戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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20話 戦の狼煙

「麦穂さま、前方から来る壬月さまは私にお任せください」

「あら、一人で大丈夫?」

「はい。久々に壬月さまとの真剣勝負ですので。部隊戦はお任せします」

 

 蘭丸の言葉に麦穂がうなずく。それと同じくして模擬戦開始の陣太鼓が響き渡る。

 

「さぁ、行きましょう」

 

 

 赤組と白組の衝突から少しして剣丞と雛があっという間に犬子と和奏を討ち取る。

 

「……流石は剣丞さまと雛ですね。それでは、私もそろそろですね」

「今です!皆の者、押し返せー!」

「えい、おう!えい、おう!」

 

 麦穂の一声で防戦一方だった足軽たちが盛大な武者押しの声と共に、赤組を大きく押し返していく。壬月率いる柴田衆の猛攻を八陣の法を駆使して翻弄する麦穂率いる丹羽衆。織田筆頭の武将の間近で見ることが出来る。それだけでこの戦いの価値はあるだろう。

 

「見つけました」

 

 影のようにゆらりと動いていた蘭丸が壬月の姿を捉える。まるで忍のように背後に回り込み、刀を振るう。

 

「そう簡単にはいかんぞ、蘭丸よ」

「ふふ、流石は壬月さま」

 

 蘭丸の刀を軽々と受け止めた壬月とふわりと距離をとる蘭丸。

 

「此度の模擬戦は我らの負けだな。……あの馬鹿共を抑えられんかった私に責任はあるが」

「まだお二人は手柄がほしくてたまらないのでしょうね。……ですが、それは私も同じこと。……久遠さまに褒めていただくために手柄がほしいので」

「はぁ、相変わらず殿中心だな。……だが、私とてこのまま負けるわけにはいかん」

 

 愛斧を手に闘気を漲らせる壬月。

 

「部隊戦での負けを個人で取り替えさせてもらうぞ、蘭丸」

「今回は私が勝たせていただきます、壬月さま」

 

 

「終わりましたね」

「え、麦穂さん今なんて?」

「この模擬戦は終わりです。後は、蘭ちゃんと壬月さまの一騎打ちを見ることになりますね」

「ええっ!?ら、蘭丸さん、壬月さまと一騎打ちするんですかっ!?」

 

 ひよ子が驚いているのも無理はないだろう。泣く子も黙る鬼柴田が相手なのだ。

 

「蘭ちゃんなら大丈夫よ。……だって、蘭ちゃんも森一家よ?」

 

 

「おおおおっ!!」

 

 裂帛の気合と共に振るわれる斧は周囲に突風を巻き起こす。斧を受け止めるのではなく受け流しながら蘭丸は身軽に立ち回る。

 

「疾っ!」

 

 鋭い呼気と共に放たれる一撃を壬月は紙一重で避ける。互いに触れれば即、死が待っているような攻撃を放ちあう。

 

 

「や、やばすぎるだろ、あれ」

 

 剣丞の記憶にある姉たちとかぶる戦い方。

 

「ほ、本当に大丈夫でしょうか、剣丞さま」

「落ち着いて、ころ。……大丈夫だよ、たぶん」

 

 自信なさそうにではあるが、剣丞が転子を元気付けるように言う。

 

「……でも、こんな戦い。めったに見る機会ないよなぁ」

「そうね。……私たちもいつかあの強さを手に入れないと……」

 

 小平太と新介も戦いから目を離さずに言う。それだけ高次元での戦いを繰り広げているのだ。

 

 

「腕を上げたな、蘭丸!」

「壬月さまも腕を落としていないようで安心しました。……ではそろそろ終わりにしましょうか」

 

 腰を落とし、刀を鞘に納める。

 

「私もちょうど、そう思っていたところだ」

 

 斧を振り上げ闘気をさらに漲らせていく。二人の闘気が目に見える。炎のように紅に染まる壬月の闘気と、蒼く立ち上る闘気。二つが重なる瞬間、二人は同時に動く。

 

「五臓六腑を……!」

「森家御家流」

「ぶちまけろっ!!」

「森羅万勝!!」

 

 壬月が斧を振り下ろし、蘭丸が刀を地面に突き刺す。共に地を割き、相手へと向かって衝撃が突き進む。ぶつかり合ったその衝撃で周囲にいた足軽ごと吹き飛ばす。

 

 

「……何コレ」

「や、やばすきますよぉ……」

「あ、あはは……これから私たちってあんな戦いをしていかないといけないんですかね……」

 

 ひよ子がガクガクと震えながら転子に抱きつく。転子も少し顔色が悪いのはあまりの状況に驚いているからだろう。

 

「あのお二人は特殊ですよ。……とはいえ、日の本を探せば何人もいるでしょうけど」

 

 あんなのが何人もいたら困る、と剣丞は思いながらも自分の姉たちを思うと否定できなくなる。

 

「……何か懐かしい感じもするなぁ」

「え?剣丞さま、何かおっしゃいました?」

「い、いや。何でも……っ!?」

 

 ぼんやりと、剣丞の持つ刀が光を放つ。

 

「嘘だろ、おい……!」

 

 

「も、申し上げますっ!!」

「許す」

「はっ!美濃稲葉山方面より鬼の軍勢がこちらに向かっておりますっ!そ、その数およそ千!!」

 

 報告を受けた久遠が眉を顰める。

 

「……鬼が徒党を組んでいる、と?」

「い、いえ……偶発的に現れたにしては数が多く、徒党を組んでいるというには動きが乱雑であり……」

「よい。下がれ」

「はっ!」

 

 一瞬、目を閉じて考える久遠であったが、目を開け詩乃へと視線を向ける。

 

「……詩乃よ。そなたの智、借りてよいか?」

 

 

「槍隊前へ!」

 

 麦穂の号令で部隊が動く。

 

「柴田どのと森どののところまで前進するのです!二人の後方へ弓矢隊撃てっ!」

 

 一騎打ちをしていた二人が孤立する形で鬼の軍勢が現れた。そのため、麦穂がすぐさま指揮をとり二人の下へと向かおうとしている状況だ。

 

「剣丞さま、突出しないでくださいっ!」

「ごめん!でも早く二人のところにいかないと!」

「気持ちは分かりますが、剣丞さま落ち着いてください!」

 

 ひよ子と転子が剣丞を諌める。

 

「剣丞さま!この部隊は私たち以外はそこまで練度も高いわけでもありません!私たちが離れればそれだけで部隊は壊滅する可能性もあるんですよ!」

 

 新介の言葉にはっとする剣丞。

 

「っていうか、鬼増えてない!?」

 

 小平太の言葉で全員が周囲を確認する。倒れては煙のように消えていく鬼。だが、その数が減っているようには確かに見えない。

 

「うわああ!?」

 

 足軽の一人が鬼に押し倒されるような形になる。鬼の牙が届くよりも先に剣丞の刀が鬼を消滅させる。

 

「大丈夫か!」

「あ、ありがとうごぜえやす!」

 

 剣丞に手を借り起き上がる足軽。剣丞は周囲を再度見渡すと、少し離れた場所……久遠がいた本陣付近だろうか、そこから土煙が上がっているのが見える。

 

「っ!久遠が動いた……?もしかして詩乃の采配か?」

 

 

「壬月さま、まだいけますか!」

「当たり前だ!蘭丸こそまだ大丈夫だな?」

「はいっ!……ですが、なかなか合流できませんね」

 

 互いに一騎打ちの状況から打って変わって二人で鬼を相手に大立ち回りを見せる蘭丸と壬月であるが、殺到する鬼の数にその場からほとんど動くことが出来ずにいた。

 

「しかし、何なんでしょうね。これほどの数の鬼、隠れていたとも思えません」

「確かにな。だが、今は考えている場合ではなかろう。……む、殿が動いたか?」

「っ!壬月さま、早く行きましょう!」

「……はぁ。相変わらずだな、蘭丸は」

 

 

「……ふむ、鬼の動きは変わらず、と。やはり何かの狙いがあるようには考えられませんが……もし鬼を動かすものがいるとすれば……?」

「詩乃、何か分かったか?」

「はい。鬼の動きはすべて『剣丞さまを中心に』動いている……つまりは剣丞さまを動かせば鬼も動く可能性が高い。そう考えられます」

 

 詩乃の言葉と、今の状況を確認した久遠がうなずく。

 

「ならば、剣丞を動かしまずは事態の収拾をつけることを最優先で行う」

 

 

「やっぱり、俺の刀に鬼が近づいてきてる……!」

「くっ、このままじゃやばいって!新介、孤立しかけてる!」

「分かってるわよ!っ、ひよ、ころ!踏ん張りなさいよ!」

「は、はいぃ!!」

「皆も頑張って!」

「「応っ!!」」

 

 蘭丸隊にはほかの場所に比べて圧倒的に鬼が寄ってくる量が多く少しずつ麦穂たちから離れていっていた。麦穂もそれに気づき部隊を動かしてはいたが、同時に蘭丸たちのほうへも進んでいたため少しずつ押されている。そのときだった。遠方から聞こえる奇声のような叫び声。

 

「ひゃっはーっ!!」

 

 そんな普通であれば驚くような声も、今の状況では救いの声だった。

 

 

「……ふふ、流石は森一家だな。鬼の臭いを嗅いできおったか」

「……私は蘭丸さましか詳しくは存じ上げませぬが、森一家は鬼の臭いが分かるのですか?」

「鬼というよりは戦や血の臭いといったほうが正しいやもしれんな。それで詩乃、策に変更はあるか?」

「……もはや策など不要……ではありませんか?」

 

 

「おう、お蘭に壬月ではないか。何だ何だ二人で楽しみおって」

「母さま!」

「……森の。礼は言わんぞ」

「はっはっはっ!まさか鬼柴田どのがこの程度でくたばるとは思うておらんわ!しかし何事だ、この鬼の数は」

「分かりません。……ですが、鬼の動きから察するに」

「あの孺子か。面白い奴じゃな!」

 

 笑いながら鬼を切り殺す桐琴に苦笑いの壬月。

 

「ちぃ、クソガキが一人で楽しんでおるわ。ワシもあっちへ行く。お蘭は……殿のところへ行け」

「はい!」

「はぁぁ……まぁいいか。蘭丸、私は麦穂と合流する。殿のことは任せたぞ」

 

 

「お蘭!無事であったか!」

「はいっ!久遠さまもご無事でなによりです!」

「……」

「詩乃、部隊を動かしてくれたのは貴女ですね?ありがとう」

「いえ、私は自分に出来ることをやったまでです。蘭丸さま、今回の鬼の狙いは何だとお考えですか?」

「正直わかりません。……ですが、偶然というにはあまりに数が多すぎる。鬼についてもっと調べなくてはいけないかもしれません」

「そうだな。……こんなに数がいるのであれば、尾張での夜間の外出は今以上に強化して禁止せねばならんだろう。……しかし、圧巻だな」

 

 森家が鬼との戦いに乱入して一刻も経たない間に殲滅されていく鬼たち。

 

「……しかし妙ですね。どうして今鬼は減っているのでしょう」

 

 蘭丸が言うと久遠も怪訝な顔を浮かべる。

 

「……ふむ、先ほどまでは鬼が減らなかった、ということか?」

「はい、壬月さまと私が戦っている間での感覚ですが……恐らくは間違いないと思います」

「確かに。戦場を此処から見ておりましたが、鬼の数の変動が少なくおかしくは思っておりました。……蘭丸さま、ほかに戦っている中で何か異変などは感じられませんでしたか?」

「……そうですね、ほかには……鬼が弱く、感じました」

「弱く、ですか。それは……私には分かりかねる感覚ですね」

「えぇ。なんというか……そう、劣化した刀のような弱い印象を」

「……ふむ、鬼にも種類がいる、可能性がある?……いえ、ですが……」

 

 ぶつぶつと独り言のように考え込む詩乃。

 

「……おけい。今はとにかく一旦、尾張まで引き上げることとする。お蘭、もう少し詩乃の力を借りるぞ」

「はい、久遠さまの御心のままに」

 

 

「……ふむ、力をつける前の織田であればこの程度の軍勢でも狩れるやもしれぬと思ったが……この程度では荒加賀が裔の力を削ぐには至らないか」

 

 くくっ、と含み笑いのような声を漏らしながら男がつぶやく。

 

「……此度は朕にも考えがある。……荒加賀が裔にはもう少し踊ってもらうとしよう。……狙いは」

 

 ぼんやりと男の前に浮かび上がるのは蘭丸と詩乃の姿。

 

「荒加賀が裔の武と智と成り得る者を奪わせてもらうぞ……くくくっ……はっはっはっ!!」

 

 男の嗤いに反応するように周囲の鬼がざわめく。

 

 

 男の野望は未だ潰えない。




この男はほかの世界線の記憶を微妙にですが持っています。
なので原作や私の過去作よりも厄介な相手になることでしょう。

誰なんだろう、この男は(ぉぃ
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