戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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22話 稲葉山城攻略戦(後編)

「しかし、先ほどは予想外であったな」

「麦穂さまが先陣を立候補されたことですか?」

「うむ。あれほど力強く麦穂が出るとは思わなかったからな」

 

 剣丞たちが出発してから壬月が先陣を和奏と犬子に任せようとしたところ、麦穂が異議を申し立てたのだ。最終的には和奏と犬子が先陣を切ることにはなったのだが。

 

「恐らくですが、私が麦穂さまに剣丞さまたちをお願いしますとお伝えしたからかと思われます」

「ほぅ……麦穂が、な。……ふむ」

「それはそうと……そろそろ三の丸に和奏たちが寄せるころですね」

「で、あるな。……あとは剣丞たちの動きが重要になるな」

「大丈夫ですよ、剣丞さまたちなら」

「ふふ、お蘭もあの男を信頼するようになったようだな」

「……はい。剣丞さまは信頼に値する方に成長されています。あのすべてに精通するだけの才を持っているのはすばらしいと思います」

「まるでお蘭のようであるな」

「私はそれほどでもありませんよ。……この気配……」

 

 戦場より後方から恐ろしいほどの勢いで迫り来る気配。織田において最も恐ろしく頼もしい存在。

 

「ほぅ、もう向かっておるのか」

「そのようです。ふふ、母さまも姉さまも張り切っているようですね。……それに」

 

 門のほうから合図の煙が上がる。

 

「剣丞の奴……やりおったか!」

「そのようですね。本丸のほうには壬月さまが向かわれているようですし……」

「ふむ、であれば我らも動くときであるな」

「はい!久遠さま、ご指示をお願いします!」

「時は来た!美濃の蝮、斉藤山城より受けた国譲り状を今こそ現実にするときだ!」

 

 久遠の言葉に本陣の兵はごくりと息をのむ。

 

「勝負は二度あらじ!皆、奮えっ!!」

「「おーっ!!」」

「皆のもの、出陣です!」

 

 

 本陣が動くのと同時刻。

 

「おらぁ!みんな黒母衣衆の意地を見せろぉ!」

「赤母衣のみんなも黒母衣に負けるなー!」

「滝川衆、あまり前に出ると母衣衆の邪魔だから、遠巻きにして鉄砲戦でもしておこー」

「掛かれ掛かれ!共々、掛かれ!」

 

壬月と三若が最後の城門に対して攻勢をかけていた。門の前は壮絶な戦いが繰り広げられているが、どう見ても斉藤側の士気は低い。それでも簡単に落ちないのは流石は天下の堅城といったところか。

 

「壬月さん!俺たちにも何か協力することないかな?」

「孺子か。こういったことは我ら武闘派に任せておけ。蘭丸隊は一部を除いて荒事にはむかんだろう」

「分かってるんだけど……」

「阿呆。人には向き不向きがある。壬月の言うとおり、ここはワシらに任せておけや」

「そうそう。人の稼ぎ場を荒らすんじゃねーよ」

「母さま、姉さまの仰るとおりですよ、剣丞さま。久遠さまからも下がって休んでおくようにとのご指示です」

「ほお、森の。……戦の臭いで重い腰を上げたか」

 

 壬月が桐琴に声をかける。

 

「ぼんくらの龍興の相手なんぞ、気が進まんかったが、そのぼんくらに手こずる三バカを見ていたら、イライラしてきたからな」

「あいつら、あんなんでマジで母衣を背負ってんのか?オレらにかかりゃ、瞬殺だぞあんなの」

「ふふ、母さま姉さまを基準で考えてしまってはいけませんよ。それに部隊の指示などは春香さんにお任せしているんですから」

「蘭ちゃんまで……もしかして久遠の指示?」

「はい。久々に母さまと姉さまと馬を並べて来い、とのお言葉を頂きました」

「……蘭丸まで合流しおったか。まったく殿は何を考えているのやら……」

 

 壬月がため息をつきながら頭を押さえる。

 

「というわけだ。……この戦場は森一家が仕切る。異論はあるまいな?」

「やれやれ。……だが、このままではラチが明かんのも事実か。……任せよう」

「おう、素直な奴は好きだぞ壬月ぃ。……おいガキ」

「おお!オレに任せとけや、母!お蘭もしっかり見とけよ!」

「はい、姉さま!」

 

 そういうと小夜叉はズカズカと門のほうへと歩いていく。

 

「おらぁ!三バカぁ!てめぇら門の前からさっさとどけやーっ!」

「誰が三バカだぁ!ボクらは織田の三若だぁ!」

「げーっ!和奏、旗!旗見て旗!」

 

 小夜叉の言葉に反射的に言い返した和奏に対して犬子が顔を青くして言う。

 

「うわぁ……森の鶴丸紋が出てきちゃったよ。滝川衆、後退後退ー!すぐに後退しないと殺られちゃうよー!」

 

 顔を引き攣らせながら雛が指示を出す。

 

「赤母衣も一端下がるよ!和奏、早く!」

「くっそー!ボクらがどうして森のガキに命令されないとならないんだよぉ!」

「今はとにかく後ろに下がろうって!じゃないと味方に頸をもがれちゃうよ!」

「むー……分かったよ!てめぇらに一番乗りの功は譲ってやる!感謝しろ!」

 

 和奏が負け惜しみの言葉を放つと呆れたように桐琴が前に出る。

 

「何を偉そうに。貴様らがぬるいのが悪い。さっさと退かんとてめぇの頸も刈ってやんぞ?あ?」

「むぐっ……。森の姐さん、よろしく頼みます……」

 

 桐琴に気圧されるように和奏が下がる。

 

「最初から素直にそう言えや。……ガキぃ!」

「応よーっ!森の鶴紋なびかせて、尾張が一の悪ざむらい!森一家たぁ、オレらのことだ!」

 

 小夜叉の名乗りが周囲に響き渡る。

 

「森の一家の目前にあるは、刈る頸、刈る耳、刈る武功!荒稼ぎの邪魔するやつぁ、味方といえどもぶっ殺す!森の戦ぁ、その目でとくと拝みやがれ!……お蘭!」

 

 桐琴も名乗りを上げて蘭丸に言葉を渡す。

 

「久遠さまの御為に。一家の皆さん、存分に槍働きを」

「「おぉーっ!!」」

「……ったく、何でお蘭のときだけヤル気出してやがんだ、若い衆は。……とはいえ」

 

 ニヤリと口角を上げる桐琴。それを見て小夜叉が口を開く。

 

「ひゃっはーっ!皆殺しだぁーーーーっ!!」

 

 

「は、はは。鬼退治で少しは知ってたつもりだったけど……」

「孺子、死にたくなかったら、あまり絡まないようにしておけ。蘭丸の部隊である以上無理だとは思うがな」

 

 壬月の言葉に頬を引き攣らせている蘭丸隊の面々。

 

「三若に経験を積ませるために、様子を見ていたが……時を過ごしすぎた。ここは森に任せ、私は別の仕事に向かうとしよう」

「……一応だけど、蘭ちゃんはあのままで大丈夫なんだよね?」

「……あれでも蘭丸も森一家だからな。大丈夫だ」

「そっか。……それで別の仕事って?」

「稲葉山城周辺の征圧に向かう。おっとり刀で駆けつける敵の援軍を追い払うためにもな」

「あ、そっか。……いってらっしゃい、壬月さん」

「うむ。殿がいらっしゃるまで、名代としてここの指揮を貴様に任せる。恐らく各務も来るだろうから後は頼んだぞ」

「えっ!?俺!?」

「門が開いたぞーっ!」

 

 壬月の言葉に剣丞が驚いている間に門が開いたという声が響く。

 

「マジかよ!早っ!!」

「壬月さん、後は私と剣丞どのにお任せください」

「応。各務、後は任せる」

 

 いつの間にか剣丞の隣に立っていた春香が壬月に声をかける。

 

「は、春香さん!?いつの間に」

「つい先ほどですよ。剣丞どの、あとは城内の掃除が終わるまで、桐琴さんたちの好きにさせておいてかまいません。その後の事後処理についてご説明しますね。……よろしければ竹中さんにもお伝えしておきたいので」

「私、ですか?」

「えぇ。蘭ちゃんの軍師になったと聞いておりますので。公私共に支えていただきたいと思いますから」

「!は、はい!」

「ひよさんところさんもお願いしますね」

「「は、はいっ!!」」

 

 

 そのころ、城内では森一家を中心にもはや蹂躙といってもおかしくない状況になっていた。

 

「おい、黒母衣連中!龍興を探せ龍興を!あいつの頸以外、用はネェ!」

「赤母衣のみんなも、黒母衣に負けてられないよー!兜頸、ジャンジャン狩り取っちゃおう!」

「滝川衆はほどほどに。あまり先走っちゃ駄目だよー。それにみんな、城内で森一家に鉢合わせしたら、槍の穂先は下に向けて、蘭丸くん以外は目を合わせないように」

「ちょっとでも逆らったら、すぐに殺されちゃうから、森一家を見かけたらすぐに逃げること!」

「黒母衣も分かったな!」

 

 三若の言葉に返事をする兵たち。……はたから見ればよく分からない状況である。

 

「それじゃ、森一家に目を付けられないように注意しつつ動くよー」

「手に入れろ!龍興の頸♪」

「日の本イットー、武功な奇跡~♪」

「……歌いながら人の頸を狩りに行くって、母衣衆も森一家も怖いわー……」

 

 雛はボソリと独り言をつぶやく。

 

 

「おぉ、剣丞に春香ではないか。ここで名代をしておったのか?」

「久遠。下は大丈夫なの?」

「あぁ。麦穂に二の丸で拠点を作っている。奴に任せておけば万事うまくいくからな。……で?」

「壬月さんは周囲の制圧に向かわれました。剣丞どのと詩乃さんは私とお勉強です」

「ほぅ。……うむ、春香であれば問題ないか。ではこのまま此処の名代は任せるとしよう」

「かしこまりました。……久遠さまは如何なされるのですか?」

「お蘭の戻りを待ちながらここで貴様たちを見ているとしよう」

「ふふ、かしこまりました」

 

 

「……お蘭、何を考えておる?」

「母さま。……私は利政さまのことを存じ上げません。久遠さまが心を許し、結菜さまの母さまでもあらせられる。その方の城を落とす……久遠さまのお気持ちを」

「お蘭。お前が気に病む必要はなかろう。美濃を譲りうけたのは殿だ。そして織田の宿願でもある。殿も結菜さまもお蘭には感謝せど何も思うまいよ。それに、殿や結菜さまが何かを思うのであればそれは本人の自由であろう。……そんな顔をするな。かわいい顔が台無しだぞ」

 

 笑いながら蘭丸の頬をぐいぐいと上げる桐琴。

 

「母さま……。はい」

 

 そんな家族での談話をしながらも襲いくる斉藤の足軽を片手で叩き伏せていたりするのだが。

 

「おい、母にお蘭!そんなのんびりしてたら全部オレが頸はもらっちまうぜ!?」

「チッ!ガキぃ!調子に乗るな!」

 

 城が完全に落ちるのも時間の問題となった。城の外にいる久遠と中にいる蘭丸が思うことはひとつであった。

 

 

「久遠さまが目指す、天下布武への道」

「我が目指す、天下布武への道」

 

 二人がポツリとつぶやいたそのときに、聞こえてくる勝ち鬨の声。

 

 

 久遠の思い描く天下布武への大きな第一歩。それを支える蘭丸にとっても大きな試練が待ち構えて異様とはこのときはまだ知る由もなかった。




これにて稲葉山城攻略は終わります。

ここからオリジナル展開も増えていきますのでお楽しみに!
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