第十学区とある廃墟ビル
ここは第七学区にあるビル。とうの昔に廃棄されており
その二人共が
「ふう、これで一息ついたか?」
「はいですの、全く不埒な輩が多すぎですわ。しかも、」
男子の方は枝先千歳。女子の方は白井黒子。二人共高位の能力者であり、
「
「まったくだな。カマキリがデカくなったらこんな感じになるのか」
例えが理解できませんわ、と白井がポケットから携帯電話を取り出しながら適当に答える。それを聞く千歳はそうか、とどうでもよさげにあさっての方向を見ている。
そんな二人の目の前には多数の男たちが呻きながら、中には気絶しながら倒れている。人によっては鼻がつぶれていたり、服が鉄の矢で縫い付けられていたりとなかなかの惨劇だった。
こんな事になった原因は言わずもがな、千歳と白井だ。その片方である白井は携帯電話を耳に当てて、連絡を取っている。
「もしもし、初春ですの?」
『はいはーい、こちら初春です。白井さん、お仕事終わりましたか?』
「ええ、今しがた終わったところです。
『はい。あと2、3分で到着するはずですよ。千歳さん、聞こえてますか?』
白井と千歳の距離はそれなりに離れているものの白井は千歳の方に電話を向ける。千歳は能力の関係上、聴力が尋常でないほど良いので、この距離でもしっかり会話が出来ている。
「ああ、問題ない。サイレンもちゃんと聞こえてきてるよ。これから支部に戻っても大丈夫か?」
『そうですね。最近働き詰めですし、休むことも大事ですから。怪我とかしてませんか?』
「いえ、少しだけですが。医療キットの準備をお願いしますわ」
『分かりました。気つけて帰って来てください』
初春が言い終わると電話が切れた。その間に千歳はビルの窓から外を見ており、窓の外には
「さてと、
「そうですわね」
そう言い残して二人は部屋の外へと出て行く。あとに残ったのは倒れた多数の
そもそもこのような状態になったのは約一週間ほど前から。
だが、とりあえずミラと食蜂、相楽が
◆
第七学区とあるファミレス
このファミレスには二人の学生と一人の研究者が座っていた。
学生の方は美琴と白井。二人は先日の
一方の研究者の方は白衣を着た目のクマが酷い女性、木山 春生(きやま はるみ)。原因不明で倒れた生徒の調査にやってきていた大脳生理学者である。彼女は美琴たちから
だが、とりあえず前半は聞いても大して意味がないので割愛。
「つまりネット上で噂の
「はい」
「で、何故そんな話を私に?」
「能力を向上させるという事は、脳に干渉するシステムである可能性が高いと思われます。ですから――――」
「
木山は白井の言葉を快く承諾する。学生の調査のために派遣されてきた彼女としては、手がかりが多いに越したことはない。
そんな木山を見て白井は安心したように頭を下げる。
「ありがとうございます」
「ところで、さっきから気になっていたんだが、あの子達は知り合いかね?」
そう言って木山が指差す先は窓ガラス。窓ガラスのその先には三人の人影、佐天と初春と千歳である。
佐天と初春は窓ガラスにニコニコ顔で張り付いて美琴たちを見ていた。さらに千歳がそんな二人を見てから美琴たちを見て、邪魔してすまんな、とでも言うように申し訳なさそうな感じで苦笑している。
そんな千歳たちを白井たちが手招きして、自分たちの席まで呼ぶとファミレスの中へ入ってくる。
そして、千歳たちが入ってくるのを待つ間に、白井の携帯が鳴り、
「すいませんの。電話のようですから少し席を外しますわ」
白井はそう言って席を立つ。そして、入れ替わるようにして千歳たちが美琴たちがいる席へとやって来ていた。
「白井さんは何かあったんですか?」
「黒子は電話が来たみたい。それでこちらは木山先生っていって脳の学者さんなの」
「はじめまして、木山だ」
美琴の紹介により木山が自己紹介をし、それにつられるようにして千歳たちも自己紹介を行う。
「枝先です」
「佐天です」
「初春です。脳の学者さんなんですかー。なんでそのような方とお茶を? もしかして白井さんの脳に異常が……」
初春がふざけながらも真面目に美琴を問いただす。実際、美琴が関わると白井はいろいろ頭がおかしくなっている。初春の心配もごもっともなのだが、美琴はそれを笑いながら否定し、
「あはは、違う違う。
「
佐天が興奮したように、確認するように聞く。佐天はそういった都市伝説の類が大好きで、美琴たちが
そんな時、
「お姉様! 木山先生!!」
白井が驚いたように、焦りながら戻ってくる。
「ちょ、どうしたのよ、黒子?」
「何か悪いことでもあったのか?」
白井があまりにも焦って戻ってきたことで、美琴と木山は反射的に驚いたようにして声を出す。
そして、白井が告げるそれは、
「それが、……
「「「「「…………」」」」」
「「え?」」「は?」「「なんだと?」」
全員が全員、鳩が豆鉄砲を食らったような驚きの表情だ。知らせがあまりにも早すぎた。犯人逮捕のための会議を始めた途端、急に犯人が捕まったようなものである。
ちなみに、左から、初春と佐天、美琴、木山と千歳だ。
「あー、とりあえずその実態とやらを聞かせてもらおうか?」
「あ、はい。それによると――――」
白井が説明を始めると、他の皆は黙って聞いている。のだが、頭のあまりよろしくない佐天と初春は理解不能なようで、知恵熱により頭を抱えて机に沈み込んでいた。一方で、美琴と千歳、木山は目を点にし、完全にポカーンとしている。
そして、白井がミラたちが明らかにした
「と、いう事なのですが……、どうでしょうか?」
伝える白井ですら確信を得られていないようで、かなり自信なさげな感じだ。ある程度話を理解できていた千歳でもあまり信じられていないようで、
「…………何ともぶっ飛んだ理論だな。こんな事有り得るんですか?」
「確かに信じられないような事だ。……が、的は得ている」
専門家である木山はあまり認められないように苦々しい表情をしているものの、言葉ではその説を認めているようだ。
それに木山はまだ気になる事があるようで、
「誰がこの説を導き出した?」
「常盤台中学のミラジェーンさんと、あー、それとー」
ミラの事は普通に言う事は出来たものの、その後がかなりしどろもどろになり、白井は言葉を発せられずにいた。それもそのはず、次に言わなければならないのは食蜂の名前である。
美琴の前でミラを除いて食蜂の名はタブーなのだ。美琴とルームメイトである白井はその事は重々承知している。なにせ、以前のシャワールームでは死にかけた程なのだから。
そんな白井の心境を知ってか知らずか美琴は、気軽にアイスコーヒーを飲みながら催促をしてしまう。
「? 早く言いなさいよ」
「……食蜂操祈さんですの」
「……」
ペキリ、と確実に美琴が持つアイスコーヒーのコップからおかしな音が響き渡った。割れてはいないが、美琴の顔は完全に笑顔のまま固まってしまっている。
そんな美琴の様子に気がつかなかったようで、木山は首を傾げながら不思議そうな感じで話を続ける。
「……ミラジェーン? 食蜂?」
「ミラは第八位、
美琴は何とか理性を取り戻したようだ。が、食蜂のことを言う時はどこか憎々しげである。というか、いったいどこまで仲が悪いのか。
「……第八位に第五位。……そうか、彼女らだったか」
そう言う木山はなんとも外を見ており、感慨深そうでありながらも、どこか懐かしそうな雰囲気を醸し出している。
そんな木山の様子を見る佐天は少し不思議そうに、
「ミラさん達と知り合いなんですか?」
「ああ。まあ、少し、な。
それより、さっきの
木山がそう言った後、ドリンクを運んできた店員がずっこけた事もあり、なんやかんやで美琴達による
一同はファミレスの外へと出て、皆一様に木山に頭を下げる。
「お忙しい中、ありがとうございました」
「いや、私は何もしていないさ。それに教鞭をふるっていた事も思い出せたし、楽しかったよ」
笑いながらもどこか哀愁を漂わせながら美琴の言葉に木山は答える。
「教師をなさっていたんですか?」
「昔……ね。それと、あとの対策は
ここまで
そして、千歳もそれに同意のように言う。
「そうですね。ここまで条件が揃っているなら、犯人が捕まるのも時間の問題でしょうし」
「じゃあ、捜査の方は任せるよ」
そう言って木山は帰路につこうとするが、
「 」
振り向きざまに彼女は何か小声でつぶやいた。が、その呟きは誰にも聞き取ることは出来なかった。
そんな木山を見送った美琴たち。彼女らも、もう帰る時間だ。
「それじゃあ、わたくしたちも帰りましょうか」
「そうですね。とりあえず
初春が白井に同意するように言う。
「じゃあね、また明日」
美琴が手を振りながら言うと、それに応えるように初春も手を振る。
「さよならー、御坂さん、白井さん」
ちなみに美琴と白井は同じ寮のため帰り道は同じ。千歳たちは皆、寮の場所は違うが同じ学校なので場所は近い。そのため千歳、佐天、初春も一緒の道で帰っていく。
この翌日。
仮説ではあったが、高位の精神系能力者(食蜂が名前を伏せさせた)が調査したという事。そして、大脳生理学者が認めた事もあり、治安部隊の上層部はその仮説に従う事を方針として決定。
上層部により、学園都市中の
まずは、使用している生徒がいるかどうかを確かめる事。まあ、電話一本で確認できることから問題は特になかった。
次は収容施設にいる生徒たちへの聞き込み。捕まっていた生徒のすべてが
ここまで聞いていればある程度の問題はあるが、うまく対策されているようにも思える。しかし、問題はこの数日後なのだ。
が、とりあえず千歳たちが
◆
ここは千歳や初春、白井が配属されている
「うー、疲れましたー」
「初春、大丈夫かー」
ずっとパソコンの画面に向かっていた初春は、目を擦りながら休憩用の机へとゲンナリとした感じで沈み込んでいた。初春は裏では
そんな彼女に声をかけるのは千歳である。支部に戻った後、初春から手当をしてもらい、やっと休めると思ったら残業を言い渡されたのだ。パソコンに向かいながら作業中なのだが、心なしか目が死んでいる。
「なんでこんなに仕事があるんだろうな……」
「私たちが
「そーですわねー」
白井もまた、初春同様ぐったりとしてテーブルに沈み込んでいた。この支部にいる皆が連日働き詰めなのである。
そんな中、支部の入口が開く。そこに立っていたのは、
「おーす、元気……ではなさそうね」
「みんなー、差し入れ持ってきたけど……」
手にビニール袋を下げた美琴と、バスケットを持ったミラである。が、二人共少し引いていた。なにせ支部の中はどんよりした、この世のものとは思えないほどに濁りきった空気が蔓延しているからだ。
「あ、お姉様にミラさんですか……」
「……こんにちはー、御坂さん、ミラさん」
「すまんな、こんなんで」
白井と初春はテーブルに沈み込んだまま挨拶をする。美琴大好きの白井ですら、わずかに頭を動かした程度だ。唯一、仕事をしている千歳ですらパソコンに取り憑かれたように、モニターから顔を離さないでいた。皆一様に覇気の欠片もない。
「と、とりあえずお茶にしないかしら?」
「……そうですわね」
「いただきます……」
「……お茶か、なんとも甘美な響きだあっはっはっはっ」
ミラの提案に賛同はしているのだが皆元気が戻らない。千歳に至ってはもはや別の次元に飛んだかのような有様である。パソコンから這い蹲るようにして、休憩用のテーブルに逃げてきた。
「私はジュース類買ってきたから好きに飲んで」
「こっちはワッフルとかマフィンとか。とりあえず甘いものを中心に作ってきたから」
甘いものと聞き、甘いもの好きの初春は少し元気になったようでテーブルから顔を上げ、お菓子に手をつける。千歳もまた甘党であり、別次元から帰還して一心不乱にミラ手作りのお菓子をかっこむ。
「疲れた時には甘いものだな。疲れてなくても甘いものだが」
「そうですよね。甘いものは至高の食べ物です」
千歳と初春は目をキラキラさせてパクパクとお菓子を平らげ、白井もそれに続くようにお菓子を摘んで体力回復に勤しんでいる。
そんな彼らを見るミラと美琴は少し安心したように微笑み合う。彼女らは毎日仕事に追われる白井たちを労うためにお菓子やジュースを持ってやって来ていたのだ。
「それで
美琴が
「メッ、休憩中に仕事の話は厳禁よ」
「ご、ごめん」
ミラが美琴の額を軽くだがペシっと叩く。そんなミラたちを見て白井が、
「構いませんわ。差し入れのおかげでだいぶ元気になりましたし。とりあえず最初からおさらいしましょうか」
「だな、最近自分でも何をやってるかが分からなくなりそうだ」
「ですねー」
「コホン、あー、とりあえず――――」
白井の言葉を要約すると、
まず、対策を立てた翌日に
しかも、ネットで同時多発的にアップされていたために
まず、それに食いついたのは
『
という事だ。なんとも短絡的だが、この説により使用者は爆発的に増加した。しかも一般生徒までこの説を信じる始末。
この説が
一つは
もう一つは意識不明になった者が少なすぎた事。それが学生に危機感を感じさせなかった。それにより学園都市からの呼びかけを無視、誰も意識不明になると信じなかったのだ。
とにもかくにも判明が早すぎた結果だった。自分の都合の良いように考えてしまうのが人間という生き物なのだろう。
さらに、予想外だったのは内部情報の漏洩していた事。
その結果、
一方で
『自分たちは信用されていないのか』
という主張がでて、ストライキの直前まで行きかけた。
こうなってしまってはできることなどほとんどない。江戸時代の五人組のように各支部内でお互いをお互いで見張る始末。
これが千歳や初春、白井が所属している第一七七支部のように仲がいいのなら問題ないのだが、どの支部もそういうわけではない。支部内でメンバーの仲が悪ければいがみ合い、
「――――と、まあこんな感じですわね」
あらかた語り尽くすと白井はヤシの実サイダーを口に含む。
その間に美琴が、
「改めて聞くとひどい状況ね」
「そうなんですよ、
初春がいちごおでんを啜りながら愚痴るようにして呟いている。それを見ている千歳と白井は同意するように全力で首を縦に振っており、ミラと美琴はもう苦笑するしかなかった。
「で、手がかりは掴めてるの?」
「いいや。治療方法も
「
千歳も白井も悔しそうに言い、初春も無言だが悔しそうに頷いている。
ミラと美琴もため息を吐いて呆れるしかない。学生たちの危機管理能力の無さにも、
そんな時、初春が
「そういえば食蜂さんはどうしたんですか?」
彼女の中ではミラと食蜂はセットだというイメージらしい。
「あー、操祈もいろいろあってね」
これについてもミラは苦笑するしかなかった。
何故なら、食蜂は常盤台中学を通して
それでもしつこく要請が来るので寮に引き篭り、現在、食蜂は最上級に不機嫌、ミラでさえ手がつけられない状況だったりする。いや、手は付けられてもかなりのわがままで駄々っ子なのだ。
「佐天ちゃんは来てないの?」
「佐天……?」
「この支部には最近、来てませんわよ」
「私も会ってないわ」
「あ、学校の友達と遊んでるって言ってましたよ。私たちに気を使ってるみたいで。というか千歳さん! 今、佐天さんの事忘れてませんでしたか!?」
初春の叱責を、千歳は嘘をついた大人のように白々しく、露骨にそっぽを向き口笛を吹いて誤魔化す。
「ここに来るのに誘えばよかったわね」
「そうね。それじゃあ、そろそろお暇しようかしら。これ以上邪魔しちゃ、仕事が終わらなそうだしね」
ミラが何気なくそう言って席を立つのと同時に、
「嗚呼、現実よ。ただいま。夢なんかに浮気して悪かったな……。やはり俺にはお前だけだよ」
どこにも見えない恋人に囁き始める千歳は危なっかしくフラフラとパソコンの前に戻り、それにつられるように初春と白井も自分の残りの仕事に取り掛かる。皆が皆、敗残兵を通り越した惨たらしさ、もはや知能が高いだけのゾンビ集団にも似た光景だった。
「じゃ、じゃあ、頑張って」
「あんまり無理しないでね」
美琴とミラはそう言い残すと支部から外に出る。その時に、ありがとうございましたー、と聞こえてきたのはいい。のだが、地獄の底から鳴り響いてくる絶望の叫び声だ。
「はあ、黒子達。今にもくたばりそうだったわね」
「手伝えたらいいんだけど、私たちじゃ足を引っ張るだけになっちゃうし」
残念そうに、俯きながらミラが呟く。書類整理は
「それじゃあ、行こっか」
「ええ、そうね」
彼女らはこれから寮に戻る、のではない。ミラたちに出来ることと言えば、暴れている
◆
ミラ達が
「まさかこんなに早くバレるとは思ってなかった。流石は
白衣を着た女性が椅子に座りながらため息をついてコーヒーを啜る。
「梓があれだけ言っていた理由がやっとわかった。それに
彼女がそう言ったと同時に部屋のドアが開く。ちなみにこの部屋には彼女以外誰もいない。入ってきた人物の顔は、窓から差し込む西日によって白衣の女性には見えていない。が、それでも彼女は言葉を続ける。
「やっと来たか。もう準備は出来てるな、
「……」
腕を組んで問いかける白衣の女性の問いに
「すまないな。私は、いや、私たちは止まるつもりはない。それに……、誰にも止めさせやしない」
「……」
白衣の女性の言葉に今度は頷くこともしない。
この数日後、
今回ちょっと時系列が分かりにくかったかもしれないです、すいません。
簡単に解説すると
木山と会う→幻想御手流出→ビルで戦闘→支部で死屍累々
こんな感じで時間は進んでました。バラバラにしたのはそれがいいかなと思ったからです。
幻想御手編ももうすぐ終わるといいなー。うん。人によってはラストの予想はわかってるかもしれないですけど、そんな人の予想の斜め上をつけたらいいなと思ってます。
ちなみに原作よりも状況は悪化してます。