ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第5話 依頼

 夕食以外でこれだけのグリフィンドール生が集まるのをハリーは初めて見た。

 何を隠そう、今日はクィディッチの選手選抜の日なのだ。しかもハリーが新キャプテンとして就任して初の。

 クィディッチは元から人気のスポーツだったが、『生き残った男の子』のハリーや『生き残らせるべきではなかった子供達』ショーンとジニー目当てで今年はより一層募集人数が多かった。

 

「今から選手選抜試験を――おい、黙って話を聞いてくれ! いいかい、今から――いい加減黙らないと呪いをかけるぞ! 整列して!」

 

 今まで生きてきた中で一番大声を出しているが、誰も聞いてなかった。みんな箒に跨って少し浮いたり、話し込んだり、ハリーを写真に撮ったりしている。ウィーズリー家で見た庭小人よりもまとまりがなかった。

 

「静かにしなさい。次ハリーの話を遮ったやつは命を遮るわ」

 

 ドスの効いた声。

 何処ぞのマフィアのボスが発言したのかと思ったが、ジニーの出した声だった。

 しかしその効果は最上級。

 候補生達は喋り方でも忘れたように黙った。

 

「ありがとう、ジニー」

「いいのよハリー。他に黙らせたい奴がいたらいつでも言ってちょうだい」

 

 ジニーに言うとしたら、どんなに穏やかな結末を迎えるとしても、最低限殺人の共犯者になる覚悟が必要だとハリーは思った。

 

「あー……今からみんなにはグリフィンドールのクィディッチ選抜試験を受けてもらう。先ずは箒に乗って競技場を一周してほしい」

 

 予め決めていた方法を伝えた。

 正直言ってレベルの低い試験だ。去年グリフィンドールの最優秀選手だったアンジェリーナだったら逆さまで箒に乗ってたってクリア出来る。

 それでも結果的に言えば、この方法は良かった。

 大半の生徒が一周どころか、最初に箒に乗った時のネビル程も空に浮かんでいなかった。

 優秀な選手どころか試合に出れる人も見つけられないかもしれない……ハリーは気が重くなった。

 

 その後飛べた生徒達だけで紅白戦をしたところ、ハリーの心配を蹴散らしてくれる選手も何人か見つかった。

 先ず、ジニー・ウィーズリーだ。

 ジニーは対戦相手全員の歯をへし折った後、箒まで折って完膚なきまでに打ちのめした。その上ゴールを二十四回も決めた。握力でクアッフルの形を歪めてしまうことと一メートル飛ぶ毎に反則を二回すること以外には申し分ない選手だ。

 続いてケイティ・ベル。

 アンジェリーナを彷彿とさせるスピードのある選手で、文句なしに優秀だった。とはいえケイティは去年から同じチームなので、ハリーは彼女が優秀な事は知っていたが。

 そしてデメルザ・ロビンス。

 新人ではあるものの、その箒捌きは眼を見張るものがある。ジニーがパワー、ケイティがスピード、そしてデメルザのテクニック。それぞれ長所が分散していて、チェイサー陣はいいチームになりそうだ。

 ビーターもフレッドとジョージ程ではないにしろ、力の強いジミー・ピークスと正確さが売りのリッチー・クートが見つかった。

 

 問題はキーパーだった。

 ハリーはキーパー選抜を最後まで後回しにした。選抜を終えた選手が競技場から去るだろうから、プレッシャーに弱いロンの緊張が解けると思ったからだ。しかしこれはまったくの逆効果だった。落ちた候補者達はずっと残っていたし、しかもキーパー選抜に出ると噂されていたショーン目当てで新入生がレタス食い虫のように押しかけていた。

 隣で青くなっているロンを横目に、ハリーはキーパー候補を見回した。

 

 キーパーの候補は二人。

 ロナルド・ウィーズリーとコーマック・マクラーゲンだ。

 ショーンはいない。

 実際のところ、新入生と同じくハリーとしてもショーンがキーパーをしてくれれば最高だった。彼がいれば、グリフィンドールの優勝はハグリッドの図体くらい揺るぎないものになるだろう。

 しかしショーンは辞退してしまった。

 理由は言わなかったが、ハリーには分かっていた。

 ロンに気を遣ったのだ。

 しかしもちろん、ロンもいいキーパーであることは間違いない。精神面が少し弱い所を除けば。

 

「それじゃあキーパー選抜を始めよう」

 

 キーパー選抜は紅白戦に分かれて戦ってもらい、より点を止められた方を起用する方針にした。シーカーとビーターは抜きにして、三十分戦ってもらう。

 これはハリーが一晩考えて編み出した、ロンを絶対に勝たせる方法だ。

 

「それじゃあ白チームにコーマック、ケイティ、デメルザ、シェーマスだ」

 

 この選出にコーマックは概ね満足しているようだ。

 続いてハリーは赤チームのメンバーを呼んだ。

 

「赤チームはロン、ジニー、ショーン、僕だ」

「タイム!」

 

 コーマックが大股で近づいて来た。

 

「チームが偏り過ぎだろ!」

「そんなことない。そっちは正選手が二人いるし、シェーマスも控えだ。こっちはチェイサーの正選手は一人しかいない。僕はシーカー以外やったことがないし、ショーンは選手でさえないじゃないか」

「そんなの詭弁だ! 俺は見たんだ、ハーツのやつが箒に乗って湖の上をアホみたいな軌道で飛んでるのを! クィディッチに興味がないだけであいつは――!」

 

 コーマックはデカイ図体を揺らして吠えたが、ハリーは取り合わなかった。

 

「僕のやり方が気にくわないなら辞退すればいい。チームのキャプテンは僕だ」

「ぐっ……! いや、分かった。みてろよ! 俺が勝つ!」

 

 ほかの人を押し退けながらコーマックは白チームの方へと歩いて行った。

 それを見送った後、ハリーも赤チームの方へと戻る。

 

「二人とも、よろしくね」

「こちらこそよろしくハリー。いい試合にしましょうね」

「とっとと終わらせようぜ。どうせキーパーはロナルドさんに決まりだ」

「……うん。そうだといいけど」

「大丈夫ですよ! ロナルドさんでしたら隕石が降って来たって止められます!」

 

 チームの雰囲気は良さそうだ。

 観客も圧倒的に赤チームの方を応援してる。

 

 そして紅白戦が始まり、ロンが正キーパーになった。

 勝負は一瞬だった。

 あっという間にショーンが二人抜き去り、ジニーにパスを出した。パスを受け取ったジニーは思いっきりクアッフルをぶん投げた。

 シュートを止めようとコーマックが真正面からクアッフルとぶつかったとき――ハリーは何処かでダンプカーとロードローラーが正面衝突したと思った。

 凄まじい音と共にコーマックは吹き飛ばされ、クアッフルごとゴール・リングを潜った後、ピクリとも動かなくなった。

 後は点を入れ放題だった。

 

「お疲れさまみんな!」

「ええ、いいプレイだったわね。特にハリー、あなたってば最高に冴えてたわ」

「ありがとう、ジニー。ショーンも選手じゃないのに手伝ってくれてありがとう」

「気にすんな。クィディッチ頑張れよ」

「うん。……ねえ、ショーン。やっぱりチームに入らない? 今日の感じを見ると、チェイサーでもいけそうだと思う」

「パス。これでも結構忙しいんでね」

 

 そう言ってショーンは歩いて行ってしまった。

 フレッドとジョージがいた頃は二人が盛り上げ役になってくれた。試合をする上で観客の力は思ってるよりも大きい。ショーンとジニーが揃ってくれれば……ハリーはそう思わずにはいられなかった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ――走る。

 走る、走る、走る。

 ひたすらに走り続ける。

 それは逃亡であった。

 目標に向かって走り続けるそれではなく、嫌なことから逃げるためのそれ。

 恥も外聞もかなぐり捨てて、ひたすらに走り続けていた。

 

「お待ちなさい!」

 

 後ろからマグゴナガル教授が追いかけてくる。

 その側にはスネイプもいた。

 二人とも血走った眼でこっちを睨んでいる。捕まれば良くないことになるだろう。少なくとも、暖かいココアでも飲みながらチャドリー・キャノンズが今年は何連敗するかについてゆっくり話し合う気でないことは確かだ。

 

「ハーツ、貴様、ぶっ殺してやるぞ!」

「なんで俺だけ名指しなんですか!? ジニーもいるでしょう!」

「私は愛人枠だからいいのよ」

「ウィーズリーはただでは殺さん! この世の苦しみを全て味わわせてやる!」

 

 スネイプは怒りのあまり、死喰い人時代にまで戻ってしまった様だ。

 あるいはウィゼンガモット法廷の判決が間違っていたのかもしれない。やはり奴は生粋の死喰い人だ。ええい、闇祓いは何をしているんだ!

 

「なによ、あんなに怒っちゃって! 大人気ないわね!」

「本当にな。ちょっとポリジュース薬で二人に変装して、大広間で手を繋いだけなのにな」

「二人でハリーに「あーん」もしたわ」

「でも、それだけだ」

「ダンブルドア校長に愛を歌った詩もプレゼントしたわよ」

 

 それは確かにやりすぎだったかもしれない。

 しかし詩の出来が良かった分、そこはトントンだとショーンは思った。次世代のシェイクスピアと呼ばれるに相応しい人間がいるとするなら、それは自分だろう。

 

「ところで、ショーン。私からいい案があるんだけど」

「なんだ?」

「私が囮になるわ。あんたはその隙に逃げなさい」

「ジニー……」

 

 ジニーはとても真剣な眼をしていた。

 一点の曇りもない。

 いや、晴れているところが一点もないと言った方がいいだろうか。

 ショーンの答えは決まっていた。

 

「ダメだ! お前を捨ててなんていけない!」

「私のことはいいの! あんたさえ無事なら、私はどうなっても構わない!」

「いいや、ダメだ!」

 

 マグゴナガル教授とスネイプは名門ホグワーツの先生だ。

 例え生徒達やショーンからの認識がクィディッチ狂いと童貞の痛い人だとしても、二人はめちゃくちゃ強い。

 捕まればボコボコにされるだろう。

 更に言えば、ショーンはホグワーツで最も足が速い生徒だが、魔法を使うあの二人から逃げ切れるとは思っていない。そのくらい卓越した技量を持っているのだ。

 

 そんな二人にジニーだけを差し出して自分だけ逃げるわけにはいかない。

 グルフィンドールの名折れである。

 ショーンはジニーから離れるわけにはいかなかった。絶対に。何があっても離さない。

 

「隙ありィ!」

 

 ジニーがショーンの服を掴み、思いっきりぶん投げた。

 やっぱり裏切りやがった!

 このクソビッチが!

 

「やりやがったなクソッタレが!」

「油断する方が悪いのよばーか! スネイプ先生! マグゴナガル先生! ショーンがあっちに逃げました! しかも向こうの先は行き止まりです!」

「舐めんなゴラァ! アン・ドゥ・トロア!」

 

 空中で一回転して態勢を立て直す。見事なきりもみ回転。ショーンはシェイクスピアではなくアンナ・パブロワだったのだ。

 壁を蹴って再びジニーの横に並ぶ。

 

「死にさらせやあ!」

 

 のみならず足元を払った。

 今大事なのは詩ではなく死である。ショーンはシェイクスピアでもアンナでもなくヴォルデモートだったのだ。

 

「ぷげぇ!」

 

 ジニーが顔面からずっこける。

 この世からまた一つ悪を滅ぼせた。ショーンは実に晴れ晴れしい気持ちであった。

 

「ざまあみやがれ! ハーハッハッハッ!」

「死なば諸共よ!」

「どぶぁ!」

 

 ショーンの足首が恐ろしい力で掴まれた。

 堪らず倒れ込み、ジニーと揉みくちゃになる。なんて恥知らずな奴なんだろう。ジニーは自分のことしか考えていないクソ女だ。助け合いだとか道徳と言ったものを一切持ち合わせていない。ついでに知能もない。余談ではあるがロウェナは胸がない。最悪だ。道徳の塊であり聖人君子の名を欲しいままにする真のグリフィンドール生の自分を見習ってほしい。

 

「おまっ、死ぬなら一人で死ねよ!」

「ああん゛? 誰のせいで転んだと思ってるのよ!」

「はあ? 元はと言えばお前のせいだろ!」

「そんな昔のことは忘れたわ」

「おう、どのくらい殴れば思い出せる」

「そうね、五回くらいあんたを殴れば思い出せるかもしれないわ」

「なんで俺を殴って思い出すんだよ! 先に常識って奴を思い出させなきゃダメそうだな」

「つか速く私の上から退きなさいよ。さっきから色々と当たってんのよ」

「うわ、ばっち」

「ばっちかないわよ! むしろ美しいわよ!」

「お前を美しいって……どんな特殊性癖持ちだ?」

「よーし、あんたには美意識って物を教えてあげないといけないようね」

「望むところだ」

 

 揉みくちゃになっていた状態から一転。二人はワンアクションで立ち上がり、向かい合って構えを取った。

 その後はいつものように血で血を洗う、どちらかが死ぬまで止まらないデスマッチへと――ならなかった。

 この赤毛のアホをしばいてやりたいのは山々だが、そうしているとスネイプとマクゴナガル教授に追いつかれそうだ。

 

「ちっ、ここはひとつ休戦にするか」

「あんたにしてはいいこと言うじゃない。私も同感よ」

「二手分、8秒だけ手貸せ」

「ま、それが妥当なところね」

 

 ジニーはショーンの襟を掴み、思いっきりぶん投げた。空中で呼び寄せ呪文を使いジニーを手繰り寄せる――これで一手。

 距離を稼いだところでジニーがインスタント煙幕を取り出した。インスタント煙幕とはジョージとフレッドが作った試作品のイタズラグッズであり、その名の通りお手軽に煙幕を作り出せる。これの厄介な点はほとんどの呪文が効かない点だ。勿論マクゴナガル教授とスネイプ程の魔法使いなら払えるだろうが、最初は面食らうだろう。

 ジニーがインスタント煙幕を使ったのとほぼ同時に、ショーンはペットのヒキガエルを地面に滑らせた。ショーンのヒキガエル――ハロウィーンはどんな人間の声も出すことが出来る。囮としてこれほど優れている動物は他にいない。

 事実マクゴナガル教授とスネイプも、ハロウィーンが出す二人の声を本物だと信じ切っていた。最後にアクシオでハロウィーンを呼び戻す。

 ここまでが二手目、きっかり8秒。

 

「んじゃ、私こっちに行くから」

「はいよ」

 

 ジニーとショーンは二手に分かれた。

 二人は敵同士である。

 今は共通の敵を前にして一時的に手を組んだが、またいつ裏切るとも分からない。爆弾を抱えた状態で逃げるのは得策ではないだろう。

 

 宿敵ジニー・ウィーズリーと別れた後、ショーンはひとり廊下を歩いていた。

 グリフィンドールの談話室はマクゴナガル教授が張っているだろうから戻れない。スリザリン寮も同じくスネイプが見張っているだろう。となると選択肢も狭まってくる。ハグリッドの小屋でお茶するか、ハーマイオニーでも誘って禁断の森でピクニックするか、必要の部屋で創設者達と雑談でもするか、その辺りだろう。

 

「君がショーン・ハーツ君かな?」

 

 これからの予定を考えていると、後ろから声をかけられた。

 振り返ると、立っていたのは新任のホラス・スラグホーン教授だった。

 

「ええ、そうですよ。僕に何かご用ですか?」

「いい、いい。私にはそんな取り繕わなくて。これでも耳はいい方でね、君の噂はかねがね聞いているよ」

「失礼、スラグホーン教授。これで中々人見知りな方でして」

「ほっほう! 君が人見知りとな! これは面白いことを聞いた」

 

 スラグホーン教授という人物は随分と噂話が好きなようだ。

 

「実は他でもない君に頼みたいことがあるのだが……立ち話もなんだ。私の研究室に招待しよう。いやなに、研究室といってもお茶の用意くらいある。ダンブルドアになにかと融通してもらってるのでね」

 

 困ってる人を見つけたら助けてしまうことに定評のあるショーンだが、スラグホーン教授の頼みごとというのは随分怪しかった。先ず、スラグホーン教授とはほとんど初対面だ。もちろん授業なんかでは顔を合わせるが、個人的に話したことは一度もない。ホグワーツの教授になるほどの人間が親しくもない生徒にお願い事をするだろうか?

 最悪、研究室に行ったらマクゴナガル教授とこんにちはするかもしれない。

 どうしたものか……。

 数巡悩んだ末、ショーンはスラグホーン教授に着いて行くことにした。困っている人はやっぱり見捨てられない。なんか面白そうだったからとか、決して不純な動機ではないのだ。断じて。

 

 実際に見てみると、たしかにスラグホーン教授の研究室は他の教員の私室と比べて広いように見えた。

 そういえばハリーが、ダンブルドア校長が引退したスラグホーン教授に無理を言って引き込んだとかなんとか言っていた気がする。優遇されているというのは案外本当なのかもしれない。

 椅子に座ると、スラグホーン教授は宣言通りに紅茶を淹れてくれた。口をつけてみると存外に美味しい。中々いい茶葉を使っているようだ。ショーンはサラザールに教わった、純血の間で使われるポピュラーな褒め言葉を言った。

 

「ほっほう! 君はマグルの出身だと聞いていたが、こういった貴族の遊びも分かるのかね」

「分かるというほどではありません。恥をかかないよう、最低限のマナーを知っているだけですよ。あまり披露する機会には恵まれませんが」

「ああ、そうだな。昔からの価値ある物の良さを理解出来る者は最近ではごく僅かだ。私のパーティーでも度々すれ違いが起きる。悲しいことだ」

「お察しします」

「いや、いいんだ。流行とは常に移り変わることくらい私も知っている。私が教員を離れて長い……若者に着いて行けなくて当然だ」

 

 スラグホーン教授のパーティーは今のホグワーツでは少しばかり有名だ。

 なんでも親戚や知人に有名人がいる生徒ばかり集められた、コネクションを広げる場なのだとか。

 しかしもてなしの方法がイマイチ古く、みんなが大満足しているかと聞かれるとそういうわけでもないらしい。

 

「若者といえば、君は随分と同世代の若者達から人気があるようだね。この間食事会を開いたときなど、大半の人間が君とウィーズリー家の末お嬢さんがいなくてびっくりしていたよ。それになんでも、ビクトール・クラムや妖女シスターズと懇意にしているとか?」

「いいえ、まさか。たまたまその時ご縁があっただけですよ」

「謙遜はしなくていい。あのアルバスでさえ君には目を掛けている。彼でさえ終ぞ見つけられなかったグリフィンドールの剣を、君は一発で抜いたと言うじゃないか! 紛れも無い才能だ!」

 

 ショーンはありったけの恨みを込めてゴドリックを睨んだ。

 しかし彼はスラグホーン教授が飾ってある生徒達の写真――正確に言うと女子生徒の写真だけを――吟味するのに夢中で、まったくこっちを見ていなかった。

 

「ああ、話が逸れてしまった。年寄りの癖だ。君にお願い事をしたいんだ」

「なんです?」

「今年のクリスマスに盛大なパーティーを開こうと思っている。しかしさっきも言った通り私は流行に着いて行けてない。そこで君にプロデュースしてもらいのだ」

「いいですよ」

 

 ショーンはあっさり承諾した。

 

「おお、ありがたい!

 ……しかし何故だね。正直に言って私と君はあまり話したことがない。それに、なんだ、他の先生方からの噂によれば、君にお願い事をする時は必ず報酬がいると聞いていたのだがね」

「まあそういう場合もあります。しかしですね、先生。時代を問わず変わらない不文律というものがホグワーツにはあります」

「ほう。それはなんだね?」

「パーティーを盛り上げるのに理由はいらない」

 

 ショーンがそういうとスラグホーン教授はセイウチの様なお腹をトドのように鳴らして笑った。弾けたボタンがロウェナの鼻頭に当たっていたが、もちろんスラグホーン教授は、歴代の教員で初めて創設者を攻撃した功績に気がついてはいなかった。

 

「なんなりと、ショーン君、なんなりと私に言ってくれたまえ。最高のパーティーをする為であれば、君の言うことは全て聞こう」

「ありがとうございます、スラグホーン教授。必ずやホグワーツを吹っ飛ばしてみせます」

「そこまではしなくていいが……それが最近の流行なのかね?」

「一部界隈では」

 

 非常に狭い界隈だが、確かに存在する事をショーンは知っていた。

 というかショーンとジニーだった。

 

 ともかくこうして、教員であるスラグホーン教授の全面的なバックアップを受けたショーンによるクリスマス・パーティーの開催が決まったのである。







【オマケ・ショーンとジニーが絶対にやってはいけないことリスト】
第101条 あなた方は「プリティ・リトル・ライヤーズ」ではありません。
第102条 「超本格的・魔女狩りゲーム」を開催してはならない。
第103条 ショーン・ハーツによる「ヴォルデモートがもしドアノブに電気が通ってるドッキリに引っかかったらのモノマネ」は面白すぎたため、禁止になりました。
第104条 ジニー・ウィーズリーの「塩漬けの魚を食い過ぎて嘔吐するダンブルドア校長のモノマネ」にはみんなもう飽き飽きしています。
第105条 「音楽性の違い」は授業を休む理由にはなりません。
第106条 寝ている人間の顔に油性ペンでラクガキをした後、水性ペンを近くに置いて安心させてはならない。
第107条 「詩の朗読会を開きたい」という理由は禁書の棚への入場を許可する理由になりません。
第108条 フィルチ管理人の髪はたしかに薄いですが、それは彼が『例のあの人』の熱心な信奉者だからではありません。
第109条 いいえ、『例のあの人』はイエズス会には所属していません。
第110条 グリフィンドール寮の入り口を守る『太った淑女』を「マクゴナガル教授から新しい合言葉を預かっている」と騙し、卑猥な言葉を新しい合言葉に設定してはならない。
第111条 その際女生徒が言った卑猥な合言葉を録音し、高値で売っていたことは、ホグワーツ創設以来最も英国的でない行為です。
第112条 ポリジュース薬を使った「超本格的・スネイプ教授が絶対に言わなさそうな言葉を言う大会」は特定の人物のイメージを強く損なう危険性があります。
第113条 「地底人を見つけようとした」は半径5メートルに渡り、睡眠中にあったスネイプ教授のベッド周りに穴を掘ったことへの言い訳になりません。
第114条 スネイプ教授に「ラップ調テーマソング」を勝手に設定してはならない。
第115条 ましてや自作のラップ調テーマソングを教授が教室に入って来た際や、説教を始めた際に流すのは極めて挑発的な行為です。
第116条 スネイプ教授が真っ黒な服装をしているのは「色盲の生徒への配慮」が理由ではありません。
第117条 スリザリンの生徒を眠らせ全裸にしたあと、ローブ一着だけを添えて時計台の最上階に放置する遊びは、寮同士の間に二度と埋まらない溝を作る可能性があります。
第118条 ホグワーツでは度を越した不純異性交遊が禁止されています。半裸の男女が騒いでいたのなら、確かに教師に報告する義務があるでしょう。ただしその男女が屋敷しもべ妖精達であるなら、報告する必要はありません。
第119条 スカートで箒に乗る際、過激な下着を履いてはならない。
第120条 ノーパン・ノーブラ推奨という意味ではありません。


※破るとセドリックがマグゴナガル教授にガチ説教されます。

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