とある科学の元魔術師   作:珠風船

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 約一ヶ月ぶりです。すいません。いろいろありました。兄にパソコン占領されたり、急にお泊まり会したり、カラオケでオールしたり、短編書いたり。

 この小説でも更新が遅いのにもう一つ書くという愚行に走った作者です。ホントにすいません。


第18曲:私を助けて

 

「私は佐天ちゃんに能力を持たせてあげられる。努力次第でいくらでも強くなれるものをね。それこそ私の能力なんて目じゃないくらいのものよ」

 

「……え?」

 

 ミラのそれは佐天にしたら信じられない、到底本当の事とは思えないような申し出だった。

 しかし、嘘ではない。元魔術師のミラだから言える、科学サイドの超能力とは異なるもう一つの特別な力の存在。

 

 

「でもね、佐天ちゃんにはすべてを捨ててもらうわ」

 

「すべて……?」

 

 ゾクリと佐天の体に尋常でない程の悪寒が走った。

 

「ええ、当たり前でしょう。特別な力をタダで手に入られる程、この世界は優しくはできてないのよ」

 

 さらに佐天は氷水に浸かったかのような錯覚を感じていた。

 

 ミラの今の雰囲気は至極楽しそうであり、畏怖するほど綺麗につり上がった口角がそれを強調するようだ。その姿はまさしく人を誘惑し陥れる悪魔そのもの。今のミラは、残忍で狂気で残酷で。その色たちに染まりきった姿をしていた。

 

「佐天ちゃんがこれまで手に入れてきた繋がりを全部断ち切ってもらうことになるわ。私や操祈、白井ちゃんに美琴。もちろん枝先君にも初春ちゃんにだって、もう二度と会えない。そのほかの学校の友達も知り合いにも」

 

 淡々とミラは言葉を紡ぎ、機械のような感情のない言葉で続けていく。

 

「家族にももう会えない。それでも欲しいって言うならなら――――」

 

「そんなの嫌です!! そんな力、欲しくない!!」

 

 ダンッ、というテーブルを叩く音と共に佐天は勢いよく立ち上がる。そして、叫ぶようにして出たそれはまさしく佐天の本音であり、その表情はミラに噛み付くようでもあった。

 そんな佐天を見るミラは嬉しそうに微笑むと、子供を諭す教師のような優しい雰囲気でミラは言う。

 

「座って佐天ちゃん。それじゃあ、もう一つ質問ね。佐天ちゃんが嫌だって言ったのはなんで?」

 

 ミラがそう言うと佐天はゆっくり席に着き、ポツリとこぼすように言う。

 

「それは……みんなと会えなくなる事が嫌だったから」

 

「うんうん、そっかそっか。それじゃあ佐天ちゃんにとって能力なんてそんなものでしかないのよ」

 

「えっ」

 

「だってそうでしょ。佐天ちゃんが大切な人と能力を天秤にかけた時、能力なんてこれっぽっちの価値もないだった。だから佐天ちゃんは即答できたんじゃない」

 

 まだうまく理解できていない佐天を見て、ミラは言葉を続ける。

 

「女の子だってそれと一緒だと思うの。その子は大切な約束と能力を比べたら、特別な力は要らないものだった。たとえそれが自分の存在を示す証だった不思議な力でも、ね」

 

 そういった時のミラはどこか遠くを見るようで、懐かしそうであり、ちょっぴり悲しそうであるような、どこまでも複雑な表情だった。

 

「……」

 

 黙って頷いてしまっている佐天を見ると、ミラは再び中断された物語の続きを始める。

 

 

『女の子は今にも倒れてしまいそうになっていました。

 

 でも、ある日の事。毎日毎日泣き続けていた女の子の涙はぴたりと止まったのです。ご飯も食べられるようになって、夜もしっかり眠れるようになりました。

 

 何故なら、女の子にはこの世界で新しい友達ができたからです。これまでの世界の仲間のように、信頼し合い、一緒にいて楽しくて、家族のように温かい友達が。そんな友達たちと一緒にいたら、くよくよしているのがもったいなく感じてしまいました。

 

 女の子はもう一人じゃない。だから女の子は笑えるようになれました。自分には生きる価値があると思えたのです。特別な力を持っていても持っていなくても友達は女の子を優しく包み込んでくれたのだから。

 

 だから女の子はいつも幸せです。

 

                おしまい』

 

 

 

 今度こそ、物語を終わらせたミラは改めて佐天と向き直って微笑む。その姿は聖母のようにも優しいものだ。

 

「佐天ちゃんは私に聞いたわね。無能力者(レベル0)は、自分は欠陥品なのか、価値がないのか、って。その質問に答えるわ」

 

「は、はい」

 

「能力を持ってしまった(・・・・)私が言っても説得力ないかもしれない。でもね、能力があるかないか、そんな事で人の価値は決まらない。佐天ちゃんは欠陥品なんかじゃないわよ」

 

 ミラはそう断言した。人によっては、むしろ聞いた人全てがミラを嘲るだろうその言葉を。超能力者(レベル5)という学園都市に八人しかいない稀有な存在であるミラに、そんなこと言う資格はないとほとんどの人が言うだろう。

 

 だがしかし。ミラは誰もが羨むであろうものをすでに捨てている。聖女の祝福(ジャンヌブレス)という魔術師なら誰もが知っていたその名も、その名の由来となった自分の証明でもあった力も、仲間たちとの繋がりでさえも断ち切っている。

 

「確かに特別な力がないと自分が無力に思えることがあるかもしれない」

 

 初めての超能力開発の日、すなわち魔術を使えなくなった時の事だ。

 魔術が自由に使えなくなるとわかっていても、その覚悟をしていても、その瞬間は恐怖しかなかった。当たり前が当たり前でなくなるのだから。

 人生の全てをかけて積み上げてきたと言っても過言ではない、自分の存在を証明していたものがすべて消えていく感覚。それを恐怖と言わず何と言うのか。

 

 未練がないわけではなかった、学園都市に来る前を振り返ることもあった、その頃に戻りたいと思って何度も泣いた。そしてなによりも、自分の存在価値がわからなくもなった。

 それでも今のミラには、

 

「でもね、私には友達がいる。梓や美琴、操祈に白井ちゃんや初春ちゃん、枝先君。その他にもいっぱいね。もちろん佐天ちゃんだってそうよ。信頼し合えて、一緒にいて楽しくて、家族のように温かい人達が私にはいる」

 

 特別な力がなくなった時は自分が空っぽの、何の価値もないものだと思い、存在意義さえ見失った。

 だがそんな時に、誰ひとりとしてミラのそばから離れる人はいなかった。むしろみんながミラが思う以上に温かくて。

 

 だからいつしか、ミラは笑えるようになっていた。自分には生きる価値があるとも思えた。異世界の能力を持っていた時も、それを失い特別じゃなくなった時も、新しい能力を手に入れた時も、誰も変わらないで自分を優しく包み込んでくれたのだから。

 

「佐天ちゃんにもそういう人たちがいる?」

 

 あの物語は他の誰でもない、ミラジェーン=ヴィクトリア本人のもの。魔術を捨ててしまった時の、そしてその後の物語。

 辛くて、寂しくて、苦しかった時。だが、それよりもずっとずっと優しくて温かい大切な記憶。

 

 佐天はその事を知ることはない。なにせ佐天はあの『物語』の少女がミラの事だというのは知るはずもないからだ。

 しかし、それでも伝わる事はある。

 

「……はい、います。ミラさん、御坂さん、食蜂さん。アケミ、マコちん、ムーちゃん。千歳さん、初春。弟もお父さんもお母さんもっ!」

 

「そういう大切な人たちがいるだけで私はね、生きる意味が、存在する価値があると思えるの。佐天ちゃんはそう思わない?」

 

 能力があってもなくても、特別でも特別じゃなくても、聖女の祝福(ジャンヌブレス)でも何もなくても色彩調節(コーディネーター)でも。その程度のもので存在する価値があるかないかなんて、ミラには関係なくなった。ただ、大切な繋がりがあるだけで、自分には存在するだけの価値があると思えたのだから。

 

 

「これ……」

 

「それはお守り?」

 

 佐天がポケットから取り出してミラに見せたのは、昨日佐天がミラに会う前にずっと握りしめていたお守りだった。

 

「お母さんがくれたんです。学園都市に来る前に」

 

 

 そう言って佐天が思い出すのは両親のもとを離れ、学園都市に来る前の時の事

 

『ねーちゃんノーリョクシャになんの? スッゲー!』

 

『ハハッ母さんは心配性だな』

 

『はいお守り。何かあったらすぐ戻てきていいんだからね。あなたの体が何よりも一番大事なんだから』

 

 弟、お父さん、お母さん。

 みんないつだって自分の事を想っていてくれた。

 

 

「これを貰った時、正直非科学的だと思いました。こんなもので身を守れるわけないのに。

 でも、今はお母さんの気持ちが分かるような気がしますっ。……お母さんは私が大切だからコレをくれたんだって」

 

 佐天は手に握るお守りにギュッと力を込め、ポタポタと涙を流しながら言うが、その様子は昨日の風呂のように悲しさや虚しさはない。むしろ目から流れる涙は嬉しさによるものだ。

 

「ふふ、佐天ちゃんにも大切なものが見えたみたいね。今の佐天ちゃん、とっても素敵な顔をしてる」

 

「はい」

 

 

 

 

  ◆

 

 

「それじゃあ時間も時間だし。……病院、行こっか」

 

 ミラが少しだけ悲しそうに言う。

 気づけばすでに十時を超えていた。幻想御手(レベルアッパー)を使ってしまった佐天はいつ倒れてしまってもおかしくない状況なのだ。倒れるならば、設備が整っている病院の方がいいに決まっている。

 

「その前に、初春に電話していいですか?」

 

「……うん、どうぞ」

 

 少し迷ってから、ミラは微笑みながら頷く。今は佐天のしたいようにさせておくのが彼女にとって一番だろうという考えから。

 

 佐天は自身の携帯電話を取り出し、初春へと電話をかけようとする。が、手が震えてうまくボタンが押せていなかった。

 自分でやろうとしていたとしても佐天としてはまだ怖いのだろう。初春達に自分がしてしまった事を告白することが。

 

「……あんまり無理しなくてもいいのよ」

 

「でも、私はもう逃げないって決めたから。……なのにっ!」

 

 佐天はそう言って恨めしそうに自分の震える手をギュッと握り締める。

 それを見るミラはちょっとだけ微笑みながら、

 

「それじゃあ佐天ちゃんにおまじない」

 

 安心したように言ってミラは立ち上がると佐天の近くに寄って、佐天の頭を優しく抑える。そして、佐天の前髪を持ち上げると、

 

「あなたがもう少しだけ、強くなれますように」

 

 そう言ってミラは佐天を抱きしめるようにして、額に優しくキスを落とす。

 

 これはミラが昔からしていたおまじない。魔術師の時でも超能力者の時でも変わる事のない、ミラにとってとても大切なおまじないであり、そしてなによりも、

 

『大事な大事な約束』

 

 

 

「……ミラさん?」

 

「佐天ちゃんはもう大丈夫。自分の弱さに気づいて。それを乗り越えようとしているんだから。あなたはもう弱くはない」

 

「……」

 

 佐天は自分の震える手をジッと見つめる。震えが収まる気配はしない。しかし、少しだけ収まるような気配もする。矛盾しているかもしれないが、少なくとも佐天にはそう感じられた。

 

 そして、意を決したようにボタンに手を伸ばす。

 少しずつ、ゆっくりでもしっかりとボタンを押していく。

 そして、数コールの後初春が電話に出たようで、佐天は初春へ語りかける。

 

「もしもし、初春?」

 

『もしもし、佐天さんですか? 最近連絡がなくってみんな心配してたんですよ!』

 

「う、うん、ごめんね。今は仕事中?」

 

『はい、今日も朝一から働きっぱなしで白井さんも千歳さんもぐったりしてますよ。早く幻想御手(レベルアッパー)をばらまいている人を探さないと!』

 

 幻想御手(レベルアッパー)という単語を聞いて佐天の表情は明らかに悲痛なものになるが、佐天はもう逃げることはない。体をぎゅっと抱きしめても、弱々しくても、言葉を紡ごうとする。

 

「っ……。初春、私さ……」

 

『どうしたんですか?』

 

幻想御手(レベルアッパー)……使っちゃたんだ」

 

『え? どういうことですか!?』

 

 電話越しでもわかるほどに初春の驚愕の声が聞こえてくる。

 

「ごめんね、初春。……倒れるって分かってても能力への憧れが捨てられなくて。それにね、……自分で使うんじゃなくてアケミたちにも使わせちゃったの」

『佐天さん!!?』

 

「最初に幻想御手(レベルアッパー)を使ってから、ずっと寮で怖くて震えてた……。いつ倒れちゃうんだろうって思ったら眠ることもできなくて……。でも、初春たちには言えなかった」

 

『佐天さん! どこにいるんですか!?』

 

「みんなに幻滅されちゃうのが怖かった。みんなに迷惑かけちゃうことが怖かった。みんなに嫌われちゃうのが怖かったっ!!」

 

 それが佐天の心の叫びだった。だが、それも過去のこと。

 

『嫌いになんてなりませんっ!! そんな事で佐天さんの事を――――』

 

「……昨日ね、ミラさんに会って今まで一緒にいてもらったんだ」

 

『ミラさんが!?』

 

「ミラさんにも言えなくて、幻想御手(レベルアッパー)を使った事を黙ってたけどすぐにバレちゃって。

 それでね、ミラさんに聞いたんだ。無能力者(レベル0)は、私は欠陥品なんじゃないかって」

 

『佐天さんは欠陥品なんかじゃありません!!』

 

 初春は怒鳴るようにして即答したが佐天は少しだけ苦笑する。

 

「あはは、初春ったらミラさんとおんなじこと言ってるよ。ミラさんはね、不思議なお話をしてくれたんだ。特別な力を持った女の子が特別な力を失っちゃう物語。

 それでねミラさんは大切な人と比べたら特別な力なんてこれっぽっちの価値もないって」

 

 佐天の声色が明らかに変わる。それは初春にも伝わるほど強いものであった。

 

『佐天さん?』

 

「ミラさんに言われなかった気づけなかった。能力があることよりも、特別であることよりもね。 ……大切な人がいっぱいいる方がずっと幸せだよ」

 

『……』

 

「私ね、もうすぐ倒れちゃうんだって。だからその前に、初春に言っておきたいことがあったの」

 

『……なんですか?』

 

「こんなどうしようもない私だけど、迷惑しかかけられない私だけどっ!!

 

 初春、私を助けて……」

 

 誰にも言えなかったその言葉を佐天は勇気を振り絞り言うことが出来た。もう一人ではない事を実感できたからこそ。

 

『大丈夫ですっ! すぐにたたき起こしてあげます! 佐天さんもアケミさんも他の眠ってる人もみんなです。だから、だからっ! ……安心して待っていてください』

 

 最後の方になるほどどんどん小さくなっていった初春の声は最後は涙による嗚咽を含むものだったが、どこか安心できるような力強い声だ。 

 

「初春……。うん、ありがとう。待ってるから、あんまり遅くならないでよ?」

 

『もちろんです!』

 

「あはは、ちょっと強がってみたけどもう……限界かも。……だんだん眠くなってきちゃった」

 

 佐天が言った瞬間だった。佐天の体がぐらりと揺れ、今にも倒れそうになるが電話だけは手放さない。

 

『佐天さんっ!』

 

「ミラさん、いろいろ迷惑かけちゃってごめんなさい。……あとはお願いしますね」

 

 佐天は無理矢理笑顔を見せるとミラにもたれかかる。そんな佐天を安心させるようにぎゅっと抱きしめてミラは言う。

 

「ええ。任せて」

 

「ういは、る、あと……よろ……しく、ね」

 

 そう言うと佐天の手からするりと携帯電話が落下して床に当たりカチャンという音を立てる。

 

『佐天さんっ! 佐天さんっ!!』

 

 しかし、もう佐天に初春の言葉は届かない。虚しく電話から初春の声が佐天の部屋に木霊するだけだ。佐天は一雫の涙を零したがその顔は安らかであり、たった今眠りに落ちた幼子のよう。

 

 

 

「ちょっとだけ、おやすみ」

 

 ミラの顔は自身の髪の毛で隠れたのでその表情を知る者はいない。しかし、ミラは本当に小さくそう呟いていた。

 

 




 まあ、いろいろ突っ込みどころはありましたが、佐天さん編終わりです。次回から終盤へ迎えるかと思います。
 ミラについて、達観しすぎじゃね? と思うかもしれませんが、彼女の人生経験は半端ないです。多分常人の二、三倍くらい濃密に生きてます。今回で過去編にも少しだけ言及しましたけど、どうでしたでしょうか?

 早く幻想御手編終わらせたい。正直主人公の立ち位置をはっきりさせるために書いているような感じです。デモンストレーションといえばいいのかな? 木山先生好きだけどね。
 早く主人公の過去編書きたいです。

 感想等ありましたら気軽にどうぞ。少しばかり感想に飢えてます。

 あと同時投稿、短編予告『神の右席になりましてっ!』もよろしくお願いします。あっちはこちらと違って男主人公のものです。思いついたので書いてみました。

 以上、ありがとうございました。
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