話は二年前に遡る。
その日、私は最も大切なものを失った。
それは、そう……プライドだ。
きっかけは些細なことだった。
休み時間にトイレに入ったら、そこにいたゴーストに奇妙な薬品をかけられてしまった。
後から聞いてみるとそのゴーストは嘆きのマートルと言って、ホグワーツでは悪い意味で有名なゴーストらしい。四階の女子トイレにそんなゴーストがいるのなら早めに教えてほしいものだ、と憤りもしたが、鏡に映る自分の姿がみるみるうちに変わっていくのを見て、怒りよりもむしろ焦りを感じた。
やめて! と思う私の期待を裏切る様に、そのゴースト曰く『排水溝を駆け回って集めた薬品のごった煮薬』を掛けられた私の容姿は、醜く変貌してしまったのだ。
美こそ私の全て。
常日頃からそう嘯いている私だ。
深く絶望した。
祖母譲りの自慢のブロンド・ヘアーはまるで幽霊屋敷も掃除した後の箒みたいで、目は黄ばみ、肌は擦ればニンニクが擦りおろせそうなくらいに荒れていた。
医務室に行かねば。
この魔法薬を付けたまま放っておいて、定着でもしたら敵わない。
私はできるだけ人目につかない様に医務室を目指すことにした。
そして不幸は重なるもので、ローブで顔を覆っていた私は視界が悪く、前から来る生徒にぶつかってしまったのだ。
スリザリン。
そう、スリザリンの生徒達だった。
そのうちの何人かは見覚えがあって、つい1週間前に私を口説いてきた奴もいた。他のやつは口説くまで行かなくとも、普段から私の方をチラチラと見てきて、ちょっと羽ペンを落としただけでも、火事が起きたみたいに駆け寄ってきて、慌てて拾っていた様な連中だ。
そんな彼らが私の顔を見るなり「うわっ」と呟いた。
汚いモノを見る様な目で私の顔を眺めて、嫌悪感を隠そうともしない。
私は死にたくなった。
もちろん、本物の私に向けられた視線じゃないということは分かっていた。それでもなお、こんな風に見られるのは初めてだったし、「もしかしたら一生この顔かもしれない」という思いもあって、私は本当にパニックになっていたと思う。
「よくそんな顔でいられるな。ボーバトンではトロールの採用枠でもあるのかい?」
1人の生徒が、そう言ってせせら笑った。
他の生徒もニタニタと笑っている。
パニックになって走り出そうとした。足を引っ掻かれて転ぶ。やめて。私は医務室に行きたいの。はやく、この顔を治さないと。
慌てて立ち上がった私は、またも絶望した。
ちょっとした騒ぎになっていた様で、生徒達が集まってきてしまっていたのだ。その中には私の友人たちもいて……可哀想なものを見る様な目で私を見ていた。
その時に、揺らいでしまった。
美こそ私の全て。
外見だけでなく、内面も磨いてきたつもりだった。
しかし、外見が少し崩れただけでこれだ。友人達はともかく、普段は取りにならない男達でさえ私も見下す。私を私足らしめているのは結局のところ、顔だけなのか。
そう揺らいでしまった。
そして揺らいでしまうと、
私の中の
ヴィーラは普段は美しい姿で男を惑わす生物だが、激昂するとハーピーの様な姿に変わり、非常に攻撃的になる。
その姿は醜い。
いやだ、そうはなりたくない。
そう思っても止められない、
思考が安定しない。
そんな私をよそに益々生徒達は集まってきて、罵倒は止まらない。
ストレスがピークに経ってして、私の耳がハーピーの様にとんがり出したとき――あなたは現れた。
「邪魔だぜオイ。ぼーっと突っ立ってねえで下を見てみろ。お前らは知らないだろうが、そこにある2本の棒は足って言って、動かせば前に進むんだぜ」
人混みを掻き分けてきたのは知った顔だった。
相変わらず、どこまでもマイペースな奴だった。
「分かったら失せろ。また誰かの足を引っ掛けようとしたら、俺がお前の実家の柱を引っ掛けてやる」
ジョークだと私は思ったが、意外にもスリザリン生達はそうは思わなかったらしい。苦虫を噛み潰したような顔をして、そそくさと去っていった。
そして彼――ショーンは私の顔をマジマジと覗き込んだ。
もしかして、私だと気づいて……?
「あんた凄いブスだな」
自分でも知らなかった。
私があんなに早く右拳を動かせるなんて。
ショーンは鼻を抑えながら言った。
「いいか? イギリス人ってのはまず貶すんだ。その後にいいセリフを言うからな。その方が後のセリフが際立つだろ?」
で?
そこまで言うなら続きをどうぞ。
「気品がある。なんだろうな……顔はブスだ。間違いない。スピルバーグは君からインスピレーションを受けて『E.T』を作ったんじゃないかと思うくらいだ。でもなんだか、自分でも変だと思うが……気品を感じる。所作が美しいって言えばいいんだろうかね」
スピルなんとかは知らないけれど、後半はよく分かった。
「だからそこまで顔をのことは気にしなくていいと思うぜ。きっと君の魅力をわかってくれる奴がいる。おっと、ブス専って話をしてるんじゃないぜ」
今までずっと言われたことのない言葉で、ずっと言われたかった言葉だった。
「……ん? きみ、変なにおいがするな。ハグリッドの脇のにおいの香水を愛用しているか、魔法薬を掛けられたかどっちかだ。後者ならお手をどうぞレディ。保健室までエスコートしてやろう。前者なら後でこっそりどこで買ったか教えてくれ。セブルスに共有してやらないといけないからな」
そう言って笑いながら手を差し出してくれた。
少し呆れてから、その手を取る。
私達は二人で医務室へと向かった。たまにショーンがジョークを言って、私は正体がバレたくなくて、声を出さずに笑いを我慢する。受けてないと思ったのか少しショーンが拗ねる。
私はそれを見てまた少し笑う。
不思議だった。先ほどあれだけ馬鹿にしていた連中も、ショーンと一緒だと全く気にならない。
別に、異性として惹かれたわけじゃない。
ただ、感謝したかった。
この日の出来事をショーンは知らないし、これからも教えないつもりだけど。
あなたは間違いなく私の誇りを守ってくれた。
同時に、私は気づいてしまった。
彼の中に、私と同じ闇の魔法生物がいること。
それは私のヴィーラとは比較にならないくらい力が強いこと。
きっと近い未来、彼は“それ”によって窮地に陥る。
私はその時、何をおいても力になろう。
それが私の誇りを守ってくれた彼への、せめてもの誠意だ。
◆
――フラー・デラクールは過去を振り返り、そして物理的に後ろを振り返り、大きなため息をついた。
その恩人――ショーンは「バカがあああああああああ! 引っかかったなこのマヌケ! 勝ったと思ったのか? ええ? 残念ながら貴様は敗者ァ! 敗者! 敗者! 敗者! お前の負け!」と唾を吐き出さん勢いで叫んでいた。
ギャンブルで。
これも死喰い人を潰す作戦という話だ。
まあ、言いたいことはわかる。
銀行を凍結したからあとは手持ちの金を、ということらしい。そういうわけで、ショーンはギャンブルで死喰い人から片っ端から金を巻き上げていた。
事実、今日だけでもう九人の死喰い人を破産させている。
フラーが一緒に来ているのはいわば『釣り役』だ。声をかけてきた男を死喰い人かどうか判断して、ギャンブルの場に渡す。それだけである。死喰い人かどうか判断するのは簡単だ。筋肉が見たいと言って腕まくりをさせて、タトゥーを確認するだけ。
「お嬢さん」
また一人、新しい男が声をかけてくる。
今日話した中では1番の美形だった。
「あら、ハンサムね」
「ありがとう。でもね、腕はもっとハンサムさ」
そう言って袖を捲り、死喰い人の証を見せてくる。
顔は変わらず、うっすらと笑みを浮かべている。
「私はお眼鏡に叶ったかな」
「……あなた、は」
「そう、知ってる。知った上で彼と勝負がしたいのさ」
一歩、男が距離を近づけてくる。
フラーは一歩引いた。
また一歩男が前に出ようとして――二人の間にショーンが割って入った。
正直に言って、ホッとした。この男は得体が知らない。少なくとも、他の死喰い人の様に単なるカモではないことだけは確かだ。
「ナンパのやり方も知らないのかおっさん。近づきすぎだぜ」
「いいや、よく知ってるよ。その証拠にこうやって本命に会えた」
「よく勘違いされるんだが、俺にはそっちの趣味はない。例え性転換の魔法薬を使ったって、あんたと手を繋ぐのもごめんだぜ」
「奇遇だね。私もよく勘違いされる」
男は手に持っていたグラスの中身を一気に飲み干した。
「バーテミウス・クラウチ・ジュニアだ」
「ショーン・ハーツ」
二人は握手を交わした。
そして二人とも同じ酒を頼み、やはり同じ様に一気に飲み干した。
「賭けをしに来た」
「いいね。俺たち気が合うかもな」
「そうだね、そうかもしれないね。なら、気の合う同士、同じモノを賭けるのはどうだろうか」
「同じモノ?」
「そうだ。居場所だよ。それを賭けよう」
「……」
「私が勝ったらダンブルドアの居場所を教えてもらう」
ショーンは何か考えを巡らせている様だった。
彼がそうやって悩んでいる……相手に先手を取られているのをフラーは初めて見た。
普段とは違う。
何か、いやな予感がした。
「俺が勝ったら?」
「ルーナ・ラブグッドの居場所を教えよう」
「……なに?」
「だから、ルーナ・ラブグッドだよ。忘れてしまったのかい? 君の友達のはずだけど」
「お前……」
「君が『不死鳥の騎士団』に手を貸してることは知ってる。その理由はルーナ・ラブグッドだろう。連れ去られた彼女を取り戻すために君は躍起になってる。でも見つからない。それもそのはず、ルーナ・ラブグッドを連れ去ったのは私だ。単独で行い、ありったけの防御魔法をかけた。私しか知らないんだよ。その辺の死喰い人を何人捕まえたって分りっこない」
ピン。
そんな音が聞こえるほどに、空気が張り詰めた。
ルーナという人物のことはよく知らない。しかし、ショーンにとって大切な存在だということは確かだった。
少なくとも今までフラーが見てきた中で、一番ショーンは激怒していた。空気がピリピリとして、近くにいるだけのフラーでも身がすくんだ。そしてそんなショーンと対面しても、バーテミウスと名乗った男は微笑んだままだ。
「分かるだろう? 賭けをするんだ。乗らなければ私はルーナ・ラブグッドを殺す。でもそれだとダンブルドアの居場所が分からない。それでは私にとってなんのメリットもない。君にもだ。だからこれは譲歩だ。君は賭けなくてはならない」
明らかにイライラした様子で、ショーンは考え込んでいた。
しかし結局は賭けになることに決めた。そうするしかない状況だった。
「よしよし。やっぱり私達は気が合うね。それじゃあ、『破れぬ誓い』をたてよう」
異論はない。
これまでの他の死喰い人とのギャンブルでも『破れぬ誓い』は立てていた。というより、『破れぬ誓い』までするというのはあまりないが、魔法使い族同士でのギャンブルにおいては、負けた方が逃げられぬ様に何かしらの魔法契約を結ぶというのはポピュラーなことだ。
それでもなお、拭いきれない『先手を取られた』感。
「ひとつ、加えたい」
「なんだ?」
「『イカサマ』が発覚した場合、即座に負けとする。この条項を加えよう」
発覚した場合、つまり禁止ではなく、見つかった場合負ける。
この奇妙な提案をショーンは快諾した。
これまでショーンが勝ってきたのは、マグル式のイカサマを使っていたからだ。魔法使いは魔法でのイカサマは見破れても、マグル式のイカサマにはまったく耐性がない。
この提案はひとえに、ショーンのイカサマを見破って見せる、そして自分もイカサマも使って勝つ、というクラウチからの提案だった。
賭けはポーカーだった。
チップをゼロにした方の負け。単純明快なルールだ。
勝負が始まり、意外なほど普通なゲーム運びをしている。
少なくともフラーにはそう見えた。
お互いのチップは増えたり減ったりで、運否天賦の勝負をしているだけに見える。
ショーンならイカサマを使わなくてももう少し勝てそうだ、とフラーは思った。
しかしことはそう単純ではない。結局のところ、途中で降りるという選択肢がない以上、いま多少のチップを稼いだところで意味はないのだ。最後の最後、相手をハメなければならない。その時までに勝負の癖を見せたくなくて、互いに運でしか勝負をしていないのだ。
「オールインだ」
先に動いたのはクラウチだった。
これにコールすれば、勝敗はどうあれ決着は着く。
受けるべきか降りるべきか、あるいは――ショーンが考えをまとめる前に、クラウチが驚愕の行動に出た。
「オープン」
「なんだと?」
カードを全てオープンするという暴挙。
手札はクイーンと8のツーペア。
弱くも強くもない、平凡な手だ。そしてショーンの手札は7のスリーカード。
このままベットすれば勝てる。
「……ベットする前に、ひとつ忠告しておこう。
ベットすれば今、遠隔魔法でルーナ・ラブグッドを殺す。もちろん、ルールだからそのあとで死体の居場所を教えてはあげるけどね。
分かるかな? 生きたルーナ・ラブグッドに会いたいなら、君は私に負けないといけないんだ。その場合、ルーナ・ラブグッドの居場所は教えないけどね」
……なるほど。
イカサマ云々というルール自体がブラフだったということか。
最初からこうして脅迫することでゲームに勝とうとしていたのだ。イカサマについてのルールは、単にショーンの動きを制限するためのだけのもの。
そして悔しいことに、クラウチの指摘は当たっていた。ショーンは『不死鳥の騎士団』の指揮をとりながら、その実、誘拐されたルーナを血眼になって探しているのをフラーは知っていた。
「……二枚、交換だ」
揃っていた7を捨てて、新しいカードを受け取る。
これでショーンの手札はブタになった。そして負けると分かってて、コールする。
フラーはひょっとして、ショーンならここからでも勝つのではないか、と期待した。しかしそんな奇跡は起こらず、ショーンはあっさりと負けた。
「約束通り、ダンブルドアの居場所を教えてもらおう」
「ああ、いいぜ」
ショーンが指さしたのは、クラウチだった。
「後ろだ」
空中から金色の糸が垂れて、あっという間にクラウチを拘束した。同時に、何もなかったはずの空間からアルバス・ダンブルドアその人が姿を現した。
「……何故ここにいる、ダンブルドア!」
初めて、クラウチが余裕をなくした。
反対にアルバスは、ほがらかな様子で答えた。
「一応、教職員じゃからな。未成年が賭場にいるとなれば、止めようとするのも仕事じゃよ」
「よく言うよ」
ショーンとアルバスがにたりと笑った。
間違いなく、二人は前から賭場に入り浸っていたのだろうとフラーは思った。
「『死喰い人』を破産させ続ければ、あんたら幹部の誰かがここに来ると思ってたよ。それに、準備は万全だろうともな。だから賭けに勝つことよりも、負けた後のことを考えてたのさ。
ここでは『姿くらまし』も『念話』の類も使えない。
ヴォルデモートさえ来なければ、ダンブルドアの居場所を知ったとしてもどうしようもできないだろ? お前らダンブルドアより弱いんだから」
「長生きはしてみるものじゃのう。わしも教職に就いて長いが、生徒に駒として使われたのは初めてじゃ。もちろん、わしの強さを信頼してのことじゃろうて、嬉しいがの」
「そりゃあ修行とかなんとか言って3ヶ月間もボコボコにされたんだからな。いやでも強さは分かるってもんだ。今だにケツが痛えよ」
「待つのじゃショーン。その言い回しは誤解を招くじゃて。おお、ミス・デラクール……なにゆえにわしから距離を置くのじゃ」
孤児院を燃やされた後、ショーンを引き取ったのはダンブルドアだった。
そしてダンブルドアは「自分の後継者にする」と言って、ショーンを徹底的にしごいた。実戦あるのみ、という名目のもと死にかけるまでダンブルドアと戦わされ、疲れて動けなくなると賢者の石で無理やり復活させられて、また戦う。そんな地獄の3ヶ月間。
これならまだ「自分の愛人にする」と言われた方がマシだとショーンは思った。要するに全身が痛いか、ケツが痛いかの違いだ。
「はははははははっ!
突然、クラウチが笑い出した。
「どうした? これからダンブルドアに“される”のがそんなに嬉しいのか?」
「お主、なぜ先ほどからそんな言い回しをするのかね……おお、ミス・デラクール……なにゆえに店を出て行こうとするのじゃ」
遠さがるフラーを尻目に、クラウチはなおも笑う。
「なかなか優秀じゃないかショーン・ハーツ!
しかしやはり、我が君には敵わない。
我が君の狙いはお前だ、お前の心だ。お前の心を堕とし切ることを望まれている」
「たまげたね。ダンブルドアに続いて、ヴォルデモートまで俺の心を狙ってるとは」
「そういう意味ではない。
はっ! 皮肉を言ってるのも、本心を悟られないようにだろう。
我が君は考えた……お前を最も深く絶望させるには、ルーナ・ラブグッドをお前が助けそうで助けられない、ギリギリの状態で殺すことが最良だと」
クラウチは舌で自分の頬を舐めた。
これはクラウチが興奮した時に出す癖だった。
「我が君はお前の能力を評価しておられる。
どうあれ、お前なら何か策を考えて私に勝つだろうと――ダンブルドアを駒として使うのは予想外だったが――どうなってもいいように保険をかけられたのだ」
「魔法界にも保険会社があったとはね」
「どうした? 皮肉に力が入っていないぞ」
クラウチはまた舌で頬を舐めた。
「こう考えているな?
私に『開心術』か『真実薬』を使ってルーナ・ラブグッドの居場所を吐き出させればいい、と。
だが無駄だ。
私はここに来る前に、記憶を自ら放棄している」
「ブラフだろ。『破れぬ誓い』を立てたはずだ」
「そうだ。だから賭けに負けていれば私は誓いを破り、死んでいた。
ルーナ・ラブグッドを助けられると思ったお前の目の前で私が死んだ時の顔も見てみたかったがな。
どうあれ、お前はルーナ・ラブグッドを助けられない!
そうだな……3日ほどか?
あの女は餓死するだろう。お前は耐えられるか? 見ものだな」
ショーンはクラウチの首根っこを掴み、締め上げた。
「殺してやる」
「ああ、やってみろ。お前は後悔するだろうな。見つからないルーナ・ラブグッドを探しながら、生かしておけば少しくらいは情報を得られたかも、と。
次はなんだ?
拷問でもしてみるか?? え?」
ショーンがちらりとダンブルドアを見る。
悲しそうにダンブルドアは首を横に張った。つまり、クラウチの言うことは真実で、ダンブルドアが探ってもそもそも記憶がないのだ。ないものはどうしようもなかった。
「……少し、考える」
ショーンはクラウチを手放し、椅子に深く座り込んだ。
フラーが心配そうに肩に手を置き、アルバスが見つめる。ショーンを心配してのことだった。
つまり、クラウチから目を離したと言うことだ。
「しまっ――」
ぱちんっ! という音と共に、屋敷しもべ妖精が現れた。
椅子に座っていたにもかかわらず、ショーンは誰よりも速く反応しつかみ掛かったが、掴めたのはローブだけだった。
クラウチはローブを破り捨てて、屋敷しもべ妖精と共に『姿くらまし』してしまった。
痛いほどの静寂だった。
残ったのは破れたローブだけで、ルーナに関する情報は何もない。
前の話のあとがきにオマケを追加しておきました。
よければ読んでみて下さい。