ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第9話 グダグダ・クリスマス・パーティー 後編

 はたして、最高の目覚めとは何だろうか?

 例えば愛しい人を腕に抱いて寝て、その人の息遣いで目覚める。

 例えば素晴らしい朝日と共に、小鳥の囀りによって目覚める。

 例えばこれ以上寝ることが出来ないというほど寝てから、グダグダと目覚める。

 どの目覚め方も間違いなく、その日を素晴らしい物にしてくれるだろうが、ショーンとしては、肉の焼ける音と匂いと共に目覚めるか、愛しい妹の声で目覚めたいところだ。

 さて。ここで結局何が言いたいかと言いうと、最高の目覚めというのは色々とあるだろうが、これは間違いなく違うだろうという事である。

 

「くせぇ……」

 

 祝賀会の後。

 不快感と冷たさを感じ、目を開くと、ジニーのゲロに浸っていた。これには朝に弱いショーンも、堪らず飛び起きた。改めて言おう、くせえ。

 眠たい目をこすりながらあたりを見渡すと、スポーツマンであるクラムだけが起きて、みんなの為に水を汲みにいっていた。最高のシーカーと謳われる彼に、我々ホグワーツ一同は一体何をさせているのだろうか。

 

 いや、よくよく見るとクラムだけではない。

 セドリックとチョウの姿も見当たらなかった。恐らくみんなが寝る前に、こっそり抜け出したのだろう。何故抜け出したのかは、聞くだけ野暮というものだ。

 

 ショーンはクラムに挨拶をしてから必要の部屋を出て、寮監督生が使う、バスルームへと向かった。

 前に「ここを使うといい」とセドリックに紹介されて以来、度々つかりにいっているのだ。

 そういうわけでショーンは、大浴場でのんびりしていた。

 

「ふぅ……お前達って基本ロクなことしないけど、この大浴場を作ったのは中々だな」

「ありがとう、ショーン」

「うむ。もっと敬うがいい」

「いえ、それほどでもありませんわ」

 

 三者三様の答えが返ってくる。ショーンは彼らと、軽快なハイタッチを交わした。

 

「いやいやいやいや! これ作ったの全部私ですから! みなさん、なにちゃっかり自分の手柄にしてるんですか! そしてなに当たり前のようにショーンも受けいれているんですかっ! ショーン、私を、私だけを褒めてください! さぁホラ、ハリー・アップ!」

「ふん。貧困な発想だな。ホグワーツは我々全員で作り上げたもの、そうだろう?」

「自分の寮の場所さえ隠してる人に言われたくないんですけど……」

 

 その言葉が癪に触ったのか、サラザールはロウェナを無視した。それに対しロウェナは、後ろから足払いをかける。

 ドテン!

 サラザールがこけた。

 直ぐに立ち上がり、ロウェナを押し倒す。

 二人はそのまま揉み合いになり、風呂の中に落ちていった。

 おお、その御業を見よ。ホグワーツ創設者のなんたる偉大な事だろうか。

 アホらしい。

 ショーンはアホ二人を無視して、ヘルガに話しかけた。

 

「ヘルガ、久しぶりに髪洗ってくれないか」

「いいですよ。それでは、そこにお座りなさい」

 

 元治癒師のヘルガは、手が動かない病人の為に髪や体を洗っていた。その為、髪を洗うのがとてもうまい。そのうまさたるや、狼人間もポメラニアンになるほどである。

 少々幼いと思われるかもしれないが、ショーンはヘルガに髪を洗ってもらうのが好きだった。美容院にも通えない彼の、せめてもの贅沢だ。

 

「そういえば、城は基本的にロウェナが作ったんだよな?」

「ええ、まあ。基本的にと言いますか、ほとんど全てですが。ゴドリックは組み分けなどのちょっとしたギミック、サラザールのアホは完全に自分の寮だけ、ヘルガは保健室と庭ですね。後は私です」

「なあ、何で廊下と階段をあんな馬鹿な作りにしたんだ?」

「? 何故馬鹿なんです? 一分の隙もない、完璧な作りだと自負していますが……」

 

 本気で分からない。ロウェナはそんな顔を浮かべた。

 

「あー、それについては僕が説明しよう」

 

 ゴドリックは心底めんどくさそうに言った。長い付き合いだからわかる。恐らく、何度もこの説明をさせられたのだろう。

 

「動く廊下と階段だけどね、その動きを全て把握出来れば、ほとんど歩かずに城中を移動出来るんだよ。まあその動きを全て把握出来るのは、よっぽどの天才だけなんだけどね」

「また、またぁ〜。そんな事言って、ゴドリックも城のギミックを使いこなしてたじゃないですか」

「言っておくけどね。僕のは単純に、全て運だ。テキトーに歩いたら、いつの間にか目的地に着いてただけだよ」

「お前達ってほんと、馬鹿だよなぁ」

「コラ! 髪を洗ってる最中に口を開けない!」

「はい」

 

 多分この中で一番馬鹿なのは、14にもなってそんな事を注意されているショーンだろう。ヘルガを除く誰しもがそう思ったが、誰も口には出さなかった。何故ならその辺りのことを口にすると、ヘルガが割と本気で怒るからだ。

 髪を洗って貰って、トリートメントを受けて、最後に指圧マッサージをしてもらう。

 

「そういえばサラザール、結局スリザリン寮は何処にあるんだ?」

「それが知りたければ、スリザリン寮に入る事だ。今入寮すれば、バジリスクの生み出し方も教えてやるぞ」

「それ誰も喜ばねえから」

 

 頭の中でハグリッドがウィンクした気がしたが、きっと気の所為だろう。

 

「僕の寮の優秀な生徒を勧誘しないで貰おうか、サラザール」

「やれやれ。お前も貧相な発想だな。ホグワーツは我々全員で作り上げたものだろう」

「……うん。はたから見ると笑えたけど、直接言われると思いの外腹立つな」

「黙れ。ショーンをお前の寮に取られたことの方が、何倍も腹が立つ」

 

 これを言われると、ゴドリックは弱かった。途端に他の二人も、サラザールの味方をする。ショーンとしては現状割と満足してるので、ノーコメント。

 

「……」

 

 五人の間に、穏やかな時間が流れた。

 ……ふと、思う時がある。

 もしホグワーツに来ていなかったら、幽霊達とずっとこんな風に、穏やかな毎日を送っていたのだろうか。

 今の生活が嫌いなわけではない。むしろ好きだ。

 それでもたまに、考えてしまう。

 人目を憚って幽霊達と自由に話せない生活は、窮屈だと。

 だからたまに訪れるこんな平穏が、たまらなく――

 

「ボンジュール!」

「うおおおお!?」

 

 突如として、大浴場にブロンドの女が入って来た。ブロンドの女は総じて馬鹿だと言う話を小耳にした事があったが、それは本当らしい。先ほどまでのしんみりとした雰囲気が台無しである。

 

「ちょっとあなーたに用があります」

「待て待て! 服、服! 今俺全裸だから!」

「服くらいちゃんと着てくださーい」

「人を露出狂みたいに言うな。風呂場で服を着てる方が変だろ」

 

 ブロンドの女は「やれやれ」という風に肩を竦めた後、杖を優雅に一振りした。途端に髪が乾き、体に付着した水滴が消え、更には服が飛んできて勝手に着られていく。

 

「これで問題あーりませんね」

 

 ブロンドの女はショーンの都合も聞かず、グイグイと引っ張った。普段のショーンなら、文句の一つや百つでも言っていただろう。しかしブロンドの女――フラー・デラクールがあまりに美人だったので、なされるがままだった。前にヴィーラに魅了された時のことは、すっかり忘れていた。失敗からなにも学ばない男である。

 幽霊達はそんなショーンを見て、深いため息をついた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ショーンが連れてこられたのは、ボーバトンが乗ってきた巨大な馬車の中にある小部屋だった。どうやらここは、デラクール姉妹の部屋らしい。

 目の前にはフラー・デラクール……はおらず、代わりに妹のガブリエル・デラクールがいる。フラーは妹にショーンを任せて、何処かへ行ってしまった。

 

「あの、すみません。またお姉様が無茶を言ってしまったみたいで……。紅茶はお好きですか?」

「ああ、いえ、お構いなく」

「どうかそう仰らずに。せっかく英国に来たので、紅茶を美味しく淹れる練習をしてるんです。良ければ私のために、練習相手になってもらえませんか?」

「そういうことなら……」

 

 ガブリエルのお願いは、姉のフラーとはまた違った意味で断りづらい。

 なんというか、マトモな女の子に対する耐性が、ショーンには絶望的になかった。

 

「待たせましたー!」

 

 その時、“バーン!”と扉を開けて、フラーが入って来た。

 これだ、このノリだ。この方が最早落ち着く。

 

「お姉様! お客様を勝手にお呼びだてして、あまつさえ――」

「ガブリエル。細かい事を言うのはやめなさーい」

 

 ガブリエルはまだ何か言いたそうにしていたが、結局フラーに何か言うのは諦めて、ショーンに頭を下げた。

 

「とある筋から聞きました。あなーたは、アリーとヘドリックとヌラムのために、あの試合を開催したそうですね」

「お姉様、ハリーさんとセドリックさんとクラムさんです」

「……それで?」

「他の選手ばかりズルイです。わたーしにも、何か目立つイベントを用意しなさい」

 

 意味が分からない。

 ショーンがそう言う顔をすると、フラーはこうなった経緯を、まくしたてる様に説明した。

 

 三大(・・)魔法学校対抗試合なのに、ダームストラングとホグワーツだけイベントを組んでもらってずるい。私……もといボーバトン用にも何かイベントがあるべき。それでこそ平等だ、フラーはそう考えた。

 その旨を伝えたところ、アレは一人の生徒の提案で行われたもので、学校側はあくまで許可を出しただけである。学校側としては、確かに不平等ではあると思うが、三大魔法学校対抗試合の準備で手一杯で、これ以上何かする余裕がない。やるなら勝手にどうぞ。そんな返事が返ってきた。

 そしてフラーは思った。

 それならあの試合のセッティングをした生徒に、イベントを企画して貰えばいい、と。

 つまりたらい回しにされて、ショーンにお鉢が来たのだ。いい迷惑である。

 ショーンは当然、断った。するとフラーは、まるで「俺は同性愛者だ」とでも言ったかの様な目でこっちを見てきた。本当に、いい迷惑である。

 

「どーしてですか!?」

「いやだって、俺たち初対面じゃん」

「おー! これだから英国人は嫌いでーす! 淑女に対する礼儀というものを知りませーん!」

 

 ……思うに、女の子というのは卑怯だ。こっちには少しの落ち度もないのに、礼儀知らずと叫ばれるだけで、途端に立場が悪くなる。

 

「あの、お姉様はこんな風に仰ってますが、断ってもらって構わないので。後で私の方から言っておきますから……」

 

 そう言われると、却って断りづらい。

 それにどうやら二人は仲良し姉妹らしい。ガブリエルはそう言いながらも、フラーの願いを聞いてもらいたいという雰囲気を醸し出していた。

 ショーンは気が弱い女の子に弱かったが、それ以上に、妹のお願いに弱かった。

 ……断じて言っておくが、シスターコンプレックスを患っているわけではない。

 

「オーケー。分かった、手伝うよ」

「最初から素直にそう言えばいいのでーす」

「お姉様! すみません。でも、ありがとうございます!」

 

 フラーの言葉でまた若干やる気が下がったが、ガブリエルの太陽の様な笑顔で、差し引きゼロだ。

 

「よし、早速だが一つ思いついた」

「おー。あなーた、中々有能です。それで、どんな?」

「ああ。フラー、君の美貌を活かそう」

「分かってますね! 私の祖母は、ヴィーラでした。つまりこの美貌は、祖母譲りなのです。そして祖母は、私の誇りでーす」

 

 どうやらフラーにとって自らの美貌は、最大の誇りのようだった。その美貌こそショーンの立てた作戦、その最大の(かなめ)だ。これはもしかすると、思ったより事はスムーズに進むかもしれない。

 

「大広間を借りて、フラーがストリップをするというのはどうだろうか。間違いなく――いいか――間違いなく盛り上がる。そしてその日はタダで見せるが、次の日からは会員制という事にして――」

 

 そこまで言ったところで、ショーンはフラーに引っ叩かれた。ついでに、軽蔑の眼差しを向けられた。ガブリエルも、顔を真っ赤にしてショーンを睨みつけている。

 

「オーケー。別の案で行こう」

「そうして下さーい」

「私もそれがいいと思います!」

 

 二人は再び、期待の眼差しをショーンに向けた。

 ……ヤバい、何も思い浮かばない。いや、思い浮かぶには思い浮かぶが、全て公序良俗に反しそうなものばかりだ。

 というかそもそも、だ。

 フラーの言う様な大掛かりなイベントは、もう無理だろう。あのオールスター戦だって、相当無理を言って、かつマクゴナガル教授の強い後押しがあって初めて成り立ったものだ。

 会場も日取りも、もう埋まってるだろうし……いや待てよ。既にあるイベントを、ジャックすると言うのはどうだろうか。少々規模は落ちるだろうが、ダームストラングとホグワーツの注目度を奪えるなら、フラーはきっと満足するだろう。

 よし、それなら……。

 

「フラー。君、楽器は得意か?」

「ヴァイオリンなら出来まーす。後は歌ですね。ヴィーラは、歌で人を魅了しまーす。そして私の祖母は、ヴィーラなのです。だから私も、ヴィーラの血を引いているのです。そして祖母は、私の誇りでーす」

「お姉様、そのお話は二回目です!」

「よし。歌、歌な。これで一応の方針は決まった。いいか――」

 

 先生方に却下されるといいな。

 ショーンはちょっとそう思いながら、二人に作戦を伝えた。

 二人は大いに賛同し、早速先生方へ話を通しに行った。

 

 結論から言えば、ショーンの案はすんなりと通った。通されてしまった。

 案というのは、簡単に言えば、クリスマス・ダンスパーティーで歌を歌おうという、それだけの事だ。

 ただしそれが、魔法界で屈指の人気を誇る「妖女シスターズ」の生演奏でとなると、話は変わってくる。

 素晴らしい演奏の中歌われるヴィーラの末裔(フラー)の歌は、きっと多くの人間を魅了するだろう。他の代表生達への注目をかっさらうほどに。

 

「――よし。これで必要な許可は全部とったな。それじゃあ、後は頑張れよ」

 

 これで役目は終えた。

 ショーンはやりきった顔をして、立ち去ろうとした。しかし――

 

「待ちなさーい」

「……まだ何か用かい、お嬢さん」

「? お姉様はハーツさんより歳上だと思いますが……」

「分かってるよ。ジョークで言ったんだ、ジョークで」

「あっ、冗談で仰ったんですね。すみません」

 

 そこで謝られても困る。まるで自分がスベったみたいじゃないか。

 

「あなーた、わたーしとペアを組みなさい」

「なんの?」

「馬鹿、ダンスパーティーのでーす! わたーしは、サプライズにしたいのです。事情を知ってる男の子は、あなたしかいませーん。ここまで来たら責任を取るのが、紳士というものです」

「ここまで来たっていうか、連れて来られたんだけど……」

「ハーツさん、どうかお願いします」

 

 心底申し訳なさそうに、ガブリエルが頭を下げた。フラーにしても、微塵も断られるとは思っていない顔をしている。

 ……まあ正直、ダンスパーティーのパートナーになってくれそうな女の子も、思い浮かばなかったところだ。別に断る理由もないか。

 

「……よろしく、フラー」

「レディ・ファーストでよろしくお願いしまーす」

「自分で言うな」

 

 ――この日から、血の滲むような特訓が始まった。

 平日は朝と放課後、時間の許す限り合わせの練習をし、夜は個人練習に励む。

 土日は先生方監修の元――特にフリットウィック教授とシリウスは、この事にかなり協力的だった――学校を抜け出し「妖女シスターズ」と共に練習をした。

 その最中、英語の歌に合わせて、フラーの英語教育も行われた。ショーンは人にモノを教える事に慣れていなかったが、幸い身近(・・)に教育について一家言ある人物が多くいたので、これはスムーズに進んだ。

 

 途中、かなり苦労もした。ボーバトンとホグワーツ、学年どころか学校さえ違う二人は、中々時間が合わなかったし、そもそも性格もあまり合わなかった。

 特に第一の課題でフラーが最下位だった時などは、かなり荒れたものだ。

 そのたびにガブリエルが二人の間に入り、仲を取り持ってくれた。

 正直途中でふと「俺何してるんだろう……」と何度も思ったが、その一方でこんなのも悪くないと思う自分もいる。結局ショーンは、なんだかんだ言って最後まで付き合った。

 

 そしてついに、ダンスパーティー当日――

 

「お姉様、ショーンさん、頑張ってくださいね! 私も及ばずながら、応援してますから!」

「もちろんよ。妹の期待に応えない姉はいないわ、ねえショーン」

「ああ。任せておけよ」

 

 ガブリエルはキラキラとした目で、ショーンとフラーを見上げた。

 それに対し、二人は親指を立てて返す。

 

 フラーは流石代表選手に選ばれただけあって、直ぐに英語を覚えた。今ではもうあのエセ外人言葉ではなく、本来の淑女らしい優雅な言葉遣いになっている。

 

「おーい二人とも! サッサと準備しろ!」

 

 「妖女シスターズ」の長女――長女と言っても、実際の長女ではない。「妖女シスターズ」はバンドメンバーを入った順に長女、次女、三女と呼んでいた――が、二人に声をかける。

 フラーはマイクを、ショーンはギターを持って合流する。

 舞台の表には、沢山の人の気配。いよいよ始まるのだ。妙な緊張感が、二人を包んだ。

 

「……フラー。最後に一ついいだろうか」

「ん、なぁに? 愛の告白以外ならなんでも聞くわよ」

「トイレ行きたくなって来た」

「肌が汚れることはしない主義なのだけれど、頭をぶん殴りたくなったわ」

 

 二人がアホなやり取りをしていると、表でダンブルドア校長がバンドの紹介をし始めた。

 

「――withミス・デラクール&ミスター・ハーツじゃ!」

「なんでフラーの紹介が先なんだ」

「昔言ったでしょう。レディ・ファーストよ」

 

 そして二人は、舞台の上へ。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「……ム…ニニー……ハーム……ハーム・オウン・ニニー!」

「ひゃあ! えっと――な、何しら?」

「……飲み物を取って来ましょうか?」

「え、ええ。ありがとう、お願いしようかしら」

 

 クラムはノッシノッシとウェイターの方へと歩いて行った。

 そのたくましい背中……ではなく、熱狂の渦のど真ん中。最初の穏やかな曲とは程遠い、テンポの良い曲を歌うフラーと、彼女と背中合わせでギターをかき鳴らすショーンをぼんやりと見る。

 

 最初はなんて刺激的で楽しいんだろうと思っていたダンスパーティーも、そう楽しいものではなくなってしまっていた。理由は……よく分からない。綺麗になった自分を鏡で見た時、それを見てハリーやロンが目を白黒させた時までは、楽しかったのに……。

 

 とにかく今は、踊る気にも、騒ぐ気にもなれなかった。パートナーであるクラムには悪いと思うが、どうしても気分が乗らない。

 それどころか、何故だか少し、泣きたくなった。

 

 少しすると、ショーンが人の輪を外れ、はじの方へとはけたのが見えた。そして何やら、キョロキョロ辺りを見渡している。

 何となくそっちを見ていると、バッチリ目があった。嬉しそうに手を振りながら、こっちに歩いてくる。

 

「ハーマイオニー! よかった……さっきからまったく知り合いに会わないんだ。間違えて他の学校のダンスパーティーに来ちゃったかと思ったぜ。それに――待った――君、ハーマイオニー……だよな? 随分とオシャレになった」

「ふふ。ちゃんとここはホグワーツ魔法魔術学校よ。それに、私もちゃんとハーマイオニー・グレンジャーよ。まあ、分からないのも無理ないわ。何たって、三時間もメイクに時間かけたんですもの」

「そりゃあ大事件だ。君が勉強以外の事に、三時間も費やすなんて。それで、見事に変身した君を置いて、パートナーはどこに行ったんだ?」

 

 ハーマイオニーはちょっと悩んでから、少し嘘をついた。

 パートナーは私を置いて、何処かへ行ってしまった、そんな嘘を。

 理由は……やっぱりよく分からない。

 その時、向こうの方からフラーの声が聞こえて来た。彼女の声は、よく通る。

 

「ショーン! そろそろ来なさい! 次の曲行くわよ!」

「分かった! あー、悪いけど、そういうわけだから――」

「待って!」

 

 フラーの方へ行こうとするショーンの腕を、ハーマイオニーは掴んで止めた。

 そして杖を一振り。

 ギターは自分を自分で演奏しながら、フラーの方へと走って行った。

 

「これで……これで貴方が、あの人の元へ行く必要はなくなったわ」

「……そしてこれで、君が飲み物を待つ必要もなくなったわけだ」

 

 そう言ってショーンは、ポケットからシャンパンが入った小瓶を取り出した。

 まあ何とも簡単な話で。

 ハーマイオニーもフラーといるショーンを見ていたし、ショーンもクラムといるハーマイオニーを見ていた。そしてお互い、まったく同じ事を考えていたわけだ。

 

「なあ、ここはちょっとうるさいと思わないか?」

「その原因は貴方と、そのお友達ですけれどね」

「おっと。痛い所を突くな。ところで君、シャンプー変えた?」

「だから、変えてないわよ! 相変わらず誤魔化し方が下手ですこと。でも、ここがうるさいっていうのは同感ね。少し席を外しましょうか。フラーとクラムには、手紙を残しておくわ」

「賛成。今まで君が出した案の中で、最も冴えた案だ」

「ちょっと! クィディッチの作戦も冴えてたでしょ!」

「確かにそうかもな。だけどこれだけは言える。屋敷しもべ妖精解放案よりは、確実に冴えてる」

「はぁ、もう何でもいいわ。……そういえば、覚えてるかしら? その――約束をしたじゃない。貴方が勝ったら、む、胸を……」

「ああ、もちろん。おっぱいを触らせてほしいってやつだろ。でも負けた」

「直接的に言わないで! あのね。確かに、試合には負けたわ。だけど、勝負には勝った。みんな言ってるわ。勝者は貴方よ。だから――」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 はたして、最高の目覚めとは何だろうか?

 例えば愛しい人を腕に抱いて寝て、その人の息遣いで目覚める。

 例えば素晴らしい朝日と共に、小鳥の囀りによって目覚める。

 例えばこれ以上寝ることが出来ないというほど寝てから、グダグダと目覚める。

 例えば――

 

「……ぅん」

 

 何かに濡れる不快感と、腕への重みで、ショーンは目を覚ました。

 昨日何をしたんだっけ……?

 シャンパンの飲み過ぎで痛む頭を、何とか動かして隣を見ると……一人の女の子が寝ていた。

 ――例えば、出来たばかりのガールフレンドと一緒に目覚める。

 はたしてこれは、最高の目覚めと言えるだろうか。










削りに削ってんですが、結局8,000字以上になってしまった。前編・中編・後編に分けるべきだったかも。

削ったところを具体的に言うと。
12月24日はショーンの誕生日なので、妹からの誕生日プレゼントとか手紙とか、色々と書いたんですが、テンポの都合でカット。
3人の校長にダンスパーティーで歌うこと伝えに行くシーンを、特に面白くなかったのでをカット。
「妖女シスターズ」との練習風景を、オリキャラが増えるという理由でカット。「妖女シスターズ」のメンバーの設定が無駄になってしまった……いつか使えたらいいな。
空白部分のハー子とショーンのアレコレ、流石にやばいと思ってカット。

ちなみに、ホグワーツメンバーには誕生日を告げてないので、プレゼントの類は無しです。クリスマス・プレゼントも、お返しが出来ないという理由から、受け取っていません。

それとどうでもいい事なんですけど、イギリスの魔法と、他の国の魔法は違うと思うんですよね。
フランス語の発音とかかなり独特だし、原作一巻で言っていた発音云々が大事という情報から考えて、イギリスにはイギリスの魔法が、フランスにはフランスの魔法があると思うのです。

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