最近ホグワーツ創設者達が表に出てこなかったのは、彼らに対するギャラが払えなくなったからではない。ショーンの奥深くに入り込んで、帝王の力を封印していたからだ。
なので、ショーンが力をある程度力をコントロールできる様になった今、前と同じ様に外に出てくることとなった。
「家族会議の時間だオラァ!」
「えええええええええ!? な、なんで開幕私の寮の扉が蹴破られてるんですかちょっと!? 私自慢の仕掛けであるクイズ答えないと開かない扉が木っ端微塵なんですけどォ!! 出されたクイズに私がチョチョイと答えて「ロウェナは天才だな」、「いえいえ。これくらい朝飯前です。この程度のことで褒められるのはくすぐったいですね」的な会話と一緒に吹き飛ばされたんですけどっ!!」
こいつよく噛まずにそんな長台詞喋れるな。
そんなことを思いながら、ショーンはレイブンクロー寮に足を踏み入れた。侵入したとも言う。
驚くレイブンクロー寮の生徒の中から、代表して七年生が聞いてくる。
「は、ハーツ! なぜレイブンクロー寮に!?」
「ああ。ここレイブンクロー寮か。ちょっと間違えたわ」
「間違えた!? ここに来るには結構な長さの螺旋階段を登らないといけないのだが……そ、そうか。それに扉が壊れてるが……」
「俺流のノックに耐えられなかっただけだ。きっと留め金が緩かったんだろう」
「留め金が……うん。君流のノックはもう二度と使わない方がいい。どんな留め金でも緩くなるし、最悪には中の人がショック死すると思う」
それだけ言うと七年生は友達の輪に戻っていった。
なんとなく目で追うと、白い大きな彫刻が目に入った。ロウェナだ。本人と見比べる。やや――否、確実に胸が大きく作られている。大きく作られていると言うか、無であるはずの空間に膨らみがある。
「て、てへ」
「うわぁ」
「マジなトーンでドン引きしないで下さいちょっと! あれは私の弟子達が勝手に作ったものなんですよ! 私はなぁーんにも関わってませんから。いや本当に。いやー、私ってば尊敬されてましたから。尊敬が溢れてちょっとだけ美化しちゃったんですねー」
万年魔法歴史学の成績が低いショーンといえど、歴史は正しくなければならないと言う、学問上の普遍的な正義感は持ち合わせている。
だから、思った。
後で削ろう。
正しい姿を後世に残さねばならない。
「灰色の淑女はいるか」
それは一旦置いておいて、目的の人物を呼ぶ。
灰色の淑女――ヘレナ・レイブンクロー。ロウェナの娘である彼女とは、いつか話さなければならないと考えていた。とはいえ、ロウェナの気持ちに整理がついたからでもいいと思っていたのだが……前世を自覚したことでひとつ考えが変わった。
あれ、ヘレナって俺の娘じゃね? と。
そうなるとロウェナだけでなく、自分の問題にもなってくる。そういう理由でショーンは、名前的に内緒の会話をするのにぴったりそうな秘密の部屋にヘレナを招待した。そして今、三人でテーブルを囲んでいる。
「お待ちしておりました、お父様」
「なんだ、気づいてたのか?」
「それは、はい。初めて見たときに。昔のお父様に大変よく似ていましたから……。はやく会いたいと思いましたが、なにやらバカ女の気配を感じましたので」
「ば、バカ女ってもしかして私のことかなー……なんて。あはは」
「あら、お母様。いらしたんですか」
ヘレナはロウェナの方を一瞬も見ずにそう言った。ロウェナは気まずそうにチラチラとこっちを見ている。
「お前ら仲悪いのか」
「そんなことないですよ。ね、ヘレナちゃん!」
「最悪です」
同じ質問をしたとは思えないくらい違う答えが返ってきた。
「ああ、いつものか」
「い、いつものってなんですか!?」
「お前が好きなものは大体お前のこと嫌いだからな」
「過酷すぎる人間関係!?」
「お母様は昔から、全くの無関心か構い過ぎて殺すかの二択でしたからね」
「なるほど」
「とは言っても、私はそれが理由でお母様と仲違いしたのではありませんが」
「たしか、伝記だと魔法の才能に嫉妬したお前がティアラを奪って云々、だったな」
「お父様、どうか私のことは娘かヘレナとお呼びください」
「わかったよ、ヘレナ」
「ありがとうございます。それで、はい。それはまったくのデタラメです。恐らくはお母様の弟子達がそう伝えたのでしょう」
「それじゃあ、俺が原因か? 俺は闇の帝王だったし、家庭をめちゃくちゃにするくらいしてもおかしくなさそうだ」
家庭をめちゃくちゃにする闇の帝王なんていうのは、一周回ってマヌケだとショーンは思った。
「それも違います。むしろ、真意はどうあれ、お父様は私にとって非常に良い父親でした」
「じゃあなんでだ?」
「それは――お母様の『母』としての能力が低すぎたからです!」
「ご、ごめんなさい〜〜〜〜〜!!!」
ロウェナは縮こまって「ゆるしてゆるしてのポーズ」をした。しかし効果はないようだ。ヘレナは止まらなかった。ショーンは無視した。ロウェナは泣いた。
「お母様、いえ、このクソ女は育児や家事どころか、人間としての能力がこれっぽっちもないのです! 掃除をすれば食器を粉砕し、服を縫えば袖が3つ! あろうことか料理をすればイギリス料理をだす始末! 魔法能力だけはいっちょまえにある癖に「それだと家族としての暖かさがないじゃないですか」とか言って手作りしようとするからタチが悪い! 家族としての暖かさよどころか、命がなくなるところなんですよこっちとら!
その度にお父様が助けて下さいました。泣きわめくクソ女をなだめつつ、私の世話をして、本当に大変だったと思います。クソ女が壊した私のおもちゃをこっそり直している姿を偶然見たときは、不覚にも涙が出ました」
「ば、バレてたんですね……」
「はい、出た。出ましたね。いっっっつもそう。嘘が下手なのに、最初はとりあえず誤魔化そうとするんですよね」
ヘレナの暴言、いや、証言にロウェナは涙目になりながら目を泳がせるという忙しい方法で動揺していた。
そして傍には難しい母娘の関係に悩む父がいた。というか自分だった。
「お父様が世界を壊してる横で、こいつは家庭を壊してたんですよ」
「に、似たもの夫婦ですねーー……な、なぁあんちゃって。てへ」
「次そうやってベロ出しながら手を頭に置いたら、俺がお前の顔面を壊す」
ロウェナはぶるっと身を震わせた。
「そしてお父様は出ていかれました。私としては当然だと思いましたよ。だから私はお母様をなじったのです。器量がない、胸がない、私の胸がないのもそのせいだと。全部あるヘルガ様の元に産まれたかったと。大体、名前が似てるあたりちょっと意識してるのではないかと。そしたらクソ女はこう言いました。「じゃあヘルガの家に行けばいいじゃない! うぇーーん」なので私は手土産として髪飾りを持ってヘルガ様のところに向かいしましたとも、ええ。その途中でお母様の弟子の一人――今でいう血みどろ男爵――が止めに来たのです。お母様を崇拝する彼はいたく腹を立てていて……勢い余って私を殺しました」
「すごい勢いの余らせ方だな」
「今のクソ女からは想像がつかないかもしれませんが……当時のロウェナ・レイブンクローは魔法使いの頂点として神のように扱われていました。そんな神を穢したのですから、娘といえど、許せなかったのでしょう。ところが殺した後で神がそうは望んでいなかったことを知り、彼もまた自死を選んだのです」
……なんだろう。
ヘレナとは今日初めて話したはずだというのに、彼女を殺した血みどろ男爵に無性に腹が立って来た。
『闇の帝王』に魂が侵食されると父性を感じるようになるというのは、なんだか面白いとショーンは思った。いや全然面白くないが。娘死んでるし、妻は貧乳だし。
「なんかすまないな。だらしない両親で……いや、正確には前世のことなんだけど。というかヘレナ的には俺は父親っていう認識なのか?」
「ああ、そのことですか。当時のお父様は肉体的には『闇の帝王』ですが、精神的には『ショーン・ハーツ』でしたよ。
『闇の帝王』は『万物の声』を聞き取ります。1000年前に飛んだ時、クソ女と会ったでしょう。あなたは感情がない時代のクソ女の心を溶かした唯一の存在で、闇の帝王はそこに注目しました。心を読み取り、お父様の人格を再現したのです。そして『ショーン・ハーツ』のことが大好きすぎるクソ女は、見事にころっとイってしまったのです。
実際には闇の帝王の狙いはそこのクソ女の弱体化が狙いであるとも知らずに」
「う、ううぅ……そんなに言わなくてもいいじゃないですかあ。私だって恋のひとつもしたいですよ! 女なんですからね!」
「仮にも娘の前で女出さないでもらえます? それともあれですか、偉大なるロウェナ・レイブンクロー様は私を産んでからもずっとお父様好き好き人間だったので母っていう認識がないんですかね?」
「そ、そんなこともないですけども!? ま、まあショーンのことはずっと好きですけど……」
「なんかもう、ネタとか抜きに本格的にダメ人間だなお前」
ガーン! とわざわざ口で言った後に、ロウェナはしゃがんで地面に指でごめんなさいと書きながらいじけ出した。
残念ながらそれを慰める人間はいない。
彼女の弟子達だって、この姿を見たら履歴書から弟子だったことを削除するだろうとショーンは思った。
「……はあ。まあしょうがない部分もあるんですけどね。クソ女は魔力の多さと記憶力の高さから、感情を司る部分がほとんど機能していませんでした。私を産む際に魔力の大半を私に譲渡した為にいきなり感情が豊かになり……そこに自分の理想の男性が夫という状況も加わって、こんなアホにおなりになってしまわれたのです。精神的には10代女子なのです」
ちらっ、ちらっ。
ちょっと擁護する声が出た途端、やっぱり口でそう言いながらロウェナがショーンを見た。子生意気にも上目遣いまでしている。
ショーン、無視する。
ロウェナ、泣く。
「そうしてお母様の弱体化に成功した闇の帝王は、自分の中に作ったお父様の人格を消し、私達の前から去りました。ついでにクソ女に呪いをかけて。クソ女はそのショックと呪いのせいで呆気なく死んでしまったのです」
「どうして闇の帝王はそこまでしたんだ? ゴドリックに勝つ様なやつなんだろう」
「これはあくまで想像ですが……それは、はい。脅威だったのでしょう。当時のロウェナ・レイブンクローは時や空間を操る史上最高の大魔法使いです。闇の帝王がゴドリック様に勝てるのは彼が真なる不死が故ですので、クソ女であれば自分を封印する魔法なりなんなりを生み出すかも……と考えて謀殺したのではないかと」
言いたいことはわかる。
非常に分かるのだが、ロウェナがあほあほ過ぎるせいでなんかマヌケな話な気がした。凄まじく強い敵がわざわざ複雑な手順で殺そうとした存在なのだから、最後まで威厳があって欲しかった。今のロウェナは階段から転んで頭でも打って死にそうなくらいあほあほだった。
と、そこに。沈黙していたサラザールが割って入る。
「ふん。その推測は正しい。実際のところ、私とゴドリックで闇の帝王を封印したわけだが、その封印魔法を作ったのはロウェナだ。死んだ後にいじけているのを『蘇りの石』で無理矢理引っ張り出して作らせたからな」
「ほ、ほらぁ! 私ってばやっぱり大天才ぃー! こちとら本気出せばこんもんですよ! だからはい、褒めるパートに入ってもいいんですよ? ね、ね、ショーン」
「褒めるなショーン。こいつと来たらいじけ過ぎて大変だったんだぞ。同じく死んでたヘルガと二人で説得して、やっと魔法を作らさせたのだ。世界を救う分水嶺だというのにやれ『夫が冷たくて死にたい……ああ、もう死んでましたね。夫の呪いで』だの『体つきが貧相だからなんですか。そうですか。それが罪なんですか』だのと」
「ちょ、ちょっとサラザール! それは言わないお約束でしょうが!」
「黙れ! 世界の終焉間近で家庭内不破の相談を受ける身にもなってみろ! まったく、私はいつも損な役回りだ」
「その節は母がご迷惑を」
「その節は妻がご迷惑を」
「よい。貴様らが謝ることでは――」
「あっ! ショーン今、私のことを妻って呼びましたね!? 呼びましたよねー? ふへへへ。妻発言いただきましたっー! これからも末長くよろしくお願いしますね。むふー」
「ヘレナ」
「はい」
「どうやったらロウェナに魔力戻せる? 感情消したいんだけど」
「それよりも存在ごと消してしまわれた方がよろしいかと」
「それもそうか」
「それもそうか……じゃないですよちょっと! 旦那様と娘に存在を消されそうって、人生二度目でも耐えられませんけど!?」
えーん、えーんと言っても泣きながら地面をころがり回るロウェナ。
自分の母親がこれだったら確かにぐれるだろうとショーンは思った。あまりにもみっともなかったのでショーンが足で止めると「ぐふぇ」という奇妙な呻き声を上げながら、そのままショーンの足に抱きついた。
「そんな邪険にしないで下さい〜〜」
「ロウェナ」
「はい」
「邪険にしないで欲しかったら、もう少しちゃんとしような。もう大人なんだから」
「これ本気の説教やつじゃないですか!?」
ショーンは深いため息をついた。ロウェナは少し泣いて、ヘレナは何故だか少し笑っていた。
「それで、はい。お父様と2人きりで話したいことがあるのですがよろしいでしょうか」
「もちろん構わないさ」
2人は少し離れたところに行った。
ヘルガが追いかけてこようとするロウェナを止めているのが見える。
「私にはほとんど魔法の才能がありません。ですが代わりに、私にはある能力があります」
「能力?」
「ええ。お母様の膨大な魔力と知能が『闇の帝王』と混ざり合い、それまで空想上にしかなかった能力……『予知』を私は発現しました。これは私とお父様しか知らないことです」
それは現代の『予言』とは違い、確定した未来を告げるのではなく、「これから起こり得るすべての未来を知る力」なのだとヘレナは説明した。
「それじゃあ、ヴォルデモートに勝つ未来とかどうやったら『闇の帝王』が暴走しないかとか、分かるってことか?」
「ええ、はい」
「そんな便利な力があるなら、ホグワーツのテストで満点取り放題だな」
しかしそれならば、なぜヘレナは死んだのだろうとショーンは思った。
「お父様は色々なことが聞きたいでしょうが、私は教えられません」
「ロウェナに離婚届を書かせるのが条件って言うなら、すぐにでもやるけど」
「それはそれで見てみたいですが、そういうことではなく……今教えると
「……俺たちはすでに出会ってる?」
「ええ、はい。同じ時間に同じ存在はいられない。ですから私は掘り起こしたのです。1000年前に。
「つまり、俺のためにわざと死んだってこと?」
「それは、はい」
ロウェナのことを笑えないくらいショーンもダメ親だった。
「そんなことはありません、仕方のないことなのです。お父様がちょっとダメ親になれば世界を救えるのですから」
「ヒーローほど家に帰ったらダメ親父って言うもんな」
「それは少し違う気がしますが。お父様はコミックスの読みすぎです」
この話の規模が大きいのか小さいのかよく分からなくなってきた。まだ結婚もしていないのに、終わった家庭と家庭環境の悪化による世界崩壊への影響についての議論は、ショーンには少し難しかった。
「未来と過去は複雑です。
お父様が1000年前に行ったからこそ
過去があるから未来がある。
しかしこの場合、未来があったからこそ過去があることになってしまう。
ヘレナはそう言った。
正直に言ってショーンにはほとんど意味が分からなかったが、子供が熱心に話している時は水を差さないという教育方針により沈黙した。
「ひとつ、忠言させていただきますと、お母様にお気をつけ下さい」
「任せろ。あいつがイギリス料理を作らないようにいつも目を光らせてる。ビネガー一滴たりとも通さないさ」
ショーンはピースを作り自分の両目を差した後、ロウェナの方を向けた。
「そうではなく……いいえ、それもそうですが……お母様は――これも子供である私からは大変言いたくないのですが――お父様にイかれてます」
「娘には言い難いんだが、ロウェナがイかれてるのは知ってる。それも、イギリス中がな」
「いいえ。お父様は分かっていません。奇妙な言い回しですが、あの人が大人しいのは死んでるからです」
死んでもなお騒がしいのは、ショーンが知ってる限りショーンとヴォルデモートくらいだった。
まあある意味では、創設者達もそうか、とショーンは思った。
「お母様は天才です。
生き返る方法を思いつくかもしれません。生き返ったお母様は間違いなく、あなたの妻になろうと――つまり、ハーマイオニー・グレンジャーの位置を狙うでしょう」
「へぇ……でも、なんというかさ」
「ええと、はい」
「別れたんだよね。ハーマイオニーとは。フラれた」
「――あっ」
「まあ、なんだ。娘に恋愛の相談をするのはちょっとな」
秘密の部屋で恋愛的に気まずい思いをするのは、後にも先にも自分だけだろう、とショーンは思った。
「こほん。ええと、はい。
とにかく直に、ヴォルデモートとの戦いが起きます。お父様はそこで死ぬか、あるいはお父様以外の全員が死にます」
最近ショーンは誰かに殺してやるだの死ぬだのと言われすぎて、誰に不吉なことを言われたのかビンゴ大会でも開こうかと思った。それに、どうせそんな話をするなら、もっとマシな選択肢を用意して欲しかった。
「そうならないためにやるべきことはやりました。後はお父様次第でしょう」
「必ず俺か俺以外が死ぬのに、そうならない方法があるのか?」
「ありません」
「ないのか」
「ええと、はい。ありません」
あんまりな答えだった。
「私達がすべきこととは、つまり、現在と未来において“ないはずの選択肢”を作ることなのです。そのためにやるべきことはやりました。後はお父様次第でしょう」
「やるべきこと?」
「ええ、はい。お父様がどうなるのかは私でも『予知』することは叶いません。今はまだ“ない選択肢”だからです」
付け加えると、とヘレナは言った。
「ここは私とお父様によって既に改変された未来なのです。
徹底した準備の後は行動に移すだけ、ということです」
これ以上は言えない、とヘレナは人差し指を口に当てた。
こうして、ハーツ家初めての家族会議は幕を下ろした。家族仲がいいとは、模範的なイギリス人であるショーンをもってしても言えなかった。