ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第12話 ヌルメンガードの少女 後編

 ――――――ジニーがヌルメンガードに投獄されてから、半年が経とうとしていた。

 

 そして今、ようやくゲラートのひとつ前。

 ゲラートを除いた最後の囚人を倒した。

 

「へっ、へへ。参ったなお嬢ちゃん。あんた強くなりすぎだ」

「よしなさいよ。3敗1勝、あんたに勝つまで3回は死んでんのよこちとら」

「それでもお嬢ちゃんの勝ちだ。超えられたよ。これから先何回やってもお嬢ちゃんが勝つ」

「それはまあ、そうね。あんたもう成長しない歳だけど、私はまだ若いし」

「はっきり言うね」

 

 最後の囚人――食事を作っていたあの囚人だった――を倒すと、空間に扉が現れた。

 この先にゲラートがいるのだ。

 

 ジニーは目を瞑り、ここまでのことを思い出した。

 勝ったり、負けたり。

 試合や喧嘩というより、戦争のような日々だった。

 時には暴走した囚人に殺されかけたりもしたし、壁にぶつかって自分の弱さに泣いたりもした。

 そんな時に助けてくれたのはいつもゲラートだった。

 師匠、と呼ぶべき存在なのかもしれない。認めるのは癪だが。

 

 ――扉を蹴飛ばす。

 

 粗暴なのではなく、罠を警戒してのことだ。

 これもゲラートの教えだった。

 とにかくこの牢獄は罠が多い。前に無防備に扉を開けた時など、熱々の餡とタライが落ちてきて、3日ほど髪がキシキシしたものだ。

 

 ゲラートは何も言わず、ただ部屋の真ん中に佇んでいた。

 お喋りすぎの彼にしては珍しかった。そのことが最後の試練であるということを示している様だった。

 だからジニーも何も言わなかった。

 

 ゲラートが杖を振るうと、銀色の甲冑を着た兵隊が2ダース現れた。昔に見たダンブルドアが使役する金色の兵隊は彫刻のようで、生き生きとしていたがゲラートのそれはまるで違う。

 ランスと大楯を構えた者、

 マスケット銃を構えた者、

 それらが1ダースずつほどいて、一従わなずに陣形を作っている。まるで遊びがない、まさに魔法で作った冷たい兵隊だった。

 

 ジニーが駆け出す。

 中・遠距離攻撃の手段に乏しいジニーにとっては当たり前の選択だ。そして当然、ゲラートもそんなことは分かっている。

 銀色の兵隊の一体がマスケット銃を放った。次いで、別の兵隊もそれに続く。

 避けて、その次も避けて……時間差で撃ってくるマスケット銃の砲撃は、確実にジニーの進路を狭めて来る。ゲラートの攻撃には遊びや閃きというものが一切ない。

 淡々としていて、機械的だ。

 

「(……当たる!)」

 

 遂に避けきれなくなった弾丸を素手で受け止める。

 今のジニーにとって、普通の弾丸であればそれほど脅威ではない。

 しかし、

 

「いっっっっっったいわねえ!」

 

 馬鹿みたいに威力が高い。

 受けた部分が骨まで軋んだし、全力で踏ん張ったのに2メートルほど吹き飛ばされた。

 あまりに強く踏ん張ったせいでコンクリート製の床が電車道の様に削れていた。

 

「オラァ!」

 

 それを活かして、コンクリートの破片を蹴飛ばす。

 ……大楯を持った銀色の兵隊に塞がれる。

 硬い。

 今まで見てきたどの物質よりも、あの銀色の兵隊達は硬い。

 そしてその大楯の隙間からマスケット銃が出てきて、砲撃。なんとか避けたが体勢が悪い。そこをまた突かれる。

 ジニーは近づかなければ攻撃ができない。

 しかし近づけば近づくほど、攻撃もまた激しくなる。

 

 ゲラートが杖を振るう。

 新しいマスケット銃が出てきて弾が補充された。

 ああされると、弾切れも狙えない。

 

「そうでなくちゃね」

 

 絶望的とも言える強さだ。

 それでもなお、ジニーは満足げに笑った。

 

 ここに来てから学んだこと。

 壁は高ければ高いほど、超えた時に成長できる。

 随分強くなったとは思うが、ヴォルデモートに勝てるかと言われると怪しいものだった。

 だけれども、ゲラートを越えることができれば……ダンブルドアやヴォルデモートと肩を並べられる。そしてハリーと一緒に戦えば、ヴォルデモートにだってきっと勝てる。

 ジニーはそう確信した。

 

「あらためて、目標はわかったわ! クソジジイ!! 後はあんたを越えるだけってことね!」

「そうだ! クハハハっ! 早く超えて見せろ! それとも寿命が来るまでそこで待ってるか!」

「寿命の心配より、相続と気の利いた遺言の心配でもしてないさいよね!」

 

 挨拶は終わった。

 今までの攻防は二人にとってほんの小手調べ。

 ジニーは己の成長をゲラートに示したかったし、ゲラートは自分を最後の試練だとしてジニーに伝えたかった。しかしそれは言葉では到底表せない思いだ。だから二人は会話をせずに、己の流儀で挨拶したのだ。

 

 拳を高く掲げる。

 気合いを入れ直した――わけではない。

 渾身のパワーで床を殴る。

 

 まるで爆弾が投下されたかの様に、

 一瞬床が波打った。

 

 その後、地面が割れた。

 凄まじい砂煙が舞い上がる。

 

「派手な目眩しだな」

「私の輝きを消そうと思ったらこのくらいは必要でしょ」

 

 ゲラートが杖を振ると、砂煙が霧散した。

 ジニーの姿はない。

 

「上か!」

 

 床に映る影でゲラートはジニーが飛んだことを確信し、見上げた。

 しかしそこにあったのはローブだけ。

 

「私が上なのは“格”と“女子力”だけよ」

 

 声が聞こえたのは“下”だった。

 脆くなった床を壊して、地面をくり抜いて来たのだ。

 地面を破りながらジニーの拳が迫る。

 しかしゲラートを捉えるよりも早く、大楯を持った銀色の兵隊が割って入った。ジニーの戦略よりもゲラートの備えが一歩優ったのだ。

 

「ぬるいわ!」

 

 当たる直前、拳を解いて掌底に切り替える。

 大楯を吹き飛ばしてゲラートに当てる……という咄嗟の判断だ。

 

「私の魔法で作られたことを忘れたか?」

 

 ゲラートに当たる直前、大楯が霧散する。

 ゲラートが創り出したものである以上、出し入れは自由というわけだ。

 左右前後、大楯を持った兵隊が創り出される。覆い被さるように大楯をぶつけられた。

 そして隙間から、ランスが飛び出て来る。

 

「ごへっ!」

 

 なんとか急所は避けた。

 しかしランスが肌を破り、筋肉を突き刺してくる。服に血が滲み、内臓を痛めたのか喉奥に鉄の味を感じた。

 おそらく一体一体の力はジニーよりも低い。だが、数をたてに連携をされると流石に力負けする。

 

「こ、このクソッタレが!!!」

 

 お、押し潰される……!

 視界が大楯で塞がれてるせいで正確な数は分からないが、かなりの兵がジニーに覆い被さっていた。

 ランスが刺さっているせいで力を入れると激痛が走るし、出血も酷くなる。

 どうにかしないと。

 

「重いのはハリーへの愛だけで充分だっての!」

 

 思いっきり床を踏み抜く。

 ジニーのパワーと、兵隊の重量の乗ったそれは容易く床を壊した。

 兵隊達のバランスが崩れた隙を逃さずに、一気に包囲網を抜け出す。

 

「重い女は嫌われるぞ。“しつこい”ってな」

 

 兵隊達が一瞬にして消えて、またジニーを取り囲むように現れる。

 これでは先ほどの繰り返しだ。

 

「ま、まじにしつこいわね」

「ああ。それでいて新しい」

 

 繰り返し、ではない。

 大楯とランスに加えて、マスケット銃を構えた兵隊もいる。

 砲弾はジニーの足を的確に狙った。

 足が止まると大楯で押し潰され、隙間を縫ってランスや砲弾が容赦なく貫いてくる。ダメージで余計に動きが鈍くなる。完璧な悪循環だ。

 

 一瞬でジニーは瀕死に追い込まれた。

 

 ……これまで、強い奴はいた。

 しかしここまで力の差を感じたことはなかった。

 当たり前だがゲラートは強い。強すぎる。今のジニーには決して超えられない壁だった。

 

「(……ハリー)」

 

 死の淵で、ジニーが思うのはやはりハリーのことだった。

 走馬灯のようにハリーとの思い出が頭を駆け巡る。

 

「――はっ! あはははははははははっ!!」

 

 血まみれになりながら、ジニーは笑った。

 痛みは消えた。

 ハリーとの思い出はジニーにとって何よりも大切なものだ。それを走馬灯により一瞬で感じたことで、ジニーの脳みそはかつてないアドレナリンを精製していた。

 それと、もうひとつ。

 

「ゲラート! あんたは確かに強いわ。けれど老いてる。全盛期はともかく、今はヴォルデモートの方が強いんでしょ」

「……そうだろうな」

「だったら!! ハリーが赤ちゃんの時にヴォルデモート倒したんだから、今の私があんたに負けるわけにはいかないでしょうがよ!!!」

 

 あまりにも無茶苦茶な理論だった。

 

「クハハハっ! ああ、そうだ! その通り!! だから私はお前が気にいったのだ! 最愛の者の横に立つには、対等でなければならない! まったく同感だ! だから私は例え悪に染まろうとも偉業を成し遂げたのだ!!!」

「ハリーの横に私は立つ!!!」

「やってみろ! 私はアルバスに並び立った唯一の男だ!!」

 

 原動力はハリー・ポッターがくれた。

 そしてやり方を教えてくれたのは……ショーンだった。いつだって、どんな絶望的な状況だって、愉快でスマートな作戦を立てる親友。

 それをいつも間近で見てきた。

 

「杖を感じることでより私は強くなれた! けどまだ足りない! だから!!」

 

 ジニーは杖を掲げ――飲み込んだ。

 

「これで完全! 下の口の初めてはハリーが予約済みだけど、上の口はあんたにくれてやるわ」

 

 初めて杖に触れた時のあの高揚感。

 それよりもずっと強い昂りが身体中を駆け巡った。

 しかもそれがずっと終わらない。

 今ならなんだって出来そうだった。

 

「ああ、そうだ。それが正解だ。杖との完全一体化――私には出来なかった。世界の歴史を紐解いてもほとんど成功例がないが、極限まで追い詰められた魔法使いが瀕死の状態で杖を飲み込んだ場合にのみ成功すると言われている究極の技。

 シチュエーションが揃っても失敗する時もあるがな……その状態になった魔法使いは潜在能力を100パーセント引き出せると言われている。

 小娘、貴様をみているとなんとなく成功の理由がわかったぞ」

「愛、とかぬかすんじゃないでしょうね」

「……戦いよりも先に言葉で私を追い詰めてどうする」

 

 ジニーは鼻で笑った。

 

「不思議ね。さっきまであんたとの距離が遠かった。でも今は凄く近く感じるわ。手を伸ばせば届きそうなほど」

 

 大楯を持った兵隊に向かって軽くジャブを撃つ。

 ……吹き飛ぶと思った。

 しかしそうはならず、大楯と兵隊に穴が空いた。あまりの威力に力が分散しなかったのだ。

 

 ゲラートが杖を振るうと、兵隊達が全て消えた。

 残ったのはゲラートとジニーの二人だけ。

 ここから先の戦いには、これまでの兵隊では付いてこれないという判断だろう。

 ――否。

 一体だけ、新しい形の銀色の兵隊が創り出されていた。

 見事に彫刻されたそれは、一人の魔法使いの形をしていた。ジニーにはダンブルドアに見えた。若い頃の彼を知らないが、あれはきっと昔のダンブルドアだ。

 

「……言っただろう。私はアルバスと並び立つ唯一の者だと」

「ええ。羨ましいわね。私はまだだから」

 

 三人がそれぞれ構えをとった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 ゲラートの魔法はまるでマグルの兵器の様だ。

 無駄がなく、機能性のみを追求したような殺意の塊。

 

 ダンブルドアの魔法はまるで芸術の様だ。

 美しく、自由でまるで踊っている様だった。

 

「私の勝ちね」

 

 ダンブルドアの形をした銀色の兵隊が崩れ、空へと溶けていく。

 ゲラートは「アルバス……」と呟き、名残惜しそうにみていた。

 

 勝ったのはジニーだった。

 およそ3時間にも及ぶ激闘の末に、ダンブルドアの形をした銀色の像を破壊し、ゲラートの心を折った。

 

「私は……私はどこかで間違えた。本当にアルバスを再現出来ていれば私は今でも世界最強だったはずだ。

 すまないアルバス……君をこんなにも弱い姿でしか作れなかった私を許してほしい」

 

 座り込みながら泣くゲラートを見て、ジニーは憤慨した。

 

「はぁ? なに言ってんのよ。つえーわよ。見なさいよこれ」

 

 切り落とされた自分の右腕と、削られすぎて骨が見えている腹部をジニーは指差した。見えない部分、骨も筋肉もズタズタだし、内臓もしっちゃかめっちゃかだ。杖と一体化していなかったら倒れているどころか死んでるだろう。

 勝った、とは言ってみたものの、ほぼ無傷のゲラートと比べるとどちらが勝者か分からなくなってくる。

 とはいえジニーはまだ戦えて、ゲラートが戦意を失ってるのだから、誰がなにを言おうとジニーの勝ちなのだ。

 

「安心しろ。どちらの傷も呪いはかけていない。すぐに治る」

「それを早く言いなさいよ! 結婚指輪つけるために左腕守ったから、余計なダメージ負っちゃったじゃない」

「クハハハっ! まったく、最近の若者は恋愛脳がすぎるな」

 

 見ると確かに、他の指は折れたり千切れたりしているのに、薬指だけは華麗なままだった。

 アルバスを守りきれなかった自分とは大違いだ、とゲラートは思った。

 

「大したものだ小娘……いや、もう小娘とは呼べんな。ジニー・ウィーズリー、お前は私を完全に超えた」

「……あほね。小娘でいいわよ。こちとらまだティーンなんだから」

「クハハハ! 私もまだ捨てたものではないな。その様子だと、私に堕ちたのだろう」

「あんたの首を落としてやろうかしら」

「これが本当のクビったけ……やめろ、冗談だ」

 

 青筋を立てるジニーを見て、ゲラートは慌てて撤回した。

 

「しかし小娘、お前の純愛さにはほとほと驚かされた。まさかこの短期間で私を超えるとはな」

 

 それも一重に愛ゆえに……か。

 ゲラートは心からジニーの成長を嬉しく思い、納得していた。

 そしてふと、好奇心が芽生えた。一体どういう時間を一緒に過ごせば、ここまで人を想えるのか。

 

「付き合ってどのくらい経つのだ?」

 

 そんな思いから投げかけた、純粋な質問だった。

 ここまで来たのだ、のろけ話くらい聞かせてもらわなきゃな、という気持ちだった。

 てっきり怒涛の様に話し始めると思ったが、意外なことにジニーは顔を赤くして俯いていた。

 

「……つ、……ってな、い」

「ん? すまんが耳が遠くてな。はっきり言ってくれるか」

「……ってない」

「なんだ? いつもの大声はどうした?」

 

 俯いたジニーがばっと顔を上げる。

 髪よりも血よりも、真っ赤な顔だった。

 

「どぅあから!! 付き合ってねーって言ってんのよ!!」

「な、なにぃ!?」

「こちとら絶賛片想い中だってのよ!」

「じゃ、じゃあなにか!? キスのひとつもしてない片想い相手のためにわざわざこんな監獄に来て、世界最悪と言われた犯罪者と一緒に生活して、腕と腹が吹き飛ぶ様な戦いをしたというのか!?」

「ええそうよ! キスのひとつもしてない片想い相手のためにわざわざこんな監獄に来て、世界最悪と言われた犯罪者と一緒に生活して、腕と腹が吹き飛ぶ様な戦いをしたってのよ! なめてんじゃねーわよ!! 文句あるわけ?!」

「はぁ……」

 

 とうとうゲラートは地面に突っ伏した。

 

「勝てるわけがない。こんな……こんな馬鹿は初めて見たぞ」

「ちっ。小っ恥ずかしいこと言わせんじゃないわよ」

 

 恥ずかしそうにジニーはそっぽを向いた。

 今日で一番ダメージを受けている様に見えた。

 

「手くらいは繋いだのか?」

「…………ダンスパーティーの時にちょっとだけ」

「そうか。ふっ。初々しいな」

「ばっ、馬鹿にしてんじゃねーわよ」

「してないさ。眩しいくらいだ」

「眩しいのはあんたの頭皮よ」

「やめろ。私の頭皮と青春の光を比べるのは二度とするな」

「けっ。いいきみよ。そんであんたはない髪ね」

 

 ここに来てあまりにもジニーの反応が初々しいものだから、なんだかゲラートまで恥ずかしくなってきた。

 

「幸せになれるといいな」

「なるわよ。必ず掴み取ってやるんだから。こんなとこまで来て振られたらほんと、私ってなんなのって感じだし」

 

 しかし今のジニーと初夜を迎えられる人間などいるのだろうか、とゲラートは真剣に思った。

 少なくともゲラートが創り出す銀の兵隊のランスくらい“硬く”ないとジニーは“貫けない”だろう。

 そして同時に、そんな普通のことを考えている自分を客観的に見て、なんだか笑えてきた。まるで娘を心配する父親の様だ、と思ったのだ。

 

「小娘」

「なによ」

「私をやる」

「はぁ!? なにキッショイこと言ってんのよ!」

「ええい、殴ろうとするな! 勘違いだ! 私の魂をやるのだ! 肉体ではない! そしてどちらかといえば私は貰う側だろう!」

「言い回しがいちいちややこしいのよ! 悪役ってもっとこう、スパスパ話せないわけ」

「もったいぶった言い回しは悪役の美学だとも」

 

 ククク……と笑いながら、ゲラートが杖を振るう。

 みるみるうちにジニーの傷は塞がり、腕さえ生えてきた。

 反対にゲラートの身体は乾燥した地面の様にひび割れ、その身体からは生気が失われていく。

 

「あんた何してんのよ!」

「言ったろう。私をやると。どうせ私は病で長くない……これでいいのだ」

「だからって! 何にも言わずに!」

「言ったら止めただろう」

 

 ゲラートが立ち上がる。

 身体から皮膚がポロポロと落ちていく。

 どんどん崩壊していくというのに、意外なほど足取りはしっかりしていた。

 

「さて、小娘。最後の授業だ」

「……なによ」

「私を殺せ」

「……」

「人を殺す、というのには覚悟がいる。お前の仲間達は戦う覚悟はあっても、殺す覚悟はないはずだ。だからお前がやれ。これから先の戦争ではそれが必要になる」

「ちっ」

 

 ジニーは舌打ちこそしたが反論はしなかった。

 ゲラートの言葉が正しいと理解していたからだ。

 

「どうせ死にゆく身体だ。入門編としては優しいだろう」

「変なとこで気を使われたって嬉しかねーわよ」

 

 数巡、ジニーは黙った。

 そうしている間にもゲラートの身体は崩れていく。しかしゲラートは急かさなかった。

 やがて、ジニーが口を開いた。

 

「遺言は?」

「アルバスに。アリアナを殺したのは私だ、と言ってくれ。それで伝わる」

「……分かった。必ず伝える」

 

 ジニーは手に力を込めた。

 

「私を強くしてくれてありがとう、クソジジイ」

 

 ジニーの拳が当たるその直前。

 ゲラートの杖が浮かび上がり、姿を変えた。

 

「アルバス……」

 

 ダンブルドアの姿を模した銀色の像が、ゲラートを守る様に割って入った。

 それは先ほどとは違い、ジニーもよく知る老いた姿だった。

 

「無意識の魔法……」

 

 ジニーの呟きとほぼ同時に、魔法で出来たダンブルドアがゲラートを抱擁した。

 そしてゲラートの身体が砂となり、ダンブルドアもまた崩れ去った。

 世紀の大魔法使いであり、かつて最悪の魔法使いといわれた男が死ぬ間際まで願っていたことは世界の征服でも強さでもなく、ただ愛する者と共にいたいという、ジニーと同じ、否、この世界の誰もが願う当たり前のことだったのだ。

 

 

   ◇

 

 

「ボスは死んだのか」

 

 ご飯当番のあの主人が、立ち尽くすジニーに声をかけた。

 ジニーは何も言えなかった。

 

「分かってたことだ。あの方はもう長くなかった。病に伏してからは毎晩、昔を思い出して泣いている様子であられた」

「……仇でも取る?」

「まさか。

 俺たちはお嬢ちゃんに感謝してるくらいさ。あの方はお嬢ちゃんが来てからは随分明るくなった……それに、今や束になってかかったって敵わねえだろう」

 

 ふと、ジニーは思い出した。

 ゲラートは食事のトレイを持ってはいたが、一度も食べていなかった。

 

「行くんだ、お嬢ちゃん。ここにはお嬢ちゃんが求めるものはもう何もない。愛する人の元へ行ったほうがいい」

「……そうね。言われなくてもそうするわ」

 

 そうだ。

 そうだった。

 ここに来たのも全ては、ハリーの助けになるためだ。

 戻ろう、ホグワーツへ。

 

「……ん?」

「どうした、お嬢ちゃん」

「どうやって戻んの?」

「えっ?」

 

 戻ろう、ホグワーツへ。

 戻りたい、ホグワーツへ。

 

「いや、だから、どうやって戻ればいいわけ?」

「……」

「…………」

「………………来る時は?」

「………………不死鳥の転移で勝手に送られたのよ」

「ああ、なるほど。不死鳥、ね」

「そうなのよ」

「不死鳥か……困ったな、鶏肉ならあるがね」

「あら、そうなの。気が効くわね」

「…………」

「…………」

「泳げるか?」

「人並みには」

「よし。南の方角だ。コンパスはあるからな」

「くっ、」

「く?」

「クソジジイ!!! 帰り方くらい考えときなさいよ!」







『ノンケと非ノンケのハーモニー』というフレーズを思いついたのですがどうやっても本編で使えなかったのでここで供養させて下さい。

登場人物で誰が一番好き?あるいは誰が一番不快ではないか

  • ロウェナ・レイブンクロー
  • ヘルガ・ハッフルパフ
  • サラザール・スリザリン
  • ゴドリック・グリフィンドール
  • ジニー・ウィーズリー
  • ハーマイオニー・グレンジャー
  • ルーナ・ラブグッド
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