美濃攻め前に少し旅行(!?)します。
森一家との合同宴より数週間後、蘭丸は松平の居城である岡崎城へと向かっていた。
「お蘭。少し頼みたいことがあるのだが」
「はい、久遠さま。何でしょうか」
「うむ。お蘭は葵を覚えておるか?」
「葵さまですか?松平元康さまですよね?」
蘭丸の言葉に久遠が頷く。
「あぁ。……お蘭よ。これより使者としていくつかの国を回ってもらいたい。その一つ目が松平だ」
久遠に差し出された書状は松平、武田、長尾……近隣の有力大名たちの名が書かれていた。
「これは……」
「ふふ、まだ内容は秘密だ。……だが、今後の我の目標に必要なものだ」
「分かりました。必ずや使者の命、完遂して見せます!」
「うむ。……お蘭、一つだけ約束してくれ」
「はい」
「……無事に帰って来い」
「……はいっ!」
「それにしても、蘭丸さん。私なんかがついてきて良かったんですか?」
「ふふ、今動ける蘭丸隊の中で私以外に荒事や雑務、使者としての活動などを可能な人材は貴女しかいないですよ」
「そ、そんな……」
照れたように少し頬を染める転子。
「もうすぐ岡崎城です」
「松平元康さまって、どんな方なんですか?」
「そうですね……私がお会いしたときの印象ですとお優しい方であり、遥か未来まで見通す慧眼を持った方です。人を惹きつける魅力を持っていて三河武士は心酔している……といったところでしょうか?」
「三河……というと、東国無双と謂われる本多忠勝殿がいるんですね」
「ふふ、そうですね。綾那……忠勝どのは凄いですよ」
転子と話をしながら視界に入ってきた岡崎城を見る。
「お元気でしょうか、葵さま」
「おやおや、これはこれは。信長公の寵愛を受けておられる成利さまではありませぬか」
「悠季さん、ご無沙汰しております」
蘭丸は悠季に対して丁寧な礼をする。
「……そちらは相変わらずのようですなぁ。それで、此度はどのような用件で?」
「久遠さまより葵さまへの書状をお預かりしております」
「ふむ。それならばまずは某が……」
「悠季、待ちなさい。……久しぶりね、蘭丸」
「葵さま!お元気そうで何よりです」
書状を受け取ろうとしていた悠季の前に現れたのは葵。つまりは松平元康だった。優しい笑顔で蘭丸に歩み寄ると書状を直接受け取る。
「久遠姉さまは……」
「お元気です。葵さまにお会いできる日を楽しみにしていると伝えてくれ、。そう言伝も頼まれています」
「ふふ、久遠姉さまらしいわね。……悠季、蘭丸と……ご同行の方を部屋にご案内して」
「ははっ。……ではこちらへ」
「ら、蘭丸さん。あの悠季さんって方は……」
「あの方は本多正信さんです。葵さまの側近で三河の頭脳といっても過言ではない方ですよ」
「凄くいやみみたいなこと言われてましたけど……」
「ふふ、あれはいつものことですよ。あの方は一人で大きな外部交渉を行っていますから……常日頃から隙のないように心がけられているのですよ」
「あはは……元々の性格じゃないかなーって思っちゃいますけど……それで、此処にはどれくらい滞在する予定なんですか?」
「葵さまから返答の文を頂いて……それと次向かう予定の武田への書状を準備されるそうですので……一週程度かと」
蘭丸がそこまで言ったところで、部屋の外が少し騒がしくなる。バタバタと誰かが走ってくる気配を感じ、転子が蘭丸の前へと立つ。
「ふふ、大丈夫ですよ。おそらく、これは……」
「蘭丸ー!!」
バン!と大きな音を立てて襖が開かれ飛び込んできたのは鹿角の頭巾をかぶった少女。野武士としての経験か、その少女の異常なまでの強さを転子は感じ、身体を震わせる。
「お久しぶりです、綾那」
「久しぶりなのです!歌夜~、本物の蘭丸なのです!」
「当たり前でしょ!それよりも勝手に入らないの!……ご無沙汰しております、蘭丸さん」
「歌夜もお久しぶりです」
「蘭丸!暇なら綾那と死合うですよ!あ、手加減はするのです!」
「それは構いませんが……それよりも先に、紹介したいのですが」
ぽかんと見ていた転子を二人に紹介する。
「蘭丸の部下です?よろしくです!綾那は本多忠勝、通称は綾那って言います!」
「本多……あの!?」
「おぉ?綾那有名になったです?」
「ふふ、よかったわね。綾那。私は榊原康政、通称は歌夜といいます。宜しくお願いしますね」
「さぁ!蘭丸かかってくるです!!」
槍をくるくると頭上で回し、構えた綾那がそう言う。
「歌夜、判定をお願いしていいですか?」
「はい。……ころさん、でよかったですか?」
「は、はいっ!?」
「ころさんもよろしければもう少し近くで見てはどうですか?」
何故か少し離れたところから見ていた転子を歌夜が呼び寄せる。
「し、失礼します!」
「そんなに緊張しなくていいですよ。……そういえば、ころさんは蘭丸さんの戦いを見たことがあるんですか?」
「は、はい。先日の戦で……」
「そうですか。これから見られる光景はきっと価値のあるものですよ。綾那は剛。蘭丸さんは柔。滅多に見ることの出来ない達人同士の戦いです」
歌夜の合図を皮切りにまず動いたのは綾那だった。だん、と地面を蹴り一気に蘭丸との距離をつめる。突き出された槍を蘭丸が身体をずらし避ける。次々と突き出される槍の全てを避けながら少しずつ綾那へと接近していく蘭丸。その刀はまだ抜かれていない。
「やるですね!もう少し上げていくです!!」
接近しようとする蘭丸をけん制するように槍の速度を上げていく綾那。だがそのどれも蘭丸にあたることはない。まるでそこに居ないかのように全ての攻撃をかわし、刀へと手を伸ばす。それを見て、綾那が鋭く力強い一撃を突き出す。
「っ!?」
一瞬、目を見開く綾那。突き出した槍の穂先に蘭丸が立っている。槍をタン、と蹴り少し沈む槍と逆に宙へと舞い上がる蘭丸。
「お覚悟を」
明らかに綾那との距離は離れているにも関わらず、蘭丸は刀を抜き放つ。飛ぶ斬撃が綾那に襲い掛かるが、それを難なく綾那は避ける。一瞬手から離れたはずの槍はいつの間にか綾那の手に握られており、宙から降りてくる蘭丸を目掛けて突き出す。明らかに直撃するであろうその攻撃を前にしても蘭丸の表情は変わらない。槍が蘭丸の身体に触れようかと、したその瞬間。
「なっ?!」
見ていた転子は目を疑う。人差し指と中指の二本の指で槍の穂先を挟み取り、そのままふわりと地面に降り立ったのだ。
「むぅ……相変わらず全然あたらないのです」
「いえ、綾那が加減してくれているからですよ」
「加減!?これで加減してる!?」
「そうですね。蘭丸さんもですが、綾那もまだ遊んでいる程度ですね。……とはいえ、ある程度で止めないと綾那は歯止めが効かなくなりますからね」
歌夜が呟いている間にも二人の攻防は激しさを増していく。綾那の数少ない隙を突くように蘭丸は攻撃を繰り出すが、それを悉く受ける、避ける綾那。逆に蘭丸は綾那の攻撃を受けずに全て流す。
「蘭丸、次で決めるです!」
「分かりました」
そこではじめて蘭丸が鞘に再度収めた刀に手を添えた状態で構えを取る。
「いくですっ!!」
闘気を漲らせた綾那がこれまでで最高の槍の突きを放つ。その突きに合わせるように蘭丸の刀が抜き放たれる。
「……参りました」
「ふっふっふ~!綾那の勝ちなのです!」
交差するように通り過ぎた二人の間に蘭丸の刀の折れた先が落ちてくる。
「か、刀が……」
「ふぅ、やはり綾那の槍相手では普通の刀は無理ですね」
「です!」
「はぁ、綾那。蜻蛉切使ったって知られたら葵さまに怒られるわよ?」
「わわ!ら、蘭丸、内緒、内緒です!」
慌てて蘭丸に言わないようにバタバタしながら伝える綾那。
「ふふ、分かりました。でも、予備の刀がなくなってしまったので……」
「すみません、蘭丸さん。私のほうで明日届けますね」
「助かります。……どうしました、ころ?」
「あっ……ら、蘭丸さん、これっ!」
準備していたのであろうか、水の入った筒と手拭いを差し出す。
「ありがとうございます。……んっ」
受け取った水を飲む蘭丸をぽーっと見つめる転子。
「どうしました?」
「い、いえっ!」
ふぅ、と一息ついて蘭丸は手拭いで汗を拭く。綾那も水分補給を終えて満足げに地面に座り込んでいる。
「ころも得物は刀でしたよね?」
「は、はいっ!でも、蘭丸さんみたいに強くはありません……」
「ふふ、では今度から私と一緒に修行しますか?朝の素振りや身体作りもよろしければ」
「は、はいっ!!是非!!」
両手を握り締めて力強く頷く転子に優しく微笑みを返す。
夜の食事を綾那たちと共に済ませた蘭丸たちは湯浴みを終え、部屋でゆっくりとしていた。
「ころ、そういえば貴女に聞いてみたいことがあったのですが」
「はい、何ですか?」
小首をかしげる転子。
「ころは剣丞さまのことをどう評価しているのか、教えていただけますか?」
「剣丞さまですか?……そうですね、本来であれば私なんかが近づくことの出来ない尊いお方……そして私たちが思いもよらない方法や考え方を持っている……凄い方だと思います」
転子の言葉に蘭丸は頷く。蘭丸も似たようなことを感じていたからだ。
「私は剣丞さまのお目付的な意味合いもあって部隊を率いています。……ころ、私はもし剣丞さまが織田に害をなす可能性があるとみなした場合には……」
「まさか……」
「……剣丞さまには消えていただくことに為ります。……ですが」
部屋の外の月を見上げる。
「……そんな日はきっと来ない。いいえ、来て欲しくは無いと思っている私が居るのです。……私にとって、最も大切なものは久遠さま。それは変わりませんが……」
「いいんじゃないですか?」
「……ころ?」
「蘭丸さんが、剣丞さまと仲良くなって……私だって、もしひよと殺しあいなさいって言われてもいやですし……剣丞さまのことを、友としたいと蘭丸さんは思ってるんじゃないですか?」
「友、ですか。……そう、なのかも知れないですね」
蘭丸に友人と呼べる存在は少ない。特に同性になれば皆無である。
「……ころ。もし私が何か道を間違えるようなことがあれば、貴女が止めてください。これから先、どのようなことがあるのか分かりませんが……久遠さまの創る未来の為、そういった選択をしなければならないこともあるでしょう。そのときには貴女のような存在が必要です」
「……分かりました。私でお力になれるのなら!」
「ありがとうございます。……それでは、そろそろ寝るとしましょうか」
「はい!」
……布団に入った後。
「……あ、そういえば蘭丸さんと二人きり……」
そんなことに気付いた転子の寝つきが非常に悪かったのは仕方の無いことなのかもしれない。
最近、恋姫小説が増えてきて嬉しいです!
私の小説が切欠なら嬉しいと思うのですが(ぉぃ
この作品ではころちゃんは活躍の場が増える予定です。
可愛いのにひよとセットですからね……。