ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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エピローグ

 棺桶を開け、土を掘って地上に出ると、そこは禁断の森だった。

 ここは一千年前では平野だったはずだ。

 少し離れた所に、ホグワーツ城が悠然と待ち構えている。

 タイムスリップ成功、とみていいのだろうか。

 いや、ぱっと見元いた年代の城に見えるが、10年か15年くらいは時間がズレているかもしれない。

 

「お帰りなさい! 私の愛しい――」

「うお!?」

「ごべばあ!」

 

 いきなり横から、ロウェナが抱きつこうとしてきた。

 昔だったら慣れたものだったが、向こうの時代にしばらく居たせいか反射的に手が出てしまい、顎にクリーンヒット。

 喋りかけていたロウェナは舌を噛んでしまったらしく「ひたがいたいれすぅ〜」とその場でうずくまっていた。

 

「す、すまん」

「いいんです。離れてた時間が長かったので、こんな触れ合いでも嬉しいですよ、ええ! あと二、三発はいけます! さあこい! へいへいへーい!」

 

 ショーンに殴られた部分が真っ赤に腫れているのに、むしろ嬉しそうにはしゃぐロウェナ。

 長くあっていなかったせいか、精神がちょっとおかしなことになっていた。

 なんだかんだ心配かけたのかな……とショーンは、ちょっと申し訳ない気待ちになった。

 

「いや、実際いなかったのは三日くらいだよ」

「は?」

「ちょ、なんでバラすんですかゴドリック! 今のままいけば、罪悪感を感じたショーンに慰めてもらえるという展開がですね――ハッ!」

「お前、嘘ついてたのか……」

「ギ、ギクゥ――!?」

 

 ロウェナは汗をかきながら、その場でオタオタし出した。目があっちへ来たりこっちへ来たりしている。そのまま身体もあっちへ行って欲しかった。

 

「さて、と。逆転時計はどこだ?」

「い、行かないで下さい! 確かにショーンがいなかったのは三日でしたが、もう本当に、地獄のような三日間だったんですよ!」

「それは本当。戻って来るって分かってるのに、抜け殻みたいになってたよ」

「ええ、ええ。そうですよ! たった三日も会えなかっただけで寂しくなっちゃう女ですが、なにか?」

「開き直ってんじゃねえよ。1000年前みたいに、自信を持ったらどうだ?」

「ぎゃー!」

 

 ショーンの言葉を聞いた瞬間、ロウェナが発狂した。

 いや、ロウェナだけではない。

 

「だらっしゃああああ!」

 

 ずっと静かだったサラザールが、雄叫びを上げていた。

 性格に似合わない声を上げているあたり、どれだけ精神状態が不安定かよくわかる。

 

「なんだ、なんなのだ若い頃の私は!

 『秘密の部屋』とかいう趣味全開の部屋を作っただけでは飽き足らず、人見知りをして悪態をついて――もういっそ私を殺せ! ええい、逆転時計はどこだ!?」

 

 秘密の部屋は確かにひどかった。

 巨大な蛇の銅像がところ狭しと並べられていたり、自分の巨大な顔像を真ん中に置いたり、あまつさえ口からバジリスクが出て来るよう設計していたり。秘密の部屋はとにかくひどかった。

 1000年前のサラザールもひどかった。

 悪態をつく癖にすぐ顔を赤くするのが、特にひどかった。

 

「あり得ない、あり得ない。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。私があんな悪態をショーンについていたなんて……うそうそうそうそッ! だれか嘘だと言って下さい! 逆転時計はどこですか!?」

 

 ロウェナに至っては、もう精神崩壊一歩手前だ。

 膝から崩れ落ちて、髪を振り回している。

 

 しかしこの分だと、どうやら記憶は戻っているらしい。

 ヘルガが記憶の封印を解いたのだろうか。

 

「わたくしも、その……恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね」

 

 そのヘルガは、照れたように微笑んでいた。

 ヘルガに恥ずかしいところなんて一つもなかった。

 昔も今も聖人の様な女性である。

 

「僕はちょっとカッコ良すぎたかな」

 

 髪をかきあげるながら言うゴドリック。

 お前は一番反省した方がいい。

 

「つーかあれだ。俺が1000年前に行ってる間、お前達はどうなってたんだ?」

 

 ショーンとしてはてっきり、過去に行ったら、創設者達は憑いてくるものだと思っていた。

 実際前に一年タイムスリップした時は、一緒にいたのだから。

 

「うーん、何て言ったらいいんだろう。僕たちはショーンが消えた瞬間、体を失った。昔に遭遇したヴォルデモートみたいな、魂だけの存在に近いのかな。何にも干渉できなくなったけど、存在はしていた」

 

 詳しいところはよく分からないが、幽霊達はショーンから魔力的な何かを得て存在しているらしい。

 ショーンがいなくなったせいで魔力源が消え、いわば『省エネモード』になったのではないか、ということだった。

 1000年前に憑いて来れなかった理由はもっと分からない。過去に生きた自分達がいたせいかもしれないが、結局は推測だ。ただ生身の人間と幽霊がタイムスリップするのとでは、やはり何か違うのかもしれない。

 

「この世でもあの世でもない、靄の中みたいなところを漂っていたんだけどね。君がこっちに戻って来た瞬間、ここに転移したんだ」

「つまりですね! 私達は惹かれあってるということです!」

「……ロウェナ」

「はい!」

「お前昔より馬鹿になってないか?」

「ガーン!」

 

 自分で効果音を言ってから、分かりやすくショックを受けていた。

 今日もロウェナはアホである。

 帰ってきたんだなあ、という実感と共に、強烈に後悔した。漂ってる所を神秘部辺りが持ってってくれたら良かったのに。

 

「ずっとこの世にいなかったってことは、今ホグワーツがどんな感じかは分からないってことか」

 

 幽霊達はそろって頷いた。

 たった3日でそんな変化があるとは思えないが、過去に飛ぶ前にはヴォルデモートが暴れていた。

 もしかしたら、ということもあり得る。

 ショーンは禁断の森を抜けて、ホグワーツ 正面へと出た。

 そこでは、人集りが出来ていた。

 人集りというか、全生徒揃ってる勢いだ。

 なんだろう、チョウがストリップでもしてるのだろうか。

 のぞいてみると、葬式していた。

 

 ――葬式してた。

 

 ホグワーツ真っ正面の庭に出ると、葬式してた。

 だれの?

 ぼくの。

 

 オーケー、情報を整理しよう。

 現代でショーンは死んだことになっている。

 当然葬式をするだろう。

 なるほど、分かった。

 

 ちょっと迷った結果、ショーンは喪に服す事にした。

 ショーンはショーンと仲が良かった。

 生まれた時からずっと一緒。そりゃあ腹の立つこともあったが、共に笑って泣いた仲だ。

 彼が死んだと言うなら、お悔やみの言葉の一つでもしてやろうではないか。

 

 葬儀ももう終盤なのか、今は仲の良かった友人達が一人ずつ別れの言葉を告げていた。

 今はちょうどジニーが別れの言葉を終えた所だった。

 ジニーが台を降りた後、交代でショーンは台に立った。

 みんなショーンを見て口をパクパクさせているが、関係ない。例え話を聞いていなくとも、今は厳粛な場で、お別れの言葉を言わねばならないのだ。

 

「私、ショーン・ハーツから見て、ショーン・ハーツは良き友人でした」

 

 ありきたりだが、良い出だしだ。

 ショーンは自分で言っておきながら、自分の語彙力に感心した。

 

「彼とは苦楽を共にした仲であります。それこそ寝る時も一緒というほど、私と彼は――」

「ちょっと待ちなさい」

 

 ジニーがショーンの肩を掴んだ。

 なんだろうか。

 ショーンにはまったく理由が思い当たらなかった。

 

「アレを読んでみなさい」

 

 ジニーが指差したのは、一つの看板だった。

 

「ショーン・ハーツのお葬式と書いてあるな」

「そうね。今日はショーンのお葬式だわ」

「悲しいな」

「ええ、悲しいわ。あんたの馬鹿さ加減が」

「なんだと! 俺は真剣に喪に伏してるぞ!」

「……はぁ。あんた、自分の名前を言ってみなさい」

「ショーン・ハーツ」

「なぁんかおかしいと思わない?」

 

 ショーン・ハーツがショーン・ハーツのお葬式に出る。

 ジニーの言う通り、何かが変だ。

 しかしショーンは、違和感を感じはしたものの、明確な答えを出せなかった。

 

「確かに何かが変だ。なんだろうな」

「馬鹿。ハグリッドだって分かるわよ」

「お前ナチュラルに、ハグリッドを馬鹿の代表で出すなよ……」

「じゃあロンでもいいわ」

「馬鹿野郎! ロナルドさんを馬鹿にするな!」

「だから馬鹿はあんただって言ってるでしょうが! なに自分の葬式に出てんのよ!」

「……おお!?」

「あーもう! そのワザとらしい反応腹立つわ!」

 

 ジニーは腰に手を当てて、不快感を露わにした。

 だがショーンが肩をすくめると、彼女も笑い、肩を叩きあった。

 切り替えが早いのは、ジニーの長所の一つだ。

 

「なにがあったのか知らないけど、お帰り」

「ああ。まあ、色々な。ただいヘブラシカッ!」

 

 「ただいま」を言い終わる前に、ショーンは吹き飛ばされた。

 タックルを食らったのだ。

 ショーンは押し倒された。

 

「や、やあハーマイオニー。あー……シャンプー変えた?」

「変えてません!」

 

 ハーマイオニーがピシャリと言った。

 懐かしい感覚である。

 

「ん゛んっ!」

 

 そして、キスをされた。

 後ろ髪を掴んで、激しいやつを。

 ショーンがびっくりしているうちに、疲れがどっと出たのか、ハーマイオニーはその場で寝てしまった。

 あまりにも、あまりにも衝撃的な五分間だった。

 周りの生徒達はぽかんとしている。

 ショーンは立ち上がり、両手を広げて、一言。

 

「他に俺にタックルしてキスしたい奴がいたら、予告してからしてくれ」

 

 ともかく、ショーンは現代に戻って来たのだ。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ――――ホグワーツ特急列車。

 楽しいホグワーツでの生活が終わり、生徒達は帰路に就いていた。

 どの生徒も楽しそうに、今年あった思い出を話している。

 しかしこのコンパートメントは、他とはちょっと様子が違うようだ。

 

「――って感じで、現代に帰って来たんだ」

「ほぇ〜。凄いお話だね」

「持って帰って来た賢者の石はどうしたのよ」

「ダンブルドアに売った」

「ああ。そういえば、いつの間にか腕がくっついていたね」

 

 ショーン、ジニー、コリン、ルーナ。

 いつもの四人が占拠しているコンパートメントだ。

 

「ん? ってことはよ。あんた今何歳?」

「1016」

「ダンブルドアよりジジイじゃない。このコンパートメントの平均年齢、あんたのせいで250も上がったんですけど」

「お前ら、歳上だぞ。敬え」

「1000超えてるのに学生やってることを恥じなさいよ」

 

 そう言われると、なんとも言えない。

 ショーンは両手を挙げた。

 

「で、本題だ。ジニー、いくらになった?」

 

 とびっきり悪い顔をして、ショーンが尋ねた。

 ジニーもまた、決して女の子がしてはいけない様な顔をしている。

 

 話のネタは、四人が売った新聞の売り上げだ。

 短期間とはいえ凄まじく売れた『 INSIDE 』。

 人件費や制作費、普通の新聞社であれば掛かっているその他諸々のお金がないので、売り上げがそのまま利益になる。

 

「これよ」

 

 ジニーが皮袋を置いた。

 ズッシリ詰まっている音が響く。

 三人の期待はグッと高まった。

 

「ここまででざっと400ガリオンくらいね。山分けしても、一人100ガリオンくらいかしら」

「うわぁ。僕たち、一気にお金持ちだよ」

「待てよ、コリン。本当に金持ちになるのは、ここからだぜ」

 

 そう。

 ショーン――もといサラザールが考案した作戦が、この程度の儲けなわけがない。

 恐ろしいのは、この後だ。

 ショーンの指示で、ジニーは日刊預言者新聞と魔法省に交渉を働きかけた。

 『 INSIDE 』に日刊預言者新聞と魔法省の名誉回復記事を書いてもいい。その代わり金を出せ、と。

 保身に目が眩んだファッジは、私財と日刊預言者新聞のプール金のほとんどを差し出した。

 

「それがこれよ」

 

 ジニーが出したのは、小さなポシェットバッグだ。

 この小さいバッグに入り切る程度、な訳がない。

 検知不可拡大呪文がかけられているのだ。

 三人はポシェットの中をのぞいた。

 

「……」

 

 思わず、三人とも無言になった。

 驚きすぎると、人は言葉が出てこないらしい。

 それも無理からぬことだ。

 ポシェットの中には、金貨の海が広がっていたのだから。

 言わないが、初めてこの金を見た時ジニーも同じ様なリアクションをした。

 

「大体だけど、60万ガリオンくらいよ」

「ろくっ――!?」

「やろうと思えばもっと引き出せそうだったけど、流石に、ね」

 

 一応、魔法省はジニーの父アーサーの職場だ。

 汚職をしている人間もいるだろうが、彼の様に真っ当に働いている人もいる。

 痛手ではあるが、運営には差し支えないギリギリのラインを要求したのだろう。

 

「おめでとう。私達四人、立派な成金よ」

「まったく。アンブリッジ様様だな」

「ま、ピンクじゃなくて、金のガマガエルだったってことよね」

 

 ショーンとジニーが拳を合わせる。

 その横でルーナとコリンはまだ青い顔をしていた。

 

「僕、これから外を歩けないよ。怖くてさ」

「ボディーガードでも雇え」

「どのくらいフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリームパーラーで食べれるんだろ」

「なんなら店ごと買えるわよ」

 

 二人がごくりとつばを飲み込んだ。

 コリンはもちろん、ルーナがこんな反応をするのはちょっと意外だった。

 しかしよくよく考えてみれば、ルーナの家は決して裕福ではない。ほとんど無職の父親との二人暮らしは、想像より辛そうだ。

 贅沢どころか、女の子らしい事の一つもしたことがないのかもしれない。 

 

「ショーンとジニーは、何に使うか決めてるの?」

「ファッジとグリンデルバルドを呼んで禁じ手無しの泥んこレスリングをしてもらう」

「こだわり抜いた1/1ハリー・ポッターラヴドールを作るわ」

「そっか」

「冗談だ」

「冗談よ」

「知ってるよ」

 

 ふう、と四人はため息をついた。

 なんとなくそわそわする。いざ大金が手に入ると、落ち着かない。

 四人揃って貧乏性であった。

 

 しかもこの金、使うのにちょっとした気を使う必要がある。

 『 INSIDE 』を出すに当たって四人は、『S』という偽名を使った。それゆえに、世間は誰がこの金を持っているか分からないのだ。

 つまり、脱税し放題である。

 事実四人は、このお金に関する税の一切を払っていない。

 脅迫したこともあるが、バレれば一瞬でアズカバン行きだろう。

 

「ま、結局のところ豪遊は出来なさそうね。ちょっとずつ使っていきましょう」

「とりあえずは、セドリックとフレッド、ジョージの卒業祝いに当てるか」

 

 今年であの三人は卒業だ。

 夏休みに集まって、みんなで盛大な卒業パーティーをすることになっている。

 ちなみにセドリックは闇祓い局、

 フレッドとジョージはゾンコのいたずら専門店に就職が決まっている。

 

「後さ、四人で旅行に行こうよ」

 

 コリンの提案に、三人はうなずいた。

 今まで四人の夏休みはバイト三昧で、学生らしい楽しみ方をほとんどしたことがなかった。

 前々から何処かに遊びに行きたい、と話していたのだ。

 

「あっ、そうだ。パパが今度遊びに来てって」

 

 今度はルーナが、家に招待してくれた。

 ルーナの家と父親は、噂になるくらい面白いらしい。

 また一つ、夏休みの楽しみが増えた。

 

 これはするのはどうかしら、とジニーが提案する。

 負けじとコリンも張り合って、ルーナもそれに続く。

 夏休みの予定があっという間に埋まっていった。

 遊びに行きたい場所が特に思い浮かばなかったショーンだが、このままではまずいと、なんとかひねり出した。

 

「スネイプの実家を爆破するのはどうだ?」

「あんた、めちゃくちゃ冴えてるわね」

 

 一瞬でジニーが同意した。

 こうして、スネイプの家は爆破されることが決まったのである。

 

 楽しい夏休み、もとい爆破される予定のスネイプの実家に想いを馳せながら、四人は帰路に就いた。

 また一年、ホグワーツでの生活が終わった。


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