佐天の部屋のリビング
佐天が風呂から上がり、着替えてきた時には、すでにミラが食事の準備を終了させてた。そして、佐天に何も言わせる事もなく、ご飯を食べ始めてしまう。それにつられるようにして佐天もカレーを食べている。
ちなみにミラのパジャマはゆったりしたクローバー柄の七分袖のもの。佐天はショートパンツとキャラクター物のTシャツ。
そんな彼女らの雰囲気といえば、風呂での緊張感はどこへ行ったのやら。ミラは普通にニコニコ。
「カレー、美味しいわね」
「ひゃ、ひゃい」
部屋にはカレー特有の食欲をそそる香りが漂っているが、佐天は蛇に睨まれた蛙の如くビクビクしている。
というのも自分はミラの逆鱗に触れているのかいないのか、実はニコニコしてるだけで内心烈火のごとく怒ってるんじゃないか? 佐天はそんなようなことを考えながら、無理矢理カレーを口に運び込んでいた。
そんな佐天を見るミラは、
「スパイス辛かった?」
「い、いえ。とってもおいしいです」
「そう? ふふっ、佐天ちゃんも料理上手だったし。美味しく出来てよかったわ」
「あ、あはは……。あの……」
「どうしたの?」
「……聞かないんですか、
今までカレーを掬い続けていたミラのスプーンが、皿に当たりカチャリという音を立てて止まった。ミラの表情は果てしなく険しい。
「……そうね。とりあえず先に言っておくわ。操祈と私の見立てからして、あなたが意識を失うのはおそらく明日の昼頃よ。その頃には佐天ちゃんはベッドの上で眠ってる」
「そう……ですか、当然の罰……ですよね」
「それまでは一緒にいるつもりだけど、聞かせて」
そう言ったミラの表情はさっきまでのものとは異なり、悲痛なものだ。そしてどこか……佐天を試すようでもある。
「そうまでして。倒れると分かってても欲しかった能力って、佐天ちゃんにとってどんなもの?」
「……憧れ、です。超能力に憧れてこの街に来て。でも
……でも、
佐天もまた、スプーンを置いて話す。が、自信なんてあるわけがない、諦めしかない絶望しかない佐天の表情。
「
佐天が呟いたそれは学園都市に住む学生のうち
佐天は俯いたまま震えている。
ミラは静かに立ち上がると佐天の背後に回り込み、佐天の不安を取り除くかのように佐天を抱きしめる。
「それじゃあそんな佐天ちゃんに一つだけお話し、してあげる。でもね、」
そう言ってミラは佐天を抱きしめるのをやめた。
そして、佐天が振り返り目が合うのを確認すると、いたずらっ子のように笑って言う。
「ごっちそうさまー、私は先に寝る用意してるわ。お話はそれが終わってからね」
「え、あ、あの……」
ちゃっかりカレーを食べ終わっていたミラは、食器を持って流し台に持って行ってしまった。佐天を放置したままで。
そんなミラを見る佐天は風呂と同様、固まって困惑していた。風呂場の時と果てしなく状況が似ているので佐天はデジャヴを感じつつ、ミラにはシリアスブレイカーでも備えているのではないか、そう本気で思っていた。
しかし、佐天もいつまでも呆然としているわけにはいかない。急いでカレーを食べきると、ミラを追うように流し台へ皿を持っていく。
その時にミラがありがとうとだけ言ったが肝心のお話というものがどんなものかも言わないでニコニコしているだけだった。
そして、後片付けも終わってから取り掛かるのは歯磨きのような寝る前の準備だ。その間もミラは何も佐天に言わず、妙にニコニコするだけ。そんなミラにつられるようにして、ではないのだが佐天は何も言えなかった。
そして、それも終わってしまえばあとは寝るだけ。だが、佐天の寮のベッドは一つのみで必然的に予備の布団を敷かなければならない。
その為、布団は敷いた。そして、眠るために電気も消した。
しかし、
「あ、あのなんで一緒のベッドに入ってるんですか?」
「そうする必要があるから」
きっぱり言ったミラは現在、佐天が横になっているベッドに一緒に入っていた。もともと一人用のベッドのため、かなり狭くお互いかなり密着した状態だ。布団を敷いた意味はどこへ行ったかなんて考えてはいけない。
「それじゃあさっき言ったお話、始めるわね」
「はい」
「これはむかーし、むかし。とある世界の物語」
「おとぎ話……ですか?」
「ええ、ちょっとつまらないかもしれないけどね」
佐天が聞く体勢に入ったのを確認するとミラはまた話し始める。まさしく眠る前の子供に話してあげる母親のように、微笑みながら優しい声色で。
『この物語はこの世界ではない、どこか遠い世界の物語です。
むかーし、むかし。あるところに女の子がいました。女の子は不思議な力を持っています。それはどんな人でも治せてしまう力でした。どれだけすごいお医者さんが治せないと言った病気でも、怪我でも、しっかり治せてしまいます。女の子はその力で人を癒せる事を誇りに思っていました。
そんな女の子には仲間がいました。信頼し合い、一緒にいて楽しくて、家族のように温かい仲間です。女の子はそんな仲間たちが大好きでした。仲間たちも女の子の事が大好きです。仲間たちは女の子の事を妹のように、子供のように、孫のようにして可愛がってくれました。
そんな女の子の仲間たちは悪者をやっつけるために戦うのが仕事でした。しかし、その悪者を倒すときに仲間は傷ついてしまうのです。女の子はそんな仲間たちを助けるために力を使います。その時に仲間が喜んでくれるのが、女の子はとても嬉しかったのです。
だから、女の子はいっぱいいっぱい努力しました。どんなふうにすればもっとみんなを治せるか、みんなが喜んでくれるのか。その事だけを考えて不思議な力を使っていました。大変なこともたくさんありましたが女の子は幸せです。
そんな幸せな日が続いたある日の事。この世界の王様は突然女の子に言いました。
「君はこの世界にいられない」
女の子は嫌だと言いました。しかし、王様は許しません。女の子も仲間たちも王様の命令には逆らえなかったのです。結局、女の子はその世界を出なくてはなりませんでした。女の子はもう大好きだった仲間にも会うことはできません。
世界を追い出された後、女の子は別の世界を目指しました。海を渡り、砂漠を歩いて。山を登り、谷を越えて。森を踏みしめ、荒野を横断して。辛い辛い旅でしたが女の子は必死に別の世界へ向かいます。何故なら女の子はこれまでいた世界で一つの約束をしていたからです。絶対に破りたくない大切な大切な約束です。女の子は決して挫けませんでした。
そしてついに女の子はもう一つの世界にたどり着きました。しかし、女の子がこの世界についた時、この世界の王様は言いました。
「君の不思議な力はこの世界にはあってはならない物だ」
つまり、王様は女の子に力を捨てろと言ったのです。女の子は当然嫌だと言いました。女の子は自分の持つ力を自分の存在の証しとも思っていたからです。女の子は王様に力を捨てたくないと言います。しかし、王様はそれを許しませんでした。
そして、―――――』
「って、あれ? 佐天ちゃん?」
「……」
ミラが気がつけば、佐天はすでにスースーと安らかな寝息を立てていて眠りに落ちていた。ここ最近、
しかし、佐天の寝顔は人肌の温かさからか、とても安らか。安心しきった赤ちゃんのようにぐっすりである。ミラもそれを見てしまえば思わずふふっと笑ってしまう。
「私もこのまま眠っちゃお……。おやすみ」
ふあ、と軽い欠伸とともにミラは佐天のベッドに寝っ転がったまま、佐天の事を抱き枕にして寝てしまう。正面から佐天を抱きしめるようにして。そして、数分後にはミラも静かな寝息と共に眠っていた。
◆
時間は過ぎて早くも朝。カーテンの隙間から真夏の朝日が差し込み、外ではスズメがチュンチュン鳴いている。が、決して朝チュンではない。女の子同士だし。一夜の過ちもなくグッスリだ。
そして、ベッドで眠っていた佐天が目を覚ます。
「うぅ……んー、……あれ、私寝ちゃ……った」
ミラが自分の為に(多分)してくれたおとぎ話の途中で寝てしまった事により、佐天は顔をサッと青くして焦り始めた。あまりにも失礼すぎる。しかし、
「なんだったんだろう、あのお話。……今まで聞いたことのないものだったし。ミラさんの故郷のお話なのかな?」
ミラが何かを伝えたいと思ってあの話をした事だけはわかる。だが、佐天はその肝心な伝えるべき事がわからなかった。まあ、途中で寝てしまったからだろうが。
しかし、佐天は少しずつ頭が冴えてきた事で気がついた事があった。手に何か柔らかい感触がある。
「……なにこれ? ………………!!」
同性なだけでギャルゲーのような展開に陥っていた佐天だった。佐天にもちろんその気はない。しかし、手に握るそれはずっと触っていたくなるような不思議な魔力が。
自分のものよりもずっと感触のいいそれは、マシュマロのように柔らかい。佐天は夢中になっていた。
しかし、ちょっとすると、
「おはよう、佐天ちゃん。気持ちよかった?」
「…………」
「ふふふ、どうかした?」
「ミ、ミミ、ミラ、あああ、さ、さんんん、あ、ああの、あのコレは、そその……」
普段初春のスカートは平気でめくるくせに、相手が違うとこうまで吃るものらしい。ニヤニヤと笑うミラを見て佐天は顔を真っ赤にしてワタワタと焦りに焦っている。
「ほら、起きて。朝ごはん準備したから食べましょ」
「……え」
「ん?」
「朝ごはんの準備って、まさか」
「あはは、お察しの通り。準備を終わらせてから佐天ちゃんの事を観察してたから。可愛い寝顔だったわよ。
ごめんね、ちょっと趣味悪かったかも。でもまあ、佐天ちゃんが途中で寝ちゃったので差し引きゼロということで」
テヘッという効果音が出るような感じで舌を出して言うと、呆然とする佐天を置いてさっさとミラは移動してしまう。ちなみにミラはすでにパジャマか着替え、普段着の上からエプロンを羽織った状態であった。
そして残った佐天はまたしても固まってしまっていた。そんな佐天のもとへミラが、あ、と思いだしたように戻ってきて、
「触られちゃったのはサービスで許してあげる♪」
「~~~~~~ッ!?」
「ふふふ、早く顔洗ってきなさーい」
ミラはそれだけ言い残すと、顔をトマトのように真っ赤に染め上げた佐天を毎回のように放置して、今度こそ別室へ移動してしまう。
だが、いろいろ忘れてしまっているかもしれないが、ここは佐天の家だ。まるで自分の家のように他人の家を使えるのはある種の才能なのだろうか。
◆
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
早々ご飯を食べてしまったミラと佐天は改めて向き合う。
「ミラさん、昨日の話って……」
「うん、とりあえずどこまで覚えてる?」
「えっと、女の子が別の世界へたどり着いて、その世界の王様に特別な力を捨てろと言われた所までです」
「そっかそっか。それじゃあ途中からね」
そう言ってミラは昨日と同じように優しい声色で物語を話し始める。
『王様は女の子に力を捨てろと言ったのです。女の子は当然嫌だと言いました。女の子は自分の持つ力を自分の存在の証しとも思っていたからです。女の子は王様に力を捨てたくないと言います。しかし、王様はそれを許しませんでした。
そして、女の子は決心しました。自分の特別な力を捨てる事を。女の子はに今までいた世界に大切な約束があったから、その世界から出ては約束を果たせなくなってしまうから。そうして女の子は、その世界に住むことに決めたのです。
しかし、いざ力を捨てるとなった時。女の子はとても怖くなりました。今までの当たり前が当たり前でなくなったからです。怖くて怖くて仕方がありません。今までのような力が使えなくなってしまうのだから、仲間たちが喜んでくれた力がなくなってしまうのだから。
しかし、女の子は不思議な力を捨ててしまいました。そうするしかなかったからです。なくなってからしばらく女の子は苦しくて怖くて、何も手がつけられなくなっていました。夜は眠る事ができません。ご飯もうまく食べられません。ただただ、涙だけがこぼれ落ちます。女の子は今にも倒れてしまいそうになっていました』
「と、一旦ここで切るわね。それと一つ、佐天ちゃんにちょっとした提案、かな」
ずずっとお茶を啜ると、ミラはいつものようなほんわかな雰囲気からピリッとした雰囲気に変わる。その表情は余命宣告を行う医者のようにかなり硬い。
その空気は佐天にも伝わるほどであり、佐天は生唾を飲み込む。
「私は佐天ちゃんに能力を持たせてあげられる。超能力ではないけど、努力次第でいくらでも強くなれるものをね。それこそ私の能力なんて目じゃないくらいのものよ」
「……え?」
ミラが言ったのは超能力とは似て非なるもの。科学とは対極に存在し、学園都市とは別世界のものとも言える存在。
その名は『魔術』
最後はいろいろツッコミどころがあると思いますが……。次回で。
それと前回ミスって自分の構想してたのと一切違うのを書いてしまい訂正しました。それはミラの同居人であるレベル5について。ちょっとだけなので読み返す必要はそんなにないとは思うんですけどね。
申し訳ないです。
感想とかあったらお願いします。作者的に結構励みになりますので。テンション上がります。