隣国との国境付近で起きたのは小さな武力衝突だった。それでも戦いとなれば兵の命が少なからず削られる。その中にあって大佐という肩書きを持つ光秀は戦場を馬で駆っていた。
「第十一機甲師団モントシャインの名を敵の魂に刻み込め!!」
怒声にも似た低い声に呼応するように周囲の兵士たちから低い声が巻き起こる。兵士の中からわき起こる声はひとつとなって敵軍にぶつかった。それでも乱戦となったこの状態では効果など知れている。
ベスティエ国最強と謳われるこの部隊は今まで多くの戦を駆け抜けてきた。そして今回の戦いも後日そのひとつとして語られることだろう。しかし過去の事として語られるには、まず生き残らなければならない。
乱戦の中心近くへたどり着いた光秀は剣を手に馬から降りた。光秀が現れた事で味方兵から低く轟くような声が上がる。すると敵側が戸惑ったのか戦線がわずかに乱れた。
「この好機を逃すな!」
指示を飛ばしながら剣を振るう。目の前の敵兵を切り裂きながらマントを固定する肩紐をほどいた。マントの存在を目にした敵兵たちは指揮官かと声をあげながら光秀に向かってくる。
降り下ろされた剣線を避けるべく横に動きながら地面を踏みしめる。力を込めて剣を振り上げ敵兵を切りつけると続けざまに二人目の肩に刃を落とす。
悲鳴じみた声を耳にしながら三人目を睨み付け声をあげた。それだけで敵兵はたじろぎ光秀から距離を取ろうとする。
だが周囲の敵兵はすでに指揮官を見つけており、光秀に狙いを定めようとしていた。もちろんそれは光秀自身があえて狙ったことだ。
そうして敵の目を引き付けている間に、優秀な部下たちが敵軍に致命傷を与える。
最初は拮抗状態だったが、光秀の乱入から流れが変わった。光秀みずから殺した数が把握できなくなった頃、敵側に白旗があげられる。
そこで戦が終わり味方軍から歓声が巻き起こった。
敗残兵が死体を運び引き下がるのを眺めながら光秀は自分のマントを見つける。血と砂に汚れたマントを拾い上げると部下のひとりが近づいてきた。
「明紫波、怪我はないか?」
「俺はな。それより負傷兵はどれくらいだ?」
やってきた伊達川に問いかけながらマントに肩をかける。そうすることで痛む肩をマントで隠して自軍へ戻った。
戦いの最中に左肩を切りつけられたが出血は多くない。ならば限られた治療道具は負傷兵にまわしたほうが良いだろう。そう考えながら部下たちの報告を受ける。
左肩は痛みと熱を持つが、その痛みが光秀の身体に興奮作用を与えていた。痛みに耐えるため身体が緊張状態となり、光秀に疲労を感じさせない。
これなら部下たちに怪我のことを気付かれることなく帰ることができそうだ。そう考えていた光秀は、城へ戻った直後に自分の甘さを思い知ることになる。