ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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【今日のハリポタ豆知識】
グーグルに『ジニー・ウィーズリー』と打ち込むと最初の予測に『ジニー・ウィーズリー ビッチ』と出てくる。





第8話 ウィ・ウィル・ロック・ユウ

 ある日の休日。

 ショーンは大広間で待ち合わせ相手を待っていた。すると向こうからシャンデリアが歩いて来た。ショーンはそう思ったし、実際のところ多くの人間もそう思っただろうが、どうも違うらしい。

 

「こんにちはショーン」

「やあルーナ。……なんだその、それ」

 

 シャンデリアに見えたのはショーンの待ち合わせ相手であるルーナの、なんと言っていいのか分からないが、服という言葉を使うのは(はばか)られる、とにかく身にまとったナニカだった。

 シャンデリアが歩いて来るのと、シャンデリアの格好をしたルーナとどっちの方がマシなのかショーンには判断がつかなかった。

 

「今日はクリスマスじゃないし、とびっきり憎いやつの葬式にでも行くのか?」

「私のセンスじゃないよ。ニールズ避けなんだ」

「ニールズどころか、ロンドンだって道を譲りそうだ」

「そうかな?」

「ああ。今度ダイアゴン横丁に行った時もうちょいマシなのを見繕ってやるよ」

「本当に? やったあ! 楽しみにしてる」

 

 ルーナはショーンの隣に座った。

 近くで見て分かったが、耳にイヤリングをしている。たぶん。もしかすると鼻輪をイヤリング代わりにつけている可能性もあった。

 ルーナの服装を見るたびにショーンはこの世から戦争がなくならない理由について、なんとなく近づいてる気がした。

 

「何食べてるの?」

「牛と草の死骸」

「口に合わないお料理を死骸って言うのやめなよ」

「それ以外になんて表現していいか分からない。『死 〜アバダ・ケダブラ風味〜』とかか?」

「あんまり変わらないって思うな」

「『千年の恋も冷める味 〜ついでに身体も冷たくなる〜』ってのはどうだ」

「毒の説明だったら最高かな」

「なら間違ってないな」

 

 ホグワーツの料理は基本的に最高なのだが、稀に物凄いハズレがある。

 きっとヘルガが不機嫌な時に作ったものだろう。

 それか、お情けでロウェナ考案のメニューを載せたか。

 

「ごちそうさんでしたっと」

 

 ショーンは空になった皿に向かってフォークを投げた。

 

「何だかんだ言ってもちゃんと食べ切るの、私は偉いと思うな。だって食材さんが可哀想だもん」

「専門じゃないから詳しいことは分からないが、これを捨てようと思ったら専門の処理施設に依頼しなきゃならないだろう。それがめんどくさいからだよ」

「またそんなこと言って、すぐ皮肉を言うのはショーンの良くない癖だよ。それより早く行こう」

 

 ルーナに腕を掴まれて、ショーンは子牛の様に運ばれた。ひとつ歌でも歌いたくなる気分だ。具体的にはシュロム・セクタング作曲のイデュッシュの歌を。

 

 ホグワーツ城を抜けた二人はハグリッドの小屋を素通りして、湖のほとりに来た。少しひらけた場所には木で作った手造りの机と椅子が四つ置いてある。今はいないコリンとジニーを含めた四人はここでご飯を食べたり、ボードゲームで遊んだり、湖に向かって宿題をぶん投げたりしていた。つまりは溜まり場、というやつだ。

 

「ね、ね。速くチューニングして」

 

 そう言ってルーナが渡して来たのは、木製の小さな笛だ。ショーンの手造りである。この笛だけでなく、ここにある家具は全部ショーンの手造りだった。別にハグリッドに言って分けてもらうことも出来たのだが「自分達で造った物の方が愛着が湧くじゃない!」と元気一杯にジニーが言ったので、造ることになったのだった。

 そして当の本人は今から薪売り屋でも開くのかというほど木をぶっ壊しまくったため早々に戦力外通告を受け、結局ショーンが創る事になったのである。

 

「ハロウィーン、出番だ」

 

 ローブの袖からハロウィーンを出す。

 ハロウィーンはどんな音階でも完璧に出すことが出来る、天然のチューナーだ。ショーンはハロウィーンの歌声と共に笛を吹いて、ズレてると感じたら穴を広げてを繰り返した。

 

「出来たぞ」

「わーい! いつもありがとう」

 

 仕上げにスコージファイをかけた笛をルーナに渡した。

 

「お礼は樽いっぱいのクリスマス・プレゼントでいいぞ」

「それじゃあワイン製造会社の人に樽をもらわなきゃいけないね」

 

 二人は顔を見合わせて笑った。

 

「俺はもうちょっとここで作業していくけど、ルーナはどうする?」

「うーん、どうしようかな。コリンとジニーは来れないんだっけ?」

「コリンは写真の現像、ジニーはハリーとクィディッチの練習。今は二人を刺激しない方がいい。産卵期のドラゴンより凶暴だ」

「そうだね。それじゃあ私ももう少しここに居ようかな。ハロウィーンを借りてもいい?」

「いいけど、返す時は利子付きで頼むよ」

「それじゃあオタマジャクシを捕まえて来なきゃだね」

 

 ガマガエルを貸した利子としてオタマジャクシを払うのは、中々気の利いた返しだとショーンは思った。

 

「あっ、そうそう。私、どんなに嫌いな人のお葬式でもちゃんとした礼服を着るよ?」

「えっ? あ、ああ……序盤の会話のことか」

 

 相変わらずルーナの会話のテンポは独特だ。

 このテンポを解読すれば、バッハにも負けない曲が書けることは間違いないだろう。

 しかしルーナの言う「ちゃんとした礼服」が、世間一般で言う「ちゃんとした礼服」であるかは(はなは)だ疑問だった。ルーナが葬式とハロウィンを勘違いしている可能性は否定しきれない。

 

「ショーンは何するの?」

「こいつを彫る。完成したらきっと面白いぞ」

 

 ショーンが手に取ってルーナに見せたのは、サーフボードに近い形をした板だった。特徴として、真ん中に縦線が一本入っている。ここに箒をはめ込んで、波のない湖や空でサーフィンを楽しもうという魂胆だ。

 

「ハロウィーン、お膝においで」

 

 ハロウィーンはのっそりとした動きでルーナの膝の上に乗った。

 ルーナが笛を吹き始める。

 ハロウィーンもそれに沿って、美しい声で歌い出した。

 

「それじゃあ俺はドラム担当ってことで」

 

 ハンマーで(のみ)を叩いて木を削る。

 するとルーナが横目でこっちを見た。

 ――合わせろよ。

 ――うん、いいよ。

 ショーンが奏でるリズミカルな低音に、ルーナは曲調を変えて合わせてきた。即座にハロウィーンも付いてくる。

 大自然の中、手造りの笛を吹く少女とハンマーを奏でる少年と歌うヒキガエル。

 まるで出来の悪いミュージック・ビデオみたいだな、とショーンは思った。

 

 久しぶりにルーナと二人で過ごす時間は、とても穏やかだった。

 少なくともルーナ相手なら、ふとした瞬間に殴り合いになって湖に投げ込まれる心配はない。

 それだけでもルーナにはかなり大きな価値があると感じた。

 

「そこには美しき岸辺が有り――」

 

 ふとヘルガが歌い出した。

 童謡に近いメロディーだ。

 歌の上手さでいうとヘルガよりゴドリックの方が上手いのだろうが、こういう曲はヘルガの方が圧倒的に似合っている。慈しみだとか、愛おしさだとか、そういうものがこの世界にはあるんだという事実を思い出させてくれる気がした。

 

「――そこには美しき森が広がる。

 ホグワーツ湖に太陽の光輝く。

 過ぎ去りし陽気な日々。

 美しき校舎、美しき岸辺、ホグワーツ湖――」

 

 ショーンの学力は決して高いとは言えない。それでもヘルガの歌がホグワーツの湖の美しさを歌っているのは分かった。

 そしてふと、ショーンはとあることに気がついた。

 物凄く昔のことのように思えるが、最初に会った頃、ルーナはショーンに幽霊が取り憑いていることを見破った。つまりルーナには、両親が雇ってきた霊能者の様な、特殊な力が備わっていることになる。しかしどうも声は聴こえていないらしい。思い返してみると、霊能者も存在を感知しているだけで、声は聞こえていなかった様に思える。

 

「ルーナ」

「なあに?」

「歌声が聴こえないか?」

 

 ルーナは周りをキョロキョロした後、自分の足元を見た。はたしてルーナの私生活において足元から歌声が聞こえてくることがあるのかショーンには気になったが、今はもっと確かめねばならないことがあった。

 

「聴こえないよ」

「そうか……なあ、ルーナには見えてるんだよな。俺に憑いてるこれ」

「これとはなんですか、これとは」

 

 指を刺したロウェナぷんすかと怒っていたが、今はどうでもよかった。付け加えるなら、ロウェナが怒ったことをショーンが気にしたことは今まで一度たりともない。

 

「見えるとはちょっと違うかな。感じるんだ。凄く嫌なモノが憑いてる。前に見た吸魂鬼よりも暗くて、怖いもの」

「すごい言われ様ですね、私達」

「(サラザールの性格が)暗くて、(怒ったヘルガの顔が)怖いって意味じゃないかな」

「ゴドリック貴様、よほど私の暗い部分を見たい様だな」

「わたくしってそんなに怒ってるイメージがあるのでしょうか……」

「おっと。いらない藪を突いたかな。まあ蛇が来ても倒すんだけどね!」

「貴様には『死の呪文』の一歩先を教えてやらねばならぬ様だな!」

 

 ルーナがどういう風に幽霊を見ているかは別として、ショーンとしては幽霊を怖いと思ったことは一度もない。それどころかせっかくルーナが真面目な話をしているのにアホな会話をしている幽霊達に、怒りさえ湧いて来た。しかもサラザールに至っては、明らかにヤバげな魔法を使ってる。ヴォルデモートが使う『死ぬ呪文』よりパンチが効いてそうだ。

 しかしそれは置いておいて、ルーナにそういう風に見えているというのは無視出来ない問題だった。

 もしショーンから見て、ルーナに――例えばそう、ジニー・ウィーズリーの幽霊が憑いている様に見えていたとする。そうするとショーンはダンブルドア校長に泣きついた後、ベッドの中で眠れぬ夜を過ごしていただろう。

 それなのに最初の約束通りルーナが誰にも言わずにおいてくれたことは、勲一等マーリン賞にノミネートされる程の偉業に思えた。

 

「ありがとうな、ルーナ。昔の約束を守ってくれて」

「? どうして? 約束は守って当たり前のことだよ?」

「そうだけどさ。まああれだ、ルーナはスリザリンには向いてないな」

「なにそれ? ショーン今日は変だね。いつも変だけど」

「お、お前に変って言われるとはな……」

「でも、どういたしてまして。お礼はちゃんと受け取るんだ。その方が楽しいから」

「俺は受け取らない方が楽しいけどな。恩を売っておいて後でとんでもない方法で回収した方が愉快だ」

 

 ルーナが呆れた目で見て来た。

 他のやつだったら一週間はそんな目で見れない様にまぶたを腫らしてやる所だが、ルーナには多大な恩がある。

 

「……でもね、私、ちょっとだけ嘘ついたちゃったかも」

「うそ?」

「うん。私の死んじゃったママが言ってたの。約束は守りなさい、って。

 その時の私は、いっつもママの言いつけを守らない悪い子だったから。入っちゃいけない研究室に入ったり、構ってもらいたくてパパとママのお仕事の邪魔をしちゃったりね。

 約束は守って当たり前って言ったけど、それは私自身の考えじゃなくて、ママが言ったからそうしてるだけなのかも」

「なるほどね」

 

 ルーナの母親が、まだルーナが幼かった頃に死んでしまったという話は前に聞いたことがあった。

 そしてルーナが母親のことを尊敬していることも。

 もっとも、ショーンにとってはよく分からない感覚だったが……。

 

「それは別にいいんじゃないか?

 ルーナはお母さんのことを尊敬してて、教えを大切にしてる。上手く言えないけど……人格を形成してる根幹にお母さんがいるなら、お母さんの教えを守ることは当たり前っていうか、自分の考えになるんじゃねえの。

 なんかこう、お母さんが「こうしなさい!」って言ったのを自分で選んだんだから自分の考え的な?」

「そうかな」

「ああ。俺なんか、母さんから教えてもらったことなんてほとんどやってないからな。普通にしなさいとか、魔法を使うなとか。後両親そろって菜食主義だったから、肉を食うなってのも言われてな」

 

 ショーンの言葉を聞いてルーナはにっこりと笑った。この笑顔の為ならば、両親に後五回ほど見捨てられてもいい。

 

「あっ、ショーン。あのね、後でジニーとコリンにも言うつもりなんだけど、探して欲しい物があるの」

「探して欲しい物?」

「うん。ママのペンダント。無くなっちゃったんだ」

「呼び寄せ呪文は試したか?」

「もちろん。でもダメだった。多分、何処かに閉じ込められちゃってるんだと思う。他の物はいいんだけど、あれはすっごく大事な物なの」

 

 閉じ込められてる……?

 ショーンはその表現に激しい疑問を覚えた。

 まるでペンダントが他の誰かの手によって、タンスの中にでも幽閉されている様な言い方だ。

 いや、実際そうなのだろう。

 自分でも驚くほど、ショーンの頭は冷たくなっていた。そして同時に、一年生の時、帰りのコンパートメントでルーナのトランクを上に上げた時の思い出した。行きと比べて随分軽くなっていた、あのトランクを。

 

「(ロウェナ、魔法で探せないか?)」

「(ええ、出来ますよ。お望みでしたら今すぐにここに持ってくることも出来ますが、どうしますか?)」

「(待て、私に考えがある。ここは一旦置いておけ)」

 

 サラザールの案に同意した。

 すぐにでもルーナにペンダントを返してやりたかったが、それではまた同じことを繰り返しになる可能性がある。

 

「ルーナ、ペンダントは俺が絶対に探してくる。だからそれまで待っててくれるか」

「うん。ショーンはなんだって出来るもんね」

 

 それは言い過ぎだろ、とショーンは思ったが口には出さなかった。こうして親しい人間に頼られることは嬉しいことで、水を差したくなかったからだ。

 だからこそ余計に、ペンダントを隠した奴をぶちのめそうと思った。

 久しぶりに……本当に久しぶりに、ショーンは頭のてっぺんからつま先までキレていた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 結論から言えば、ルーナのペンダントはすぐに見つかった。

 ホグワーツで最も大きい廊下の屋根にあるシャンデリアの上に、くくりつけて置いてあった。

 普通に探してたのではまず見つからない。

 相当悪質な手口だ。

 

「高貴な者が学ぶホグワーツでこれ程までに下賎な行為をする者がいるとはな。まったく、万死に値する」

「別に貧乏な奴もいるだろ」

「そういうことではない。心が高貴だと言いたいのだ。学校がただ魔法を覚える場所だと思っているならそれは大きな間違いだと言っておく。価値観の違う大勢の同世代の人間、道を指し示してくれる教師、そして多くの学びが存在する環境――その中で心の豊かさを育む。そういう意味で高貴だ」

 

 サラザールにしてはマトモなことを言っている。

 普段ならそういう信念は、彼は心の中に留めておくタイプの人間だ。今回はサラザールも相当怒っているということだろう。

 

「それで、どうするんだ?」

「ロウェナに待てと言ったのは、現場が見たかったからだ。所詮は子供の悪知恵、少し推理すれば容易に犯人を特定出来る」

 

 そう言ってサラザールは、ペンダントがあった場所や周りの状況をつぶさに観察し始めた。そして10分もしないうちに「分かったぞ」と言って、推理を語り出した。

 

「結論から言えば、犯人はレイブンクローの七年生だ。そしてクィディッチの試合観戦に来ていない」

「それが本当ならだいぶ特定出来そうだが、なんでそうなるんだ?」

「順番に説明してやる」

 

 サラザールはシャンデリアを指差した。

 

「先ず、高さだ。あの位置にペンダントを置くには『浮遊呪文』を使わなければなるまい。更にペンダントはくくりつけてあった。しかも『呼び寄せ呪文』に対抗出来る程の固さでな。即ち、犯人は高い技量を持っているといえる」

「でもそれなら、七年生じゃなくて優秀な六年生って可能性もあるんじゃないか?」

「いいや、違う。これは心理的な話だ。これ程までに魔法に長けているなら魔法の力を誇示したくなるのが人情。学生なら尚更だ。しかし犯人は基本的な呪文を操り、極めて地味な方法で隠している。これは恐らく、進路相談や職業体験の結果、大人の魔法の使い方を学んだ結果だろうな。そのことから、七年生である可能性が高い」

「なるほどな」

「何故クィディッチの観戦に来ていなかったかという話だが、これは単純だ。この場所は目立ち過ぎる。私の様に人払いの魔法が使えれば話はまた別だろうが、学生では不可能。よって確実に人通りが少なかったクィディッチの試合中に犯行に及んだと言える」

 

 その後もサラザールは、結び目から見て犯人は左利きだとか、ペンダントの位置と床の位置を計算して犯人の大体の身長を突き止めた。

 ここまでくれば犯人は分かったも同然だ。

 サラザールすげえ!

 よっ、名探偵!

 ショーンは尊敬の眼差しでサラザールを見た。

 サラザールもまた得意げな顔をしている。

 

 後はレイブンクローの生徒に聞き込みをすれば……と考えていると、ロウェナが手を挙げた。

 

「あの、言いづらいんですけど……最初から私の魔法で犯人を特定すれば良かったのでは?

 それかヘルガに学生のみなさんの心を読んでもらうとか、ゴドリックに命を吹き込んでもらってペンダントに証言してもらうとか」

「……」

「……」

 

 しばし二人で無言になった。

 そしてサラザールがロウェナに凄まじいローキックを叩き込んだ。

 

「いった! え!? 今私、普通のこと言いましたよね! 唸る様なローを膝にもらう理由なかったですよね!?」

「貴様の顔がムカついただけだ。他意はない」

「なんだそれなら仕方ないですね――仕方なくない! むしろ他意が有って欲しかったです! 私、そんなにムカつく顔してますかねえ!?」

 

 ロウェナがギャースカ騒ぐ横で、ショーンは考えていた。

 果たして犯人をぶちのめすことが最善なのだろうか?

 勿論ショーンとしてはそうしたい。しかし今はルーナのことを最優先に考えなくてはならないのだ。ルーナは多分、ペンダントが見つかってほしいだけで、犯人をどうこうしようなんていうのは少しも考えてないはずだった。

 だからといってこのままにしておく、というのはあり得ない。

 

「ゴドリック」

「うん?」

「俺はどうするべきだと思う?」

「さあね。僕からはなんとも。ベッドの上以外でいじめた、いじめられたは経験したことがないからね」

 

 最低過ぎる意見だった。

 

「ただ、そうだね。それが答えなんだと思うよ。僕はいじめられたことがない。ショーンもだ」

 

 ゴドリックをいじめようと思ったら、バジリスクがダース単位で必要になるだろう。

 しかしゴドリックの意見は中々的を射ている気がした。要はルーナが、極端な話、ゴドリックくらい強ければ誰にも手出しされないのだ。問題はルーナがゴドリック並みになるには、後三百年くらい修行しなければならないことだけだ。

 

「私が生きてたらいいんですけどね。そしたら『そんなことしちゃダメだよー!』ってレイブンクロー生に言ってやめさせるんですけど」

「お前が生きてたらレイブンクロー生がホグワーツを辞めるだろ」

「がーん! 帰ってきて下さい、私の可愛い生徒達! ……あれ? でも生徒が少ない方がショーンと触れ合う機会も増える? いえいえ、それは流石に学校として……でも………」

 

 ロウェナがアホなことを言っている横で、ショーンは考えた。

 今ある手札の中で、誰もルーナに手出しが出来なくなる方法を。

 思い付いたのは、スラグホーン教授のパーティーだ。この主賓をルーナにして、一気に学校のスターに押し上げるというのはどうだろう。上手くいけばいいが、一筋縄ではいかなさそうだ。そもそもいくらショーンが派手なパーティーをしても、ルーナはメインをやりたがらない可能性がある。

 いや、それはやり様次第だ。

 ショーンは冴えたやり方――とは言えないが、全部を無理矢理解決出来る方法を思いついた。

 必要なのはちょっとした変身呪文と……。

 

「ヘルガ」

「はい、なんでしょうか」

「先生の心を読んで校長室への合言葉を調べてくれ」

「構いませんが……なんのために?」

「ダンブルドア校長に会って、許可を貰いたい」

 

 ――ホグワーツ史上最も盛り上がるパーティーを開くための、な。

 

 ショーンがそう言うと、ヘルガは笑って合言葉を教えてくれた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「ごきげんよう、ダンブルドア校長」

「おっと、お主か。まったく、いつも何処でここの合言葉を見つけてくるのじゃ?」

 

 そう言いながらも、ダンブルドア校長はほがらかに笑ってショーンを歓迎した。もっとも、歓迎のカムカム・キャンディには一切手をつけなかったが。

 

「ダンブルドア校長、今日は借りを返して貰いに来ました」

「ほう。賢者の石の件じゃな」

「はい」

 

 賢者の石。

 それはショーンが一千年前に作った物だ。

 ショーンはこれをダンブルドア校長に売った。当時――創設者曰くヴォルデモートの――呪いによって腕を蝕まれていたダンブルドア校長は、賢者の石の力で一命を取り止めた。

 ここで言う“売った”とは売買契約ではなく、恩を“売った”という意味だ。

 つまりショーンには、ダンブルドア校長の命の恩人としての借りがある。

 

「実はスラグホーン教授にクリスマス・パーティーの運営を頼まれていまして。

 そこでする出し物で、校長にお力添えを頂きたいのです」

「なにかね。言ってみなさい。実のところわしは、君が持ってくる突飛なアイディアをいつも楽しみにしておるのだよ」

「ありがとうございます。

 僕が開きたいのは、ズバリ『ホグワーツ・ウィザード・チャンピオン・トーナメント』というイベントです」

「ほう」

 

 正直ネーミングセンスは死喰い人とどっこいだが、催し物はこれくらい分かりやすいほうがいい。

 『ホグワーツ・ウィザード・チャンピオン・トーナメント』は昔にあった生徒だけの決闘クラブではなく、教師や校長も含めたホグワーツにいるメンバーの中で誰が一番強いのか、要はそれを決める催しだ。

 選手を揃えるために、ダンブルドア校長の協力は必須だった。

 

「校長には先生方が大会に出場するよう、説得していただきたい」

「ふむ……いいじゃろう。

 しかし、全員が全員というわけにはいかなんだ。

 フーチ先生やスプラウト先生は、あまり戦いを好いてはおらん」

「もちろんです。ですが最低限マグゴナガル教授、セブルス、フリットウィック教授、そしてダンブルドア校長に出場していただきたく思います」

「よかろう。みなに出場するよう、また全力で挑むようわしから伝えておこう」

 

 ダンブルドア校長は思っていたよりすんなり頷いてくれた。

 なんだかんだ言ってもやはりダンブルドア校長はグリフィンドール生で、派手なことが好きということだろう。

 

「しかし良いのかね、わしが出場しても」

「それはどういう意味で?」

「優勝者が決まってしまうという意味じゃ」

 

 とびっきりお茶目な顔をダンブルドア校長はした。

 

「分かりませんよ。思わぬダークホースがいるかもしれません」

「ほう。それは君かね?」

「いえ、いいえ。僕は今回、運営に徹しようと思います」

「なんと、それは残念じゃ。特にスネイプ先生が残念がるじゃろうな。君とミス・ウィーズリーに呪いをかける機会があれば、彼は闇の魔術に対する防衛術の担当をいつでも降りると言っておった」

「ははははははは」

 

 面白いジョークだ、気に入った。

 

「それではダンブルドア校長、僕はこの辺でおいとまさせていただきます。詳しいルールなどは後日送らさせていただきますが……基本的には二人一組で出場してもらうことになります」

「教師同士で組んでもいいのかね」

「はい、構いませんよ。なんならゲラート・グリンデルバルドと出場してもらってもいいです」

 

 ダンブルドア校長は一瞬無表情になった。

 どうやら地雷を踏んだらしい。

 ショーンは慌てて校長室を飛び出た。

 

「それで、どうするのですか? ルーナさんを勝たせるというのは流れ的に分かりますが……誰をペアに? 生半ではダンブルドア校長には勝てないと思いますよ」

 

 帰り道、ロウェナが訪ねてきた。

 もっともな疑問だ。

 『ホグワーツ・ウィザード・チャンピオン・トーナメント』でルーナに優勝してもらえば、みんなが手出し出来なくなるだろう。

 しかし優勝するには、ハリーやチョウと言った優秀な生徒はもちろん、ダンブルドア校長や教師陣を倒さなければならない。

 

「ルーナのペアはもう決めてある」

「……おい、待て。ショーン、まさかお前!」

「お察しの通り。まあ変身呪文を使えばなんとかなるだろ」

 

 しかしショーンには自信があった。

 ルーナが優勝する絶対の自信が。

 

「――せっかくだ、派手に行こう」

 

 何故ならルーナのペアは、今世紀最高の魔法使いなんて目じゃない。

 イギリス魔法史で最強の魔法使いなのだから。







【オマケ・ショーンがよく使う皮肉的なフレーズ】
『服装編』
「なんだその色合い。パリだってもうちょい落ち着いてる」
「吸魂鬼にでも育てられたのか?」
「動物だってもう少しマシな服装をしてる」
「もし宇宙人が来たら人類代表はお前だな。同族だと思われるだろうから」
「分からないんだが、ひとつ聞いていいな。お前が全人類を盲目だと思ってるのか、お前が盲目か」
「仕事中のサンタクロースだってもう少し服装には気を使ってる」
「もし外に行く機会があったら、永遠に止めておいた方がいい」
「デトロイト・シティを服にした。そんな感じだ」
「コーディネート・テーマーは『自転車』か?」


『食べ物編』
「たぶん俺はお前の親でも殺したんだろうな。じゃなきゃこんな物を出される理由がない」
「なんて言っていいか分からないが、とにかく食材の無駄だということは分かった」
「それで。この劇物で誰を殺したいんだ?」
「俺は料理を作ってくれた人には敬意を払うべきだと思ってる。だから例えどれだけ酷い出来だろうと『最悪』って言葉だけは使ったことはない。それで感想を言わせてもらうと、お前が作ったこれは『最悪』だ」
「お前が第二次大戦中に産まれてなくてよかった。産まれてたらたぶん、人類は消滅してた」
「ヴォルデモートを食材に使ったのか?」
「シェイクスピアだってこれ以上の悲劇は書けない」
「お前の料理を食うか、舌を切り落とすか。難しいところだよな」

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