少年と少女の心のバグ   作:クロウズ

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6話目

「時に木林。黒狗を知っているか?」

「黒狗、っすか?」

 

 

 中等部2年目の春、春というか6月某日。放課後に校舎の見回りをしてると新しい風紀委員長、浅葱(あさぎ)信虎(のぶとら)先輩がそんなことを言ってきた。黒狗って、黒い毛をした犬のことじゃないのか?

 

 

「いや、知らないっす。なんなんすか、その黒狗って」

「黒狗というのは去年現れた黒髪紅目の不良でな。先日この近くで目撃されたんだ」

「は、はぁ……不良っすか」

 

 

 なんでも、不良グループに絡まれてるうちの生徒がいて、たまたま居合わせた黒狗がその不良グループと乱闘騒ぎを起こしたらしい。その生徒の証言では、絡まれてるところに割り込んできて、一応助けてくれたとのこと。そこだけ聞くと、普通に良い人なんじゃないかと思うけど。

 

 

「結果的にはそうだ。ただ、その生徒が言うには相手の腕を食い千切らん勢いで噛み付いていたようでな」

「狂犬かなんかっすか、その人」

「だから黒狗なんだ。お前も、もし会ったら気を付けるんだぞ」

「ちなみにその黒狗って、ここの生徒じゃないっすよね?」

「ああ、違う学校だ。確か、今は3年だったかな」

 

 

 先輩っすかその黒狗。それにしても不良、ねぇ。一応、警戒しておくか。

 そのまま見回りを続け、特に異常はなかったのでさっさと帰る。

 

 

 

 

 

 その翌日の土曜日、家にいても特にすることのなかった俺は暇潰しに街の方へ出掛ける。出掛けたからといって何をするわけじゃないんだけど。1人だし。

 ちなみに昨日、帰ってから他校の友人達に連絡して黒狗先輩の情報を集めてみると、この辺りでも目撃されたことがあるらしい。ただ、喧嘩してたとかそんなんじゃなく、ドーナツを10個ほど買って満足そうな表情をしてたとかなんとか。見た目がそっくりの別人じゃないかなそれと思ったけど、その黒狗先輩と同じ学校の奴からの情報だから間違いないんだろう。行動範囲は広くて、狂犬みたいで、甘党。なんだろこの情報。

 

 

「まあ、遭遇することはないだろ「てめぇこっち来い!」……なんだ?」

 

 

 キレ気味、いやあれは完全にキレてるな。そんな声がした方を見ると、遠目からでも解るくらいガラの悪い2人組が誰かを路地裏に連れ込んで行った。うーむ、あれはまずくないか?

 跡を追ってみても、結構奥に行ったのかなかなか見付からない。

 

 

「いっ、ぎゃぁあああぁぁああ!!?」

「……あっちか」

 

 

 叫び声というか悲鳴というかがした方へ足音立てないようにこっそり近付くと、誰かが横を走り抜けていった。ちらっと見えたのは、制服姿に鋭い目付きをした紅色の目。振り返ってももういなくなってたけど、黒狗先輩っぽそうだった。黒狗先輩(仮)が出てきたとこを覗いてみると、満身創痍っぽいガラの悪い2人組が残ってた。ナイフらしきもの見えたし、一応通報しておこう。

 

 

 

 

 

 路地裏から出て通報だけした後はさっさと離れて、街をぶらついた。で、今は、

 

 

「うー……痛い……」

「慣れない靴で遠出するから。たまたま俺がいたから良かったものの」

 

 

 レイちゃんを背負って帰路に着いていた。どうしてこうなったかというと、パソコンショップの前で座り込んでいる、靴擦れで足を痛めたレイちゃんを発見したから。いつも履いてた靴は干してたから仕方なくこの前買った靴で散歩に出た結果がこれらしい。

 

 

「ミヤビンてさ、昔より大きくなったよな」

「何年経ったと思ってんだよ」

「そうだよね。……ボク、この背中好きだなぁ」

 

 

 そう言って密着してくるレイちゃん。かわいいけど、正直恥ずかしい。抱き締めてくるから体の柔らかさとかダイレクトに伝わるし、吐息が首筋に当たるし。やばい、汗かいてきた。れ、レイちゃんはただの友達。ただの友達だから!

 

 

「んぅ……みやびん………」

(しかも寝やがったこいつ……!)

 

 

 寝息がくすぐったい!だが落ち着け、木林雅。ここで取り乱したりすれば周囲からは奇異の目で見られ、クラスメイトに知られればからかわれることは必至。何よりレイちゃんを落として怪我させてしまう。それだけは絶対に避けないと。

 それにしても、寝言で名前呼ばれたけど一体どんな夢見てるんだろ。

 

 

「みやびん……カレーパン買って………きて」

「パシリかよ」

 

 

 別に何かを期待してたとかそんなんじゃないんだけど、それでもパシリはなぁ。

 それから、そんな夢の中でもパシリにしてくる幼馴染の寝息によるくすぐったさを何とか耐えて家に届けることに成功した。

 

 

「ただいまー」

「お帰りなさいお兄ちゃん」

「おう、ただいま」

 

 

 家に帰るとさっきまで料理してたのか、エプロン姿の我が妹英梨(えり)がお出迎え。先日13歳の誕生日を迎えたこいつは俺に狙いをつけて飛び込んでくる。これは昔からのことなのでいつも通り受け止めて、キャッチアンドリリース。もう中学生なんだからいい加減兄離れしてほしい。

 

 

「今日の晩御飯は?」

「お好み焼きだよー」

「……昨日はたこ焼きじゃなかったか?」

 

 

 2日連続で粉物とは。関西出身のお袋のせいか、そこそこの頻度で粉物が出る。嫌いじゃないけど、連続は勘弁、かな。食べるけど。

 

 

「ん?………すんすん。お兄ちゃんから女狐の匂いがする」

「人の匂い嗅ぐな」

 

 

 しかも女狐て。まだレイちゃんに対してそんなこと言ってんのかこいつは。というか、俺が女の子と仲良くしてると機嫌悪くするのは、ちょっとなぁ。兄貴に対してはそうでもないのに、何故俺だけ。

 

 

「ねぇ、なんでなのお兄ちゃん?」

「おぶってたからな、さっきまで。いいからお前はお好み焼き焼いてこい」

「……はーい」

 

 

 不満そうに頬を膨らませてキッチンの方に戻って行く英梨を確認してから、部屋に入ってベッドに寝転ぶ。あー、今日も疲れた。あ、やべ、宿題してない。そのことに気付いた俺はベッドから降りて机に向かう。明日も休みだけど明日は授業の予習とかに時間割きたいし、さっさとやってしまおう。あ、今日の黒狗先輩(仮)のこと、今度委員長に報告しておいた方がいいかな。

 

 

 

 

 なお、この日の20時ごろ宿題を忘れていた勇が写させてくれと頼みに来たけど追い返した。時間考えろってんだ。




 Bonsoir.クロウズです。
 2ヶ月と少し間が空きましたね、もう8月です。クーラーないと死にそうになる軟弱者です。夏なんて滅びればいい。
 恐らく次回、または次々回が中等部編最後になります。多分話数的にはこれが一番少ない形で終りを迎えそうです。更新遅いですが、最後までお付き合いください。




 今日はこの辺で。オンドゥルルラギッタンディスカー!?

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