってきたのだ。進むことを諦めたわけではない。友という繋がりを得て、少しの間そのよすがに身を委ねたのだ。歩いて、休んで、また進む。人が休むのは当たり前だ。生きていれば疲れることもある。ミソラのような人生を送っていればなおさらだ。

 

「ミソラちゃんは僕とブラザーになってくれて、でもどうしても心の奥底でどこか自分自身を僕たちと対等に思えてなかったんじゃないかな?周りは全員大人だって。自分はちっぽけな存在だって思いこんで、ちょっとでも大人にならなきゃいけない、自分は小さくあってはならない、なんとか周りに追いつかないといけない……そんな風にさ」

 

 

それでも足を止めずにゴールの見えない孤独の道を歩いてきた、背伸びし続けていたミソラをブラザーやハープが休ませてくれている。そんな小休止に自分が一役買えていたら、とスバルは思っている。

 

 

「だけど今は家族のハープとか、心から笑い合えるブラザーやらができた……ミソラちゃんを取り巻く環境が温かくなったから、そのおかげでようやく、本当の意味でミソラちゃんと繋がることができたのかなって、今のミソラちゃんを見ててそう思ったよ」

 

『……』

 

 休んでいるミソラとは、大人らしくないミソラなのではないか。そう思ったから、ミソラと親しいハープには自分にとっての響ミソラを伝えておきたかった。だが伝えたからなにか起こるというわけではない。なんてことはない。子どもが親にだらだらと思ったことを口にするようなもの、スバルとハープの話し合いはそういったやり取りだ。しかしこれはミソラに聞かれてはならないように感じた。蓋を被せていた気恥ずかしさがふとした拍子に溢れかえってしまいそうでスバルの額に大粒の汗が滴る。

 

 

 

 

「なんとなく、誰かと……ミソラちゃんを大切に思ってる誰かと、話して整理させときたかったんだ」

『……なにを?』

「ミソラちゃんとの、付き合い方を」

『……ポロロン』

 

 

 ハープは笑っている。スバルは依然として硬い表情を崩さない。しかしハープと話し終えたスバルのそれは、罪悪感に苛まれていたときよりは爽やかなものとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハープとの会話を終えて自宅に帰ってきたスバルだったが、置いてけぼりを食らったミソラはどうもスバルの行動を面白く思わなかったようで、

 

「はいリピートアフターミー……『一度目はルナちゃん、二度目はゴン太くん、そして三度目はハープです』」

「一度目はル…委員長、二度目はゴン太、そして三度目はハープです……いやまってよ、ムーのときはほんとに選んだとかじゃなくて」

「そーですかー、1回も私を選んでくれなかったスバルくんにはさぞやもっともな言い分があるんでしょうねー?」

『これは面倒なやつね。スバル君可哀想に』

 

 

 

帰宅時からネチネチとした攻撃を受け続けている。ただ、自分に構ってほしかったというミソラの思いはスバルとハープからすると『子どもらしくて』微笑ましくもあるのでこれはこれで。

 

「まあ嬉しいっていうか、良かったっていうか……」

「なんか言いましたか?スバルくん?」

「い、いえ。なんでもありません……あ、でもミソラちゃん!僕まだキザマロも選んでない!ミソラちゃんだけハブられてるわけじゃないや!よかったね!」

『火に油だな』

 

 

 夜は既に更けている。小学生ならもうじきお休みの時間のはずなのだが、どうもこの二人のやり取りはもうしばらく収まりそうもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わっ、もうこんな時間。そろそろ寝ないとだね」

「……」

 

 ところで夕食前のスバルの違和感が今となって不安に変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はどこで寝ればいい?スバルくんの部屋?」

「ハープ!!ヘルプ!!」

 

 

この日ほどミソラを厄介者と思ったことはないと、合宿後のスバルはぐったりとしながらウォーロックに語った。

 

 

 

 

 

 

 時刻は日を跨いだころ、自室でスバルは物思いに耽る。

 

「ムー、か」

『さっきミソラに責められてたとき、顔に出てたぜ』

「………そっか」

『……実際のとこ、成功する確率は低い。なんたってチリヂリ委員長を探したとき、アシッドのヤロー込みでもとんでもねえ労力をかけた』

「ははっ、珍しいね?ロックがアシッドを褒めてるみたいだ」

『!ち、ちげえよ!サーチしか能のねえアイツが見栄はって死ぬ気で探したからやっとオレらだけでやるよりほんのちょびっと早く片付いたってこった!あのダメダメウィザードになさ』

「はいはい、わかったわかった」

『おいスバル!テメェ最近オレの扱いが雑すぎねえか!?』

「ごめんって。あとそんな大きな声出すと下にいるミソラちゃんたちが起きちゃうよ?」

『……ケッ』

 

 

 これは星河スバルの物語。小さな町で、小学生が、大切な人を守るため、小さな背伸びを始める話。未だ悔悟の念を抱く少年が、過去を清算する話。

 

 

 

「やるよロック。これから頑張って見つけるよ。ファントム・ブラックの、残留電波」

 

 

 大切な人たちを、その手で掴んで離さない……小さな少年は改めてそう決意した。

 

 




本作は細かくストーリーを進めてるわけでもないので読者様によるネタのご要望がございましたら取り扱っていきたいと思っております。例えば「スバルとゴン太の熱い友情が見たい!」とか「スバルとキザマロのイチャイチャシーンをもっと!」とか。本筋に矛盾したり、あまり内容にそぐわないようでしたら執筆できないかもしれませんがぜひご検討ください。ネタが増えるのは作者としてもありがたいことなので。それでは、お読みいただきありがとうございました。
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