戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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11話 躑躅ヶ崎館への道中

「え、じゃあ蘭丸ところは武田にいくです?」

 

 次の日、また遊びに来た綾那にたずねられて今回の予定を伝えたときの反応だ。……綾那は部屋でゴロゴロしているだけなのだが。

 

「えぇ。晴信公とお会いするのは初めてですので少し緊張しますが……」

「ふふ、蘭丸さんならすぐに気に入られるのではありませんか?葵さまともすぐに仲良くなられましたよね?」

「葵さまはとてもお優しい方ですから。それに、久遠さまの妹分というのもあったのではないですか?」

 

 蘭丸と歌夜が楽しそうに話す。はー、大和撫子っていうのはこういう方たちを言うんだろうなぁ、などとよく分からないことを転子はぼーっと考えていた。

 

「でも、武田は強いから敵対はしないほうがいいって誰か言ってたです」

「そうですね。武田の強兵については有名ですし……」

「あ、私も知っています!風林火山の旗印を見ただけで逃げていくって」

 

 転子が言うのを聞いて蘭丸が頷く。

 

「武田は、恐らく現状で日の本一、二を争う大勢力です。純粋な強さで言えば目的地の一つでもある長尾もそうですね。……敵に回すのは危険と久遠さまも判断しているようです。……かなり変わった方だと伺ってますが」

「うぅ……蘭丸さん、不安になること言わないでくださいよぉ」

「ふふ、大丈夫ですよ。ころは絶対に無事に連れて帰るとひよとも約束しましたから」

 

 そう言って転子の頭を軽く撫でる蘭丸。少しくすぐったそうにする姿にはっと手を離す。

 

「あ、すみません。お坊……妹の相手をしているときの癖で……」

「い、いえっ!少し驚いただけで嫌ではなかったというか、むしろ嬉しかったというか……」

 

 しどろもどろになりながら言う転子を優しく微笑んで見る歌夜。それと逆に不満そうに頬を膨らませた綾那。

 

「蘭丸、もっと綾那とも遊ぶです!また一時遊べないですから!」

「ふふ、何をしたいんですか、綾那は」

「勿論……」

 

 

「それで、綾那と遊んでくれていたのね?……礼を言うわ、蘭丸」

「いえ、私も楽しかったです」

「ふふ、相変わらずなのね。……悠季、蘭丸に例のものを」

「はっ。……成利どの、こちらが葵さまから信長公への返答の文、そしてこちらが晴信公に宛てた紹介状です」

「私も直接お会いしたことはありませんが……義元公の下へ身を寄せていた際に信繁どのとはお会いしたことがあるので、少しは話が通ると思います」

「何から何まで……感謝いたします、葵さま」

 

 優しく微笑んでいた葵が真剣な表情に変わる。

 

「……晴信公も、景虎公も……一筋縄ではいかない相手です。草の質も高く、暗殺なども考慮に入れて動かなくてはならないと思います。……蘭丸は久遠姉さまにとっても大事な存在。今後の織田と松平の同盟を発展させていく上でも大切な方になっていくと私は思っているわ。だから、無事に帰ってくるように」

 

 

「次は……」

「次は武田晴信公の居城……いえ、屋形といったほうが正しいのでしょうか、躑躅ヶ崎館ですね」

 

 親子での戦いなどは戦国の常ではあるが、武田晴信もそれに倣ったように姉妹で親を追放したという。

 

「凄い方ですね……」

「そうですね。ですが、母であり先代である信虎公は悪政を敷いていたと聞きます。……民のことを考えれば善政を敷いているという晴信公と比べてどちらがいいのかと考えると……言葉にするまでもないですね」

「そうですね。……でも、織田としては……」

「えぇ、まぁ正直大変ですね。久遠さまも田楽狭間の戦いの前には武田への対策で頭を悩ませていましたから。……その頃、ですかね。景虎公の名が轟き始めたのは」

「そうなんですか。織田にとって幸か不幸か、といったところですか」

「結果から言えば、間違いなく幸ですね。田楽狭間で今川とことを構えることが出来たのも、間違いなく結果として武田を長尾が抑えてくれたからというのが大きいですから」

 

 

「それにしても、遠いですねぇ」

「山間にありますからね。……あそこに茶屋がありますね、少し休んでいきましょう、ころ」

 

 二人が立ち寄った茶屋は辺鄙な場所であるにも関わらず、客足は少なくないようだ。蘭丸と転子はお茶と団子を注文し、椅子に腰を下ろしていた。

 

「うわぁ、こんなところにお店があるなんて運がいいですね、蘭丸さん!」

「そうですね。……此処であればいい情報も集めやすい、とか何かあるのかもしれませんね」

 

 周囲の人をちらと見た蘭丸がボソリと呟くが、その声は転子には届いていないようだった。

 

「うわっ、蘭丸さん!すっごくおいしいですよこのお団子!近くならひよにも教えてあげたかったなぁ」

「機会があれば、ひよも連れてきてあげましょう。今度は新介や小平太も剣丞さまも一緒に。……本当においしい」

 

 出来れば久遠さまにも……と考える蘭丸であったが、お忍びでも久遠が此処まで来ることは非常に難しいだろう。

 

「お二人はこの辺りの人ではないでやがりますか?」

 

 突然声をかけられた二人は声の主へと視線を向ける。そこにいたのは小柄な少女。少し変わった喋り方をしているが、蘭丸も転子も只者ではないという感想を抱いていた。

 

「そうですね、私たちは諸国を行脚している最中でして」

「そ、そうなんです!」

「そうでやがりますか。それで、次はどちらに行く予定でやがりますか?」

「躑躅ヶ崎館ですね。武田晴信公の屋敷を少し見てみたくて。まぁ中に入れずともどのくらい大きいのか見てみたいですよね?」

 

 少女と蘭丸は互いに何かを探るように言葉を交わしていく。転子は何か失敗をしてはいけない、と二人の様子を伺うことにしたようだ。

 

「ふふ、面白いでやがりますね。……とはいえ、晴信公はきっと『客人』を歓迎するでやがりますよ。夕霧は、夕霧っていいやがります」

「私は蘭丸。こちらは……」

「えっと……転子です!」

「ふむ、それでは蘭丸どのに転子どの。よかったら夕霧とご一緒しやがりますか?」

「私は構いませんよ。それで、夕霧さんは一体どちらに向かわれるのですか?」

 

 蘭丸の問いかけにニヤリと笑う夕霧。

 

「……気付いていながらよく言うでやがります。……勿論、躑躅ヶ崎館でやがります」

 

 

「ら、蘭丸さん、さっきの会話……」

「あぁ、そうでした。よく私に合わせて通称を名乗ってくれましたね、ころ」

「ひ、必死でしたから気付くの遅れちゃいましたけど。……やっぱり結果として」

「えぇ。彼女は武田に何かしらの関係がある方のようですね。風格からすれば恐らく縁者か……」

「蘭丸どの~、転子どの~!そちらは準備できてやがりますかー!」

「こちらは大丈夫です!……ふふ、変わった言葉遣いですが親しみやすい感じがしますね」

「そ、そうですか?」

 

 蘭丸の言葉に転子が苦笑いを浮かべる。相手の立場が分からないということもあってか、元野武士の転子は戦々恐々としているようだ。

 

「互いに通称以外を名乗っていない以上、身分など無いも同然ですよ。恐らくは夕霧さんもそれを考えているはず。……まぁ、こちらの情報はある程度ご存知と思っておいて正しいと思います」

 

 武田の情報網の広さと速さは驚異的なものであるというのは久遠から聞いている。歩き巫女という存在を使っての各地の情報収集もそうだが、戦場においても情報の重要性を特に重視していると聞く。そんな武田が蘭丸たちが訪れるこの時期に二人の動向を調べていないとは考えにくかった。……その結果、誰かを迎えのようにそれとなく送り込んできたのは若干予想外ではあったのだが。

 

「どうしたでやがります?」

「いえ、夕霧さんとは仲良くしたいですね、ところと話をしていたところで」

「夕霧のほうこそお願いするでやがりますよ。躑躅ヶ崎館まではまだ少し距離があるでやがりますから、その間に親交を深めるとするでやがります」

 

 

「……流石は武田の馬術……といったところですかね。大丈夫ですか、ころ?」

「は、はい。なんとか……でも蘭丸さん、よくあの速度で平気ですね」

「いえ、私もギリギリですよ。……武田騎馬の恐ろしさを感じました」

 

 夕霧を含めた三人は一緒に馬で移動をしていたのだが……夕霧の馬の速度は蘭丸と転子にとっては驚くべき速度であったのだ。

 

「ふふふ、武田の武者の生活は常に馬と共にあるでやがりますからな。人馬一体とはよくいったものでやがります」

 

 そういいながら馬を優しく撫でる夕霧は何処か自慢げでもあった。

 

「えぇ、本当にそれは身に染みました。馬の質もいいとは聞いていましたが……本当に素晴らしい馬ですね」

 

巧みな乗馬術もさることながら、馬自体の質の高さも蘭丸にとっては知識の上でしかなかったのもであったが、実際に自身の目で見ることで大きく評価を上げる。

 

「明日にはつくでやがりますから、今日はしっかりと身体を休めるでやがります。……ふふ、姉上も蘭丸どのであればきっと気に入るでやがりますなぁ」

 

 後半の言葉は蘭丸に届いては居なかったが、夕霧としては確信を持っていた。……このときはまだ、まさか自身も含めてあのような未来が待っているとは露にも思っていなかった。

 

 それは、蘭丸が最もそうなのだろうが。




仕事が忙しいですが、何とか一週間に一話更新のペースは落とさないようにします!
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