戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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28話 拝謁

「で、藤孝とやら。……我のことを知ったとして、何とするつもりだ?」

「これはまた、塚原卜伝先生なみに一刀両断ですなぁ」

「柳相手に相撲を取るほど、無駄なことはないからな。……で、どうなのだ」

「……今のところは特に何も。ただ公方様のお側衆を自称する私としては、向後のことを考え、各地方の有力者と懇意にしておく必要がございますれば」

「割に人を見ん。……我は好かん。最初に言え。我を試すならば相応の覚悟を持っておくが良い」

「……はっ」

 

 久遠の威に打たれたかのように、幽は真面目な顔をして頭を下げた。だが……。

 

「でもねぇ……あの場でご正体を見抜いたならば、おぜぜは置いていってくれました?」

「織田家として正式に公方と話をしにきた訳ではない。……見抜かれていたら踵を返しただろうな」

「でしょう~。だからあのときは方便ということで、一つ手を打って頂けますと助かるのですが。……どうでございましょうかねぇ?」

 

 手を揉みながら、久遠を見る姿は、武士というより遣り手の商人に見える。

 

「将軍様は、それほどお金にお困りなのですか……」

「それはもう!……まぁでも毎日毎日、町を練り歩いて悪漢どもから銭を巻き上げているらしいですが……」

「何をブツブツ言っておる」

「いえいえー!こちらの話でございますよ!それと、そちらの方がずっと私にだけ殺気を放っておりまして……少~しだけ緩めていただけるとありがたいのですが」

「……お蘭」

「はっ」

 

 久遠の言葉に応えて蘭丸が静かに目を閉じる。

 

「ふぅ、ようやく生き心地を味わえますなぁ。それはそうと公方様との謁見につきましては、しきたり通り、お側衆たちと協議中でございますれば、いましばらくお待ちいただければと」

「それは構わんが……しきたりしきたりと町雀のように五月蝿いものなのだな、幕府というやつは」

「はっはっはっ。しきたりが無ければ、人の行動を掣肘するのにも苦労するでしょう。作法とは人を制御するための使法であれば、幕府としては無視できませんからな」

「はっきり言いますね。……ですが同意しましょう」

 

 幽の言葉に詩乃が同意する。

 

「ほえー、そういうものなんですかねぇ……」

「ある一定の規定というものが無ければ、皆が皆、無軌道に動いてしまいますから。皆が一定の方向を見る、一定の行動を起こすためには、規定や決まり事というのは必要なものですよ、ひよ」

 

 蘭丸の説明に納得したようにうなずくひよ子。

 

「そう。それこそがまさに幕府という組織!……という訳で窮屈でございましょうが、礼儀作法に則った振る舞いをお願い出来ましたら」

「デアルカ。……」

 

 幽の言葉に目を閉じた久遠。周囲を再度見渡した幽がにやりと笑う。

 

「それにしても……皆様はなかなか面白い組み合わせでございますなぁ。織田殿は分かるとして、そのお連れが織田殿の奥方が一人、織田殿の溺愛する小姓が一人、野武士風が二人、田舎豪族の子息らしきお子様が一人。それに異人ときた」

「おこ!……むぅ」

 

 お子様と言われ何かを言おうとした詩乃が口をつむぐ。蘭丸がそっと頭を撫でる。

 

「恐ろしいほどに早い耳と遠くが見える目を持っていらっしゃるようですね」

「情報こそ弱小幕府を……ひいては公方様を守る最重要の要素ですから」

「それほど……それほど将軍様は今、無力なのですか」

「それはもう!日の本中の大名小名、それも格式確かな家柄から出来星まで、幕府のことなど眼中にもなく、至るところで喧嘩をおっぱじめてやがりますからなぁ。元々、足利幕府は初代の公方さまが、功ある豪族たちに大変気前よく領地を与えてしまったがため、いわゆる直轄地というものが大変少ない。治める土地が少ないということは実入りが少ない。実入りが少ないとなれば、持てる力も限られる。力が無ければ部下は勝手気ままに暴れてしまう。……それが応仁から始まる乱の本質でございますよ」

「そんな……」

 

 幽の言葉に絶句するエーリカ。だがそれを誰も否定できない。それが今の戦国の世だからだ。

 

「……エーリカ。将軍について、なぜそれほどまでに拘るのだ?」

「それは……」

 

 久遠の疑問にエーリカが答えようとしたそのとき、部屋に小姓らしき少年が入ってくる。

 

「お客様、お待たせ致しました。ただいまお側衆より許可が出ましたゆえ、主殿へと案内致します」

「それではそれがしが案内仕る」

「デアルカ」

「あ、主殿に行く前に。公方様へ御目見得できるのは三郎殿のみとさせて頂きます。その他の方々は、主殿の庭先にて平伏を。良いですか?決して公方様のお顔を拝んではいけませんよ?」

「小笠原か?」

「はっ。室内は小笠原。室外では伊勢。それが幕府の定めた礼法でございますゆえ」

「デアルカ。……ふむ。一つ、貴様に甘えたいのだが」

「……ほお?私に、でございますか。……例えばどのような?」

「この異人にも御目見得の資格が欲しい。やれ」

「は……こ、これはまた難儀を仰る」

「しかし貴様は我に貸しを作りたいのであろう?……良い機会をくれてやったのだがな?」

「ほほう。三郎殿もぬかしますなぁ。はっはっはっ」

「補足しましょう。この方の母は美濃・土岐源氏が末裔、明智の血を継ぐ方。そうご記憶頂ければ」

「明智の。ふむ……」

「お子様の証言では不服でございますか?」

 

 詩乃の言葉に幽が苦笑いを浮かべる。

 

「おや、これは手厳しい。……しかし何事も本質が分からねば判断のしようがないのも事実でございましょう?」

「然り。では根拠である我が名を明かしましょう。我が名は竹中半兵衛重治。美濃・不破郡を治める土豪でござれば、はるか昔、土岐のお屋形にも先祖が仕えておりました。ゆえに美濃の歴史に明るうございます。それに、ここにいらっしゃる織田殿の奥方とは縁のある血筋でもございます」

「ふむふむ。その美濃の豪族殿が、明智の末裔であると保証すると」

 

 頷く詩乃に一瞬思案した幽は頷き返す。

 

「分かり申した。では異人殿は三郎殿の従妹、という形で昇殿を許しましょう」

「従妹だと?」

「三郎殿の奥方と明智はまぁ薄いながらも血族の間柄。なればこそ、三郎殿の従妹とみても、まぁまぁ、大きな間違いは無い。……という建前があれば、何とかなるでしょう」

「ひぇぇ……なんて強引な……」

「絶対、この人と敵対したくないよね。……私たち、絶対に敵わないよ、こんな腹黒い人」

 

 ひよ子と転子が驚きながら囁き合う。

 

「腹黒いとは失礼な!……人よりほんのちょっとだけ、臓腑がねじれて収まっているだけではありませんか」

「あぅあぅ、ころちゃん助けてぇ~!」

「無理だから!」

 

 二人の視線が蘭丸に向く。

 

「幽さん、その程度でおやめください。私のかわいい部下が怖がっていますから」

「うわっ!ころちゃんかわいいって!」

「ひよ、そこに反応するんだ」

「久遠さま、それでは」

「うむ、構わん」

「そうですか。でしたら幽さん、それでよろしくお願いします」

「承った。……しかし、あなたはどう致します?蘭丸どの」

「私は庭で構いません。足利将軍に興味はありませんので」

「……ですが、先ほどまでの話の流れからすると貴方以外は御目見得される形となりそうですが。田楽狭間の天人殿を率いているとも聞いておりますれば」

「……久遠さまの傍にいては周囲の視線に対して殺気を放ってしまいそうですので。おとなしく平伏しておきます」

「……なるほど。面白いですなぁ。これはやはり、公方さまには会わせられない」

「会わせられない?身分の差があるから、ですか?」

「そういう意味ではありませんが……まぁ良いでしょう。では三郎どの。主殿に案内仕る」

「デアルカ」

 

 

 客室を出て、廊下を歩き……主殿と呼ばれる部屋の近くまで案内された。

 

「では長田殿、明智殿は室内へ。それ以外の方は庭にて平伏なされ」

 

 案内の小姓に庭の方へと通された蘭丸は、礼式に則りその場に座る。

 

「詩乃は礼式にも通じているようですが、どのくらいまで?」

「一通りの知識は入れております。……剣丞さまにですか?」

「えぇ。そういう機会がないともいえないですからね」

 

 詩乃と話をしながら待つ。

 

「……予測はしていましたが想像以上に待たされますね」

「久遠さま、心中お察しいたします」

「……本当に蘭丸さまは久遠さまのことが大事なのですね」

「この場でなければ帰ってしまっていてもおかしくないですね」

 

 

「足利参議従三位左近衛中将源朝臣義輝様、御出座ぁー!」

 

 先導の小姓らしき人物が名前を呼び上げると同時に、皆が一斉に頭を下げた。それに倣って蘭丸たちも平伏する。チラリと視界に映った人の顔を思い浮かべ違和感を覚える。

 

「下座に控えまするは、尾張国長田庄がご当主、長田上総介と申す者。幕府への献上品として、銅銭三千貫、鎧一領、刀剣三振り、絹百疋」

「殊勝なり」

「公方様よりのお褒めの言葉でござる。恐れ入り奉り、今後も謹んでご忠勤めされぃ」

 

 薄らと届いてきた声や御簾の奥へと歩く衣擦れの音。それを聞いた蘭丸はさらに違和感を強める。それとほとんど同時だった。

 

「忠勤?」

「これ、問答は指し許さず。平伏なされ」

「……阿呆らしい」

 

 久遠の言葉に場が凍りつく。同時に蘭丸からも強い殺気が放たれ周囲の兵たちが動く。

 

「お、長田殿!御前であるぞ!頭が高い!お控えなさい!」

「公方でもないものに頭を下げられるか」

「……っ!!」

 

 久遠の言葉に御簾の奥から息を呑むのが聞こえる。

 

「な、何を言うか!ここにおわすは正真正銘、足利将軍に他ならん!長田上総介、無礼千万であるぞ!」

「当代の公方は剣の達人という話を聞いていたが、御簾に入るときの足音などは、まるで手弱女のように弱弱しかったぞ。そんな者が公方であるはずがあるまい。……のぉ、そこの小姓よ」

 

 蘭丸の考えていたことを全て久遠が言う。しかも、蘭丸の殺気で唯一反応すら見せなかった人物に向かって久遠が声を掛ける。

 

「……ふっ」

「一度、そこな小姓と話がしたい」

 

 そういいながら立ち上がった久遠が小姓に近づこうとした途端。

 

「久遠さま、お止まりを!!」

 

 蘭丸の言葉よりも先に察知していたのだろう久遠が立ち止まるとすぐ傍を鉄砲の弾が通り過ぎる。

 

「……ふむ、お仲間がおるか。用心が行き届いているようで何よりだ」

「……気付くのが遅かったなら、貴様の頭に穴が開いていたであろうよ」

「それぐらいは用心しておる。……で?」

「良いだろう。なかなか面白き奴だ。話をしてやろう」

「偉そうな言い様だな。……小姓の分際で」

「白々しいことだ。貴様も同じであろうに」

「ふむ。……お互い様ということか」

「……藤孝、御簾をあげぃ!」

「は、し、しかし!」

「良い」

「御意」

 

 御簾の奥に座っていたのは今話していた小姓とどこか似てはいるが正反対の雰囲気を持った少女だった。

 

「お姉様……」

「双葉、代役大儀である。……後ほど呼ぶ。今は下がっていなさい」

「はい……」

「長田の。場所を変えるぞ。良いな?」

「デアルカ」




蘭丸は超耳がいいですね(ぉぃ

個人的に妹にしたいランキング一位の双葉ちゃんです。
え、二位?二位は薫ちゃんです。
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