とある科学の元魔術師   作:珠風船

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本日発売超電磁砲9巻。それによって手直しする箇所が出る可能性があるので、その時はご容赦ください。


第14曲:幻想御手だゾ☆

 学舎の園内、常盤台中学学生寮

 

「同じ脳波を持つ人間が二人?」

 

 現在の時刻は正午。ちょうどお昼時である。ミラと食蜂もその例外ではなく昼食の準備の真っ最中だ。二人共、エプロン――――ミラはひまわり柄、食蜂は星が散りばめられた柄――――を着て仲良く調理中である。今日のお昼ご飯は食蜂のリクエストによりサンドイッチ。ミラが食材の下ごしらえをし、食蜂が自由気ままに食材を重ねては食パンで挟んでいる。

 

「うんうん、そうなのよぉ。さっき思い出したんだけど、ありえないわよねぇ?

 あ、キュウリちょうだい☆」

 

「はい、どうぞ。

 んー、普通はありえないわね。脳波が一緒になるなんて」

 

 包丁でスライスされたキュウリを渡しながらミラが言う。食蜂はキュウリやらハムやらレタスやらチーズやらをどんどん重ねてサンドイッチの形を成していく。

 

「やっぱりそうよねぇ。この前、ミラが虐殺したやつと爆弾魔。そいつらの脳波が一緒だったのよぉ。念の為に聞いたけどやっぱりありえないわよねぇ。

 あ、もうコッチは大丈夫よぉ」

 

「はい、お疲れ様。

 脳波が一緒、か。

 向こうまでサンドイッチ持って行って。あと、お皿とかもお願いね」

 

「はいはーい☆」

 

 食材を重ね終わらせた食蜂はミラの指示通り、食器棚から小皿やフォークを取り出しテーブルの上に並べていく。その間、ミラは手馴れたように紅茶の用意を。

 これが二人の毎日の料理風景だ。調理をミラが担当し、その他の簡単な作業を食蜂が行う。これがほぼ毎日行われるていた。

 

 

「とりあえず食べ始めちゃおうか。紅茶も冷めちゃうし」

 

 そう言いながらミラが紅茶を入れたティーポットを持っていく。すべての準備が整えたところで二人は席に着いて手を合わせる。

 

「冷めた紅茶になんて飲むような価値力ないしねぇ。

 それじゃあ、いただきます☆」

 

「いただきます」

 

 二人共ちゃんと『いただきます』してからサンドイッチを食べ始める。この『いただきます』はミラの毎回の習慣、食蜂もいつしかミラを真似てしっかりやっていたりする。

 

 

「それでさっきの続きだけど偶然なわけないわよね。

 それに操作された人物が二人だったと仮定した場合、たまたま二人共私や美琴たちと会うなんて確率が低すぎるわ。そう考えるくらいなら――――」

 

「操作された人はまだまだいる、確かにそう考えるのが自然よねぇ。あ、ミラの卵サンドやっぱり最高☆ コショウがいいアクセントになってるわぁ」

 

 食蜂がミラ特製卵サンドを頬張り、舌鼓を打ちながら言う。作った本人はそんな食蜂を見て嬉しそうに微笑みながらサンドイッチにかぶりついて、

 

「ふふ、ありがと。操祈の盛りつけのおかげよ。

 じゃあ、その仮定が正しいとして、いや正しくなくてもだけど、操作された人がいるとするなら操作する人がいるはずよね。操祈ならどうする?」

 

「んー、能力を使ってぇ、っていうのが一番楽だけどそれはそれで厳しいものがあるわよぉ」

 

「どういう事?」

 

「学生レベルの頭脳力でぇ、他人の脳波を一定に固定するなんて無理だと思うケド。私ならともかくとして」

 

「じゃあ、研究者、かな? 研究者が直接脳に手を加えたか、もしくは脳波をいじくる能力を開発せたか」

 

「そんなトコじゃないかしら。まぁ、この街の研究者(アホ)どもの考えるコトなんて知ったコトじゃないけどぉ。

 でもぉ、一番重要なのは目的、じゃない?」

 

 そう、最も大事なのは誰がやったか事でも方法でもない。重要なのは目的。他者の脳波を揃えるなんてイタズラでやるとは到底考えられない。必ず誰かの利益に繋がるはずなのだ。

 

「確かにそうよね。あ、この前の二人なら最低限何か知ってるんじゃない?」

 

「一理あるわねぇ。私の読解力なら一瞬だけどぉ――――」

 

「面倒だから嫌だゾ☆、はダメよ」

 

 食蜂が言う前にミラが先手を取る。もはや以心伝心なのだろうか。ミラは食蜂のセリフをまんま先取りして言ってしまう。

 そして、先手を取られた食蜂は頬を膨らませ、ムスっとした顔でミラを見る。明らかに不満そうな表情で、

 

「だって、私にメリットがないもの。それに面倒ゴトに巻き込まれるのはゴメンだしぃ」

 

「そう、分かったわ。操祈がそう言うなら仕方ないわね」

 

 何ともあっさりミラは食蜂を切り捨てる。そして、そっぽを向いて食蜂と目を合わせず、黙ってサンドイッチをパクパク食べている。 

 そんなミラを見る食蜂は何とも気まずそうにしている。ミラのこの切り返しは予想外だったのだろう。思わず敬語になってしまい、

 

「ミ、ミラさぁん?」

 

「……」

 

 だが、ミラは無視。依然として食蜂を見ようとしない。が、ミラがタダで食蜂を逃がすはずもなく、そっぽを向いたままぼそりと呟く。

 

「あ、でも、美琴なら協力してくれるかもね」

 

「べ、別に御坂さんじゃなくても」

 

 美琴の名前が出ると食蜂の表情が明らかに歪む。そんな食蜂を視界の端にチラリと捉えてさらにぼそりと呟く。

 

「だって、しょうがないじゃない。操祈は手伝ってくれないんだから。それに私一人じゃ限界があるし」

 

「あぅ」

 

「大丈夫よー。あ、調べるのに時間がかかってご飯の準備ができないから。ごめんね」

 

「そ、それは、」

 

 食蜂の毎度の食事は基本ミラの手料理。しかもミラの手料理は絶品。結果、食蜂の舌は相当肥えている。それこそ学校の食事じゃ三日ともたないかもしれない。例え常盤台の超リッチ飯であってもだ。

 

「ふふふ、いいのよ。だって面倒(・・)なんでしょ? 面倒(・・)じゃ仕方ないわよね。だって面倒(・・)なんだもんね。操祈が面倒(・・)だって言うなら私は強くは言えないもの」

 

 面倒をかなり強調しながら言う。そして、強くは言えない、もちろん嘘である。ついでに言うと、もうミラは食蜂の顔を見ており、笑顔なのだがいつものようなただのニコニコ笑顔ではない。意地悪そうな白々しい笑顔である。

 

「……よ、要求は?」

 

「手伝って♡」

 

「はいはい、わかりましたよぉ。まったくミラには勝てないわぁ」

 

 両手を振って食蜂がついに白旗を上げた。先日のように弱っていなければミラが食蜂に負けるわけないのである。

 そして、ミラは先ほどは一変、今度は満面の笑顔で食蜂を見る。

 

「ありがと、操祈! じゃあ、ゴハン食べ終わったら行ってみようか。あ、でもすぐには会わせてくれないかも」

 

 超能力者(レベル5)であろうが常盤台生であろうが、ミラたちは一般人である。捜査協力をしようとしても待ったをかけられるが当然なのだ。食蜂やミラの能力でもどうとでもなるがそれは犯罪。食蜂がいればバレる事はないがミラがさせるはずもない。

 

「確かにそうねぇ。頭のお堅い警備員(アンチスキル)は拒否するだろうしぃ。んー、風紀委員(ジャッジメント)がいればどうとでもなるわねぇ」

 

 そう言って食蜂はテーブルのそばに置いてあるリモコンを手にとりボタンを一つ押す。

 

「相楽ちゃん?」

 

「そういうコト☆」

 

 

 

 食蜂がボタンを押してからおよそ一分後。ミラ達の部屋の扉からコンコンというノック音と声が響いてくる。

 

「女王、相楽です。失礼してもよろしいでしょうか」

 

「いいわよぉ」

 

「失礼します」

 

 入ってきたのは黒髪のロングヘアをポニーテールにした常盤台の制服を着た少女。メガネをかけたキリッとしたつり目が特徴的であり、雰囲気的には学舎の園の外にある寮の寮監に似ている。

 彼女の名前は相楽(さがら) ゆり。学舎の園内の寮に住んでいる一年生で、風紀委員(ジャッジメント)に所属している。そしてなによりも食蜂派閥のメンバーだ。

 

「急に呼び出しちゃってごめんね。座って。今、紅茶を煎れるわ」

 

「姫もご一緒でしたか。ですが、そのようなお気遣いは」

 

「別に構わないわよぉ。お昼がまだのようならそこのサンドイッチ食べてもいいしぃ」

 

「失礼します」

 

 ぺこりと頭を下げてから相楽がミラの隣に座る。ミラと相楽が横に並び、その向かい側に食蜂が座る形だ。テーブルの上にはサンドイッチがまだまだ残っており、相楽がその一つをつまむ。

 

「ありがとうございます、女王、姫。それで御用はなんでしょうか」

 

「とりあえず紅茶どうぞ。あと姫はやめてね」

 

 ミラが紅茶をカップに注いで相楽に渡しながら言う。それを受け取る相楽は黙って頭を下げる。

 

 

 

 そして、一息ついてから、

 

警備員(アンチスキル)に拘束された学生に会わせて欲しい、ですか?」

 

「うん、そうなの。できるかしら? この前の銀行強盗と虚空爆破(グラビトン)事件の爆弾魔なんだけど」

 

「姫と女王、御坂さんがお捕まえになった方たちですね。その節はご協力感謝します。ですが、こちらとしては理由もなしに会わせるわけにはいきません。理由をお聞かせ願えますか?」 

 

「面倒ねぇ。こういうコトよぉ」

 

 食蜂が言い終わると同時にさっきからずっと手に握っているリモコンのボタンを押す。

 

「……なるほど、そういうことですか」

 

 食蜂が行った事は念話の応用である。念話を使う事で声を出すよりもずっと早く相手にメッセージを伝えられる。メールと少し似ていると言えるだろう。ちなみに、食蜂が送信したのはさっきまでミラと話し合っていた内容を要約した物だ。

 

「脳波が一緒……」

 

「何か気になることがあるの?」

 

 メガネのブリッジを指で抑え、少し考え込む素振りを見せる相楽。そんな彼女を見るミラが問う。

 

「はい。偶然かもしれないのですが、その二人のレベルが書庫(バンク)に記載されているデータと明らかな相違がありました。虚空爆破(グラビトン)事件の犯人は書庫(バンク)では異能力者(レベル2)。銀行強盗の犯人にいたっては無能力者(レベル0)だったんです」

 

 書庫(バンク)は学生のレベルなどの情報が記載されたものだがその記載ミスはほぼありえない。さらに言ってしまえば、レベルがすぐに上がるなんて事もありえないのだ。

 そして、当然食蜂とミラが疑問に思わない訳が無く、

 

「あれで異能力者(レベル2)大能力者(レベル4)くらいかと思ってたんだけどぉ」

 

「確かに能力は使ってたはずよ。本人もそう言ってたし」

 

 お互いの顔を見ながら腑に落ちない表情で言う。

 爆弾魔の方はビルのフロアを大きく吹っ飛ばし、銀行強盗は妊婦の事を確実に洗脳していた。

 大能力者(レベル4)の定義は軍隊において戦術的価値を得られる程の力。虚空爆破(グラビトン)事件の爆弾はそこに該当するといえる。一方で、異能力者(レベル2)だと日常ではあまり役に立たない。明らかに妙なのだ。

 無能力者(レベル0)ではもはやスプーンが曲げられる程度。洗脳なんて程遠い。

 

「確かにご納得して頂けないかと思います。しかし、こういった書庫(バンク)と実際のレベルが噛み合わない事件が増えてきているんです。書庫(バンク)の間違いがそう何度もあるはずもないので、彼らのレベルが急激に上がったと思われます」

 

「増えてきてるねぇ……。それはいつ頃からぁ?」

 

 少し考えるように、何か気になることがあるようにしながら食蜂が尋ねた。それを聞き相楽がメガネをクイッと持ち上げながら答える。

 

「はい。最初は警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)もたまたまで済ませていたのですが、こういった案件が度々あったために改めて調べてみたんです。

 そうしたら、はじめて確認されたのは七月の初め。そこから時間が経つのに比例して少しずつ増加しています」

 

「その人たちは何をしているの?」

 

「第十学区の収容所へ。これは推測ですが、急激に能力が上がった事で犯罪へ加担しようとしているのかもしれません。それに犯罪を行っていないだけでレベルを上げた者がいる可能性も否めないです」

 

 能力が急に上がることは日本人が銃を手にすることに似ている。急に銃を手に入れても大抵の人は悪さをしないだろうが、それが全ての人に該当するとは言い難い。犯罪に走る者も少なからずいるだろう。

 その例となるのがこの前の爆弾魔。彼は急に力を手に入れた事で、日頃から逆恨みしていた風紀委員(ジャッジメント)に復讐していたのだから。

 

「まだまだいる、ね。操祈はどう思う?」

 

「これなら辻褄があうかしぁ。脳波のコトもレベルのコトも☆」

 

 さっきまでの考える素振りから一転して、何かを確信したようだ。というかこれだけの情報量で把握できるのが凄いと言える。

 

「ほ、本当ですか、女王?」

 

 普段から冷静な相楽が少し取り乱して聞く。まさか、ここまで早く事件の概要を掴めるとは思っていなかったのだろう。

 一方でミラはすでに食蜂の言葉を聞く体勢に入っており、黙ってカップに口をつけて紅茶を飲んでいる。

 

「アハハ、私を誰だと思ってるのかしらぁ。精神系能力者最強の心理掌握(メンタルアウト)よぉ。こういうのは私の専門といってもいい訳だし☆」

 

 そして、食蜂が説明を始めた。要約すると、

 

 同じ脳波を持つ人を複数用意して、その脳波を電気信号で繋いでネットワークを作成する。そのネットワークに取り込まれる事で演算の処理力が上がる。さらに、同系統の能力者の思考パターンを共有する事で能力の効率力が高くなる。こうしてレベルが上がったように見える。

 

「こういうことよぉ」

 

 食蜂は説明が長くなった事から、一旦言葉を区切り紅茶を口に含む。その間に相楽が疑問点を挙げていく。

 

「その結果、能力が上がったという事ですか。これだけ聞いたならいいものだと思うのですが……」

 

「どんなものにもいい面もあれば悪い面もあるのよ、相楽ちゃん。この場合問題なのは脳波を持つ人を複数用意する、という事よ」

 

 すでにだいたいの事を理解したようで、カップから口を離してミラが補足するように言う。が、それでも相楽には理解できていないようだ。もっとも、食蜂のように精神の事を熟知する、もしくはミラのように高度な医学知識を持っていなければ理解するのは難しいだろうが。

 

「脳波が同じ人間がいると思ってるのぉ? 指紋とか声紋みたいに一人一人違うのよ。そうなったら無理矢理揃えるしかない。それが危険ってコト。

 特定の脳波を強要されれば脳には負担力が高いのよぉ。その負担力が高まり続ければ最終的には意識不明、植物状態になるってわけ☆」

 

「ねえ、相楽ちゃん。さっき言ってた収容所にいる人達。その中に倒れちゃった人が何人かいるんじゃない?」

 

「は、はい。何名かが倒れたと報告が」

 

 冷静さが売りの相楽でも、もう平静を保っていられなかったようで少し声が震えている。あまりにも辻褄があっているのだ。

 

「でしょうねぇ。これから何人も倒れると思うわよぉ」

 

「今は他の人の目がある所で倒れてるが不幸中の幸いだけど、一人暮らしの子で発見が遅れれば最悪の事態になりかねないわよ。お風呂とかだと即死なんて事にもなりかねないわ。

 すぐに警備員(アンチスキル)に連絡したほうがいいわね」

 

「すぐに要請します」

 

 そう言って相楽は警備員(アンチスキル)へ連絡するためにポケットから携帯を出して席を立つ。

 

 

 そして、その間にミラたちは会話を続けていく。

 

「さっき言ったことは推測でしかないけどぉ、十中八九合ってると思うわ。でも、まだまだ不確定要素があるわねぇ」

 

「そうね。脳波を揃える方法は操祈が記憶を読み取ってくれればすぐにでも分かるけど、一番の問題である目的がはっきりしないわね。確かに無能力者(レベル0)の人でも能力が使えるようになるって言えば魅力的だけど、意識不明になるっていう副作用がある以上、ただのレベルアップが目的じゃないわよね?」

 

「意識がなくなるっていうことを知らないならありえないこともないだろうけどぉ。こんなシステム考えられる以上それはないわ。

 んー、出来るコトとといえば、脳波の原型(オリジナル)なら複数の能力が使えるようになるんじゃないかしらぁ。ネットワークに取り込まれちゃった人たちすべての能力を、ね☆」

 

 学園都市の能力者は基本的に一人に一つのみだ。その例外が多数の能力を使える多重能力(デュアルスキル)なのだが、それは実現しない事がすでに証明されている。よって食蜂が言ったように多数の能力が使えるならば確かにメリットにもなりうるのだ。

 

「全員がネットワークで繋がってるなら逆探知みたいな事は無理なの?」

 

「断言力はないけど多分無理ねぇ。犯人がネットワークに接続してれば話は別だけど。今の所出来るコトと言えばぁ、無駄覚悟で脳を片っ端から調べるコトぐらいよぉ」

 

「でも、無理よね。人数多すぎだし」

 

 脳波が同じという事を察知できたのは、食蜂が精神系最強の能力者だからだ。精神系能力者で脳波まで調べられるのはごくわずかだろう。恐らく食蜂でなければ気がつかなかったかもしれない。

 一人二人なら食蜂も問題なく調べられるだろうが、人数が多過ぎる。仮に普通の機械で調べても時間がかかりすぎるのだ。地道に調べるのが建設的だとはお世辞でも言えない。

 

「脳波を元の形に矯正すれば目も覚めるだろうケド、犯人とのイタチごっこになるから意味ないわねぇ」

 

 とりあえず今分かっているだけの情報から答えを導き終わった二人は紅茶を飲んで喉を潤す。というか脳波とレベルの事だけでここまで分析できるのは食蜂のおかげだろう。第五位、心理掌握(メンタルアウト)の名は伊達ではない。

 

 

 

「女王、姫。連絡してきましたが、気になる情報が」

 

 警備員(アンチスキル)への連絡を済ませた相楽がミラ達の元へと戻ってくる。それと同時に、何か新しい知らせを持ってきたようだ。

 

「何か追加の情報かしらぁ?」

 

「はい。最近、学舎の園内で常盤台生を狙って通り魔事件が発生しているのをご存知ですか?」

 

「ううん、知らないわ」

 

 ミラが首を横に振りながら答えた。食蜂もミラと同じように首を振り否定の意を表す。

 

「その事件が先ほどを発生し、犯人の特定まで成功しました。しかし、書庫(バンク)とレベルが一致しなかったとの報告が」

 

「特定って言ったけどぉ、捕まえてはいないのかしら?」

 

「はい、被害者の証言から判明した事ですので逮捕までは……。

 背後からスタンガンで気絶させる、というのが手口のようです」

 

「仕方ないわねぇ、さっさと捕まえに行くわよぉ」

 

 そう言って残っている紅茶を一気に飲み干すと食蜂が立ち上がる。その顔には不敵な笑みが。いつもの悪巧みをした顔だ。

 

「きょ、協力していただけるのですか?」

 

「悪い? 調子乗ったら潰すゾ☆、ていうトコ見せなきゃ舐められるじゃない。それに同じ学校の子を狙わて黙って見てろって言うのぉ?」

 

「じょ、女王……」

 

 目に涙を浮かべながら食蜂を見る相楽。食蜂の言葉に感動してハンカチで目を抑えている。

 しかし、一方のミラはその程度で騙されるほど食蜂の事を知らないわけではない。 

 

「ねえ、操祈。その真意は?」

 

「学舎の園から出るのが面倒だからだゾ☆」

 

 どーん、という効果音がつきそうなほどに胸を張って答える。実際、第七学区を出て第十学区まで行くよりも通り魔を捕獲したほうがずっと楽なのは確かなのだが、もういろいろ台無しだった。

 

「それにぃ、捜索はミラの専売特許だから私はラクだしぃ☆」

 

 さっきまでハンカチで目を抑えていた相楽は人知れずハンカチをしまい、取り繕うようにコホンと咳を。

 ミラは大して気にしている様子はない。何故ならこれが食蜂操祈という人間だと理解しているから。むしろ食蜂が善意で動いたとしたら気持ち悪くてしょうがないだろう。

 

「それじゃ、ちゃっちゃと行きましょうか、女王様?」

 

「了解ですよぉ、お姫様☆」

 

 

 

  ◆

 

 

 学舎の園、裏路地

 

 学舎の園は学園都市にある、常盤台中学を含む五つのお嬢様学校の集まった街だ。そしてそのセキュリティの高さは半端ではない。二キロ四方の大きさの街に二千台以上の監視カメラ。街の周囲は大きな柵がそびえ立ち、立ち入りには大小八つのゲートから入る必要。入るためにも色々と許可が必要だ。そして男性の立ち入りは例外なく禁止。

 そんなセキュリティの高い街でも人気の少ない場所は少なからず存在する。実際、この路地はそれに該当し、一人を除いて周囲には誰もいない。

 

 その一人は白髪の常盤台中学の制服を着た少女、ミラジェーン。コツコツと足音を鳴らして歩いている。

 現在、彼女は例の常盤台を狙った通り魔事件の犯人を捕まえるための囮となって行動していた。犯人を誘き出すためのエサといったところだろう。

 

「ふふふ、ついて来てるようね」

 

 誰にも聞こえないような小さな声で呟く。が、周囲には誰もいない。歩いているのはミラだけだ。

 しかし、不自然な事に足音は一つだけではない。が、ミラは気にすることなく歩を進める。そして、突然後ろを振り向くと

 

「こんにちは、通り魔さん?」

 

「ッ!?」

 

 ミラの前には誰もいない。が、確かに周囲には息を呑む音が響いた。まるで透明になった人間がいるようだ。

 しかし、それも一瞬。誰もいないはずの場所に髪の毛をお団子にした小柄な少女が現れた。しかも、手にはスタンガンを握り、声を上げながらミラへ突っ込んでくる

 

「うああああああああああ」

 

「あー、ごめんね。私はそこにいないわよ」

 

「っえ!? あ、きゃあ、」

 

 ミラにスタンガンを当てるのに成功したと思った瞬間、少女はミラの体をすり抜け、勢いを殺しきれずに転んでしまう。手に持っていたスタンガンは転んだ拍子に地面を滑り、そして前触れもなくスタンガンが宙に浮く。

 それを見るミラは申し訳なさそうに苦笑い。していたと思ったらミラが消えて、少しだけずれた場所にスタンガンを手に持って現れた。その表情はさっきと同じく苦笑いだ。

 

「ふぅーん、これが例のヤツぅ?」

 

「はい、目撃証言から得た情報と一致します。関所中学二年、重福 省帆(じゅうふく みほ)。風紀委員(ジャッジメント)の権限によりあなたを拘束します」

 

「ッ!?」

 

 またしても誰もいない場所から、食蜂と相楽が現れ重福を取り囲む。先程までとは異なり相楽の右腕には風紀委員(ジャッジメント)の腕章がついており、携帯の画面を見ながら重福に伝えた。

 急に食蜂たちが現れたからか、腕章を見たからか、はたまた両方か、重福の表情は驚愕に染まる。

 

「な、何で……」

 

「そういう在り来りなセリフはいらないからぁ~。さっさと急にレベルを上げた理由を教えて貰うゾ☆」

 

 そう言っていつものようにバックからリモコンを取り出してボタンを押す。すると

 

「……」

 

「ちょっと同情しちゃうわね」

 

 重福の目から光が消えた。洗脳成功なのだが、ミラは哀れみの目で重福を見ており合掌しており、相楽は無表情でクイッとメガネを持ち上げている。そして、なによりも食蜂はルンルン気分のようだ。

 

「それじゃ、語ってもらうわよぉ」

 

 

 この捕獲作戦は種を明かせば簡単。歩いていたミラはミラが能力で作った幻影。本体であるミラはそこからほんの少し離れた場所で姿を消し、並行して歩く事で足音をごまかしていた。複数聞こえていた足音は重福だけのものではない。食蜂と相楽もミラの能力で姿を消して歩いていたのだ。

 重福の能力が視覚阻害(ダミーチェック)という視覚で直接認識できなくする能力だという事は事前に書庫(バンク)より確認済み。レベルを上がっているという予測も含めてだ。

 まあ、いくらレベルを上げたとは言え、視覚関連でミラが負けるはずもない。力ずくで重福を発見し路地裏まで誘導、常に重福を補足したままだったのが。

 

 

 

  ◆

 

 

 学舎の園、とある喫茶店

 

 とりあえず三人+αは場所を移し近くの喫茶店に入る。そこはミラと食蜂がたまに活用している場所であり、店主とも顔見知りだったりする。それによりある程度の融通が効くため、普通の席とは異なる奥の席へ通してもらう。

 

「注文はいつもかい?」

 

「ええ、いつものと紅茶三つ」

 

「はいよ、ちょっと待ってな」

 

 そう言って店主は厨房の方へと向かっていく。ちなみに重福は店主の目には映っていない。店主に変に勘ぐられないように、ミラが能力で消している状態だ。

 紅茶を頼まなかったのは、洗脳している状態の人間に何をやっても意味がないから。それに加えて、ミラが敵対者に容赦しないのはいつもの如く。通り魔という自分の敵に情けをかけてやる必要がどこにあるのか、といった感じだ。同情はしても情け無用、これがミラジェーンである。

 

「お願いね、操祈」

 

「うん☆」

 

 そう言って再びリモコンのボタンを押す。

 

「これで何を聞いても何でも喋ってくれるわよぉ」

 

「じゃあ、まず最初ですね。どのようにしてレベルを上げたのでしょう?」

 

 相楽が質問すると、重福は無機質な、焦点のあっていない目で機械のように淡々と喋り始める。だが、何故か目には星のようなキラキラが。

 

「……音楽を聴きました。そうしたら能力がうまく使えるようになりました」

 

「音楽?」

 

「はい、このプレイヤーに入っています。曲名はLeveL UppeR」

 

 そう言って重福が自身のポケットから音楽プレイヤーを取り出し相楽に手渡す。相楽はその音楽プレイヤーを操作してそのファイルを見つ出した。 

 

「ありました。曲名LeveL UppeR、作曲者はUNKNOWNです。本当にこれなんですか?」

 

「はい、確かにそうです」

 

 相楽が信じられないような様子で訪ねるが、重福は単調に答えることしかできない。

 それを見ているミラたちはというと、

 

「音楽で洗脳……。それって、」

 

「多分それで合ってると思うわよぉ」

 

 二人共すでに答えを見つけているようで、

 

「「共感覚性」」

 

 声を合わせて解答する。それを聞き相楽がハッとしたように言う。

 

「共感覚性とは確か、一つの感覚に刺激を加えると他にも影響を及ぼすというもの、でしょうか」

 

「ええ、そうよ。私も能力の関係上、結構使う現象ね」

 

 共感覚性は簡単に言ってしまえば相楽が言った事と同じ事である。例とするならば、赤い物を見ると暖かく感じたり、冷たい物を見ると涼しく感じたりするものだ。

 色彩調節(コーディネーター)は色を操作する能力。なのでミラは共感覚性を使いまくっているといえるだろう。実際、前々回の銀行強盗を潰したのも共感覚性だ。

 

「どうなの、操祈? 実際、音楽で脳波をいじれるもの?」

 

「できなくはないけど雑にはなるわねぇ」

 

「結論はできる、でいいの?」

 

「ええ、バッチリ☆」

 

 ミラは少しだがため息をつく。研究者が直接いじるなら追跡は楽だが、音楽になるとそうはいかない。ネットで簡単にばらまける以上、追跡はほぼ無理だと行ってもいいのだから。

 すると、店主が紅茶のカップ三つと塔を持ってやって来た。

 

「はいよ、いつものだ。スペシャルアートストロベリーデリシャスタイタンパフェだよ。あ、あと紅茶もな」

 

 ミラ達の前に現れたのは女子一人では到底食べきれないほどの大きさをした巨大パフェ。その大きさは普通のものの約二、三倍はあろうというものだ。大量の生クリームやらイチゴやらチョコレートが乗っている。

 ミラはここに来る度にこれを頼んでいるために食蜂は少し顔をしかめる程度(胸焼けにより)だが相楽は口をあんぐり開け驚いている。

 

「あの、姫。食べきれるのでしょうか?」

 

「大丈夫よ、これ私だけの特別メニューだから。あ、姫はやめてね。いただきます。

 ふふっ、いつ食べても美味しいですね」

 

「礼はいいが、胸焼けが尋常じゃないんだけどさ。つうか、よく太らないな。何か秘訣でもあるのかい?」

 

 苦笑いしている店主が聞くがミラは夢中になってパフェを食べているために食蜂が代わりに答える。食蜂のその表情は呆れ返っていたり。

 

「ミラの体は不思議でいっぱいだものぉ。精神系能力は通じないわ、太らないわ、癒されるわで」

 

「そうなのか、何とも羨ましい体質だな」

 

 そう言い残して店主は厨房へと戻っていく。流石にこれ以上ここに留まるのは野暮だと思ったのだろう。

 

「あ、そうだ。一応ダメもとで聞いておくけどその曲はどうやってで手に入れたの? ネット?」

 

 ミラがパフェを食べながら思い出したように重福に聞く。ちなみに重福は店主がいる間、姿は見えず、ずっと黙ったままで身動き一つとっていなかった。

 

「いいえ、ネットではありません」

 

「え?」

 

 ミラだけでなく食蜂と相楽までもが驚いて重福がいるであろう場所を見やる。

 

「一週間前、第七学区の路地裏で会った人にファイルを入れて貰いました」

 

「操祈、お願い」

 

「わかってるわ」

 

 食蜂がまたリモコンのボタンを押し、今度は直接重福の頭を読み取りにかかる。さっきまでの会話形式はミラたちにもわかりやすいようにしていただけだ。こっちの方がずっと早し、人に会っているならばその人物の姿を知ることもできる。

 

「……ダメねぇ、該当するのは見つけたケド顔も声も隠してる。帽子にマスク、声はボイスチェンジャーかしらぁ。でもでもぉ、このシステムの正式名称だけはわかったわよ」

 

「正式名称?」

 

「えぇ、幻想御手(レベルアッパー)だゾ☆」




幻想御手の存在を知らないでも、食蜂さんなら多分このくらいは分析できると思うのですがどうでしょう。食蜂さんが出張り続けた結果ですね。

あと、アニメとは時系列がちょっとズレてますがそういう仕様です。ご理解ください。重福さんの扱い酷いですけど。重福ファンの方、すいません。
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