ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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【今日のハリー・ポッター豆知識】
マクゴナガル先生とハグリッドは七歳差(ハグリッドが歳上)。
在学期間はギリギリ被るので、退学にならなかったらマクゴナガル後輩とハグリッド先輩だった。





第10話 第1試合

 目の前に傅く超のつく美形を前にして、ルーナは首を傾げた。

 見たことない人だ。たぶん、初対面。

 だけどなんだか見慣れてるような……。そのことを尋ねようとすると、ゴドリックの人差し指がルーナの唇を塞いだ。

 

「しーっ。それは二人の秘密といたしましょう。その方がずっとロマンチックだ」

 

 そしていつものウィンク。

 後ろで何人かの女子生徒がくらっと来ていた。

 

「(こいつは……強い! 即ちハリーが危険! 排除!!!)」

 

 一方でゴドリックを目の前にしたジニーの思考はシンプルだった。

 他の人間がゴドリック・グリフィンドールの名前に面食らったり、顔に見惚れている中、ただ一人目の前の男を『ハリーの敵』だと認識していた。

 拳を握りしめて直進、振り抜く。

 

「どっせええええいっ!!!」

 

 ゴドリックの美しい顔に全力を叩き込んだ。

 掛け声のダサさはともかく、威力は本物だ。もの凄い破裂音がした。

 しかし。

 ジニーは違和感を感じていた。

 

「(手応えがなさすぎる!?)」

 

 ジニーの感覚は正しい。

 爆心地の中央でゴドリックは涼しい顔をして立っていた。

 

「これは嬉しいねお嬢さん。君の方から僕に触ってくれるなんて。どうだいこの後、二人っきりで打ち上げっていうのは――」

「オラァ!」

 

 続けてボディを撃つ。

 手応えなし。

 

「オラオラオラア!」

 

 顎、肝臓、心臓。

 全弾急所に叩き込んだ。

 

「オォ――ラァ!!!」

 

 最後に渾身の一撃を顔面に叩き込んだ。

 

「はあ、はあ、はあ――っ!」

 

 それでもゴドリックの顔色は変わらない。

 なぜ?

 これだけ殴ったのに!

 

「柔は剛を制す、という言葉を知ってるかな?

 君は力の使い方が雑過ぎる。

 そんなんじゃ僕には勝てないよ。というより、戦いにさえならないだろうね」

 

 ゴドリックの手がジニーの肩に触れた。

 ほんの優しくだ。

 

「ぐぅ、つあ!」

 

 しかしジニーは強い衝撃を受け吹き飛んだ。

 

「頭を殴られたのに足が痺れることってあるよね。あれは人体がダメージを逃してるからなんだ。僕がしたのはそれと同じ。君の攻撃を身体の中に溜めて、手のひらを通じて君の方に逃した」

 

 なんてことないように言っているが、もちろん達人技だ。

 

「どうだい、自分の拳で殴られた感触は」

 

 ジニーがゴドリックを殴った回数は5回。

 それをそっくりそのまま返された。

 先ず立てるような状況じゃない。

 

「ペッ!」

 

 しかし瓦礫を押しのけ、血反吐を吐きながら立ち上がる。

 力もだが、タフネスも人一倍だ。

 

「流石は私ね。こんなに痛いのは初めてよ」

「へえ。立ち上がるんだね」

「はん! この程度でダウンするほどやわな鍛え方はしてないわ。それに……私の後ろにはハリーがいる。ここは引けない」

 

 再度、ゴドリックの前に立ちはだかる。

 あれ程の実力差を見せつけられながらいささかも闘気が衰えていないのは驚異だ。

 

 例え試合ではなく、命を賭けた戦いだとしても同じようにジニーは戦うだろう、とゴドリックは予想する。

 彼女の目に映っているのはたったひとり。

 ハリーだけだ。

 彼が後ろにいる限り、ジニーは戦い続ける。

 そういう確信があった。

 

「大した気合と信念だ。僕好みだよ」

「あんたに好かれても嬉しかないわね」

「おっと。初対面の女の子に嫌われるなんて久しぶりだ」

「そう。安心していいわよ。次はあんたが私を嫌いになる番だから。トラウマを植え付けてやるわ。おあいこってやつよ」

「それは楽しみ……と言いたいところだけどね。それは無理だ。少なくとも今の君じゃあね」

 

 ゴドリックが手を差し伸べた。

 

「僕は君を気に入った、だからヒントをあげよう」

「はあ? ヒント?」

「そうだ。僕と君は似ている。戦い方がね。なぜそれほど身体能力が高いのか考えたことはあるかい?」

「そんなの決まってるわ。産まれついての勝者だからよ」

「……まあ、ある意味では間違ってないのかな。答えはね、杖だよ」

「杖?」

「そう。幼い子供が無意識に魔法を使うことがあるだろう。それと一緒さ。君は無意識の内に杖を介して自分の身体能力をあげているんだ」

 

 ショーンと同じように、とゴドリックは心の中で付け足した。

 

「だけど君には技術がない。だから僕クラスにはダメージを与えられないんだ。

 せっかくいいモノを持ってるのに勿体ない。

 今から僕が技を見せるから盗むといい」

 

 ゴドリックにしては珍しく、これは100パーセント善意の言葉だった。

 ゴドリック・グリフィンドールは間違いなく天才だ。

 誰に教わらずとも感覚だけであらゆる技術を習得出来る。敵の技も身体で受ければ大抵は使えるようになる。

 同じように、ジニーも頭よりは感覚のタイプだろう。

 そう考えての提案だ。

 

「断るわ」

「……なんだって?」

 

 それをジニーは切って捨てる。

 

「私にとって戦いとは……力の限り相手を殴ること!」

 

 拳を突き上げて宣言する。

 

「杖だの技術だのと、小賢しいことは不純物!

 そんなことごちゃごちゃ考えてたら私がスッキリしないわ!

 さっきのは私のパワーが足りなかっただけ!

 頭を殴って足に流されるなら、足をへし折る気合で殴ればいいのよ!」

「な、なんて脳筋!」

 

 これには流石のゴドリックもびっくり。

 なにかと脳筋と言われるゴドリックだが、流石にここまでではない。

 

「ずりゃあ!」

 

 拳を床に叩きつける。

 蜘蛛の巣状に大きな亀裂が走った。

 余波で硬いホグワーツの床が揺れているくらいだ。

 

 ……明らかにパワーが増してる。

 

「ふん。やっと身体もあったまってきたところよ」

 

 ジニーの意思に杖が呼応したのか、あるいは本当に気合か……。

 確かな事はひとつ。

 

「(ショーンの友達だからなるべく傷付けずと思ったけど……マズイな。あのパワーは僕でも受け流せない)」

 

 無防備にジニーが近づいてくる。

 隙だらけだ。

 ゴドリックならジニーが知覚できない速さで意識を奪うこともできる。

 

「君の意気込みに答えよう」

 

 しかし、ここで引いては騎士の名折れというもの。

 後ろには守るべき(ルーナ)もいる。

 ゴドリックはあえてジニーの間合いに飛び込んだ。

 

「ん、それじゃあ始めようか……」

「ええ」

「合図は君に任せよう」

「きぃ使ってんの?」

「一応、女の子が相手だからね」

「一応ってなによ……まあいいわ」

 

 ジニーは大きく振りかぶった。

 防御も技術もない。

 しかし全力の構え。

 

「スゥーー………っ」

 

 大きく息を吸って、

 

「こなくそがああああああっっっ!」

 

 打つ。

 間違いなくジニーの人生で最高の一撃だった。並みの魔法使いはおろか、マクゴナガル教授クラスの『防護呪文』でさえ受けるのは容易ではないだろう。

 ――が。

 ゴドリックは紛れもなく最強の魔法使いである。

 

 不動。

 ジニーの攻撃を首の筋肉だけで受け切った。

 

「シッ!」

 

 返すヤイバでゴドリックが放った神速のジャブは誰にも知覚できない超スピードでジニーを射抜いた。

 否、速さだけではない。

 威力もジニーのそれを超えており……軽く数メートル以上吹き飛んだジニーは壁にめり込み、一言も発さないまま気絶した。

 

 決着だ。

 

「大した女の子だ。この僕に拳を握らせるとはね」

 

 パッと見は激闘に見えた今の戦いもゴドリックにすれば戯れだ。

 それでも戦いにはなっていた。

 それだけで十分に賞賛すべきことである。

 ゴドリックと戦いになった者は歴史の中でも10人に満たず、勝った相手は二人しかいないのだから。

 

「わあああああああああ!」

「ああ、君もいたか。女の子以外はどうにも覚えが悪いね、僕は」

 

 ずっと呆然としていたハリーだったがやっと我を取り戻し、デタラメに魔法を打ってきた。

 いや……一見デタラメに見えるが、その実狙いはいい。速さも申し分ない。天性の才能というやつだろう。

 大人の魔法使いとも遜色ないレベルだ。

 

 それでもゴドリックには通じない。

 

 ペシ、パン。

 擬音をつけるとしたらそんな感じだろうか。

 ゴドリックは手で魔法を弾いていた。

 

「なっ!?」

「驚くことはないだろう。『失神呪文』が当たれば僕でも気絶する。だから風圧で弾いた。それだけだよ――っと」

 

 ゴドリックの姿が視界から消えた。

 ヒヤリと背筋が凍った。

 ここに居たらダメだ!

 ――直ぐに目の前に転がった。直後、さっきまでいた場所を何かが通る音がする。

 どうやらゴドリックが背後に回り、攻撃していたようだ。

 危なかった……ハリーは自分の咄嗟の判断が間違ってなかったことを確認した。

 

「セクタムセンプラ!」

 

 転がりながら魔法を撃つ。

 『謎のプリンス』が書き足した魔法薬学の教科書に載っていた『攻撃用の呪文』だ。

 今まで使ったことはなかったが、ハリーの直感が使うべきだと告げていた。

 

「ふっ!」

 

 ゴドリックの一息が風の刃を消しとばした。

 流石の謎のプリンスも彼の前では無力だった。

 

「君は面白くない」

 

 ジニーがあそこまで惚れ込む男だ。もしかしたらと様子を見ていたが、期待外れだった。

 ゴドリックは一瞬でハリーに近づき、首めがけて手刀を振った。

 

「?」

 

 しかし、空ぶる。

 なにかの間違いかと思いもう一度やってみたが、済んでのところで避けられた。

 続けてもう一度、今度はゆっくり様子を見ながら攻撃する。やはりかわされたが、遅かった分、今回はハリーの動きを観察できた。

 

「なるほど。君の長所は危機察知能力の高さというわけか」

 

 さっきまで惚けていたのもその危機察知能力の高さゆえ、か。

 ゴドリックはひとり合点した。

 

「それじゃあ避けられない程の質量で攻撃すればいい」

 

 ローブのポケットから杖を取り出す。

 

「アクシオ! 箒!」

 

 ゴドリックが杖を振ったのと、ハリーが箒を呼んだのは同時だった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「ゴドリックの強さの秘訣についてか……」

 

 サラザール・スリザリンは愛用の肘掛け椅子にもたれながら、投げかけられた問いへの答えを探していた。

 数順してから答えを出す。

 何度も決闘している相手だ。長所のひとつやふたつ出すのはそう難しくない。

 

「先ずはあの馬鹿げた身体能力だ。

 まあこれは説明するまでもないだろうが、やはり目を惹く」

 

 異論はない。

 もしゴドリックの運動神経に疑問を持つ者がいたら、そいつは間違いなく名の知れた哲学者だ。

 

「次に魔法だ。

 生命を与える魔法……あれが厄介なのだ。

 あの魔法こそがゴドリックの強さを支えている」

 

 サラザールは不愉快そうにワインを飲んだ。

 ゴドリックにしてやられた時のことを思い出しているのかもしれない。それか、思い出していないか。どっちかだ。

 

「奴は普段、魔法を下らんことにばかり使う。女を連れ込むベッドを回転させたりな。

 まったく、宝の持ち腐れだと思わんか?」

 

 正直に言うと分からなかった。

 まさかベッドが回転することがゴドリックの強さを支えているわけではないだろう。しかしだからといって、生命創造の魔法を戦いに活かす方法もあまり思い浮かばない。

 

「ああ、そうか。知らんのか、お前は。

 ひとつ、教えておいてやろう。

 ゴドリックの魔法だがな、奴の魔法に制限はない」

 

 それはつまり、ベッドがむちゃくちゃ速く回るということでよろしいか?

 

「ベッドから離れろ!」

 

 ベッドは危険らしい。

 部屋の隅へと移動してみる。

 

「物理的なことではない!

 まったく、貴様はあほだ。あほあほだ。純血としての矜持というものはないのか」

 

 サラザールは眉間のシワをほぐす様に指でなぞった。

 

「本題に戻すぞ」

 

 話を促す。

 

「ゴドリックは身体能力が高い代わりに魔法の才能がない。あの魔法はそんな彼に許された唯一の魔法だ……と愚者は言う。

 ふん、私に言わせれば愚かの一言に尽きる!

 あの魔法は奴に許された唯一の魔法ではない、唯一奴にのみ使うことを許された魔法なのだ。ロウェナでさえあの魔法は再現できん」

 

 もう一度サラザールは言った。

 奴の魔法に制限はない、と。

 

「天変地異にも等しいことが出来るのだ」

 

 それは、つまり。

 

「山、空、海、大地……人工物だろうが何だろうが、奴は生命を吹き込み仲間に出来る。

 操作ではない、命を吹き込むのだぞ?

 つまり、奴はそれだけの大規模な魔法を使っておいて他の魔法の様にコントロールに注意を払う必要がない」

 

 天変地異を引き連れて、あのゴドリック・グリフィンドールが向かってくる。

 それは確かに最強だ。

 

「まあ腐っても『死の呪文』への唯一の対抗魔法だ。それくらいのことが出来てもおかしくはない……が、奴はそれだけの大魔法をベッドを回すことに使っているのだ!

 まったく、思い出しただけで腹立たしい!」

 

 彼の怒りに呼応して辺りの家具が、いや、家自体がガタガタ揺れていた。

 溢れた魔力だけでこの迫力……ゴドリックと対等に戦えてる時点で、サラザールも十分人外だ。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「なんだ、あれ……」

 

 生徒の誰かがこぼした疑問に答える者はいない。

 みんなぽかんと口を開けて、同じように外を見ていた。

 

 湖が向かって来てる。

 

 そうとしか言いようがない。

 流石のホグワーツ魔法魔術学校といえど、こんなに派手なことはジョージとフレッドとショーンが揃った時のハロウィンくらいでしかお目にかかれない。

 

 濁流のように押し寄せた湖を、箒に乗ったハリーが済んでの所で避ける。

 流石ファイアボルトとハリーといった所か、ギリギリのところで追いつかれない。

 

「よっと」

「なん――がっ!」

 

 飛んでいたハリーの目の前にゴドリックが現れた。

 顔を叩かれて地面に落とされる。

 その時になってハリーは何故ゴドリックが飛んでいるのか、その答えにたどり着いた。

 

 風だ。

 風に命を吹き込んで飛んでいる。

 なんでもありか、こいつは!

 

「ボヤボヤしてると危ないよ」

 

 水が押し寄せてくる。

 これを避ける術は――ない。

 そして受ければ確実に負ける。

 全てを受け入れて、ハリーは目を瞑った。

 

「……?」

 

 おかしい、変だ。

 いつまで経っても水が襲ってこない。周りで音はしてるというのに……。

 恐る恐るハリーは目を開いた。

 

「ジニー!?」

 

 目の前で、ジニーが盾になっていた。

 

「ぐぎぎぎ!」

 

 水の中には泥や岩も含まれている。

 普段のジニーなら殴って壊すだろうが、無防備に受けている。

 なんで……。

 

「(意識がまだないんだ! それでも、僕のためにっ!)」

 

 『愛する者を守る』という強い意志だけで、ジニーはそこに立っていた。

 普段は傍若無人を体現した様な女の子なのに、歯を食いしばって、献身的にハリーを守っていた。

 そんなジニーの姿を見た時、ハリーの中で決心がついた。

 

 箒に乗り、ゴドリックの前まで飛翔する。

 

 はたして、彼が伝説のゴドリック・グリフィンドールなのかは分からない。

 それでも自分達よりはるかに強いことは確かだ。

 しかし難敵に挑んでこそグリフィンドール生である。

 彼に挑んだハリーは正にグリフィンドール生の鑑であった。

 

 よって必然的に、ハリーはゴドリックの剣を抜くことが出来た。

 

 濁流に巻き込まれてきたのか、それとも単なる奇跡か……ハリーの手元には組分け帽子があった。

 

「エクスペリアームス!」

 

 目くらましに武装解除を放つ。

 当然かわされてしまったが、本命は剣による攻撃!

 

「はあああああああっ!」

 

 当たれば必殺の剣を振るう!

 

 しかし、身体能力的には並なハリーが接近戦でゴドリックに敵うはずもない。

 まるで昔の貴族がスパイスを取る時の様に、ゴドリックは親指と小指だけで剣を止めた。

 

「いい攻撃だった。及第点をあげよう」

 

 ゴドリックのデコピンはハリーの的確に脳を揺らし、気絶させた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 し、しまったぁ――……。

 ゴドリックは後悔していた。

 最初はかる〜く戦うつもりだったのだ。

 しかし予想外に面白くなってしまい、ついつい張り切ってしまった。あまつさえ自分がカッコよく勝つためにわざとハリーの所に組み分け帽子を置いたり、最悪である。

 

「(ごめんショーン。3日はベッドから動けないかも……)」

 

 ジニーの攻撃を踏ん張った首は特にひどいことになっているだろう。

 後でヘルガに半殺しにされることはほぼ間違いない。

 まあ、それはさておき。

 

「終わりました、姫。先ほどの戦いが少しでもお目を楽しませられたのなら、これ以上の喜びはありません」

「うん、すっごく面白かった! だって湖が動くところなんて初めて見たもん!」

「それはよかった。お望みとあらば、この程度いつだってご覧にいれましょう」

「えーっと、その時はショーンに頼めば――」

「しーっ。それは秘密です」

 

 勘のいい女の子だ。

 察しのいい女の子は言わなくても色んなプレイをしてくれるから好きだが、今日のところは不味い。

 ゴドリックは冷や汗をかいた。

 

「(……っと。女の子と遊ぶのはこの辺にして仕事もしないと)」

 

 あまり変なことをし過ぎると半殺しどころか全殺しされるかもしれない。

 

「お集まりいただいた紳士淑女のみなさん。

 何故死んだはずの創設者が今更になって出てきたのか、何故このルーナ・ラブグッドに仕えているのか。

 疑問に思うこともあるでしょうが、今はまだ明かす時ではありません。

 全ては決勝が終わった後といたしましょう」

 

 最後にゴドリックは恭しく一礼をして、目にも止まらぬ速さで消え失せた。

 

「あ、あれって本物の?」

「本物じゃねーの? ジニー先輩に力で勝ったんだぞ」

「創設者やべえな。ジニー先輩に勝つとか、人じゃねえよ」

「なんでもいいわよ。あんなにハンサムなんですもの……」

「それよかルーナって何者?」

「ショーンさんの友達」

「やべえ奴だな」

 

 生徒の間で混乱が起きていた。

 それもまあ無理からぬことだ。

 いや生徒どころか、教師の間でも混乱が起きている。

 

「だ、ダンブルドア校長!」

「おおマクゴナガル先生、そんなに走ると転んでしまいますぞ」

「そんなことはどうでもいいのです! それより、先ほどの彼は本物なのでしょうか。お考えを聞かせて下さい」

「わしも同じじゃよ。まったく事態を把握できておらん。しかしじゃ」

「しかし?」

「主催者はショーンじゃからのう。何が起きても不思議ではなかろうて」

「そ、それは……! たしかに」

 

 言われてみればその通りであった。

 何を慌ててたんだか。

 ショーン主催のクリスマス・パーティーなら創設者の一人や二人来てもおかしくはない。むしろヴォルデモートが来なかった分マシといえる。

 周りの生徒も聞いていたのか、みんな落ち着いて次の試合の結果を予想し出した。ホグワーツの生徒は異常事態に慣れすぎである。

 

「うーむ、しかし不味いのぅ……あの方、わしより強くね?」

 

 これでは無双しまくって『さっすがダンブルドア校長! やっぱり今世紀最高の魔法使いは校長だ!』と生徒に尊敬され、みんなに胴上げしてもらうという野望が崩れてしまう。

 対策を立てねばなるまい。

 そう考え、ダンブルドアは己のペアの所へと向かった。







【教師がショーンとジニーにやるべきことリスト】
第1条 通常の罰則ではもはや効き目はありません。罰則を行う場合は地下牢に入れた後、二人が反省するまで冷たい水を勢いよくかけ続けて下さい。オーケィ?
第2条 スリザリン寮で何かしらの爆破があった場合、すべきことは証拠集めではなく二人の確保です。
第3条 我々には「情状酌量・温情・優しさ」という言葉はふさわしくありません。
第4条 ダンブルドア校長の名義で何かしらのお達しがあった場合、先ずは筆跡鑑定を行なって下さい。
第5条 例えダンブルドア校長本人の筆跡であったとしてもまだ安心は出来ません。次は指紋の確認です。
第6条 指紋確認の結果、ダンブルドア校長は敵です。
第7条 いかに完璧な理論を説明されようとも彼らに「禁書の棚の閲覧許可・魔法薬学の材料・授業で教えない呪文」を与えてはいけません。彼らには勉強する気など一切ないことを断言します。
第8条 チョコ・ミント・アイスを与えることも禁止します。
第9条 彼らが販売する「ケバブ」を買っている教員の方がダンブルドア校長とフリットウィック教授以外にまだいらしましたら、即刻報告して下さい。彼らの資金源を解き明かす緊急の必要性があります。
第10条 職員会議では常に隣の教員が本人なのかを疑って下さい。彼らにはポリジュース薬があることを忘れてはならない。
第11条 例え朝食の席であったとしても彼らが卵を持っていたら要注意です。研究の結果、約八割の確率で危険生物の卵であり、約一割で非常に危険な魔法生物の卵です。通常のボイルエッグである確率は一割未満でした。
第12条 彼らが何かしらの要望をしてきた場合、意味が分からなくともとりあえず「NO」と言っておけば間違えありません。
第13条 彼らがスリザリン寮の近くで発見された場合、緊急避難プラン12―5を即刻発令して下さい。
第14条 「我々は教師であり、防災のスペシャリストではない」という発言は何の言い訳にもなりません。どうにかするんだよクソったれ!
第15条 もはやダンブルドア校長は職員会議に参加することを許されていません。
第16条 例えどれだけ素晴らしい業績を残したとしてもホグワーツから「ジャマイカでの一週間の休暇」がプレゼントされることはありません。ハグリッド森番が五体満足で発見されたのは単純な奇跡です。
第17条 教師陣内に不和が広がる可能性があるためスネイプ教授にまつわるジョークで笑ってはいけません。自分に「クルーシオ」をしてでも耐えて下さい。
第18条 彼らの「トリック・オア・トリート」に備える意味で、常にお菓子を携帯して下さい。ハロウィンでなくともです。
第19条 例えどれだけ侮辱され腹が立ったとしても、彼らを「アズカバン送り・死喰い人のアジトに送る」ことは許されません。間違いなく、闇の勢力の拡大を引き起こします。
第20条 「流石にそんなことはしないだろう」という先入観は捨てて下さい。これはマクゴナガル教授が「明日ホグワーツ中をショッキングピンク色にしようと思うんだ」という発言をジョークと捉えたために起きた悲劇を再発させないためです。

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