彼らが『チカラ』を求める理由   作:クワ型まりも

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 たぶん最終話です。よろしくお願いします。


意識は決意へ

 

 

 

 

 

 

 発端は翌日の日曜日、その早朝にかかった一本の電話だった。これを受けたスバルはミソラとゴン太に対して申し訳なく思いつつも、勉強合宿の中止を決めた。スバルの申し出により正午に切り上げることとなってしまった本日の勉強。そのためスバルは、予定していた範囲まで進まず次のテストに不安を抱くミソラを想像していたが、当の本人は鼻歌交じりに帰り支度に取りかかるあたりなかなかに上機嫌のようだ。

 

「いやー!さっすがスバルくんだ!今日は朝にちょこっとしかできなかったけど、おかげで次のテストはバッチリそうだよ!」

「えっ、あ、うん。それはなにより」

『ポロロン、あとは油断せず復習しておけば完璧ね』

『……おいスバル、なんかハープまでテストを緩く考えてねーか?なんかそのうち涙目で星河家に駆け込んでくるミソラってフラグが立った気がするんだが』

「あー聞こえない僕にはなんにも聞こえてなーい」

 

 実際、今回の合宿では自信満々になれるほどの勉強量はこなせていないように思うスバルであったが、面倒ごとだしそもそもこれはミソラの問題なのでスルー。

 

「ええっと、ギターはっと……あったあった」

 

 母の形見とも言えるギターを見つけ、ミソラはそれを肩にかけた。そこでふとスバルはかねてより計画していたとある実験のヒントを得ることとなる。

 

 

「あ、そうだミソラちゃん。ひとつ聞いときたいことがあるんだけど」

『いや聞けよスバル、フラ』

「ハープ・ノートの技でさ、ギター伸ばすやつあるじゃん?音符飛ばしてくるやつ」

「?あ、たぶんマシンガンストリングのことかな?」

『おいスバ』

「あれってどうやってるか、ちょっと詳しく教えてくれない?」

「?」

『スバルテメェ!オレの話を聞きやがれェ!!』

 

 

 ウォーロックの叫び声が、コダマタウンに虚しく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんねゴン太、約束してたのに。提案したのも僕なのに」

「いや、ばあちゃんの都合も考えないとだしな。それに俺ばっかスバルにおんぶにだっこじゃ格好つかねえよ。昨日丸々潰しちまったのはジゴージトク。なら勉強は自分で頑張ってみるぜ」

「……ゴン太がすごく真面目なこと言ってる、帰るときは傘借りとこう」

「?傘がどうかしたのか?」

「……いや、なんでもないよ。気にしないでゴン太、気にしないほうがいい」

「?」

『ブロロ、ゴン太、チキュウにはヘーホーショなるものがあるらしい。まずはそれをベンキョーするんだ』

「ゴン太の場合、まずは宿題とかからかな……」

 

 

 二人が現在話している内容は急遽中止になった勉強合宿のこと、それから本日スバルたちが予定を変更した理由についてである。ゴン太の食欲と「ばあちゃんの都合」によって今では霧散してしまった当初のスケジュール。その代わりとしてスバルがやらなくてはならないことは、所変わってサテラポリスの中枢、WAXAニホン支部から始まっていく。といってもWAXAニホン支部とだけ表記したところでその広大さ故に、どの辺りでスバルたちが立ち話しているかまでは把握できない。

 

 待つこと数分。スバルとゴン太の他愛ない会話に部屋のドアの開く音が混じる。

 

「お待たせしちゃってごめんなさいねぇ」

 

 

 急いでやって来たのか、少しばかり荒くなった息を落ち着かせようと深呼吸し始めたこの人物こそ、今回のスバルにとっての目的、ヨイリー博士だ。スバルたちの立つここは世界でも有数の実力を誇る研究者、ヨイリーの研究室だ。

 

 

「博士こんにちは!」

「こんちわばあちゃん!」

「こんにちは、スバルちゃんにゴン太ちゃん。ごめんね突然。今日しか時間取れなさそうで……それじゃあ早速だけど説明していきましょうかね」

『お?バアさん、いつもならまずくだらねえ世間話でも始めんのに今日は一体どーいう風の吹き回しだ?』

「あら?別にいつもの私がお望みならそれでも構わないわよ?」

『……本題を頼む』

「あの、ひょっとして今けっこう忙しい時期だったりしますか?だったら別にすぐじゃなくても……」

「強いて言えば忙しくない時期なんてないわね。私はなにかと至らない科学者だからその分頑張って働かなくっちゃね」

「じゃあ……」

「でもねスバルちゃん」

 

 ただでさえ忙しいヨイリーがスバルたちとかねての実験に着手することができる、貴重な時間を作ってくれている。そうとあればその数限りある時間のために勉強合宿なんか切り上げるのに躊躇いもなかった。しかし、スバルの行動原理は仲間を大切に思うところにある。当然のように実験の目的もいざというときに仲間を守ることができる『力』を欲してのものである。ならばヨイリーへの過度の負担はスバルの目的への過程としては不適切だ。 そんな優しいスバルの気遣いを遮りヨイリーは柔らかく返す。

 

「スバルちゃんのサポートはもともと私の仕事に含まれてるのよ。だからなんの心配もいらないわ。私の忙しさは仕事からきてるわけだからねぇ」

「え?そうなん……いやそれじゃやっぱり僕が博士の仕事増やしてることに変わりないんじゃ……?」

「子どもが細かいこと気にしちゃダメよ」

「は、はぁ……」

 

 ヨイリー博士の功績は誰もが認めるところであるが、当の本人は自らの成功よりも積み重ねてきてしまった失敗にやるせない思いを強くしてしまっている。そのため身を粉にして研究に打ち込んでいるのだろうが、周りの人からしたらそんなヨイリー博士の過労を心配せずにはいられないのだ。しかし意気込むヨイリー博士に水を差してしまうのも失礼に当たるのではないかとスバルが頭を悩ませていると、

 

 

「スバルの言いたいこと、よくわかるぜ」

 

 

尖った黒髪が特徴的な、スバルよりやや背の低い少年が研究室に入ってきた。

 

 

「ジャックちゃん……」

「根詰めすぎだぜ博士、あとは俺に任せて他の仕事に手ぇつけるなり一休みするなりしとけ」

「でも、スバルちゃんたちが……」

「大まかなことは俺たちだけでこなせる内容だ。最後の微調整だけ任されてくれりゃいーんだよ……ってわけで、ここからは博士の代わりに俺が指示を出してく。博士も歳だ、あんま無理はさせたくねぇ。わかってくれ」

「いや、文句なんてないよジャック。頼みこんでるのはこっちだもん。それにヨイリー博士には普段からお世話になってるし、僕としてもあまり負担かけたくないから」

 

 その少年、ジャックがヨイリー博士を説得しながら研究室から追い出すと自身の考えに賛同してくれたスバルを見て頬を緩める。それからふいに視線をスバルの横にずらし、

 

「っと、ゴン太もいたのか」

「ジャックてめえ今「身体デケエのに影は薄いな」みたいなこと思っただろ!」

 

ゴン太の存在を本日初めて視認した。1人憤慨するゴン太をスバルがなんとか諫めるが元凶のジャックは我関せずといった態度で言葉を続ける。

 

「あー、悪いがこの計画にゴン太が一枚噛むのはちょっとムリがあるんでな。勝手に今日来てないもんだと思ってた。残留電波を探すまではいいが、データの回収には繊細さが必要だ。オックス・ファイアじゃ危なっかしい。わかってくれ」

 

 ジャックが更なる油を投下。おそらくゴン太自身も頭では理解できただろうその理屈に、しかし男の子のプライドが邪魔をして素直に引き下がることができない。

 

「ああん!?わかってんよ自分がぶきっちょだってことくらい!でも見てろよ!?俺のがお前らよりたくさんデータ見っけて「さっさと回収しに来てください」って連絡してやるんだからなぁ!!」

『カッコつかねえな……』

 

 ウォーロックの冷静な突っ込みも今のゴン太の耳には入らない。そのまま勢い任せに研究室を飛び出したゴン太をジャックが慌てて止めに入る。

 

「あ!待てよゴン太!おい!……行っちまった。まああいつにゃあとで探さなきゃなポイント、メールで教えとけばいいか」

「……あ、てことはようやく……」

「ああ、粗方の目星はついたぜ。もっとも、俺はちょっぴし手伝いをしたくれぇだけどな。夜通しで研究続けてた博士に感謝しとけ」

「……ん。でも手伝いだけでも十分助かるよ、ありがとジャック」

「貸しだぜまったく」

 

 こんな友達同士のなんでもないようなやり取りをできるようになるまでも随分と時間がかかったものだが、今では頼もしい仲間なのだからこの世の事はどう運ぶかわからないものだ。感慨深く、たまらずスバルは笑みを浮かべる。

 

 

「さーて、俺はこっからデータの検査に努める。スバルはこれから指定する各地の現実世界、電脳、電波の至るところを歩き回ってそれらしいもんがないか探してってくれ。博士のおかげで砂漠のモアイを見つける程度まで難易度は落とせたがまあまずとても1日やそこらで終わる範囲じゃねえから、俺とお前の時間の合うとき見つけて、焦らずゆっくりやっていこうぜ」

「了解!」

「よし!」

 

 

 スバルの力強い返事に、思わずジャックも意気込んでしまった。

 

 スバルの求める『力』を探す日々……『ファントム・ブラックの残留電波』を探す毎日が、これから始まる。それは小さな少年に一体なにをもたらすのか。多くの『力』と対立してきたスバルだからこそ、『力』を手にすることの恐ろしさはよくわかっている。それでも立ち止まることはできない。立ち止まるくらいならば苦痛と重荷を背負って歩き続けていきたい。あの日味わった後悔を、未来の糧とするために。いつも自らを休ませてくれる、温かなあの場所を守るため。

 

 

 

 

 

「行くよロック!トランスコード!シューティングスターロックマン!!」

 

 

 

 

 

 青き流星が、ウェーブロードを駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、月曜日。時計は9時と示している。小学校であれば始業のベルは既に鳴り響き、黒板の手前で教師が教鞭を振るっている頃合い。小学生は当然教室内の椅子に着席し、その授業を受けている時間だろう。しかしここコダマ小学校の教室に、小学生である星河スバルの存在は見られない。彼の座席はどこか哀愁漂うようで見ている者に幾ばくかの物悲しさを植え付ける。一時間目はそのまま過ぎ去り、その後の教師からの一言でスバルの友人が驚愕の事実を知り悲しみに打ちひしがれる。

 

 

 

 

「そ、そんな……ウソ…でしょ……?」

「まさかスバル君……くっ!ぺディア!」

『ダメだよキザマロくん!その確率100%!どうしようもないよ!』

 

 

 

 

 その日、星河スバルは…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか……遅刻だなんてそんな!」

「い、委員長が恐いですぅ……」

『怒りによる戦闘力の上昇を確認!……3…3.9…5っ!?そ、そんなっ!まだ上がってくよキザマロくん!』

 

 

 

 

 

 

学校を遅刻していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノイズなんたらが使えなくなって焦る気持ちは分かるわよ、ええ」

「……」

「自分の力に自信が持てないから、それを克服しようっていう考えは尊いものだと思うわよ、ええ」

「……」

「実際?ロックマン様にはこれまで何度も助けていただいてるワケだし?強くなってくださるなら頼もしいことこの上ないわ」

「……」

「あ!今ちょっとニヤけたでしょ!別にあなたを褒めてるわけじゃないのよ!?勘違いしないでよね!」

「……」

「……」

「…………」

「…………オッホン!」

「……」

「…万が一のときに備えて力をつけてくれてる……友達として誇らしく思う」

「……」

 

「でもスバル君?だからって徹夜で頑張ってたら寝坊しましたーって!なにそれ!?学業を疎かにしちゃいけないでしょ!そ・れ・と・も!?まさかこの私の顔に泥を塗るつもりじゃあないでしょうねぇ!?」

「ご、ごめんなさーい!!」

『たかだか遅刻だろ?過剰反応すぎるぜ……』

「なにか言ったかしら!?」

『なんでもねえよ』

「親御さんにだって心配かけてたはずよ!まったくあなたってとんだ親不孝者だわ!」

「いや事前に遅くなるって伝えてたし……」

「小学生が日を跨いで外出歩いていいと思ってるのかしらっ!?」

「お、思ってませーん!!」

『こいつオカンかよ』

 

 

 

『スバル君、スバル君』

「ん?なにモード?」

『ルナちゃん、学業とか自分の名誉とか言ってますけどホントはスバル君に徹夜みたいな不健康なことしてほしくな』

「お黙りモード!!ウィザードオフ!!」

『テヘッ』

「……モード、なんだか委員長への対応に慣れてきたみたいだね」

『あやかりたいモンだなスバル』

「まったくだよ」

「あーら反省の色がみえないわねぇスバル君?」

「ひっ!」

『……なあ委員長?今回は多目に見てくんねえか?スバルはもしお前らになんかあったときのために四苦八苦してんだ。そのなんかってのはすぐにやってくるか、はたまたやってこないかもわからねえ。でもやってきてからじゃ遅いんだ』

「……ま、まあ私も強く当たりすぎちゃったわね。ごめんなさい」

『でもそれだけルナちゃんはスバル君を気にして』

「モードォォォ!!!オフだってばぁぁぁ!!!」

 

 二時間目の終わりを告げるチャイムを迎え給食に向けて配膳の準備が始まりだしている教室で、なんとか二時間目の授業には間に合ったスバルが委員長兼生徒会長である友人の白金ルナから大目玉を食らっていた。ちなみにジャックも遅刻したため、スバルと同じく二時間目からの出席であった。

 

「いいこと!?私の目の黒いうちは遅刻なんか絶対許さないわよ!次からは気をつけなさい!!」

「ごめんって委員長!あ、そろそろジャックも叱ってあげてよ?ほら構ってもらえなくて寂しそうな顔してるし!」

「なっ!おい俺に矛先向けさせようとすんな!」

「いやーでも僕はジャックのためにだね!」

「そもそも俺が遅刻したのはお前のヒッ!?」

 

 スバルとジャックが醜い争いを繰り広げているといよいよルナの鉄拳制裁が飛んできた。さすがにそろそろまずいと誰もが修羅場を彷彿とさせ、覚悟を固めたタイミングで、

 

「あなたたちねえ!いい加減に……」

「いっけねー遅刻遅刻ー!でもまー給食までになんとか着いたからよしとするぜ!……うん?」

『ブロロロォ!メシの時間ダァ!……ブロ?』

「……ゴ、ゴン太くん……」

「あーあ……僕しーらないっと」

『最近スバル逃げる癖ついてきてねーか?』

「最悪だぜ……俺も逃げよ」

 

 

 

 

 

「…………」

「……お、おっす、委員長……」

「……こんにちはの時間ね?ゴン太?」

 

ルナの堪忍袋に止めを刺したのは、三人目の遅刻者であるゴン太であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 本日最後の授業が終了し、帰りの会を済ませた生徒たちがそれぞれの放課後を迎えている。

 

 

「ジャック、昨日はありがとね……あとゴン太にも一応」

「一応ってなんだ!?言うならしっかりお礼言ってしてほしいぜ!?」

「俺なんかさっき恩を仇で返された気分だぞ」

 

 結局、昨日の探索では目当てのものは見つからなかった。それでも改めて感謝を言葉にするあたり、星河スバルという少年の律儀さを垣間見ることができる。もっとも、それに対する感謝された側の反応はあまり好ましくないもののようであるが。

 

「まあまあ二人とも。細かいことは気にしない、オーケー?」

「イラッ」

「ムカッ」

 

 

 

 

 ここはのどかなコダマタウン。今日も今日とて代わり映えせず、されど穏やかで温かな町。そんな町並みを賑やかにする、いつもと変わらぬ仲間たち。

 

 

 

 




 お読みいただいてありがとうございました。物語を続けることができるようにはしておきましたので、今後時間を作れたらまとめて投稿したいと思います。
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