戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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一作目が終盤に差し掛かりましたので、予告をかねて次の作品を書き始めてます!

勿論、一作目の完走が先ですので、終わるまでこちらはゆっくり更新になりますのであしからず。


墨俣の一夜城 - 詩乃調略編
1話 久遠の自慢


 織田信長には、自慢するものが三つある。

 

 第一に奥州から献上された白斑の鷹。

 第二に青の鳥。

 そして。

 

「お蘭!朝駆けに行くぞ!共をせい!」

「はいっ!」

 

 久遠が起きるよりも前から既に準備を済ませていた、森成利。通称は蘭丸。母や姉とは違い、信長……久遠と同じ艶やかな黒髪を前は綺麗に切り揃えていて、後ろは解けば腰ほどまである長さのそれをつむじの辺りで纏めている。見た目では女童と間違われることも多いが、歴とした男である。第三に久遠が挙げた自慢が、蘭丸であった。

 

 

 どれほどの距離、馬を走らせただろうか。久遠と蘭丸は城から離れた山の山頂に到着していた。

 

「見よ、お蘭。綺麗な日出であるな!」

「はいっ!久遠さまのほうがもっとお綺麗ですが……朝日に映える久遠さまは、日の本一と私は思います」

 

 心の底から久遠を慕っている蘭丸の口からは普通であれば恥ずかしくなる台詞がよく飛び出す。

 

「ふふ、お蘭は相変わらず大袈裟であるな。……お蘭も可愛いのだから、もっと自信を持て」

 

 そう言って蘭丸の頬を優しくなでる。頬を染めて俯く蘭丸の姿は誰がどう見ようと少女のそれであるが。

 

「く、久遠さま、お戯れを。……それよりも早く戻らないと結菜さまや壬月さまに怒られてしまいます」

 

 慌てて話題を変える蘭丸を微笑ましく見て久遠は頷く。

 

「うむ。久々にお蘭と二人で戯れることが出来たことだ。今日も一日頑張るとしよう!」

「はいっ!……ですが、その前に少々お時間をとらせることになりそうです」

 

 そう言った蘭丸の視線の先に、薄汚い服装の男たちが十人ほど現れる。

 

「へへへ、お頭。なかなかに上物ですぜ」

「あぁ、見たところ二人ともいいところの娘みたいだしよ。色々と楽しめそうだ」

 

 下卑た笑みで二人と見てくる男たちに不快な表情を隠すこともない蘭丸と、逆に哀れんだような表情を浮かべる久遠。

 

「……成る程な。お蘭、任せるがあまり派手にやるなよ?」

「久遠さまの命とあらば」

「へへ、お蘭と久遠っていうのか。俺たちが楽しませ……」

 

 そこまで言った男の言葉が途切れる。怪訝に思い振り返った仲間が見たのは、額に苦無が刺さり倒れる姿だった。

 

「なっ!?」

「貴様たちが久遠さまのお姿を見るだけでなく、名前までも穢すとは……許しません!」

「てめぇ!おい、たかが女二人だ!まとめてやって……」

 

 頭と呼ばれていた男が仲間に指示を出そうとした瞬間、周囲で人の倒れる音が続けて聞こえる。

 

「はぁ、お前たちも不運であったな。我に……いや、お蘭の逆鱗に触れてしまうとは」

 

 既に男の仲間は誰一人として地面に立っていない。その全てが的確に急所をつかれ絶命している。

 

「何なんだよ、お前ら……っ!?」

 

 頭と呼ばれた男の首に刀が当てられている。その刀身は蘭丸の身長ほどもあるだろうか、どう考えても身の丈に合わない刀のように見えてしまうのは蘭丸が小柄だからと言うわけではあるまい。

 

「人攫いに名乗る名などない。……ですが、ひとつだけ冥土の土産に教えておきます。森一家に手を出した自分の不運を呪いなさい」

「森……!?ま、まさかあのっ!」

 

 そこまで言った男の首と胴は二つに分かれる……ところであったが。

 

「お蘭、もう良い」

「……久遠さま、ですが」

「お蘭」

「……はい」

 

 渋々、といったところであったが蘭丸が刀を引く。

 

「お蘭、我はお前が血に濡れる姿が見たい訳ではない。折角の清々しい朝駆けなのだからな」

「……はいっ!」

 

 久遠の言葉に一瞬で不機嫌そうな表情が満面の笑みへと変わる。頭の男は腰が抜けたのか、ほうほうのていで逃げていく。そんな姿を一瞥して。

 

「帰るぞ、お蘭」

「久遠さま、今日のご予定は決まっておりますか?」

「任せる。……だが、前のように全部お蘭がやっては駄目だぞ?」

「ふふ、分かっております。壬月さまにも麦穂さまにも怒られます」

 

 微笑ましく笑いあいながら馬に乗り立ち去る二人。それを木陰から先ほどの男が見る。

 

「くそ……まさか森の関係者とは……おっかねぇもんに引っかかっちまった」

「そうだなぁ。確かに運が悪い」

「へへ、お蘭に手ぇ出すとか気狂ってんな、こいつ」

 

 そんな男の背後から聞こえる声。生物としての本能か、男の頭が警鐘を鳴らすが既に遅い。

 

「ワシの大事なガキに手出そうとしたんだ、覚悟は出来ておろうな?」

「人の妹に手出そうとしてんじゃねぇよボケェ!」

 

 ……山に響いた絶叫は、誰にも届くことはなかったという。

 

 

「殿っ!また勝手に城を抜け出したのですか!」

 

 城へ帰った蘭丸と久遠を待っていたのは、宿老である丹羽長秀……麦穂からの小言であった。

 

「申し訳ありません、麦穂さま!久遠さまをお連れしたのは蘭ですので、お叱りは私に」

「蘭ちゃん……蘭ちゃん、駄目ですよ。久遠さまを甘やかしては、どんどん駄目になっちゃいます」

「む、麦穂よ。一応、我は目の前にいるのだが」

「いいえ、今日という今日は、しっかりと聞いていただきます!」

「まぁ待て麦穂よ」

 

 そういって麦穂の後ろから現れたのはもう一人の宿老である柴田勝家、壬月である。

 

「壬月さま!壬月さまからも言ってください」

「蘭丸。前にも言ったが、しっかりと書置きなどをおいて置けば我らとて心配はしても何処にいるかは分かるのだ。殿も殿です、行くのであれば我らにしっかりと伝えていただければ……」

「……護衛などおってはのんびり出来ん」

「はぁ……ですから、場所によっては蘭丸だけでもいいかも知れないではありませぬか」

 

 そこまで言って蘭丸を見た壬月が首を傾げる。

 

「どうしたのだ?」

「……いえ、一応三若に書置きをおいていたはずなのですが……申し訳ありません。私の間違いでした」

「……三若ぁっ!!!」

 

 城内を壬月の怒号が響き渡った。

 

 

「久遠さま、本日の予定は以上になります」

「そうか。いつもすまんな、お蘭」

「いえ!久遠さまとご一緒できるのが私にとっての幸せですので」

「嬉しいことを言ってくれるな。……そうだ、お蘭。結菜が会いたがっていたぞ、最近なかなか屋敷に来てくれない、とな」

 

 久遠が少し結菜の真似をして言う。結菜は斉藤帰蝶、通称を結菜といい久遠の妻である。

 

「ふふ、そう言う事ならお会いに行かなくてはいけませんね。久遠さま、結菜さまのご都合がいい日を教えて……」

「今日だ」

「……え?」

「だから、今日だと言っておる。結菜もお蘭の食事を準備して待っておるぞ」

「……まさか、予定通りですか?」

「ふふ、そうだ」

 

 悪戯が成功して喜ぶ子供のような笑顔を見せる久遠に蘭丸も笑顔になる。

 

「分かりました。では、お邪魔させて頂きます」

 

 

「蘭ちゃん!やっと来てくれたのね」

「ご無沙汰しております、結菜さま」

「全く、久遠ったら自分だけ蘭ちゃんに毎日会うからって私に会わせてくれないのよ」

「そ、そんなことはないぞ?我も一緒に屋敷に住めばいいと思っているのだが……」

「嬉しいお誘いですが、家を長く空けては……各務さんに迷惑がかかります」

 

 各務……各務元正は森一家の裏のまとめ役であり、蘭丸にとっては姉のように慕っている相手である。猛将ではあるが、正直あまり管理らしい管理を行うものが少ない森家にとって中心となっている存在だ。

 

「ふふ、分かってるわよ。それで今日は泊まれるのよね?」

「は、はい!各務さんには伝えてもらうようにしてますので大丈夫です」

「うむ!……結菜、飯は出来ているのか?」

「あぁ、はいはい。ちょっと待ってね。……蘭ちゃんのほうが落ち着いているわよ、久遠」

「むぅ……お蘭もお腹、すいたよな?」

「勿論です!結菜さまの食事は絶品ですから早く食べたいです!」

「もう、褒めても何も出ませんよ~」

 

 そんなことを言いながら鼻歌交じりで厨房へ向かう結菜。その日の食事が蘭丸の好物ばかりだったのは偶然ではないだろう。

 

 

「すみません、わざわざお湯まで頂いてしまって……」

「いいのよ。私たちも入ったんだから。それにしても……」

 

 久遠、結菜と同じく白い襦袢姿の蘭丸。就寝前なので髪を下ろしているのだが、その姿は女の久遠や結菜から見ても何故かドキリとさせるものだった。

 

「相変わらず綺麗な髪ね。女として嫉妬しちゃうわ」

「そんな……結菜さまの髪もお綺麗ですよ。私、憧れちゃいます」

「そう?ありがと。それにしてもしっかり手入れされてるわね……桐琴……違うわね。小夜叉……もないわ。各務さん?」

「はい。家に帰っているときはいつも髪を梳いてくれるんです。城に泊まるときは麦穂さんが一緒だと」

「むむ、麦穂の奴……なんて羨ましいことを」

 

 久遠がぼそりといった一言は結菜にしか聞こえなかったようで、蘭丸は首をかしげ結菜は軽く頷き同意する。

 

「それじゃあ今日は私が梳かせて貰うわ」

「いいんですか?」

「いいの。私がやりたいんだから。久遠はどうする?」

「……わ、我もしていいか?」

「はい!」

 

 

 そして、就寝のとき。

 

「久遠、今日は私が真ん中でいいかしら?」

「むぅ……我も真ん中がいいんだが……」

「わ、私は何処でも……」

「それじゃ、間を取って蘭ちゃんが真ん中ね」

 

 そういって、三つの布団をくっ付ける結菜。蘭丸は緊張したように身体を強張らせている。

 

「あら、蘭ちゃん緊張してる?」

「は、はい」

「ふふ、お蘭も立派に男なのだな」

 

 言葉ではそういいながらも、二人とも蘭丸に対して異性の感情を持っていない。むしろ、本当は女なのではないかと感じる瞬間が多いのも事実だ。恐らくは、織田家中の多くはそう思っているだろう。

 

「我は構わんぞ?何なら我の夫になるか?」

「あ、久遠。自分だけずるいわよ」

「お、お二人とも喧嘩は……」

 

 夜にも関わらず明るい声が久遠の屋敷から響いていた。

 

 

「人間五十年」

 

 襖を締め切り、蝋燭の明かりのみの部屋の中に久遠の声が響く。部屋には久遠のほかに蘭丸しかいない。

 

「化天のうちを比ぶれば夢幻の如くなり」

 

 久遠が出陣の前に好んで舞う幸若舞『敦盛』。

 

「一度生を享け滅せぬもののあるべきか」

 

 久遠の考え、思いが込められたその舞が蘭丸は好きだった。

 

「死のうは一定、しのび草はなにをしよぞ、一定かたりをこすのよ」

 

 最後にそう唄い、舞を終える。

 

「お蘭よ。我は愚かと思うか?」

「いえ。誰がそう言おうと蘭はそうは思いませぬ」

 

 久遠の問いに即答する。

 

「これから、今川の軍勢に奇襲を掛ける。恐らくは誰もがそれを愚かな行為と思うであろう」

「久遠さまの考えは私たちの思いもよらないものが多いです。ですが、だからこそ久遠さまであれば可能だと思わせる力があると思います」

 

 心の底から信頼を感じる視線に久遠は頷く。

 

「お蘭、我が道を間違えたときは遠慮なく我を叱責してくれ。我を止めるのはお蘭の仕事だ」

「はい、私の命に代えても」

「うむ、頼む。……誰かある!」

 

 久遠の声に駆けつけた家臣に告げる。

 

「これより今川に田楽狭間にて奇襲を掛ける!出陣の準備を!」

 

 

 後の世に田楽狭間……桶狭間の戦いと呼ばれるその戦が始まろうとしている。




いかがだったでしょうか?
この作品では、久遠たちは少し男慣れしているように写ってしまうかも知れませんね。
とはいえ、蘭丸に対して、ですが……。

史実でも色々な伝説のある蘭丸ですが、そういったエピソードも盛り込んでいこうと思っておりますのでお楽しみに!

それでは、また次回をお楽しみに!
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