戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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15話 尾張への帰還

 川中島での戦いから数日。蘭丸と転子は尾張への帰路についていた。

 

「蘭丸さんが長尾の将と戦い始めたときは肝を冷やしましたよ……」

「ふふ、ごめんなさいね、ころ」

 

 ……光璃と美空が戦の終了の合図をした後に合流した柘榴と何故か蘭丸が戦い始めたのだ。

 

「柘榴さんが『勝負っす!そこのちんまいの!』って攻撃してきたので仕方なく、ですよ」

「う~……絶対あのとき蘭丸さんノリノリでしたよ……」

「ふふ、私も森一家ですからね」

 

 勿論、途中で美空に止められる形で終わったのだがやけに蘭丸が柘榴に気に入られていたのが転子は気になっていたりする。

 

「でも、蘭丸さん。久遠さまの文って一体なんだったんでしょうね?」

「そうですね。私も内容は分かりませんが……久遠さまのことですから、きっとこれからの未来を見据えたものだと思いますよ」

「あはは……蘭丸さんは久遠さまのことを本当に信頼しているんですね」

「勿論です。久遠さまの仰ることに間違いなんてありえませんよ」

 

 自信満々で言う蘭丸を苦笑いで見る転子。心酔……というのはこのことを言うんだろうなと思いながらも、一抹の不安も覚える。確かに久遠は素晴らしい当主だろう。だが、その性格は苛烈でありもし何かしらの理由で暴走することがあれば……。恐らく蘭丸はそれに気付いても久遠に従い続けるだろう。周りの全てが久遠の敵となっても……。

 

「……うん、私がしっかりしないと」

「?どうかしましたか、ころ?」

「いえっ!あ、蘭丸さん、途中でひよにお土産買っていいですか?」

「えぇ。私も結局久遠さまへのお土産を買いそびれてますし、いい場所を探しましょう」

 

 強さでは守れない。むしろ転子のほうが守ってもらうことになるだろう。それでも、蘭丸を守れるように出来ることをやっていこう。そう思う転子なのだった。

 

 

 場所は変わって稲葉山城。

 

「おや、竹中殿?このような夜更けに如何なされた?」

 

 門番は丁寧な言葉遣いで詩乃に尋ねる。しかし、その目は明らかに蔑むようなものが含まれている。それを見て何か言いたそうな新介を詩乃は制する。

 

「いえ、城内にいる私の妹が病に掛かったと聞いたので薬師を連れてきたのです」

 

 詩乃の言葉に門番はちらと新介を見るがすぐに興味をなくす。

 

「ふむ、痩せ武士殿のご姉妹も同じように……もう少し武士らしくするべきではありませんかな?……まぁ、私ごときには関係ないことですが」

「……」

 

 詩乃は無言で答える。それを見て軽く鼻を鳴らすと門を開ける。それを通り抜けた詩乃たちであったが、新介が立腹して詩乃に呟く。

 

「何よあの門番の態度!詩乃のこと馬鹿にしすぎじゃない!?」

「……いいのですよ。あの程度の言葉を気にしていては万事を為すことは出来ませんから。……ですが、新介が怒ってくれていることには感謝しますよ」

「べ、別に感謝して欲しくて怒ったわけじゃない、わよ」

「ふふ。……さぁ、ここからが本番です。既に安藤殿も準備を整えていますから……新介、力を貸してください」

 

 刀を抜く詩乃に頷き返す新介。

 

「勿論よ。……蘭丸隊の力、見せてあげるわ!」

 

 

 それから数刻の後、稲葉山城からほうほうのていで逃げ出す龍興の姿があった。

 

「……ねぇ、詩乃」

「言わないでください。……ここまで美濃の力が落ちていたとは……」

 

 稲葉山城の乗っ取りはあっという間に終わることとなる。龍興はわざと逃がしたが、まさかこれほどの速さで乗っ取りが終わるとは流石の詩乃も思っても見なかったのだ。

 

「それで、目標は達成されたの?」

「……半分、といったところでしょうか。佞臣の多くは討ち取りましたが、それでもまだ……」

「そういえば、あの飛騨とかいう厄介な奴はいなかったわね」

「そうですね。とはいえ、これだけ掃除が終われば後は……」

 

 詩乃がまるで未来を見るかのように虚空を見つめる。

 

「……ふぅ、織田の動きを見て……その後に城を返還する、でしょうか」

「織田の動き……殿様がすぐに動くと?」

「えぇ。織田殿であれば間違いなく動くでしょう。……そして、きっと美濃の未来はそこで決まります。……いえ、きっともう決まっているのでしょうけど」

 

 

 久々に帰ってきた尾張。蘭丸と転子は一直線に城へと向かっていた。城への道すがらで蘭丸が子供たちに囲まれたりとひと悶着あったのだが、特に大きな問題もなく評定の間へと通される。蘭丸たちが座ってまもなくバタバタと音を立てながら襖を勢いよく開けて久遠が入ってきた。

 

「お蘭!無事であったか!怪我はないか?身体を悪くしてはいないか?」

「く、久遠さま。私は大丈夫です……ひゃ!そんなところ触らないでくださいっ!?」

 

 身体中を撫で回すように確認する久遠とくすぐったそうに身をよじる蘭丸。……剣丞が見れば恐らく違った意味で動揺したことだろう。数分の確認で満足したのか、我に返ったのか、久遠は一つ咳払いをすると何事も無かったかのように上座に座る。

 

「はぁはぁ……」

「だ、大丈夫ですか?」

 

 まだ少し荒い息をしている蘭丸の服は少し乱れ、女の転子から見てもどこか色気を感じさせるものだった。……男性としての色気ではないのは仕方ないとして。

 

「……まずはお蘭、転子は大義であった」

「「はっ!」」

 

 久遠の言葉に二人は平伏する。

 

「おもてをあげい。……既に松平より書状は返ってきておる。二人のおかげで無事にことは進みそうだ。……それで、武田と長尾はどうであった?」

「はい。まずは武田ですが、文への反応はまずまずといったところかと。軍備などについては……」

 

 蘭丸の言葉に転子は驚く。確かに転子も共に調べてはいたが、蘭丸の口から出てくる情報は転子が知るものよりも細かく、むしろ全く調べのつかなかったことまでに至っていた。兵数、練度などをはじめ街の規模やおおよその石高などあらゆる情報を調べていた。蘭丸が久遠に伝えている以上、この情報の信頼度はかなり高いものだろう。

 

「……そうか。やはり武田、長尾との戦は避けるべきであるな」

「はい。我ら織田が劣るとは思いませんが……それでも苦戦、大きな被害は覚悟する必要があると」

「ふむ。それを避けるべく今回の文を届けてもらった。お蘭に出向いてもらったのは正解であったな」

 

 満足そうに頷く久遠。

 

「細かな内容については後ほど報告書で纏めて麦穂に渡してくれ。以上だ」

「はっ!」

「……お蘭は後ほど我の屋敷に来い。結菜も会いたがっておるぞ」

「はいっ!」

 

 久遠の言葉にぱぁっと花の開いたような笑顔を浮かべる蘭丸。もし尻尾が生えていたなら元気よくぶんぶんと振っていたであろう。

 

 

 久遠の元を辞した二人は、蘭丸隊の屋敷へと向かっていた。

 

「あっ!!蘭丸さーん!ころちゃーん!!」

 

 二人を見つけ嬉しそうに駆け寄ってくるのはひよ子だ。

 

「ひよー!久しぶりー!」

「うんうん!蘭丸さんもご無事そうで!」

「ふふ、ひよも元気そうで何よりね。……剣丞さまは?」

「剣丞さまなら小夜叉ちゃんと鬼退治に向かわれました……」

「姉さまと?……少し心配ですが姉さまと一緒なら大丈夫ですね」

 

 そういって屋敷に入っていく三人。

 

「ころちゃん、武田と長尾ってどうだった?」

「う~ん……一言で言うならすごかった、になるかなぁ?」

「えぇ!何がどう凄かったのか気になるよ、それ」

「ふふ、お土産もありますからお茶を飲みながらその辺りは話をしましょうか」

 

 

「し、死ぬかと思った。ただいまぁ……って、蘭ちゃんにころ!」

「お帰りなさい、剣丞さま。姉さまは?」

「小夜叉だったら森の屋敷に帰ったよ。不完全燃焼だーって言ってたけど」

「ふふ、姉さまらしいですね」

「剣丞さま、いつの間にか結構お強くなったみたいですね」

「毎日のように桐琴さんか小夜叉に連れられて鬼退治してたら嫌でも、ね」

 

 苦笑いを浮かべながら座る剣丞にひよ子がお茶を差し出す。

 

「ありがと。……それで、蘭ちゃんところはどうだったの?」

「その辺りの話を先ほどまでひよにしていたんですよ」

「うわ、俺仲間はずれ?」

「違いますよぉ!ちゃんともう一度お話しますって、ねぇころちゃん!」

「はい!ホントに凄かったんですからね!」

 

 

 夕刻。蘭丸は久遠の屋敷に向かっていた。手には今回の旅の土産を持ち、少し足早になっているのは久遠や結菜とのひと時を楽しみに思っているからだろうか。ようやく見えてきた屋敷の入り口には既に結菜の姿があった。

 

「蘭ちゃん!」

 

 昼間の久遠と同じように駆け寄ると同時に身体中を確認するように撫でまわす。

 

「結菜さまっ!あの、くすぐったいです……っ!」

 

 蘭丸の言葉が聞こえていないかのように結菜は一時の間さわり、満足したように頷く。

 

「……うん、大丈夫そうね。おかえりなさい、蘭ちゃん」

「はい、ただいま戻りました。結菜さまもお元気そうでよかったです」

「ふふ、久遠もそうだけど心配してたのよ?さ、中に入って」

 

 

 結菜に手を引かれて向かった部屋には既に膳の準備も終わっており、久遠も座って待っている状態であった。

 

「おぉ、お蘭!準備は出来ているぞ!」

「すみません、お待たせしました」

「いいのよ。久遠ったら料理できる前から既に座ってそわそわしてたんだから」

「ちょ、結菜!?それは言わん約束ではないか!?」

 

 あわあわと否定する久遠。蘭丸はいつもの自分の場所に座る。

 

「はいはい。久遠は落ち着きなさいな。まずはご飯を食べてからにしましょう」

「むぅ……」

 

 

 食後、蘭丸の土産を食べながら三人はお茶を飲んでいた。

 

「ほぅ、うまいな!」

「ほんと、おいしいわね」

 

 蘭丸が買ってきた羊羹を食べながら満足そうに久遠と結菜が言う。

 

「気に入ってもらえたようでよかったです」

「うむ。蘭丸は今日泊まっていくよな?」

「はい、ご迷惑でなければ」

「迷惑なわけないでしょ。蘭ちゃんが来るのを久遠も私も楽しみにしてたんだから」

 

 上機嫌な結菜が言うと久遠も頷きを返す。

 

「あ、湯の準備も出来てるから、一緒に入りましょ」

「「えっ?」」

 

 結菜の言葉に硬直する久遠と蘭丸。そんな二人を見てニコニコと結菜は微笑んでいた。

 

 

「ふぅ~……気持ちいいわねぇ」

 

 湯に浸かった結菜は身体を隠すことなく大きく伸びをしている。それを見て頬を染めながらも視線をそらす蘭丸。

 

「うむ、やはり湯はいいな」

 

 久遠も部屋で話していたときには恥ずかしげな様子であったのだが、今では手拭いで前を隠しただけの状態で湯に浸かっている。

 

「蘭ちゃん、もしかして緊張してる?」

「は、はい……」

「そんなに緊張しなくてもいいのに。ねぇ、久遠?」

「ゆ、結菜は慣れすぎではないか?」

 

 結菜の様子に苦笑いを浮かべる久遠の頬が赤いのは湯に浸かっているからか、はたまた気恥ずかしさからか。

 

「ねぇ、蘭ちゃん。蘭ちゃんは久遠のこと、どう思ってるの?」

「久遠さま、ですか?」

 

 結菜の言葉に蘭丸が視線を久遠に向ける。手拭いでは隠し切れない女性らしい線に再度頬を染め、視線をそらしながら。

 

「……お慕い、しております」

「うん、そうだと思うけど……女性として、どう思ってるか聞きたいの」

「ちょ、結菜!?」

 

 結菜の言葉に蘭丸以上に動揺する久遠。わたわたと手を動かすことで手拭いが落ちそうになるのが視界に入ってしまうのは仕方が無いことだろう。

 

「女性として……と、とても、魅力的だと思います!!」

「お、お蘭……」

 

 顔を真っ赤にして目をつぶりながら声を大に言う蘭丸を目を見開きながら久遠は見る。驚きに満ちたその目はすぐに優しい色を浮かべる。

 

「じゃあ、私は?」

「結菜さまも大好きです……」

「ふふ、そっか。今はそれでいいわ、ねぇ久遠?」

「……ふふ、そうだな」

「?」

 

 二人の会話の意味はよくわからないが、久遠と結菜が満足そうなことは伝わってきた。……その後、久遠と結菜が蘭丸の身体を奪い合うように洗ったり、二人の背中を流したりと色々あったのだが、その時間は穏やかに過ぎていった。

 

 

 翌朝、部屋の布団から抜け出し蘭丸は日課になっている素振りを行っていた。松平、武田、長尾。各家の名将、猛将とふれあい自らの力不足を感じた。勿論、簡単に負けるつもりはないし、久遠の動き次第で敵となるか味方となるかはわからない。更には鬼という未知の存在との戦いもあるかもしれない。その中で久遠を守り通すことが出来るだけの力をつけなければならない、蘭丸はそう考えていた。

 

「っ!」

 

 一振り一振りに気合を込め、鋭い太刀筋で空を切る。舞を舞うかの如きその動きは戦場であっても他を魅了する、そんな動きだった。

 

「まだ、まだこの程度では……」

 

 頭に浮かぶのは東国無双と名高い綾那。その動きを想像して自ら刃を交わしていく。一合、二合と打ち合うにつれ押されていく。新陰流の極意でもある後の先……綾那の繰り出す槍に合わせて太刀を振るう。

 

「……」

 

 何も無い空間のはずなのに、まるで槍に弾かれたかのように刀は蘭丸の手を離れる。

 

「……はぁ、やっぱり綾那は強いですね」

 

 苦笑いを浮かべながら刀を拾い、鞘に収める。そろそろ結菜が起きて朝食の準備をはじめる時間だろうか。蘭丸は結菜に合流するべく、片付けをはじめるのであった。

 

 

 次なる出会い、次なる戦いはもう目の前まで来ていた。




次回から本編に戻ります!

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