ハリー、ロンそしてハーマイオニーの3人はヴォルデモートの分霊箱を探して旅に出ていた。
旅の成果は今のところ乏しい。
ヴォルデモートの実家を訪ねてみたり、グリンゴッツ銀行に潜入したりしたのだが、ヴォルデモートの出自や恐ろしい死喰い人達に出会っただけで、分霊箱を発見するには至らなかった。
「この先どうする?」
夜のキャンプにて。
ロンの問いかけに答えられる者はいなかった。
ハリー自身もどうしていいか分からなかったのだ。家族を失ったにも関わらず当たり前のように一緒にいてくれるロンと、両親から記憶を奪い、彼氏と別れてまで付いて来てくれたハーマイオニーに申し訳ない気持ちで胸がいっぱいだった。
「やっぱり、グリンゴッツ銀行にもう一度行ってみるべきかな」
「それはやめましょう、って決めたでしょう。ハリー、あなたはいま焦ってるんだわ。普通の判断が出来てないのよ」
「うん……でも、それくらいしか思いつかないよ」
「それじゃあ、もう一回確認するわね。例えば私たちが立てた仮説通りにレストレンジ家の様な『例のあの人』の忠臣が分霊箱を守るように命じられて、銀行に預け入れてたとしましょう。でももうとっくに回収されてるはずだわ。あなたも見たでしょう、あの残忍な死喰い人を。仮面をかぶってて顔はわからなかったけど……きっと最高幹部の誰かだわ」
「そうだね」
怒り心頭、という感じでハーマイオニーが言った。
グリンゴッツ銀行で出会った死喰い人は、何人もの死喰い人を引き連れて、グリンゴッツ銀行を完全に破壊し尽くした。
その上、小鬼達に――特に小鬼が好きでもないハリーでも怒りを覚える様な――差別的な言葉を投げかけていたので、多種族との格差に敏感なハーマイオニーは特にあの死喰い人に怒っているのだ。
「あいつ、ショーンに随分怨みがあるようだったよな」
「ええ、そうね。他の死喰い人もそうみたいだったわね。流石だわ。今もきっとどこかで、死喰い人と勇敢に戦ってるのよ」
「そうだね」
二つの意味でハリーは同意した。
やはり、もうグリンゴッツ銀行に分霊箱はないと思ったし、ショーンは死喰い人達と血で血を争うような戦いをしているに違いなかった。
いつもはイタズラばかりしているが、やる時はやる男だということをクィディッチで同じチームに所属していたハリーは知っていた。
「しかしまさか、ショーンのやつが不死鳥の騎士団の団長になるなんてな。出世したもんだよなあ」
グリンゴッツ銀行から抜け出した直後、意外なことに、セドリックに出会った。
その場にいたわけでもないのに、どうやってハリー達の居場所を特定したのかは謎だが、彼は不死鳥の騎士団やホグワーツの現状を教えてくれた。
ショーンは孤児院を焼かれたが、ダンブルドアの後継者としてホグワーツに舞い戻り、みんなのために戦っているというのだ。
そしてダンブルドアの後継者として、不死鳥の騎士団を率いているとも言っていた。
どんな闘い方をしているかは――きっと情報漏洩防止のためだろう――教えてくれなかったが、とにかく、ショーンは死喰い人達に大打撃を与えているらしかった。
そんな話を聞いてハリーやロンは胸がじ〜んとして、彼を心から尊敬したし、ハーマイオニーに至っては涙を流していた。
かつてのイタズラ好きな少年から、ダンブルドアの後継者として、立派な戦士になったのだろうとハリーは確信していた。
「ところで、『例のあの人』を倒したら、君たちよりを戻すのかい?」
「……そうね。彼がその気なら、考えてもいいわ。もちろん、この間に私にパートナーが出来なければ、だけれど」
「驚いたなあ。一体全体君はどうやってパートナーを作る気なんだい? 僕らがここ数ヶ月で遭遇した者といえば、死喰い人と鹿くらいのものじゃないか」
「ロン、うるさい」
ハーマイオニーがぴしゃりと言った。
「それより、ショーンの方が他に相手を作りそうだよね」
言ってから、ハリーはしまったと思った。
例えバジリスクだって、今のハーマイオニーの眼光には敵わないだろう。
「そうね……その可能性をまったく考えなかったわけじゃないわ。まあ別に、過去はどうあれ、私達は今はまったくの他人なんですから、どうしようが勝手ですからね」
ハーマイオニーが手癖のように杖を回すと、周りの落ち葉が弾けとんだ。
ハリーとロンは身震いしたが、ハーマイオニーはまったく気がついていない様子だった。
「例えば、そうね、国を代表するようなとんでもなく綺麗な容姿を持った歳上女性と何日も同じ部屋で過ごしたり、裏では人気のある不思議な魅力を持った可愛らしい同級生を颯爽と現れて牢屋から救い出したり、他の人には感情を出さないのに自分にだけはゲロ甘な美女から猛アプローチを受けたりしてるかもしれないわね」
「落ち着けよハーマイオニー。本の読み過ぎだよ。そんなやつ、いるわけないだろう。いたら僕にも少し分けて欲しいくらいさ」
「もしかしたらもう子供もいるかもしれないわね」
「ショーンはまだ学生だよ」
なにを言ってるんだろう。
ハリーはそう思った。
いくらショーンが破天荒だからと言って、しかもこの戦争中に、そんなことをしているわけがない。
「そんなことはあり得ないよ。透明マントとファイアボルトを賭けたっていい」
「僕も乗った。僕は……そうだなあ、負けたらこれからは君よりも3倍は長いレポートを書くことにするよ。それからジニーと腕相撲したっていい」
「……そうね。そんなことあり得ないわよね。私、少しどうかしてたみたい。でも一応、二人の言葉を覚えておくわね。なんだかその方がいい気がするから」
ハーマイオニーの推理は意味不明すぎて、きっと長旅で疲れているのだろう、とハリーは思った。
そして、どうせそんなことはあり得ないのだから、このくらいの賭けをしてもまったく問題はないだろう。
「考えてみれば、あの人はそんなに人気がある方じゃないものね。もちろん、背が高くて筋肉がしっかりあって、顔がそれなりにいいのは認めるけれど、取り柄と言えばちょっとしたイタズラとクィディッチくらいのものだもの」
「おいおい待てよ。ちょっとしたイタズラ?」
「ええ。少しだけよ。あなたが思ってるより、彼って色々考えてるのよ? その証拠に、まだ死人が出てないわ」
「正気かハーマイオニー? 君の目にはそう見えてるのか? それじゃあ、僕は聖人君子に見えてる?」
「少なくとも、あの人よりあなたの妹の方がよっぽど危険だわ」
そう言われると今度はロンが黙らざるを得なかった。
ショーンとジニー。どちらが先に死人を出すかと聞かれると、ジニーに軍配が上がるだろう。
「それに、あなた達二人を仲直りさせるためにクィディッチオールスター戦を開いたり、アンブリッジを追い出したりしたじゃない。そういった功績は無視できないんじゃなくて?」
「そうだね。ショーンはよくやってくれてるよ」
これはハリーの本心だった。
ショーンのおかげでホグワーツでの生活が楽しくなったという部分は、間違いなくあるのだ。
「考えてみれば君のいうとおりかもな。僕はチャールズからドラゴンの話を聞くのは好きだけど、庭で飼おうとは思わないよ」
「そんなことしようとするのは世界中でハグリッドだけだわ」
「だから、この場合、統計通りならハグリッド枠は君で埋まってるってことだろう」
「ロン。あなた、殺すわよ?」
ハーマイオニーの殺気はあまりにも鋭かった。
それは普段のじゃれ合いにはない、確かな冷たさを持っていた。
ハリーはこの空気をなんとかしようとして、とりあえず口を開いた。
「そんなことないよ。ショーンのことが気になってるって言ってた子達を何度か見かけたからね」
「…………へえ」
馬鹿な!?
どうして僕はそんなことを言ってしまったんだ!!?
それは最悪の一手だった。
クィディッチなら詰みレベルの下手を打ったことを、ハリーは理解した。
自分の『生き残った男の子』という二つ名も今日までかもしれない、とハリーは思った。
「やっぱり気のせいだったかも」
「ハリー、わたし、最近『開心術』の練習をしてるのよ。練習相手になってくれないかしら?」
「それはやめておこうかな。僕はほら……ヴォルデモートとの繋がりがあるから危ないよ」
「そうかしら? それじゃあ、私の目を見て話てくれる? 前にあの人が『表情から嘘を見抜く方法』を教えてくれたのよ。いま、試してみたいの」
「それも僕には上手くいかないよ。眼鏡をかけてるし、額にイナズマ型の傷があるだろう? だから、他の人よりも表情筋が硬いんだ」
「あら、そうなの。そんな話初めて聞いたわ」
「僕はほら、えっと、不幸な身の上話が多いから、そんな顔が少し硬いくらいのことは薄れちゃうんだよ」
「そうね、そうかもしれないわね。ところでさっきの話で言ってたのは誰なの?」
「パー――――――セルタングになって17年。そうだ、僕はいま17歳だった。よし、思い出せたぞ」
「何を言ってるの?」
パーバディーの命を救ったことを、ハリーは感謝してほしかった。
どうあっても口を割らないハリーを見て、ハーマイオニーは攻撃の仕方を変えてきた。間違っても口には出さないが、そういう部分はショーンに似てるとハリーは思った。
「それじゃあハリー、今度はあなたに聞くわね。ジニーとは一体どこまで進んでるの?」
余計なことを……。
今にも噛みつきそうな勢いでロンに睨まれてしまった。
「前に図書館でちょっとした恋愛相談を受けたわ。ジニーったら、本当にあなたに一途なのね」
「あー――……うん、そうなんだ」
「ジニーはほら、中身はまあ少しやんちゃかもしれなけれど、見た目は可愛いじゃない」
「そうかもしれないね」
「ハリーからしたら好みかしら?」
「どうだろうね」
ハリーは頑張ってお茶を濁したつもりだったが、ロンの地雷を踏んでしまったようだった。
「どうだろうね? 僕の妹が可愛くないって言いたいのか?」
「まさか、ロン。そんなわけないじゃないか。ジニーは可愛らしいよ」
「なんだと!? やっぱり気があるんじゃないか!」
「どうしろって言うんだよ……」
いま、自分達が置かれてる状況は凄く深刻なのに、ハリー自身も深刻な立場に置かれていた。
「そういえば、ジニーは何してるんだろうね。ダンブルドアが連れていっちゃったんでしょ?」
「普通に考えればショーンと一緒にホグワーツにいるんじゃないかしら」
「案外、牢屋にでも入れられてるかもね。少し大人しくしてほしい、っていう意味で」
「それこそあり得ないわ。ダンブルドア先生は史上最も偉大な魔法使いで、教員なのよ? 生徒を牢屋に入れるなんてあるわけがないじゃない。賭けたっていいわよ」
「何を賭けるんだい?」
「そうね。ジニーが牢屋に入れられてたら、あの人との夜を全校生徒の前で話してあげましょうか。ついでに、あの人まで牢屋に入れられてたら、みんなの前で感想まで話してあげます」
「そりゃあイケテルね。ショーンを牢屋に入れるなんて、あるわけないもんな」
保守的な賭けをしやがって。
ロンは言外にそう伝えていた。
ハリーもまったく同じ気持ちだったが、一応、今の会話を覚えておこうと思った。
「……ホグワーツに戻りたいな」
「そうだね。僕もそう思うよ。僕は家と呼べる場所がなかったから……ホグワーツが家みたいなものなんだ。卒業しても帰りたい場所だよ」
「ハリー、いま、なんて言った?」
「えっ? ホグワーツに戻りたいって」
「その後よ!」
「そ、卒業しても帰りたいって」
「それよ! ハリー! あなたと『例のあの人』の境遇は似てるわ。ホグワーツ以外にどこにも居場所がなかった。だから、ホグワーツに帰りたがってるし、ホグワーツを尊敬もしてる。だから分霊箱は創設者由来の物にしてる。そうよね?」
「うん。そうだね」
ほとんどない旅の成果のひとつが、ヴォルデモートの出自や孤児院での生活を詳しく知れたことだった。
それが何か重要なのか、ハリーにはまだいまいち分からなかった。
「だから、『例のあの人』はホグワーツに分霊箱を隠したと思うの」
「ハーマイオニー! それだよ!!」
「グリンゴッツ銀行と違うのは、ホグワーツにはダンブルドアがいたから、死喰い人が回収に来れないということね。そして今はダンブルドアはいないけど、ショーンがいるから、中々手が出せなかったはずだわ」
「そうだ! 絶対にそうだよ!! 間違いない」
ハーマイオニーの推理は完璧だとハリーは思った。
認めたくないが、ハーマイオニーの言う通り、ハリーとヴォルデモートは似ている部分がある。例えハリーが分霊箱を隠すとしても、やはりホグワーツを選ぶだろう。
「それじゃあ、ホグワーツに戻ろう」
ハリー達三人は、ホグワーツに戻る決心をした。