ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第7話 穢れた血同盟

 ホグワーツではある程度のクラブ活動が認められている。

 例えば、合唱クラブだ。

 フリットウィック教授監修の元、有志の生徒達が集まって行事の節目なんかに素晴らしい合唱を見せてくれる。

 

 他にもトレローニー教授の占いクラブや、シニストラ教授――天文学の教授――の夜景観察クラブなんかがある。

 とにかく監督の先生を立てて申請書を出して、それが通ればクラブ活動が認められるのだ。

 そして今日、新しいクラブが――

 

「認められるかあああああああああああああああああ!!!」

 

 ――誕生しなかった。

 『穢れた血同盟』と書かれた申請書をカローはビリビリに破いて、燃やして、魔法で窓から吹き飛ばしてしまった。

 けれども、それはあまり意味のないことの様に思えた。なにしろ部屋いっぱいを埋め尽くすくらい申請書が届いていたからだ。そして今この瞬間にも、フクロウ便が新しい申請書を届けていった。

 

「あんのクソガキがァ! 何が『穢れた血同盟』だ!  差別用語を自分から言いふらすばかりかクラブ活動にする奴がいるか! セブルス! 貴様が顧問になっているがこれはどういうことだ!」

「……皆目検討もつきませんな」

「貴様の実印と杖印が使われているぞ!!」

 

 セブルスは頭が痛くなった。

 とにかく、ショーンの手先の器用さは尋常じゃない。このくらいは軽く偽装してくる。

 なにせ、去年の6月に後ほんの少しでセブルスと巨人族のメスとの婚姻届が受理されるところだったのだ。

 

 しかしセブルスがカローを責めることは出来なかった。

 ちらりと頭皮を見る。

 セブルスの優れた洞察力を持ってすれば、彼が非凡なストレスを感じていることが容易に汲み取れた。

 

「大体なんなんだ、この活動内容は!」

 

 カローは地面にある申請書の一枚を拾い上げて、顔面に叩きつける勢いで見せてきた。

 

『穢れた血として純血の方々の少しでもお役に立つべく、ヴォルデモート卿の布教活動をしたく思います。

 例:闇の印のタトゥーシールの製造、闇の印の簡易打ち上げ花火(いつか花火大会が出来たらいいですよね)、『名前を言ってはいけない例のあの人』よりもクールな呼び方の検討←これは早急に取り掛かるべし』

 

 と書かれていた。

 

「これを見ろ! タトゥーシールはもう出来てやがった! 仕事が早すぎるんだ、あいつは! しかも、しかもだ! よく分かってない一年生達に配って貼らせてやがる!! 写真を撮って親に送ってる子供を何人か見かけたぞ! あいつには人の心がないのか!」

「あーー……ないのでしょうな」

「その上、これだ!!」

 

 カローは自分の手にタトゥーシールを貼った。

 闇の印は本来であれば、そこから例のあの人からの命令が聞こえて来る。

 しかしショーンの作ったそれを押すと……死ぬほど似てないと噂のジニー・ウィーズリーのヴォルデモートのモノマネ音声が聴こえてきた。動物の交尾を録音したものだと言われたほうがまだ説得力がある。

 

「次、あの方から指令が来たとき俺はどうすればいい!? 思い出し笑いでもしたら――粛清は免れん! なあセブルス、俺はどうすればいい!?!?」

「笑いそうになったらご自身に『磔の呪い』を撃てばよろしいでしょう」

「ぐっ! く、くくく、クソ!」

 

 死ぬくらいならその方がマシだとカローは思った。

 冷静に考えればそんな方法は全くクールでないのだが、とにかくそのくらいからは追い詰められているのだ。

 

「セブルス! 貴様、人ごとの様な風だがな! 我々に与えられた任務を思い出してみろ! 子供達に純血主義を植え付け、闇の魔術を叩き込む! そうだろう!? このままあのクソガキの好きにさせてればどうなるか――粛清だ! お前もだぞ!」

「いけませんな……主人の言葉は正確に覚えていなければなりませんぞ。我が君は『カロー、お前に命じよう』と枕詞を置かれた。そして我輩の記憶によれば『このカローが必ず任務を果たしてみせます』とお答えになったはずですが。我輩の名前はどこにも出ていませんな」

「だが、カローの任務を命を賭してサポートをしたいと嘆願書が出されていたぞ。お前の実印と杖印付きで」

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「………………我が君はなんと?」

「嘆願書を受け入れる、と」

 

 セブルスが激しく杖を振ると『悪霊の火』が燃え広がり、『穢れた血同盟』の申請書を全て消し炭にした。

 しかし他の調度品の類には焦げ跡ひとつ付いていない。

 それは正にセブルスが『悪霊の火』を完璧にコントロールしている卓越した魔法使いである証だった。

 

「我が君は大変にお忙しい方だ。紙のひとつやふたつお忘れになったとして、何ら不思議ではないと愚考するのだが、いかがかな。そう……誰かが余計なことを言いさえしなければだがね」

 

 セブルスは未だ『悪霊の火』を杖に纏わせたままカローに尋ねた。

 カローは無言で首を縦に振る。

 

 多少可哀想なところはあるが、カローは自業自得だとセブルスは思った。

 だいたいセブルスなら、ショーンに罰則を与えようとして牢に入れる、なんて選択肢は絶対に取らない。あの悪ガキは牢に入れられてからが本番なのだ。

 それにたかが闇の印のタトゥーシールごときに対処できないようでは、とてもホグワーツではやっていけない。

 セブルスは去年、ホグワーツが住宅物件としてマグルの富豪に販売されているのを防いだり、大広間に出来た『流れるプール』を閉鎖したりしたのだ。今年はジニーもダンブルドアもいないのだから、全然マシである。

 

 ――そう思っていたところに、幾つもの花火が打ち上がった。

 

 花火は緑色に弾けた後、髑髏の形を作った。そしてセブルスが予想した通りに――カローがそうでない様にと祈ったのに――髑髏の口から蛇が出てきた。

 最後に『ヴォルデモート万歳! イカした髪型!!』という文字を(かたど)って消えた。

 それがホグワーツ中で打ち上がっている。

 

「もう我慢ならん!!!」

 

 カローが憤慨して地下牢へと駆けていった。

 ……そのわずか3分後。

 「やめろおおおおおおおおおおおおお! やめてくれえええええええええええええ!!」という叫びと共に、カローが打ち上がってきた。

 セブルスはため息と共に杖を振るってカローを助ける。服があちこち燃えているカローに水をぶっかけてやった。

 

 服を乾かしながら泣くカローを見て、セブルスは心底から同情した。

 

「(眉毛までか……)」

 

 永久脱毛したてかの様な顔を見たからだった。

 ご主人様に似てきたと思えば、あるいは名誉なことかもしれない。

 

 

   ◆

 

 

「それで、俺に何のようだ」

 

 牢屋の前にいる男――マッドアイ・ムーディーにショーンは問いかけた。

 ムーディーは苦虫を噛み潰した様な顔をしている。元々そういう顔なのか何か嫌な事でもあったのかショーンには分からなかった。

 しかし笑顔のマッドアイなんていうのは、それこそ魔法界を知る前に魔法界を想像するのと同じくらい難しかった。だから案外いつもこんな顔なのかもしれない。

 

「力を貸せ」

「なにで? 服でも買いに行くっていうなら他を当たってくれ。いくら俺でもあんたをファッションショーに出すのは難しいね」

「次! 俺の前でふざけたジョークを言ってみろ! すぐに呪いをかけてしょっぴいてやる!」

「もうしょっぴかれてるのにか」

 

 牢屋の中で捕まって別の牢屋に行くというのはいくらショーンでも経験した事ない事だった。

 

「お前はダンブルドアの後継者として選ばれてる! まったく、こんなガキを選ぶなんざどうかしてるが」

「まあそう言うな。あんたよりは俺の方がダンブルドアに似てるだろう? 髪も多いし、ピンクも好きだ」

 

 ショーンの鋭さを持ってすれば、マッドアイがピンク色の物を一切持っていないだろうということがすぐに分かった。

 

 しかし、そう。

 そうなのだ。

 ダンブルドアは『不死鳥の騎士団』という一回死ぬことが前提のような名前の騎士団の団長としてショーンを任命した。

 イギリス魔法界で死んだり死ななかったりを繰り返したのはハリーとショーンだけなので、運悪く二分の一を引いてしまったのだろうとショーンは思った。

 

「いいか小僧! 今!! この瞬間にも!!!」

「ダンブルドアの後継者だからって年齢も継いでるわけじゃないぞ。あー、つまり、耳は悪くない。大きな声は出さなくても聞こえてる」

「我々は窮地に立たされてる!!!!!」

「奇遇だな。俺の耳もだ。あんたの目もそうみたいだけど」

 

 あまりにも大きな声を出すのでショーンは『マッドアイ』から『ヒュージボイス』に変えてみてはどうかと思った。

 

「魔法省の者は洗脳や買収により次々と闇の勢力に堕ちている! さあ、この状況をどうする小僧!!」

「よし、今から考えるから少し声のトーンを落としてくれ」

「なんだと貴様、もっと真面目に――」

「オッケー、考えついた」

「なんだと? もうか??」

「言っておくが俺は嫌がらせの天才だ。あんたがその大声と視力検査の成績でのし上がってきたように、俺も嫌がらせでのし上がってきたのさ」

「聞かせてみろ。しょうもない作戦なら容赦しないぞ!!! 貴様の目をわしとお揃いにしてやる!」

「わお。俺を脅迫してきた奴は100はくだらないが今のは結構上位に入るな。思わず目が震えたよ」

「ええい! 貴様が今したのは瞬きだ!! 震えてはおらん! とっとと話せ!!!」

 

 ショーンはウィンクを一つした。

 

「銀行強盗をしよう」

 

 マッドアイは目をぱちくりさせた。

 

「……は?」

「グリンゴッツに銀行強盗をしようと言ったんだ。耳はマッドじゃないのか?」

「マッドなのはお前の頭だ。しかし、なんとも、ううむ……ありかもしれん」

「そうさ、マッドアイ。銀行強盗をしてあいつらの資金を根こそぎ奪うのさ。そうすれば買収どころか明日食う飯にも困る。ひもじい闇の組織なんてマヌケだろ?」

「成功すると思うか?」

「そりゃあ『不死鳥の騎士団』みんなでかかればするだろ」

 

 歴戦の闇祓い達は、言ってみればイギリス魔法界で最強のエリート集団だ。世界を救ってきた彼らが罪を犯す側にまわればこれほど怖いことはない。何せ、あらゆる犯罪の手口を知っているからだ。

 

「それだけじゃないぞ」

「まだあるのか!?」

「俺たちは『死喰い人』の格好をして銀行強盗をする!」

「なにぃ!!?」

「罪は全てあいつらに被せるのだ! そうすればゴブリンと死喰い人連中は対立し、盗み切れなかった財産も引き出せなくなるという算段なのだ。ガッハッハッハッ!」

 

 ――性根が腐り切ってる!!!

 マッドアイは即座に判断した。

 この男はなんと恐ろしいことを言い出すのか。

 仮にも正義の為に立ち上がった者達の集まりである『不死鳥の騎士団』に犯罪をさせるばかりか、死喰い人の真似事までさせようと言うのだ!

 なんというガキ!

 

「ぐ、ぐぬぬぅ」

 

 しかしこの作戦は効果的であった。

 上手くいけばたった一日で打撃を与えられる。

 

「そして仕上げに!」

「まだあるのか!? 貴様どこまで――」

「かつて俺が作った新聞がある! そこにこう書くのだ『死喰い人、銀行強盗に踏み入る!? 隠された資金繰り難』とな! 我々が忍び込むのだから写真は撮り放題、信憑性は確保されまくりだ! 金で寝返った者はさぞかし不安がるだろなぁ……きっと新聞は飛ぶように売れるぞ。そしてその金と盗んだ金で買収し返すのだよ!! ヒャハッハッハッハッ!!!」

 

 これ以上愉快なことはないとでも言わんばかりにショーンは笑った。

 マッドアイが見てきた悪達の中でも飛び抜けて邪悪な笑いであった。

 

「さあ、マッドアイ。俺様の手を取れ。我が手中に下るのだ」

 

 挙句の果てには『例のあの人』のモノマネまでし始める始末である。

 死喰い人亡き後、次の討伐対象はこいつなんじゃないだろうかとマッドアイは思った。

 

「準備は全てできてる。偽装のための死喰い人の衣装、タトゥー、闇の印、全て俺が用意したぞ。更にはビルに――銀行で働いてるやつな――頼んで銀行内の地図もある」

「用意周到すぎるぞ、この悪党め!」

「いいやマッドアイ。悪などいないのだよ。ただ、自己が掲げる正義を反対側から見ることを悪と呼ぶのだ」

 

 なんかカリスマ的なセリフも言い出したぞコイツ!?

 マッドアイは目をギョロギョロと動かした。

 マッドアイは悩んだが、結局はショーンの手を取った。

 

 悪に対抗するには、悪もまた必要。

 

 そう結論付けた。

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