戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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こちらの作品は一作目と比べるとかなり長くなる予定です。
プロット段階でも倍近いので……。


3話 鬼と家族と久遠の屋敷

 鬼。古来より人を襲う化け物として色々な書物に出てくる存在が、今市井を騒がしていた。夜、出歩くと何処からともなく現れ食べる(・・・)。人を食う化け物が闊歩する世になったのだ。

 

「いい加減に機嫌を直せ、お蘭。あぁ、もう!結菜もなんとか言ってやれ!」

「私だって反対なんだけど?」

「ならば、結菜よ。彼奴は我の命を狙う悪党だと思うか?」

「……正直、そこまで危険とは思ってないけれど」

「お蘭はどうだ?」

「……もしそうだとしても蘭が守ります故。ですが、危険な人物には感じませんでした……」

 

 蘭丸は先ほど少し言葉を交わした男のことを思い浮かべる。どこか軽い印象も受けたが、自分のことや周囲のことを客観的に判断でき、壬月の一撃を読み麦穂の刀を避け逆に腕を捻り上げる……。そんなことが可能な程度には鍛えているということだろう。

 

「デアルカ。我の人を見る目、蝮の娘である結菜もそして我の信頼するお蘭も危険を感じないのであれば、あの者が危険ではないという証明であろう」

「はぁ、全く。そういうとこ、パッと分かっちゃうのは流石よね」

「はい、流石は久遠さまです」

「ふふ、分かってもらえたようで何よりだ。それに、もし織田に不利益をもたらすと判断できたときには」

 

 蘭丸を久遠が見る。

 

「はい。私のほうで処分致します」

「うむ。だが、決して我の意見を聞かずに判断しては駄目だからな?お蘭は我の為を思ってのことだと思うが、時折先走ることがあるからな」

「かしこまりました。剣丞さまには私の部隊で面倒を見れるように計らいます」

 

 

 蘭丸は、周囲の散策に出かけた剣丞を迎えに行くことになった。既に壬月と麦穂が向かっていると聞いたが蘭丸自身ももっと剣丞のことを知る必要があると感じたからだ。

 

「……あそこですか」

 

 遠くで微かに聞こえる音と動く人影。時折煌くのは刀か。

 

「!まさか……っ!」

 

 咄嗟に刀に手を掛け、駆け出そうとするのをすっと手が出て静止する。

 

「壬月さま!」

「静かに。今はあの孺子の実力を確認する好機だ」

「ですが、久遠さまは……」

「蘭ちゃん、危険と判断したらすぐに助けに入ると壬月さまには伝えてるから、安心していいのですよ」

 

 麦穂にも言われ、鞘に掛けた手を離す。

 

「……分かりました。確かに鬼程度も相手に出来ないのであれば久遠さまの傍に仕える者として相応しくはありませんから」

「そういうことだ」

 

 そんな会話をしている間も剣丞と鬼との攻防は続く。恐らくは初めて会ったであろう鬼との戦いでありながら、大きな隙を作らず且つ相手の隙や癖を見つけようと動いているのが分かる。しかし、既に一撃を受けた後なのか、少し精彩に欠ける動きであった。

 

「あっ……!」

 

 鬼の一撃を刀で受けながらも、その圧倒的な膂力で背中を強かに打ちつける剣丞を見て、蘭丸は駆け出す。

 

「おい、蘭丸……!」

 

 壬月が止めるよりも早く、麦穂が動くよりも早くに駆け出した蘭丸は刀を抜き放つ。それと同時に鬼の咆哮が周囲に響き渡る。それに答えるように響く声が二つ。

 

「剣丞さま!」

「な、蘭ちゃん!?危険だから逃げ……」

 

 剣丞と鬼の間に立ちはだかる蘭丸は腰を低く刀を構える。三匹に増えた鬼はジリジリと二人へと近づいてくる。蘭丸の刀に月光が反射し、それがゆらりと動く。そのときだった。

 

「ひゃっはーっ!!」

 

 静寂を切り裂くように響く高い声。蘭丸と剣丞の前に吹き荒れるのは黄金の旋風。

 

「汚物は全殺しだぁっ!!」

 

 槍を一振り、二振りと振るう毎に鬼が倒れる。

 

「お、おんな……のこ?」

 

 剣丞が心底驚いた様子で仁王立ちする少女を見つめている。

 

「ぁんだよ。手応えねぇなぁ」

 

 不満げな声を上げながら、攻撃を避けた一匹の鬼めがけて再度槍を振るう。

 

「ガアアア!!」

 

 咆哮と共に後ろに跳び退きながら攻撃を避けた鬼が身を翻して駆け出す。

 

「あ、待ちやがれっ!」

 

 鬼を追おうとする少女。

 

「気ぃ抜きすぎだぞ、クソガキ」

「母っ!!」

「それと……戦場で後ろを向く奴ぁ死あるのみだっ!!」

 

 少女の一閃とは更に次元が違うと分かる一撃によって逃げ出した鬼は『叩き潰された』。槍を振るったはずにも関わらず、叩き潰されたのだ。今しがた鬼を瞬殺した二人が蘭丸と剣丞のほうへと向き直る。剣丞はビクリと身体を震わせながらも蘭丸を庇おうと立ち上がるが。

 

「……母さま!姉さま!!」

「おぉ!お蘭じゃねぇか!元気にしてっか?」

「はい!姉さまもお元気そうで」

「おうよ!」

「おぅ、お蘭。お前に部隊を預けると殿が言っておったが……ん、なんだ、その孺子」

 

 

 後から追いついてきた壬月や麦穂と共に蘭丸は剣丞について説明をする。

 

「ふん、殿がのぉ。ならワシらがとやかく言うことではないな」

「そうだなー。お蘭も一応は認めてんならオレも文句はねーよ」

「やれやれ、森も賛成という訳か」

 

 壬月が頭を抑えながら言う。

 

「そういうこった。クソガキ、興が削がれた!帰って酒だ!」

「応よ、付き合うぜ母ぁ!……あ、お蘭、たまには帰って来いよー?」

「はい!」

 

 ぷらぷらと手を振りながら立ち去る二人を呆然と見送る剣丞。

 

「……貴様でも呆けることがあるんだな」

「いやいや、あれは流石に……。一体何者?」

 

 壬月に言われ、剣丞が慌てて答える。

 

「あれは森家の当主、森三左衛門可成どのと娘の森長可ちゃんですよ」

「まさかとは思うけど」

 

 剣丞が蘭丸に視線を向ける。その視線を受けて蘭丸は嬉しそうに笑顔を浮かべ。

 

「はい、私の自慢の母さまと姉さまです」

「……信じられんことに事実だ」

 

 嬉しそうな蘭丸と、先ほどまで以上に頭が痛そうな表情の壬月。剣丞は苦笑いで乾いた笑いをするしかなかった。

 

 

「明日の評定で家中の者にお披露目をするそうです。剣丞さまもその覚悟を持ってしっかりと臨まれますように」

 

 城へと無事帰り着き、剣丞を部屋へと案内しているときに蘭丸は伝える。

 

「そういえば、他の隊員の人と会うって話は?」

「……剣丞さまの散策が思ったよりも長くなってしまいましたので、明日のお披露目の後ということになりました。そのときに隊の長屋へ移動しましょう」

「あはは……ごめんなさい。……それと、蘭ちゃん。俺のことは剣丞って呼び捨てで構わないよ。むしろ俺が敬語使わないとかな?蘭ちゃんが隊長だし」

 

 剣丞が笑いながら言うが、蘭丸は首を振る。

 

「いえ、剣丞さまは確かに私の隊に配属されますが、あくまで貴方は田楽狭間に降り立った天人です。私なんかよりずっと尊いお方なのですから自信を持ってください」

「俺はそんなに大層な存在じゃないよ」

「それでも、です。……そうですね、私が貴方のことを本当の意味で信頼に足る人物だと認めたときには呼ばせてもらいます」

「うん、じゃあそれで。……それよりも評定って?」

 

 剣丞の言葉に絶句する蘭丸。剣丞に一つ一つ説明していく。分からないことが多すぎる気はするが、飲み込みは悪くない。一度いえばしっかりと理解することを考えればむしろ物覚えはいいほうであろう。いくつかの注意点や、明日の予定内容を説明した後に蘭丸は剣丞の部屋から去る。向かうのは久遠の屋敷。連日ではあるが、結菜から直々にお誘いがあったのだった。

 

 

「お蘭!剣丞はどうであった?」

「……それなりといったところでしょうか。初めての鬼に対してもしっかりと対応していたことを考えれば及第点は上げられます。……そのほかは分かりません」

「むぅ、お蘭は手ごわいな……」

「なーにが手ごわいな、ですか。ついさっきまでお蘭怒ってないかな~、機嫌直してくれないかな~ってずーっと言ってたじゃない」

 

 結菜の言葉に蘭丸がきょとんとする。

 

「ゆ、結菜!?それは言わない約束ではなかったか!?」

「知りません。あ、蘭ちゃん、ご飯運ぶの手伝ってくれる?」

「はいっ!久遠さま、もう少しお待ちくださいね!」

「ち、違うのだぞ?いや、違わなくもないのだが」

 

 慌てて変な言葉になっている久遠を苦笑いで見ながら蘭丸と一緒に結菜は膳を並べていく。

 

「久遠、早く席について。ご飯いらないならいいけど」

「た、食べるぞ!」

「わぁ、結菜さま!今日もとってもおいしそうです!」

「ふふ、ありがと。でも、久々に蘭ちゃんのご飯も食べたいわね」

「確かに。……でも今日は結菜のご飯だ」

 

 嬉しそうな久遠に結菜もつられて嬉しそうな笑顔になる。

 

「それじゃ、いただきましょうか」

 

 

 昨晩と同じように布団を並べて寝る前に三人は話をしていた。

 

「はじめはな、剣丞を我の夫とすることを考えたんだ」

「なっ!!い、いけません!!たとえ神や仏が許してもこの蘭が許しません!」

「落ち着け、お蘭!はじめは、と言ったであろう。……正直、虫除けにはよいかとも思ったのだが」

「私は絶対反対よ。確かに危険ではないとは認めますけど、それとこれとは別。久遠の夫ってことは、私にとっても夫のようなもの。そう簡単に認めるわけにはいかないわ」

 

 久遠は結菜の言葉に頷く。

 

「とはいえ、手放して他の勢力に味方されるというのも厄介だ。で、あれば好待遇で家中に迎えるのが一番だろうと」

「本当に?本当は蘭ちゃんがいるから夫にするのはやめたんじゃないの?」

 

 じと目で久遠を見る結菜。

 

「ちちち、違うぞ!?確かにお蘭が怒るかも……とは思ったが、それだけではないからな?本当だぞ!」

「久遠さま……私は、久遠さまがお決めになられるのであればそれについていくだけです。勿論、反対はしますが……それでも私は常に久遠さまの味方です」

「お蘭……」

「こほん。ちょっと二人とも、私は除け者?」

「す、すみません、結菜さま!私は結菜さまのこともお慕いしております!」

 

 蘭丸の言葉に満足そうに頷く結菜。

 

「あれ、久遠は?言ってくれないの?」

「わ、我も結菜のことは大事に思っておるぞ」

「それだけ?」

「む……」

「あーあ。そっかー。それだけなのかー。それじゃ、私は今日から蘭ちゃんの嫁になろうかしらねー」

 

 そういって蘭丸に抱きつく結菜。蘭丸は顔を赤く染める。

 

「なっ!!ゆ、結菜、離れろ!!」

「いやですー!蘭ちゃんなら私を大事にしてくれるんだけどなー。ね、蘭ちゃん?」

「は、はい!!」

「お蘭も何を言っておる!……あぁ、もう!我は結菜のこと好きだ!これでいいか!」

「なんだか投げやりね。でもいいわ、今回は許してあげる」

 

 結菜が笑顔でそういうのを聞いて久遠はほっとした表情を浮かべる。

 

「じゃあ、今日は私が真ん中でいいかしら?」

「うむ、我は構わんぞ」

「はい、私も構いません」

「やった!それじゃ、寝ましょ」

 

 久遠と蘭丸の腕を取って布団へと誘う結菜。

 

 

 今日も尾張の夜は静かに更けていく……。




物語が長くなるのは、各キャラクターとの物語を掘り下げて描きたいなと思っているからです。
通常の部分でも、閑話でも……各キャラの魅力を引き出せる様に頑張ります!

あれ、こっちは更新少し遅くなるとか言っていた気が……。
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