戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

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46話 蕩し御免状

 蘭丸たちの下へと鬼を殲滅に向かっているのは、勿論森一家だけではない。

 

「犬子ぉ!ボクの前を走るんじゃねーよ!」

「あははっ!和奏はずーっと私の尻尾を拝んでればいいんだよー♪」

「てめっ!鬼より先に成敗してやる!」

 

 きゃいきゃいといつものように騒ぎながら自分の部隊を進める和奏と犬子。

 

「はいはーい、喧嘩してる二人は放っておいて、滝川衆は左に回りこむよー」

「ああ!抜け駆けすんなよ雛ぁー!」

 

 そんな二人を尻目にするすると敵の側面へと回りこむ雛に和奏が文句を言う。

 

「犬子とじゃれてる和奏ちんが悪い。おっさきー」

「くっそ!おい、ボクの黒母衣衆!赤母衣ぶっ飛ばして鬼の奴らに先槍つけんぞ!」

「応っ!」

「むー!負けるな赤母衣衆ー!蘭ちゃんを確保するのは私らなんだからー!」

「応っ!」

 

 互いに対抗意識を燃やしながらも部隊の動きはうまく噛み合っているのは少し不思議である。

 

「「全隊、突撃ぃぃぃーーーっ!」」

 

 和奏と犬子の声が重なり、母衣衆が鬼の群れへと吶喊する。

 

 

「全く。あの馬鹿どもは、まだ一騎駆けの武者の真似事か」

「うふふ、元気が良くていいじゃありませんか」

 

 やれやれとため息をつきながら頭を振る壬月と、微笑みながらそれを見る麦穂。

 

 

「だが、限度がある。三若が暴走せんよう、手綱を頼むぞ」

「はい、承知しておりますよ」

 

 

「改めてすげぇ仲間たちだな……」

 

 突撃する織田の軍勢が虚を突いたとはいえ、無数の鬼を叩きのめしながら二条館に向かってくるのを見た剣丞が言う。

 

「ふふ、自慢の仲間ですからね」

「これで鬼と互角以上に戦えることを証明できた……ということでしょう」

 

 詩乃の言葉にうなずく蘭丸。

 

「戦況を見るに、ようやく切所まで来たということでしょうな。ですが……」

「もう一押し、だね」

 

 剣丞がうなる。これ以上の援軍がない以上……そう剣丞は考えた。

 

「あるぞ」

 

 そう言ったのは一葉だ。

 

「もう一度、余の御家流を使おう。……疲れておるからそこまでの威力は出んが、まぁ多少の助けにはなろう」

「……では、私も参ります」

 

 一葉の言葉に蘭丸はそう言うと、近くに居た足軽から槍を受け取る。

 

「ふふ、蘭丸が傍にいるのであれば心強いな」

「ははは、面白そうな状況じゃないか。織田も無事合流したようだな」

 

 悠々と現れ、いつのまにやら一葉と蘭丸の横に立っていた信綱がそう言う。

 

「信綱さま!」

「鬼を最後の一押しで殲滅するのだろう?私も手を貸そう」

 

 背に差していた巨大な太刀を抜き放つ。

 

「全く、こやつが絡んでは余の活躍が霞むではないか」

「ははは!安心しろ、一葉。蘭丸は取らんよ」

「あの、何の話を?」

「よい。今は目の前の鬼を屠るほうが先じゃ」

 

 ふわりと一葉の周囲に無数の刀が浮かび上がる。それに合わせるように蘭丸と信綱の身体からも闘気が迸る。

 

「滅せよ」

「新陰流」

「森家御家流」

 

 一瞬周囲から音が消える。

 

「三千世界!」

「転」

「森羅万勝!!」

 

 三人の技が重なり鬼の群れが一気に殲滅される。その一瞬の隙を見逃さないものがいた。

 

「今です!この機を逃すな!鉄砲組、撃って撃って撃ちまくれーっ!」

 

 官兵衛である。小さな隙すらも逃さず鉄砲隊を指揮したのである。

 

「……あのぉ、官兵衛さん。一応、采配は私に任せられているのですが……」

「……あああっ!!す、すみませんすみませんすみませんすみません!あまりの好機だったもので、つい出過ぎた真似をしてしまいました……!」

 

 詩乃からの指摘に動揺してぺこぺこと頭を下げる官兵衛。

 

「はぁ、まぁ構わないですが。……ふむ、それでは采配はあなたにとって頂きましょう。……よろしいですか?」

 

 そこまで言って確認するように蘭丸と剣丞を見る詩乃。

 

「ええ、構いませんよ。お願いできますか、官兵衛どの」

「は、はいっ!有り難き幸せ!」

 

 詩乃から采配を受け取った官兵衛はすぐさま戦場を見つめると。

 

「敵左翼に怯みが見える。長柄組、穂先を並べて突き崩しなさい!」

 

「は、はい!」

「弓組は左翼より中央に向かって矢を放て!長柄の攻撃を援護するのです!」

「はっ!」

「鉄砲組は中央右翼を中心に、とにかく撃って撃って撃ちまくりなさい!」

「応っ!」

 

 官兵衛の指揮を見て詩乃は驚きと感心の混ざった表情で口を開く。

 

「ほお……これはこれは。素晴らしい采配です。さすが名高き黒田官兵衛どの」

「うむ。なかなか良い武者振りであるな」

 

 詩乃の言葉に続いて一葉も褒める。

 

「一葉さま、大丈夫ですか?」

 

 心配そうにそう一葉に訊ねる蘭丸。

 

「少し疲れたが特に問題はない。余は健やかであるぞ」

「そうですか。良かったです……」

「ふふっ、人に心配されるというのは、とても気持ちの良いものなのだな」

「幾らでも心配はします。……ですが、心配しているのは私だけではないのですからそれをお忘れなきように」

 

 その後、三若が合流し再び鬼へと攻勢をかける。そして。

 

「ハニーっ!」

「蘭丸さーん!」

「何とか間に合いましたか……っ!」

 

 各方面で防衛していた梅、転子、エーリカの三人も合流する。

 

「ころ、梅、エーリカさんも。ご無事でなによりです」

「柴田衆と連携して、ようやく鬼どもを一掃できましたわ。次はこちらの鬼を一掃ですわよ、ハニー!」

「あの、ハニーというのはちょっと……」

「蘭丸隊集合!混乱してる鬼に横槍を入れるから、気合入れていくよー!」

 

 転子の声に力強くこたえる蘭丸隊の面々。最後の攻勢がはじまり、日が昇り始める頃。

 

 二条館周辺の鬼は全て駆逐されることになった。

 

 

 怪我をしている者も、隠れていた者も、皆が庭へと集まってくる。その中で蘭丸は最も会いたかった相手をすぐに見つけた。

 

「久遠さまっ!!」

 

 駆け寄ってきた蘭丸を抱きしめる久遠。

 

「お蘭!怪我はないか?五体は満足か?」

「は、はいっ!蘭は無事です。皆が共に戦ってくれましたから」

「そうか……良かった……本当に良かった……!」

 

 少し涙の混じった声で安堵の吐息を漏らす久遠に同じように瞳を潤ませる蘭丸。

 

「久遠さま……お早く助けにきて頂き、本当にありがとうございます」

「当たり前だ!我のお蘭だぞ……!」

「……正室殿よ。少しは時と場所を考えてくれんと、どうしていいのか反応に困るぞよ」

 

 そんな二人にあきれたように、水を差すように一葉が言う。

 

「う、うるさいぞ、一葉……」

「くくっ、涙混じりに言われても、照れ隠しとしか思えんわ。なかなか乙女じゃの、久遠」

「くっ、好き勝手言いよって!」

 

 そう言いながらも蘭丸を解放することはないが、先ほどまでとは少し違う意味で頬を染めている久遠。

 

「仲が良いのは結構なことであるが、蘭丸。これからは正室殿だけに愛を注ぐ訳にはいかんぞ?」

 

 一葉の言葉に、戦いの前の宣誓を思い出す。

 

「久遠さま、そのことなのですが一体どういうことなのでしょう?」

「……うむ」

 

 抱きしめていた手を解くと、しばしの沈黙の後に仲間たちのほうを向く。

 

「……皆にひとつ、伝えておきたいことがある」

 

 勝利を祝う為に集まってきた仲間たち全員を前に、久遠がゆっくりと口を開いた。

 

「此度、鬼と化した三好衆の叛乱を無事に鎮圧できたのは、ひとえに皆の力があったればこそだ。しかしこの先、鬼との戦いが続いていく中で我の力も、皆の力も及ばない事態がきっとあるだろう」

 

 久遠の言葉に周囲は静まり返る。

 

「だが今、この日の本には鬼という異形の者について詳しく知る者は少ない。比較的多くの情報を握っているのは、織田・浅井・松平の者だけなのだ。これは非常に危険なことだと我は考えている。なぜなら鬼を良く識る我らが負ければ、この日の本は鬼との戦いに大きく後れを取ることになるからだ」

 

 現状の危険性。それは鬼と実際に戦ったこの場にいる者たちだからこそ身にしみて分かることだろう。

 

「だから我は考えた。……そして決めたのだ」

 

 自分の言葉が周囲に浸透するのを待つように、久遠は言葉を止めて呼吸を入れた。そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「我が夫となる森蘭丸成利を、我の夫というだけでなく、公方の夫として……この日の本にいる鬼との戦いを決意した者たち全ての良人とすることを、我はここに宣言する!」

「織田上総介の宣言は、幕府よりの御内書を受けたものであり、禁裏に上奏奉り畏れ多くも主上より勅書を押し頂いておる。そして余がその第一号であり、第二号が、余の妹である左馬頭義秋である」

 

 唖然とした周囲の空気。そして、誰よりも驚いているのは蘭丸であった。

 

 

「……お蘭」

 

 久遠と一葉の宣言の後、恐る恐るといった様子で久遠が蘭丸へと声をかける。

 

「あ、久遠さま……」

「お蘭……相談もなく、このようなことを決めてしまったこと。許してほしい」

「……元は……剣丞さまの役目、だったのでは?」

「……」

 

 蘭丸が感じた違和感。蘭丸という存在を中心に天下を纏めようとすること……それを成すには本来、蘭丸自身には魅力が足りないように感じたのだ。

 対して剣丞は天人。天の血を家中に入れるというのであれば、それは施政者にとっては魅力に繋がるだろう。

 

「確かに、剣丞を家中に入れた際に一度は考えた。実際に葵や武田、長尾に送った文には天人と関わりを持ちたいのであれば、蘭丸とも仲良くしておいたほうがいいぞ、といった内容も含まれていたのだ。……実際には、全ての勢力が興味を持ったのはお蘭。お前だ」

 

 じっと、真剣な目で蘭丸を見つめる久遠。

 

「……久遠さま。一つだけ、お答えください。私の目を見て、貴女の想いを……」

「……想いを……」

「久遠さまの覇道にとって、これは必要なもので……そして、その覇道に私も必要であると」

 

 若干の不安が篭った瞳。それを見た久遠が力強い意志をこめた目で見つめ返す。

 

「お蘭。我はお前を愛している。だから我を愛せ。……そして、全ての女を愛してやれ。それこそが、我が覇道に必要なものである」

 

 久遠の言葉を受けてふっと微笑む蘭丸。

 

「……久遠さまの想い、しかと受け取りました。私はこれまでと変わらず私の全てを賭けて久遠さまを。そして……皆を愛していきます」

「……お蘭」

 

 久遠の手が蘭丸の頭をなでる。

 

「……ですが、私にとっての一番は久遠さまです。それだけは譲れません」

「ふふ、愛い奴だ」

「久遠さまを私はずっと支え続けます。そして、私の傍に居てくれる大切な人たちを支えていきます」

「我も誓おう。お蘭のことを支えていくと。お蘭のことを、受け止めると。……しかし、我が考えたこととはいえ、家中だけでもどれだけの者が立候補するか……悩みどころではあるな」

「えっ?家中でそれほどいるとは考えられないですが……」

「……お蘭。特に自分の部隊の者たちのことはもっと考えてやれ」

「はっはっはっ!日の本開闢以来、蕩し御免状を貰ったのはお蘭一人だろうな。流石はワシの娘といったところか」

「いいんじゃねえか?オレの妹だしな!」

「母さま……姉さま……」

 

 

「ころちゃん!もしかしてこれって!」

「う、うん!」

「……ふむ、我らにとっても好機ということですね」

 

 ひよ子と転子の言葉に詩乃が答える。

 

「だってさ、新介。やったじゃん!」

「小平太……。アンタだって蘭丸さまのこと好きでしょ?」

「うーん。正直ボク、まだそういうのってよくわかんないし。でも、新介を応援したいって気持ちはあるからさ」

 

 小平太の言葉に新介が感動したように言葉に詰まる。

 

「……うん、でもきっとアンタも蘭丸さまのことを好きなはずよ。自分の気持ちがはっきりしたらちゃんと言いなさいよ?私だって少しは手伝ってあげたいって思ってるんだから」

「ありがと。……へへ、やっぱり新介は優しいな」

「そ、そんなことないわよ!」

 

 

 各地に伝えられた久遠と一葉の宣言。これが、この先に与えてく影響は今はまだわからない。

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