ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第3話 さようなら、アンブリッジ先生

 ドローレス・アンブリッジは、お気に入りのベッドの上で目を覚ました。

 彼女の持つ家具のほとんどは、オートクチュールの一点物だ。例えば枕一つ取っても、舌が分厚く、また首が短いアンブリッジが寝ている間に窒息死しないよう、大きめの作りになっている。色もこだわり抜いたカーネーション・ピンクだ。

 アンブリッジが起きたことに気がつくと、壁にかけられている皿の中のねこ達が可愛らしい声を上げた。

 魔法界のねこは賢い。

 “徹底的”に教育すれば、望む通りの反応を見せてくれる。

 

「おや? おや、おや。お返事がない子がいますね。私が起きたらちゃあんとおはようの挨拶をしましょうね。出来ない子には罰を与えますよ」

 

 右下の方にぐったりとしたねこがいた。目ざとくそれを見つけたアンブリッジは、猫なで声を上げながら杖を振るう。途端にねこは窒息したような苦しい声を出し、前足で首のあたりを引っ掻いた。もちろん本当に首輪があるわけではないので、鋭い爪が引っかかり皮膚を傷つけてしまう。

 

「んっんー! なんて素晴らしい朝でしょう」

 

 猫を“可愛がって”上機嫌になったアンブリッジは、ベッドから跳ねるように起き出た。

 お気に入りのふわふわスリッパを履いて、ローズヒップティーとクロワッサンで朝食を済ます。

 本来朝食は大広間で食べるべきだが、こんな気持ちの良い朝に子供の顔など見たら台無しだ。

 

 子供。

 そう、生徒たち。

 アンブリッジは子供が好きではない。というより、嫌悪している。

 特にハーマイオニー・グレンジャーのように自分が賢いと思っている子供や、ハリー・ポッターのように自分が人気者だと思っている子供は論外だ。

 それだけに、あの勉強会を禁止した時の顔と言ったらもう!

 アンブリッジは自分の口角が自然に上がってしまうのを感じた。

 

「それにしても、ねえ。お勉強会だなんて。何を考えているのかしら。気味が悪いわ」

 

 ポッターとグレンジャーは有志の人間を募り、勉強会なるものを始めた。

 彼らはちゃんとした闇の魔術に対する防衛術を学びたい、などと言っていたが、アンブリッジはちゃんと彼らの目的を見破っていた。

 彼らの真の目的――それはダンブルドアの手先として力を付け、魔法省に対抗することに違いない。

 

「でもまさか、一度断られたくらいで諦めたりしないわよねえ。そうでしょう、子猫ちゃん達?」

 

 子猫達は全員、声を揃えて鳴いた。

 それに気を良くしながら、グレンジャーが持って来た勉強会を開きたいという嘆願書を見る。

 

 アンブリッジは新しい校則を作った。

 簡単に言えば『あらゆる団体はアンブリッジの許可なく活動してはならない』というものだ。

 ポッターとグレンジャーが開いていた勉強会もこの規定に引っかかり、解散した。しかし彼らは諦めなかったようで、涙ぐましくも許可申請書を出してきたのだ。

 申請書を却下するのは、大変に気持ちが良かった。まためげずに、もう一度申請書を出して欲しい。

 

「通らない申請書を頑張って書いていると思うと、自然に笑っちゃうわね。

 あら、私って性格悪いかしら?

 でも仕方ないわよねえ。あんな子達のお勉強会なんて、碌な事じゃないに決まってるんだから。どんな企みがあるのか……怖いわねえ」

 

 アンブリッジは自分の冗談で、大きな声を出して笑った。あんまりにも笑いすぎて、部屋の中でアンブリッジの声が反響してしまったほどだ。

 

「これもお部屋が狭いせいね」

 

 早くあの狂った老人を校長の座から引きずり降ろし、自分がその席に座りたいものだ。そうすればこんな狭い部屋ではなく、あの広い校長室を思いっきり使えるようになれるのに。

 既に筋書きは出来ている。後は待つだけなのだが、楽しみとは早く訪れれば訪れただけいいものだ。

 

 校長室をどういう内装にしたものかと考えていると、部屋のドアが叩かれた。

 親衛隊か、あるいは他の教師だろうか。直接嘆願に来たポッターやグレンジャーなら愉快なことになりそうだが、それはないだろう。

 どうぞ、と返事をすると、意外な人物が入ってきた。

 

「まあ、魔法大臣閣下。こんな所までわざわざご足労頂いて。ご用がお有りでしたら、わたくしの方から出迎いましたのに」

「いや、それには及ばない。というより君は、二度と私の元を訪れないでくれ」

「はい?」

 

 何を言ってるのだろうか、この男は。

 こんな所に派遣され、孤軍奮闘している自分を労いに来たのではないのか?

 

「ええっと、魔法大臣閣下。わたくしの耳がおかしいのかしら。わたくしのことをクビにする、そういう風に聞こえたのですけれど」

「そう言ったんだ! もう私の前に二度と姿を見せるな」

 

 わけが分からなかった。

 後少し、後少しでダンブルドアを退職させる所まで来ているのに。あのダンブルドアをここまで追い込むなど、自分以外の者に出来るだろうか?

 否、そんな者は私を置いて魔法省にいない。

 実際ファッジとて、この間までは絶賛していたではないか。

 それがどうして、こんな……

 

「何故、何故なのですか大臣。わたくしは、日々魔法省のために――」

「ああ、そうか。君はずっとここにいたから、外が今どうなっているのか知らないんだな。私が大変な苦境に立たされている間も、君はのうのうと過ごしていたわけだ。

 たった三日で、支持率が12%も落ちた。たった三日でだぞ?

 私はもう終わりだ」

 

 椅子に座りながら、ファッジは疲れたように言った。

 最後に会った時の「ダンブルドアを倒す!」という気概はすっかり失せ、元の情けない、保身だけが取り柄の初老に戻っている。

 

「全てはこれが原因だ。三日前からイギリス中の魔法使いの家に投函された」

「――拝見しても?」

「ああ、好きにしたまえ。なんなら差し上げよう。今それは、イギリス魔法界に溢れかえっているからな」

 

 ファッジが渡したのは、『 INSIDE(内部) 』と書かれた雑誌だった。

 丸く太い指を器用に使い、雑誌をめくる。

 『 INSIDE 』の内容は、タイトルの通り内部の事情についてだった。内部事情――そう、ホグワーツの内部事情についてだ。

 アンブリッジが杖を使わせない授業をしていること、生徒に発言を許していないこと、自主的に勉強しようとする生徒達を妨害したこと、果てはハリー・ポッターに違法な呪いを使った罰則を与えたことまで。全て証拠(写真)付きで掲載されていた。

 ページをめくるたびに嫌な汗がドッ、と吹き出てくる。

 

「大臣、これは……」

「私は君にここまで命じた覚えはない。断じてだ!」

「ですが大臣、貴方様は遠回しにこうしろとおっしゃいましたわ」

「君がしたことと、私は一切関係ない。いいな?」

「そんな、大臣!」

 

 アンブリッジは震えた声で、ファッジにすがりついた。

 魔法省をクビになる、それはつまり、全てアンブリッジが勝手にやったことにするという意味だ。自分勝手なルールを定めただけならともかく、違法な罰則まで与えてしまった。後ろ盾がなくなれば、アズカバンだってありえる。

 

「すまないが、君を擁護する事は出来ない。ホグワーツOBのほとんどが、魔法省に山の様な吠えメールを送って来ているのでね」

 

 『 INSIDE 』の非常に上手い所は、アンブリッジの授業と他の教師の授業が対比になる形で掲載されていることだ。

 マクゴナガルの授業を見て昔懐かしい気持ちになった後、アンブリッジの授業を見れば、卒業生は絶対にいい顔をしないだろう。

 しかも最悪なことに、少し前の『日刊預言者新聞』で魔法省は「ホグワーツの教育にメスをいれる」と発表してしまっている。メスを入れた結果これでは、批判は免れない。三流手術もいいとこだ。

 

「最悪なのはこれだけじゃない。

 最近行われたクィディッチ・ナショナルリーグでMVPを取ったビクトール・クラムが、インタビューでこの記事について答えてしまった」

 

 ファッジはもう一冊、別の『 INSIDE 』を取り出した。

 そこにはクラムのインタビューが、しっかりと載っている。

 

 “試合で勝ったことはとても嬉しく、また名誉なことですが、僕の心は晴れ晴れしいとは言えません。何故なら今、ホグワーツにいる素晴らしい友人達が苦しんでいるからです。

 去年僕がいた頃の、あの居心地の良かったホグワーツはありません。今のホグワーツはみんなで集まることも、杖を使うことも、スポーツを楽しむことすら禁止されているのです。僕はこの事が痛ましくて仕方がありません。

 理由はハッキリしています。ホグワーツの友人からの手紙によれば、魔法省から来た新しい教師が、様々な校則を作ったからです。クィディッチの世界で新しくルールを作るなら、何人もの人で吟味し、そしてゆっくり定着させていきます。急にいくつもルールを作ったら、みんなが混乱するからです。そしてホグワーツのみんなは、今混乱しています。

 もう一度言います。私はホグワーツがこのような状況におかれていることが、残念でなりません”

 

 ここまでで四分の一、といった所だ。ここからも更に、クラムの嘆きは続いている。しかしアンブリッジはそれ以上読む気になれず、『 INSIDE 』を机の上に置いた。

 

「私は今、ブルガリアの魔法省から強く責められている。クラムが不調になり、試合に負けたらどう責任を取るのだ、とね。

 最近ではフランス魔法省までもが私を批判し出した。フラー・デラクールが社交界の場でビクトールと同じようなことを言っているらしい。彼女に気に入られるために、世の男どもは私を批判するというわけだ」

 

 イギリス魔法界は『例のあの人』を輩出したため、他国の魔法界に頭が上がらない。

 ファッジはおそらく、イングランドとフランスを行ったり来たりして、頭を下げ続けていたのだろう。

 

「更に今、一番話題になっているのはこれだ」

 

 ファッジが指差したのページに記載されていたのは、アンブリッジが却下した申請書だった。

 

「勉強がしたいという熱意に溢れてるこの申請書が、どうして通らないんだ! 空き教室の確保や日程表だって完璧じゃないか! ……という旨の吠えメールだけで、魔法省は埋まってしまいそうだよ」

 

 勉強をしたい生徒が、それをさせてもらえない。

 紛争地域ならともかくここは先進国で、しかも学校内での出来事だ。

 批判を集めないはずない。

 更にハーマイオニーが書いた志望動機は、多くの心を打った。

 世間はいつだって、頑張る少女に弱い。

 特に今回のように、泣きそうな生徒達の写真と、厭らしい笑みを浮かべるアンブリッジの写真が一緒に飾られていれば、世間がどっちを味方するかは言われるまでもない。

 

「で、ですが大臣。日刊預言者新聞に、この記事は出鱈目だと言う記事を掲載すれば、まだ持ち直せると思いますが」

「それは無理だ」

 

 ファッジはまた、別の『 INSIDE 』を取り出した。

 最早怒りさえ感じながら、アンブリッジはそれをめくった。

 書かれていたのは、日刊預言者新聞がハリー・ポッターの裁判を一切掲載しなかったことについてだ。

 

 マグルの世界に吸魂鬼が出現し、ハリー・ポッターがそれを退けた。魔法省はそれを違法だとし、ハリー・ポッターを起訴した。

 普通に考えれば、馬鹿げたことだ。

 事実ハリー・ポッターは無罪になった。

 普通に考えれば、これは大ニュースだ。イギリス魔法界中が騒ぎになっていてもおかしくない。

 しかし、そうはならなかった。

 何故か?

 新聞が裁判を記事にしなかったからだ。知らなければ、騒ぎようがない。

 

 裁判の記録は誰でも閲覧出来る。裁判があったという証拠は隠しようがない。

 なのに何故新聞は何も書かなかったのか?

 ちょっと考えれば誰でも予想がつく。

 魔法省が圧力をかけたからだ、と。

 事実魔法省は、新聞社に圧力をかけた。

 『日刊預言者新聞』の信頼は地に落ちただろう。

 

「こ、こんなふざけたものを書いたのは誰ですか!? いいえ決まってますわね、ダンブルドアでしょう! わたくしが今すぐ――」

「ダンブルドア? それはない。ダンブルドアの動きは、全て監視している。小さな動きならともかく、こんな大々的に雑誌を発行すればすぐに分かるはずだ」

「では誰が……?」

 

 これほどホグワーツの内部事情に詳しいということは、犯人は内部の人間に違いない。

 しかしダンブルドアでないなら、一体誰が……?

 ファッジは『 INSIDE 』の最後のページを開き、記者の名前欄を指差した。

 そこには小さく『S』と、そう書いてあった。

 編集長の所にも、同じ名前が書いてある。

 

「『S』――まさかセブルス?」

「それはない。彼はこういうことをしないだろう。

 私は出来る限りの力を尽くしてこの記者を探したが、発見には至らなかった。

 いや、この記者が誰かなどもうどうでもいい。それよりこれからの事だ。君には今から、記者会見に出てもらう」

「い、今からですか? 魔法大臣閣下、でもそれは――」

「反論は許さない。もう魔法省に大勢の記者が詰めかけているんだ。君はそこで、私が勝手にやりましたと証言しなくてはならない。これはもう決定事項だ!」

 

 頷くことは、当然出来なかった。

 ここで頷くことは、これまでのキャリアを全て捨てるのと同義だからだ。

 しかしそんなアンブリッジの葛藤を無視して、ファッジはアンブリッジを無理やり立たせた。巨体を揺らして抵抗するも、後から部屋に入って来たファッジのSPによって連行されてしまう。

 煙突ネットワークを使い、アンブリッジは魔法省に戻された。あれだけ戻りたがっていた魔法省だが、今はこの世で一番来たくない場所だった。

 

「いやです、いやですわ大臣。ご冗談でしょう? ねえ、そう言ってくださらない? わたくしは長い間、貴方にお仕えしてきたというのに、これはあんまりだと、そう思いませんか?」

「……後十五分で記者会見が始まる。そこで私の望む通りの答えをしなければ、君はキャリアを失うばかりか、ハリー・ポッターを呪った罪でアズカバン行きとなる。よく考えて答えることだ」

 

 ファッジは冷たく言い放つと、アンブリッジを控え室に押し込め、さっさと出て行ってしまった。

 あの男は無能で気弱だが、保身のためなら頭が回り、そして非情になれる。今まではその恩恵を受ける側だったのが、切り捨てられる側に回った。言うなればそれだけのことだ。

 最大の敵は無能な味方。散々自分達がしてきた事のツケを、今払う時が来たのだ。

 

「は、ははは……」

 

 一人になったアンブリッジは、頭を抱えた。

 昨日まで――いやつい三時間前までは、自分は人生の絶頂にいたはずだ。それが何故?

 分からない。

 まったくもって理由が分からない。

 アンブリッジには誰かの陰謀としか思えなかった。

 

「失礼します。お水をお持ちしました」

 

 待合室に誰かが入ってきた。

 帽子を深くかぶっているので顔は見えないが、どうやら青年のようだ。

 アンブリッジは答えなかった。

 答える余裕がないし、そもそも何かが喉を通る気もしない。

 しかし青年は、感じ良さげにアンブリッジに声をかけ続けた。

 

「そう落ち込まないでください。アンブリッジさんの立場、よく解ってるつもりです。その上で申し上げさせていただきますが、ここが最後の踏ん張りどころだと思いますよ。

 この記者会見で本当に悪いのが誰なのかハッキリさせれば、また返り咲けるではありませんか」

 

 何を馬鹿な。

 誰にも私の気持ちなど分かるはずがない。

 しかし、一理ある気もしないでもない。

 悪いのは自分ではなく、ダンブルドアやポッターなのだ。それを大臣や世間の人間にきちんと教えてあげれば、きっと世間は見直すだろう。特に大臣など私に感謝して、昇進させてくれるかもしれない。

 そうだ、あの広い校長室を自分のものにしようと決めたばかりではないか!

 

「その意気です!

 さ、お水を飲んで。カラカラの喉では、上手く喋れませんよ」

 

 ひったくるようにコップを取り、一気に中身を飲み干す。

 よく冷えた水は喉を潤した。

 これから大一番が始まる。アンブリッジは発声練習をした。

 

「ェフ、ェフ! ん、ん。あーーー!」

「オェ。――おっと失礼。いやぁ、いいお声です! きっと歴史に残る記者会見になるでしょう!」

「ありがとう。ところで貴方、お名前はなんていうのかしら? 魔法省には最近入ったの? 聞いたことのないお声だけれど」

「私など、名乗るほどの者ではありませんよ」

 

 ……?

 この男、どこか変だ。

 違和感を感じ、アンブリッジは立ち上がろうとした。

 しかし体に力が入らず、立ち上がれない。

 ――コップに映った自分の顔。

 トロンとしたその表情には、見覚えがあった。過去何度か、アンブリッジは敵対する人間に『真実薬(ベリタセラム)』を飲ませた事がある。そのとき、飲ませられた人間はこんな表情をしていなかっただろうか……?

 

「貴方、まさか――『S』?」

 

 アンブリッジの意識は、そこで途切れた。

 水を持って来た青年は――物凄くいやな顔をしながら――アンブリッジを抱え上げ、記者会見の席に運んだ。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「オエェ! アンブリッジの臭いがまだ染み付いてやがる」

 

 変装道具である帽子を外しながら『S』――ショーン・ハーツは魔法省の中を一人歩いていた。

 みんな記者会見のほうに行っているのか、廊下には誰もいなかった。

 この分なら逃走用の暖炉の確保も楽勝だろう。もっとも来たときに使った暖炉をそのまま使うだけなので、元から簡単なのだが。

 

 ショーンの仕事はもうこれで終わりだ。

 後は記者団の中に紛れたジニーが、『 INSIDE 』の記者として魔法省の悪事を全て暴いてくれる。

 『真実薬(ベリタセラム)』を使ったことは犯罪だが、それが明るみに出ることはないだろう。

 何故ならそれを認めれば、アンブリッジの証言は全て真実だったと公言することになるからだ。

 今ならまだ、アンブリッジの狂言だと言い張ることができる。

 もっともそれを世間が信じるかは、また別の話だが。

 

「私に感謝しろよ、ショーン」

 

 とびっきり人の悪い笑みを浮かべながら、サラザールが言った。

 今回の案、発案者はショーンだが、細かい流れを決めたのはサラザールだ。とはいえショーンが頼み込んだのではなく、むしろサラザールのほうから望んで参加したのだが。

 彼らにしてみれば、ホグワーツにあんな教師がいること自体我慢ならないのだろう。もしバジリスクが生きていたら、今回こそ秘密の部屋を開く本当の機会だったのかもしれない。

 ちなみにロウェナは地団駄を踏むほどキレていて、ゴドリックは「ちょっと抱くのは無理かな?」と直感で破滅するのが分かっていたのか余裕顔、ヘルガは「愛すべき人ですね」と平常運転だった。

 

 しかしまさか、こんなにスムーズに事が進むとは思っていなかった。

 今回の件でショーンがしたことは、驚くほど少ない。

 雑誌の作り方はルーナが教えてくれたし、写真を撮ったのはコリンだ。

 記事を書いたのはショーンではあるが、事実を書けばいいだけなので簡単だった。それにアンブリッジへの悪口なら、自分の名前を書くより簡単に書ける。

 後はまあ二通の手紙――クラムとフラー宛――を書いた程度である。

 

「でもでも、ショーン。今回は私も活躍しましたよね? ね、ね? 褒めてくれても、いいんですよ……?」

 

 ロウェナは絶対的な記憶能力で、魔法使い達の住所をほぼ覚えていた。だからあれほどまでにスムーズに、雑誌を魔法界中に送ることができたのだ。

 『逆探知不可呪文』を掛けてくれたのも大きい。

 ロウェナの技量を持ってすれば、例えダンブルドアであっても魔法の痕跡をたどることはできないだろう。

 

「待った! 僕の功績も忘れてもらっちゃ困るな。アンブリッジとかいう小娘――サイズは小と言えないけど――を倒したことより、君のガールフレンドにステキなデートをプレゼントしたことのほうが、よっぽど大きい功績じゃないか」

 

 ハグリッドの小屋でのデートは、ゴドリックがプロデュースしたものだ。

 流石生粋の女誑し(おんなたらし)というべきか、ショーンから見てもロマンチックだったと思う。

 それにあのデートのおかげでハーマイオニーの口が緩くなったから、今回更に上手くいったのだ。ゴドリックには大いに助けられたと言える。

 

「待ってください。デートの件を持ち出すなら、わたくしも少なくない貢献をしたと自負していますわ。あのチーズフォンデュのレシピは、ホグワーツ史に残るものですとも。ああっ、料理とはどんな魔法よりも優れた魔法です」

 

 実は創設者達の中で最も食いしん坊なのがヘルガだ。

 そんなヘルガは、いつも料理に関することで素晴らしいアドバイスをくれた。

 ……レシピを試行錯誤していたとき、四回もチーズフォンデュを平らげてしまったのはまあ誤差の範囲内だろう。

 

「ま、今回はみんなに感謝してるぜ。もちろん、ロウェナも」

「なんで私だけ『みんな』の枠から外されたのか分かりませんが、褒められました! わーい、わーい!」

 

 ロウェナがぴょんぴょん飛んで喜ぶ横で、ゴドリックとヘルガはお互い無言で拳をぶつけ合った。

 サラザールが一人静かに笑っている。

 カッコつけすぎだ、とショーンがサラザールのお尻を叩いた。

 

「おいやめろ。私はお尻が弱いんだ」

「そんな情報いらねえよ……」

 

 ショーンとサラザールが軽口を叩きあっていると、目の前の暖炉が急に燃え上がった。

 ここにいることがバレるのは不味い。

 咄嗟に身を隠したが――出てきたのはハリーだった。












ハリポタで書くのが難しい人ランキングの一位二位は間違いなくアンブリッジとトレローニーだと思います。
アンブリッジ、原作通りに書けてましたかね?

【オマケ・ダンブルドアの日常】
 ある日、ダンブルドアはふとちょっとしたいたずらを思いついた。
 校長室に入るには合言葉が必要なのだが、それを『開いてにゃん』にすれば、あのマクゴナガル先生やスネイプ先生の『開いてにゃん』が聞けると思ったのだ。
 ダンブルドアは早速、ウキウキした気持ちで扉の合言葉を変え、職員会議で発表した。
 みんな嫌そうな顔をしていたが、校長室に来るには合言葉を言うしかない。
 ダンブルドアは楽しみに訪問者を待った。


 最初に来たのはアンブリッジだった。
 ダンブルドアは直ぐに合言葉を元に戻した。

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