ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第7話 祝賀会

 クィディッチのゴールは小さい。

 クアッフルがちょうど通れるくらいの大きさしかないのだ。

 その為あまり角度をつけすぎると、クアッフルをゴールに入れる事が出来なくなってしまう。故にチェイサーはシュートする時、ほぼ真正面からシュートしなければならない。

 このままでは、キーパーがゴールの前に立っているだけで、必ずセーブ出来てしまう。

 そこで三つ、ゴールが用意されているのだ。

 必然的に、どのゴールを狙ってくるのか、どのゴールを守ってくるのか。それを読み合うのが、キーパーとチェイサーの駆け引きになる。

 

 キーパーは相手の視線や仕草から思考を探り、狙うゴールを割り当てる。

 チェイサーは逆に、己の狙いを悟らせない様、全力を尽くす。

 要は騙し合いだ。

 しかし、しかしもしも、騙し合いの場で相手の思考が読めたとしたら?

 それは即ち、最高のキーパーではないだろうか。

 

「ショーン。右をお守りください」

「了解っと」

 

 ショーンから見ると、相手のチェイサーは左を狙っている様だったが、少しの疑いも挟まず、右を守る。数秒後には、ショーンの手にクアッフルが収まっていた。

 

 いや、最初は真面目に頑張っていたのだ。

 ゴドリックから学んだ「相手の目線の見方」だとか、

 サラザールから学んだ「相手の思考の読み方」だとか、

 ロウェナから学んだ「戦術」だとかを駆使して、真面目に頑張っていた。

 しかし……それももう限界だった。

 相手のチェイサーが乗っているファイア・ボルトが速すぎるのだ。とてもじゃないが、マトモに相手をしていられない。そこで思いついたのが、コレ。

 ヘルガに相手の思考を読んでもらって、それ通りに守る。

 卑怯だとは思う。

 相手がプロを目指してずっと練習して来た相手で、その上国際試合にも使われている様な箒に乗っているとしても、偉大なる創設者の力を借りる事は、卑怯に他ならない。

 そう頭では分かっている。分かっているのだが……。

 

 ――勝ちたい。

 どうしても、勝ちたい。

 

 勝ちたいという気持ちが、後から後から溢れてくる。

 二つ返事で協力してくれたセドリックが、頑張ってくれている。

 いつも余裕たっぷりなチョウが、汗を流して必死にクラムに食らいついている。

 いつもジョークばかり言うフレッドとジョージが、懸命に戦っている。

 悪友のジニーも必死だし、アンジェリーナはもちろん、宿敵スリザリンのモンタギューでさえ勝利の為に最高の力を振り絞っている。

 そして、ハリーも……。

 

 盛り上がればいい。

 もしかしたら、勝てるかもしれない。

 

 そんな気持ちは、とうに消えていた。

 勝ちたい。

 今はただ、その一心のみ。

 卑怯だとかなんだとか、そんな事はどうでもいい。使えるモノは使う。それだけだ。

 

 ハリーの為に始めたこの試合。

 最初はどうかと思ったが……やって良かった。

 ショーンはふと、ハリーの方を見た。

 

「……ありがとう、ショーン」

「えっ?」

 

 何故かハリーもショーンの方を見ており、更には礼まで言っていた。

 意味不明だ。

 と思った瞬間、ハリーがこっちに向かって突撃して来た。

 意味不明だ。

 と思った瞬間、クラムがこっちに向かって突撃して来た。

 意味不明だ。

 

「スニッチ! 下、下!」

「ショーン、早く行け!」

 

 ゴドリックとサラザールの言葉を聞いて、慌てて下を見る。

 そこには、キラキラと光るスニッチがあった。

 ついにウチのシーカーは、スニッチを見つけたのだ!

 勝った! オールスター戦完!

 ……とはならなかった。目の前で、ハリーがクラムに追い抜かれたのだ。

 

 負け……このままでは、負けてしまう。

 次の瞬間、体が勝手に動いていた。

 箒から飛び降り、スニッチの元へ。

 そして落ちて来た箒を掴み、握り締める。

 

 “カコーン”。

 クリーンヒットした感覚が、手を伝わった。

 スニッチは吸い込まれるように、ハリーの口の中へと入っていった。

 勝った、今度こそ勝った!

 

「キーパーがゴールから離れてどうすんのよ、このバカァ! 点取られ放題じゃない!」

「……あ」

 

 気がついた時にはもう遅い。

 スコアボードには、150対160と表示されていた。

 

「し、しまったぁぁぁああああ!!!」

「おいバカ、ショーン! 箒から手を離すな!」

「落ちてます、貴方落ちてますよ!」

 

 ショーンはつい野球の時の癖で、バットがわりに使った箒を、ほっぽり投げていた。

 箒も慌ててこっちに戻って来ているが、もう遅い。あの箒は、打つのは抜群だが、速度には難ありだ。

 死にはしないだろうが……両足骨折。最悪、腰までやるかもな。

 ショーンが覚悟を決めたその時――

 

「おっと。ダイジョーブですか?」

 

 こっちに猛突進していたクラムが、ショーンを空中でキャッチした。

 

「貴方は、とても勇敢でした。ヴァレヴァレは、勇敢な者には、敬意を払います」

 

 そう言って、いつも無表情なクラムは、ニッコリ笑った。

 ショーンも笑った。

 そして地上では、鬼の形相をしたジニーが待っていた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 必要の部屋に、オールスター戦に出場した選手達と、その親しい友人が集まっていた。

 所謂、祝賀会というやつである。

 

「みんな、グラスは持った?」

「いえー!」

「声が小さい! お前ら、グラスは持ったかァ!?」

「いえーーー!!!」

「それじゃあ乾杯! 今日は私のおごり! 飲め飲め!」

 

 チョウの音頭で、みんながグラスをぶつけ合った。

 

 必要の部屋は、グラスや机は用意出来ても、飲み物や食べ物は用意出来ない。

 そこで『漏れ鍋』でバイトをしているチョウに頼んで、様々な飲み物を用意してもらったのだ。バタービール、ワイン、ウィスキー、蜂蜜酒、ポリジュース薬、シャンパン、なんでも揃ってる。

 では、食べ物はというと……。

 

「オムレツちょうだい。チーズとベーコンと、マッシュルームのやつね」

「はいただいま!」

 

 ジニーの注文通りに、オムレツを作る。

 料理の方は、ハグリッドから分けてもらった素材で、ショーンが作っていた。

 今回の試合、MVPがクラムなら、逆MVPはショーンだ。そこでショーンがコックをする事になったのである。ケータリングしても良かったのだが、金銭面と、時間の都合でそれは却下された。

 代わりといっては何だが、ショーンだけ参加費ゼロになっている。

 

「私ステーキ。ミディアムね」

「はいただいま!」

「パスタちょうだい。ペペロンチーノがいいな」

「はいただいま!」

「ピザまだ?」

「はいただいま!」

「僕は――」

「コリン、てめえは自分で作れ。それか靴でも食ってろ」

「!?」

 

 必要の部屋がドデカイキッチンを出してくれたが、それでも手は二つしかない。魔法で作れればいいのだが、残念ながら、それはまだショーンには出来なかった。

 

「ショーン、魚が! 魚が歩いて逃げてます!」

「不味いぞ、ショーン! 塩が後二分で爆破する!」

「伏せろ! カブがツルを伸ばしてきた!」

「うーん……そうですね、もうひとアクセント加えましょうか。オリーブはどこです?」

 

 上からロウェナ、サラザール、ゴドリック、ヘルガ。

 幽霊達がアドバイスしてくれていたが、それでもなお忙しい。

 ふと向こうの方を見ると、ハリーとロナルドさんが肩を組んで踊っていた。どうやらいつの間にか、仲直り出来ていたようだ。

 違う方を見れば、クラムとハーマイオニーが楽しそうに話し込んでいる。

 ……みんな楽しそうだ。いかん、涙が……。

 

「ショーン」

「お、ルーナ。どうした、混ざらなくていいのか?」

「うん。そんな事より――」

 

 まさか、手伝ってくれるのだろうか。

 ショーンは淡い期待を描いた。

 

「そろそろデザートが食べたいなって」

「うん、お前はそういう奴だよな。分かってた」

 

 淡い期待は、本当に淡かった。

 

「ティラミスとかケーキは無理だぞ、時間がかかるから。作れるのはデザートピザか、クレープくらいだな」

「デザートピザがいいな」

「オッケー」

 

 ピザ生地を広げて、その上にバターを塗り、クリームチーズとブルーベリーを山ほど乗せて、砂糖を振りかけてから、竃に入れる。これで五分ほど焼けば完成だ。

 

「ショーンは、何か食べたの?」

「……そういえば、まだ何も食べてないな。この会が終わったら、後片付けでもしながら、ゆっくり食べるよ」

 

 今は少なくとも、何かを食べている余裕はなかった。

 両手とも、大忙しだ。

 

 ルーナはデザートピザを持って、ジニー達が座っているテーブルに向かった。するとあっという間に食べ終わってしまったようで、更に二つ、追加オーダーが入った。

 さらに忙しくなる中、一人の意外な人物が、手伝いに来てくれた。

 

「……あの、何か手伝いましょうか?」

「クラムさん……いや、ビッキー!」

「その呼び方はやめてください」

「はい」

 

 そう――何を隠そう――本日の主役ビクトール・クラムその人である。

 ただ、クラムは恐ろしく不器用だった。パスタを茹でるという、失敗しようがない作業でさえ、とてつもない大失敗をした。彼はまさに『炎の雷』。それは厨房でも変わらない。そして厨房に火はともかく、雷も炎もいらなかった。

 

「クラム、今ハッキリした。君の戦場はキッチンではなく、クィディッチのコートだ」

「はい。ごめんなさい……」

 

 クラムは巨大な体を小さく丸めて、トボトボ歩いて行った。申し訳ない気持ちはあるが、それをフォロー出来るほどの余裕は、今はなかった。

 代わり番こで、今度はハーマイオニーが来た。

 

「ご注文は?」

「そうね……時間かしら」

「オーケー」

 

 時間、時間ね。

 難しいオーダーだ。とりあえず時計の形をしたオムレツを作ってみるか。

 

「多分、貴方はとてつもない勘違いをしてるわ」

「何だ、卵は苦手か?」

「そうじゃなくて! ちょっとお話ししましょう、って意味で言ったのよ」

「ああ、そういう事か。じゃあちょっと待っててくれ。このパスタとピザとグラタンを仕上げれば、とりあえず今来てるオーダーは捌けるから。ああ――揚げ物もあったか」

「……はぁ。もういいわよ。ちょっと詰めて。私も手伝うから」

「いや、いや。気を遣わなくていいって。これはこれで結構楽しいから」

「でも……」

「分かった。じゃあ少しウェイトレスをやって貰おうか。ホラ、これを向こうのテーブルに持って行ってくれ」

 

 ハーマイオニーに料理を押し付けて、クラムがいるテーブルに送り返した。彼女はちょっと不満げだったが、結局向こうに行った。

 

「いいんですか、ショーン」

「ロウェナ、お前は何も分かってないな。ハーマイオニーに口を開かせたら、次の言葉はこうだ。屋敷しもべ妖精って不当な扱いを受けてると思わない? 今の貴方なら、それが良く分かると思うの」

「貴方がそう言うのでしたら、私は何も言いませんが……」

 

 そう言いつつも、本心はもちろん違う。

 ハーマイオニーと話すよりも、今は少し一人になりたかった。もっと言えば、料理を作る事に没頭していたかった。

 今回の試合の敗因は、自分にある。

 ショーンは責任を感じていた。もちろん他の人間はそう言わないだろうし、思ってもないだろう。そう分かってはいるのだが、心の中でどうしても引っかかるのだ。

 もし今会話に参加しても、盛り下げてしまうだろう。食欲もわかない。だから今はこうして、何も考えずに作業していたい。多分チョウはそれが分かっていたから、この役を自分に託したのではないだろうか?

 

 ふとチョウを見ると、ウィンクを返された。

 まったく、何年かかっても彼女には勝てそうにない。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「来なさい、ショーン!」

「よっしゃオラァ!」

 

 ――とか思ったが、結局湿っぽい感じは1時間も持たなかった。

 楽しそうにはしゃぐ面々を見ていたら、自然と混ざりたくなってしまった。年頃の男の子の心は、変わりやすいのだ。

 ショーンがそういう気分になると、すぐにチョウがやって来て、テーブルの方へと引っ張って行ってくれた。みんなも待ってましたと言わんばかりに出迎えてくれる。

 今はジニーと「爆発スナップ」をひたすら全力で投げ合うという、謎の遊びをしていた。

 

「ギャァ! 眉毛が、右の眉毛が燃えた! 代わりにあんたの右眉毛を寄越しなさい!」

「寄越せるか!」

「そうね。でも私だけ燃えてると癪だから、やっぱりあんたのも焼くわ!」

「させるか! 必殺コリンバリア!」

「ウワァー! 僕の両眉がぁー! ルーナ、助けてー!」

「うん。今眉毛書いてあげるね。メイクは得意なんだ」

「そういう事じゃなくって!」

「よし、そろそろ集合写真を撮りましょうか」

「こんな眉毛で!?」

「? コリン、貴方はカメラマンだから写りの心配はしなくていいわよ」

「チクショウ! ここに来てカメラマンキャラがあだになりやがった! ハイ、チーズ!」

 

 また別のテーブルでは、

 

「誰かクラムと賭け腕相撲やらないか?」

「早い者勝ちだぜ!」

「フレッド、ジョージ。君達バカかい? そんな負けが見えてる勝負、誰もやるわけないだろう」

「セドリック、そうは言いつつも?」

「もちろんやるさ! ホラ、五ガリオンだ!」

「そうこなくっちゃ! 流石セドリックだ!」

「よーい、スタート!」

「ぬわぁー!」

「うわぁ……やべえ、クラムの力やべえ。あのセドリックが瞬殺された。生きてるか、これ……」

「まさか腕相撲で死人が出るとはな。恐ろしいぜ、兄弟……」

「君達、私のボーイフレンドに何をしてるのかな?」

「あ、いや、チョウ、これは……」

 

 また別のテーブルでは、

 

「ロン、ハリー。仲直り出来て良かったわね」

「うん」

「それで、私に何か言う事があるわよね?」

「あー、ご迷惑をおかけしました」

「ありがとう、ハーマイオニー」

「よろしい。それじゃあ、この話は終わりにして、飲みましょうか!」

「……しばらく話さない間に、君随分性格変わったなぁ」

 

 様々な祝賀会が開かれていた。

 次の日、後片付け役のショーンが酔い潰れた事で阿鼻叫喚になったのは、また別の話。












話が進まなくてすみません!
次からはちゃんとダンス・パーティー編に入るから許して!

【オリキャラ紹介】
・ショーナルド
命名 ショーン
相棒と言いながらも、実はショーンのものではなく、未だ学校の備品。
飛ぶことはあまり得意ではないが、何かを叩く――特にショーンのひたい――はとても得意。
ショーンの卒業祝いにプレゼント出来ないかと、マクゴナガル先生がダンブルドア校長とフーチ先生にこっそり交渉している。

・戦績
対ショーン・ハーツ 勝ち
対トム・リドル 勝ち
対ビクトール・クラム 勝ち

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