戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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久々の三日連続更新ですね!


36話 想いを伝える術

 越前一乗谷、陥落。浅井が放った足軽五十名のうち、戻った三人の持ち帰った情報だ。周辺には鬼が満ち溢れ、さながら地獄と化しているとのことだった。そして、上級の鬼……鬼を指揮するだけの知能を持った鬼が出現した可能性があるのだ。

 

「お蘭。どう見る」

「……状況は恐らくあまりよろしくないかと」

 

 全ての情報を聞き終わり、久遠と蘭丸は二人で部屋に居た。

 

「鬼を操る黒幕……エーリカさんの仰ることを考えるとそういった者がいるのでしょう。その者は越前を鬼の拠点とし、そこから日の本を落とすつもりかと」

「ふむ。……我は今までの計画を変えるつもりはない。それについてはどう思う」

「久遠さまのお決めになられたことなら。……ということを抜きにしても、同意見です。確かに鬼を眞琴さまたちにお任せしなければなりませんが……長い目で見れば必要なことかと」

「……デアルカ」

 

 暫しの沈黙。

 

「……(それに、私と詩乃を襲ったあの闇……もしかすると、あれが鬼の……)」

 

 

 情報を手に入れてその日のうちに蘭丸たちは美濃へと出発していた。

 

「結菜さま、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ、ありがとう蘭ちゃん」

「……お蘭は結菜に甘すぎないか?」

「そ、そうですか?」

 

 少しジト目になった久遠が蘭丸に言う。その言葉に困ったような表情を浮かべる蘭丸。

 

「何よ、久遠ったら嫉妬してるの?」

「ち、ち、違う!」

「冗談よ。私が旅に慣れていないから心配してくれてるのよ。拗ねないの」

「……拗ねておらん」

 

 仲良く話す二人を見て少しだけ安心した表情を浮かべた蘭丸は詩乃に視線を向ける。

 

「詩乃も大丈夫ですか?」

「はい。これくらいであれば私もついていけます。……むしろ、私に合わせて頂いているようで恐縮なくらいです」

「ふふ、そんなことはないですよ」

 

 詩乃の馬に寄せた蘭丸が微笑む。

 

「また美濃に戻ったら色々と知恵を貸してもらうことになると思いますから、お願いしますね?」

「勿論です。私の才を振るえることこそ、最も望むことですから」

 

 

 評定の間。久々に帰って来た蘭丸たちは結菜を屋敷に届けた後、すぐに情報を伝えるべく来ていた。すでに重臣たちは集まっている状態だった。蘭丸は久遠につき従って入り、いつもの場所へと座る。その際に一瞬だけ、剣丞へと視線を向け驚いた表情を一瞬だけ浮かべた。

 

「……(剣丞さまの気が変わっている……?)」

「では軍議を始める」

 

 久遠の凛とした声に、広間に集められた武士たちは一斉に頭を下げる。

 

「皆も既に聞いておるだろう。昨今、我が領国を荒らす鬼の正体が判明した」

「不明な者が日の本に仇なすために創り出した、化生の者だ……と聞きましたが、さて……」

 

 久遠の言葉に代表して壬月が答える。

 

「事態は把握しているのですが、やはりしっくり来ないというか……腑に落ちない部分は否めません。一体、どういうことなのでしょう?」

 

 壬月に続いて麦穂が尋ねる。

 

「それについては、改めて……金柑!説明せい!」

 

 エーリカの説明を聞き沈黙する一同。

 

「そして先日、小谷より放っていた間者が持ち帰った情報がある。……お蘭」

「はっ」

 

 更に蘭丸の口から語られる話に重臣たちの表情は険しいものになる。

 

「難しい事態だな……」

「あの不明の鬼が、越前を落としたなんて……。越前が落とされたということを考えれば、時間的な猶予はそうないということですね」

 

 壬月と麦穂の言葉にエーリカが静かに頷く。

 

「だが、我の方針は変わらん。天下布武である!」

 

 堂々と言い放った久遠が立ち上げる。

 

「柴田勝家、丹羽長秀!」

「「はっ!」」

「織田家中、一丸となって上洛する!疾く、完璧に準備してみせぃ!」

「「御意!」」

「上洛の後、公方と合流。返す刀で越前の鬼を根切りにいたす!ともども、覚悟せぃ!」

「おっしゃー!久しぶりの大戦だぜ!」

「燃える!燃えるよ、真っ赤に燃えるぅ!」

「まぁがんばりましょー」

 

 久遠の言葉に三若が盛り上がる。

 

「うむ。それでこそ織田の母衣武者よ!三若の働き、期待しておる!」

「「「はい!」」」

「上洛には三河勢も呼ぶ。誰ぞ急使に立て」

「では、ころを送りましょう。三河の方々とは面識もありますし、適任かと」

 

 詩乃がそう言うと久遠は頷く。

 

「此度の戦は、織田・松平勢の総力を挙げ、疾く疾く中山道を駆け下り、六角、松永、三好を破り、公方とともに小谷で浅井と落ち合う流れとなる。全てにおいて疾きことを要求される、難しい戦となろうが、皆の奮戦を期待している!皆の者、戦支度に取りかかれぃ!」

「「「はっ!」」」

 

 久遠の言葉に応えた面々が、戦の準備に掛かるため、我先にと駆け出していく。

 

「第一歩、ですね」

「……」

 

 久遠に尋ねる蘭丸。久遠は無言で上段の間の天井を睨み付ける。

 

「……久遠さま、お一人で背負わないでください」

 

 そっと久遠に近寄った蘭丸が久遠の手を握る。

 

「久遠さまの不安も、恐怖も。私だけでなく、家中の皆が共に全力で支えます。不安も恐怖も、私たちが一緒に抱えます。ですから……」

「……」

 

 久遠と蘭丸の視線が絡み合う。少し潤んだ瞳には、いつもの覇気は無く、そこにいるのはまるで一人の少女。織田久遠信長という少女の、本当の姿なのだろう。零れ落ちる涙をそっと蘭丸は指で拭うと、そのまま久遠の頬に優しく手を添える。

 

「久遠さま、失礼致します」

 

 そう小さく口にすると、そっと久遠の唇を自らの唇で塞ぐ。一瞬のようで、数刻のような時間。二人の唇が離れた後にほぅ、と吐かれる吐息。

 

「お、お蘭……」

「私がずっと支えます。ですから……」

「……やられっぱなしは性に合わん」

 

 そう言って、久遠が蘭丸の頬を両手で包むようにして再び唇を合わせる。

 

「……遅いと思って見に来てみれば、何やってるのよ」

 

 声にはっとして唇を離した二人の前には呆れ顔の結菜が立っていた。

 

「ゆ、結菜さまっ!?あの、こ、これは……」

「軍議が終わったみたいなのに、いつまでたっても戻ってこないから、お味噌汁が冷めると思って呼びに来たら……二人して、私だけ除け者にするなんて、ずるいわよ?」

「ず!ずるいとか!ずるくないとか!」

 

 わたわたと動揺する二人に結菜が優しい微笑みを浮かべる。

 

「まぁまぁ。今更照れたって遅いわよ。……ほら」

「あ、あははっ……」

「えへへ、実は最初から居たりして……」

「むぅ……少し仲が良すぎではありますまいか」

「ら、蘭丸さま……」

「び、びっくりしたぁ。意外と大胆なんですね、蘭丸さまって」

「あはは……仲がいいのはいいことだよ、うん」

 

 蘭丸隊の面々も驚きに苦笑いや頬を染めていたりと態度はさまざまだ。

 

「な、な、な、な……っ!!」

「という訳で、実は久遠が蘭ちゃんに襲い掛かったところも、みんな見てたりして」

「~~~~っ!?」

「おー、顔が真っ赤。……まぁでも良いんじゃないの?夫婦なんだし」

 

 満面の笑みで言う結菜と対象的に顔をどんどん真っ赤にしていく久遠。

 

「こ、こ、このうつけどもがーーーーー!」

 

 そう捨て台詞をはいて久遠は部屋を飛び出していく。

 

「あーあ、逃げちゃった。……ふふっ、久遠ったら可愛いんだから」

「ゆ、結菜さま、あまり久遠さまを苛められては……」

「あら、でも蘭ちゃんも可愛い久遠を見れて嬉しかったでしょ?」

「……そ、それはっ!」

「動揺する蘭ちゃんも可愛いわね。でもずるいって言ったのも本音よ?」

「お、お戯れを……。こほん、それでは蘭丸隊の面々も居ることですし、私たちも戦の準備に取り掛かりましょうか」

 

 まだ顔が赤いが場の空気を変えるように蘭丸が言う。

 

「はいっ!って言っても、出陣はまだ先ですし、時間はありますからね」

「次の戦は長丁場になるでしょうから、時間を掛けてしっかり準備しないと」

「そうですね。基本的には剣丞さまにお任せしますね?」

「うん、任せて。俺も俺なりに勉強してることを実践するチャンスだと思うし」

「ちゃんす……好機のことでしたか?お願いしますね。……詩乃、どうしたのです?」

「詩乃ちゃんったら羨ましくてむくれてる?」

 

 ひよ子の言葉に詩乃が少し顔を背ける。

 

「むくれてはいません。……ただ、自分にもっと力があればと歯噛みしてるだけです」

「……お、怒ってます?」

「怒ってはいませんが、腹は立っていますね」

 

 珍しく蘭丸に対して冷たい対応をする詩乃に困った顔を浮かべる蘭丸。

 

「ふふっ、蘭ちゃんったら、大変ねぇ。……だけどね、詩乃。これから少し風向きが変わるかもしれないわよ?」

「……風向き?」

「まぁ、久遠も色々と考えてるみたいってこと。……さて、蘭ちゃんはうちに来て一緒にご飯食べましょ」

「は、はいっ!……新介、小平太も剣丞さまの補助ありがとうございます。また明日詳しい話は伺いに行きますね」

「は、はいっ!お待ちしてますっ!!」

「は~い!蘭丸さまもごゆっくり休んでくださいね~」

 

 

「ほう、それでは蘭丸は此処に来る予定なのか」

「うむ。余の元に久遠が来るのであれば、蘭丸も来るであろう」

「となると、下手に動かず此処に居るのが正解か」

 

 一葉の信綱は二人で刀の手入れをしながら話を続ける。

 

「余は結局蘭丸と刀を交えることはなかったのだが、どれ程の強さなのだ?」

「……難しい質問だな。一葉と比べれば単純な力ならば一葉のほうが上であろう。だが、総合的に見れば……」

「余よりも上、と?」

「私が知る蘭丸がしっかりと鍛錬を続けていれば、であるが。まぁ、あの子の性格ならば問題ないだろう」

「ほぅ……それは是非一度手合わせたいものだな」

「止めておいたほうがいいと思うがなぁ」

 

 笑いながら手入れの終わった刀を鞘に納める。

 

「時に一葉。腕に自信のある護衛などは必要ないか?」

 

 にやりと笑う信綱。言いたいことが理解できた一葉も同じように笑う。

 

「ほぅ。賃金はそこまで期待できぬぞ?」

「構わん。飯と寝床さえあれば後は何とでもなる」

 

 

「……それで、上泉どのを客将として置く、と?」

「うむ。余はそれでいいと思っているが異論はあるか?」

「……公方さまがお決めになられたのなら私が何を言っても聞きますまい。……ただ」

「三好と松永か?」

「えぇ。あの方々が何と言って来ることやら……」

 

 幕府の重鎮でもあり、一葉にとっては正直なところ目の上のたんこぶである者たちは、一葉が力を持つことをよしとしない。特に、一葉本人の力だけでなく信綱という力を持ってしまうというのは何としても避けようとするだろう。

 

「叩き切ってしまえばよかろうに」

「そうは行きませぬよ、上泉どの」

「政とは面倒なものだな。まぁ、良い。何か言って来るようであれば最悪近くの宿でも取るさ」

「……やれやれ。何とかしますので上泉どのは公方さまのお相手をお願いします」

「幽、余のことを馬鹿にしておらぬか?」




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