戦国†恋姫~織田の美丈夫~   作:玄猫

6 / 58
6話 剣丞の案と美濃の麒麟児

「私と剣丞さま、ひよの三人で蜂須賀どのにお会いしてきます。その間にお二人にはお願いしたいことが……」

 

 

「おぉ~い、新介ぇ。ちょっと休憩しようぜ」

「駄目よ!蘭丸さまからの密命をまだ終わらせてないでしょ!」

「でもさ、まだ期間はあるわけだし……」

「相手は美濃の麒麟児よ。どれだけの時間がかかるか分からない以上、少しでも早く動かないと駄目でしょ!?」

 

 新介が蘭丸から密命を帯びてからずっとこれだ。相棒でもある小平太が疲れ気味なのも仕方ないだろう。

 

「でもさ、蘭丸さまも無理するなーって言ってたじゃん。急いてはことを仕損じるっていうし」

「う……で、でも」

「大丈夫だって!ちゃんとボクが新介は頑張ってたって言ったげるから」

「べ、別にそんなことの為にやるわけじゃないわよ?!でも言ってくれるっていうのなら……」

 

 分かりやす……と苦笑いを浮かべながらも小平太は地面にへたり込むように木陰に座り込む。ここまで強行軍で来た為、かなり疲れた。体力には自信がある小平太ではあったが。

 

「疲れたぁ~」

「はぁ……ほら」

 

 そういって新介は自分の水筒を差し出す。

 

「お、ありがと。……ぷはぁ!生き返る~!」

「全く。……それで、再確認だけど私たちの任務は」

「美濃の麒麟児……竹中半兵衛重治の人となりを確認、場合によっては織田に引き込めないか、と。それと、斉藤家での立場の確認と敵対しそうな相手の確認……だったっけ」

 

 小平太が特に迷うことなく言ったことに新介は少し驚く。

 

「へぇ、ちゃんと覚えてるじゃない」

「当たり前だろ!……それよりも新介、どうやって接触するか決めてるの?」

「……この書状をお渡しするようにと蘭丸さまから伺っているわ」

 

 新介が差し出した書状が宛てられた相手が想像していた以上に大物で驚きの声をあげる。

 

「ふ、不破光治って……西美濃四人衆の!?」

 

 斉藤家を支える忠臣でもある安藤、稲葉、氏家の美濃三人衆に加え、今名前のあがった不破を含めて小平太が言った西美濃四人衆とも呼ばれる人物である。

 

「先代で殿様のことを高く評価していた斉藤道三、それよりも以前の土岐氏の代から美濃を支えてきた方と聞いているわ」

「へぇ~。……でも何でそんな人が殿様、蘭丸さまと内通みたいなことを?」

「さぁ?でも、先代の時代に殿様と関係があったんじゃない?」

 

 まぁ、予想したところであまり意味はないか~と、小平太は欠伸をしながら考える。

 

「さ、十分休んだでしょ。そろそろ行くわよ」

「うぇ!?もうちょっと……」

「小平太のもうちょっとは長いのよ!さ、行くわよ!」

 

 無理やりに腕を引っ張られ立たされる小平太。このままの勢いで一気に美濃の……斉藤の家中へと突撃してしまうのだろうかと不安になるほどの力強さ。

 普段なら逆なんだけどなぁ、と小平太は考えながら新介に引きずられていくのであった。

 

 

 場所は変わって転子の家の中。お茶を出してもらいながら会話を続けていた。

 

「清洲織田の殿様が、墨俣の地に城を築こうとしているという噂は耳にしておりました」

 

 ことり、と蘭丸、剣丞、ひよ子の順にお茶を置いていく。最後に自分の分も注ぎ終わると腰を下ろす。

 

「それに先日、家老である佐久間様の部隊が、築城に失敗して敗走を余儀なくされた、との情報も」

「ふわー。さすが野武士の棟梁だね、ころちゃん」

 

 感心したようにひよ子が驚く。

 

「ふふ、ひよ。野武士にとって情報というのはそれだけの価値があるということです。どちらにつくべきか、どちらのほうが褒美の羽振りがよさそうか。自分たちの命に直結するものですからね」

「はい、蘭丸さまの仰るとおりです。それで、剣丞さま。私たち野武士の力が必要ということですが……美濃衆と戦でもされるのですか?」

「戦をするつもりはないよ。勿論、襲ってくるだろうから少しは戦いになるだろうけど……」

 

 ちらとひよ子に目配せする剣丞。ひよ子は頷くと、久遠から預かっていた地図を取り出す。

 

「今回はまず、築城をする場所をこの川の中州の部分にしようと思う。つまりはこの作戦の肝になるのは」

「長良川、ですね」

 

 地図を見て転子が頤に手を当てながら言う。

 

「そう。佐久間さんの失敗について、色々と事情を聞いたところ、築城の下準備中に美濃勢に襲い掛かられて……って流れらしいんだ」

 

 それは蘭丸も聞いており、頷く。勿論、襲われる可能性を考えて準備はしていただろうが、土地の勢力としてはどちらかというと斉藤よりの土地であるだけに相手のほうが強い。更には築城にも多くの人員が割かれてしまう以上はじめから分かっていた結果といえばそうだった。

 

「だから俺は、こういう手を考えてるんだ」

 

 

「先に築城の準備を終えた状態にしておき、長良川を一気に下り中州部分で防御用の柵などで陣地を作って堀を掘って応戦準備を整える、ですか」

 

 蘭丸と転子が同時に考える。恐らくは作戦自体が可能かどうか、そして成功する確率などを瞬時に考えているのだろう。

 

「なるほど!剣丞さま凄いです!!」

 

 ひよ子は手放しに褒めているが、それだけに危険も伴う。作戦の決行が天候にされてしまうことや、堀を掘る速度がどれだけ手早く終わらせることが出来るかなど……。だが、奇襲という点で考えれば悪い手ではないだろう。

 

「……うん。こんな築城の仕方、初めて見るけど、これだったら何とかなるかも……」

「……そうですね。私もころと同意見です。剣丞さま、お見それしました」

「蘭ちゃんも賛成みたいでよかった。それで協力してくれるかな?」

「準備と報酬、その両方で結構な銭が必要になりますが、その辺りは?」

「大丈夫。基本的には言い値を飲む……でいいよね?」

 

 自分で決定してしまいそうになったことに気付いて剣丞が蘭丸に問う。

 

「はい、構いませんよ。ですが、少しはおまけしてくださると助かります」

「あはは、分かりました。でも仕事の危険度から考えればある程度、値が張ってしまうのは仕方ありません。そこはご理解ください」

「勿論です。……それに、今回は私も出ますので。それで、人の手配などを考えると……七日ほどでしょうか?」

 

 蘭丸の言葉に転子は頷く。

 

「そう、ですね。そのくらいあれば渡りもつけられます。でも凄いですね、蘭丸さまって野武士の行動もお詳しいようで」

「ふふ、久遠さまのお傍に仕えるにはそれくらいの教養はなければなりませんからね。ひよ、私たちは資材の準備ということになりますが」

「はい!資材も七日もあれば十分です!じゃあ七日後に決行、ですか?」

「いや、流石にそれは無謀だよ。あとは組み立てるだけって状態まで加工しておかないと。それに動き方の訓練なんかもしておいたほうがいいよね?」

「そうですね。今回は剣丞さまの案を中心に動きますので、剣丞さまに指揮をとっていただきましょう。決行はいつにしますか?」

「……二週間。上流に資材を運んで隠したり、っていうことも考えないとだからね。それにそれ以上かかると嗅ぎ付けられる危険が出てくるし」

 

 剣丞の言葉に満足そうに頷く蘭丸。

 

「お見事な判断です。……それではひよ、ころ。どれほどの金子が必要になるか、分かり次第私に教えてください。久遠さまにお願いするところと私の私財から出すところで分けますので」

「えぇっ!?蘭丸さんが御自身で出されるんですか!?」

「何かおかしいですか?久遠さまから全額頂くわけにもいかないでしょう?」

 

 何がおかしいのか分からないといった様子の蘭丸ではあるが、部隊としての給金や土地を貰っていない時点で自腹を切るというのはなかなか出来る判断ではない。

 

「そういえば、ころはどれくらいの野武士を動かせるんです?」

「そうですね……この一帯から全て集めて二千ほどかと」

「二千!?ころって凄いんだな」

「えへへ~。自慢の幼なじみです!」

「ちょっとひよ!恥ずかしいよ!」

「とはいえ二千人ですか。ぱっと計算するのは難しそうですね」

 

 蘭丸が頤に手を当て考えている隣でひよ子が指折り何かを数えている。

 

「どうしました、ひよ?」

「あ、この作戦に掛かる費用の計算をしてたんです!私、計算だけは得意ですから!」

「なら、部隊の資金運用や今回の作戦の費用計算などはひよにお任せしていいですか?」

「はいっ!お任せください!」

「それでは、私は先に失礼させていただきますね。ころ、お茶おいしかったです」

 

 ニコリと微笑み席を立つ蘭丸。

 

「あ、お送りします!」

「大丈夫です。それよりも久々にひよと会ったのでしょう?日数にも若干の余裕を持たせてくださっているようですし、今日くらいはゆっくりとしてください」

 

 そう言って転子の手をとる。

 

「それでは、ひよのことと剣丞さまのことはお願いしますね?」

「あ、は、はい!」

 

 ぽーっと蘭丸を見送る転子。はっと気がつくと手に小さな袋が。

 

「これって……こ、小粒金!?」

 

 

「お断りします。お帰りください」

 

 素気無く追い返されるのは新介と小平太。

 

「……なぁ新介」

「言わないで」

「これ、無理じゃね?」

「言わないでっていってるでしょ」

 

 斉藤家に仕える不破に渡りをつけ、流れの客将として潜入したところまではよかったのだが。

 

「あれが美濃の麒麟児ねぇ。なんか変な奴だなーってくらいしかボクには感じな印だけど」

「まさか勧誘どころか、話すら出来ないのは予想外ね」

 

 そう、家中で見かけた麒麟児・竹中半兵衛には事実上接触すら出来ていないような状態だった。

 

「不破どのの仰っていたことがよく分かったわ。……あれは変わり者よ」

「いや、それは見れば分かるって」

 

 分かりきったことを……と小平太は思ったが、正直新介の意見には同意である。

 

「それに、斉藤家中での評判も立場も分かったわね」

「そうだなぁ。……まさか織田を何度も追い返していたのがあんな小娘だとは思わなかったな」

「私たちとそんなに変わらないでしょ。小娘って」

 

 呆れたように新介が言う。

 

「まぁそうだけどな。……織田を追い返しているのは斉藤の強兵だーって本気で思ってるみたいだしなぁ。正直、あいつ以外にそこまで凄い奴いないよな?」

「どうかしらね。でも蘭丸さまや柴田さまなんかに勝てそうな人材はいない……かな?」

 

 明らかに怪しい二人に対しても兵たちは何も言わない。むしろ興味がなさそうだ。ただ一つ厄介そうなのが。

 

「……あれだな。なんだっけあの……」

「斉藤飛騨?」

「そう!あいつだけは気をつけないと……絡まれたらバレそう」

 

 斉藤飛騨。家中での評価、最悪。人間性、最悪。それが龍興の威を借って威張り散らしているのだから性質が悪い。

 

「そうね。……下手に使われても面倒だし、それに不破どのに迷惑が掛かるのも避けたいしね」

「だなー。……やばっ!新介、隠れて!!」

 

 避けようとしても勝手にやってくるのが厄介ごと。歩く厄介ごと扱いされているのは勿論斉藤飛騨。今日も我が物顔で城内を歩いていた。

 

「……行った?」

「みたいだな。ふ~……って、何でボクたちが隠れるんだ」

「あんたが隠れろって言ったんでしょ!……まぁ、正しい対応だと思うけど」

「……斬っていいなら楽なんだけどなぁ」

「あんたじゃ無理でしょ。ああいう手合いは基本的にしぶといのよ。それよりも!」

 

 半兵衛の屋敷は確か城下にもあったはず。

 

「次は屋敷に行って見ましょうか。もしかしたら此処だと他の目があるからかもしれないし」

「無駄だと思うけどなぁ……」

 

 二人はそんな話をしながら城下へと立ち去っていった。

 

 

「……やれやれ、やっと行きましたか」

 

 読んでいた本をパタンと閉じ軽くため息をつくのは竹中半兵衛。通称を詩乃と言う彼女こそ、美濃の麒麟児である。

 

「しかし、どうして織田方の者が城内に……?いや、恐らくはそれすらも気付かないほどに斉藤家も落ちたということですか。……しかしその割にはあの二人から害意は感じない……また機会があるようなら少し話をする程度なら良いかも知れませんね」

 

 一人呟きながら考え込む詩乃。

 

 

 新介と小平太が彼女と言葉を交わす日はそう遠くない。




原作とはところどころ違いが出始めますのでお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。