「・・・さて、ここから屋上までですが、あそこまでの距離に結構な数のお客さんがいますが小室君は先頭に宮本君に井豪君で周囲の確認及び外敵の排除は私が致しましょう。 これでいいですね?」
先程の場所から離れて数ある教室の中に身を潜めながら戒翔はそう告げながら三人を見る。
「黒逸先生の案で大丈夫だと思う。 それに現状を確認する為にも一度安全がある程度取れる場所を確保できる事は賛成だし永の傷も見ないとだしな」
「では決まりですね。 道は私が斬り開きましょう」
「・・・先生、なんか字が違うように聞こえたんですけど」
スッと立ち上がった戒翔に対して麗が引き攣った表情で聞き返す。
「特に間違った事は言ってない筈ですが? わたしには拳の他にもある程度の物は持っていますからね?」
「いやそれはおかしい」
そう告げた戒翔が白衣の裏からどうしたら違和感なく入れておけるのか不思議な・・・むしろ銃刀法に引っ掛かる事請け合いな日本刀を出した所で孝が突っ込みを入れる。
「一応ですがこれは名刀らしいですが銘は知らないんですよね」
「なんで一般人の先生がそんな物を持ってるんですか?」
「小室君、こんな言葉を知っていますか?」
「なんですか?」
「こんな事もあろうかと・・・です。 安心して下さい、刀を持つにしても警察庁の方で許可証を発行されているので持っていても問題ないのですよ?」
戒翔の言葉に一同は唖然として
(一教師がなんでそんな資格を持っているんだろう)
そうツッコみたい心境だったが今の異常事態を把握する方が先決な為に一同はそれを吞み込むのでった。
「では改めて目的地である屋上に向かいましょうか。 井豪君の傷の方も落ち着いたところで治療したいですからね。」
戒翔はそう告げて応急処置で彼の肩に巻かれた包帯を見て先に教室の外に出る。 すると
「アアァアァアアアア」
「早速ですか!」
戒翔の目の前に二体のヤツラが現れる。
「先に進まないといけないのでキミ達の観察は後回しですので邪魔しないでいただきたいですね!」
そう言って戒翔は二体のヤツラを開け放たれていた窓に押し込めて落とす。 その中でも奴らは呻き声を上げながら最後には地面に落ちて汚い染みとなりその醜い呻き声を永遠に止めるのであった。
「さぁ、三人共行きますよ。」
戒翔の行動に呆然としつつも一同は屋上を目指す。
―――――――――――――――――――
「・・・やはりここにも大量にいますね」
辿り着いた屋上の扉を前に戒翔は音を立てずに僅かに開けた扉の隙間から屋上を見る。
「どうするんですか?」
「少し危険ですが、強行突破で行きましょう。道は私が作ります。君達は全力で走りなさい。」
宮本の不安そうな表情に戒翔は腰に差した刀の柄を握りながらそう告げて宮本の顔を見る。
「安心して下さい。君達の事は私が絶対に守って親御さんたちの下に送ってあげますよ。」
「御坂先生」
三人を安心させる様に温和な表情で笑みを見せる。 そして前を向くとそれとは真逆な冷徹な表情をして
「では、行きますよ!」
抜刀するのと同時に駆けだして屋上の展望台の道を塞ぐヤツラを次々に斬り伏せて行く。あるモノは首をあるモノは両断しながら戒翔は駆ける。 その後ろを三人は追随して行く。
「御坂先生・・・ちょっと怖いな。」
「人って見掛けによらないって言うけど」
「二人とも、余計な事を言っていないで走って!」
永と孝の言葉を聞きながら麗はそんな二人を叱責し、先を急かす。 そんな様子を前を走る戒翔は苦笑する。
(まぁ、確かに恐怖を感じる事は不思議ではないが、宮本君の評価は上げないといけませんね。 普通はあの二人と同じ反応をしてもおかしくないですからね)
そうこうしている内に展望台へ上る階段の前まで戒翔達は到着する。
「キミ達は早く上りなさい! ヤツラは私が足止めします。」
「だけど先生は?!」
「キミ達が上り切ったのを確認したら私も上りますので早く!」
「キャッ?!」
戒翔は階段の前で止まり三人が走り抜けるのを待つ。 その時、麗が足を縺れさせてしまう。
「「麗!!!!」」
二人が咄嗟に動く前に戒翔は駆け、麗に群がろうとしていたヤツラを刀と鞘を使って吹き飛ばし
「ちょっと失礼しますよ?」
「きゃっ!?」
戒翔は倒れていた麗を立たせて抱き上げる。その時、麗が驚きと羞恥から声を上げる。
「少し我慢して下さいね?」
「は、はい」
戸惑う麗を余所に戒翔は吹き飛ばしたにも関わらず新たに迫るヤツラを見渡し
「さて、急ぐのでキミ達の相手は今度して差し上げますよ。 宮本君行きますよ?」
「へ?」
麗の答えを聞かずに戒翔は軽く体の重心を落とすのと同時にヤツラの囲いを足の力だけで飛び越える。
「きゃぁぁあぁ?!」
「口を閉じないと舌を噛みますよ?」
驚く麗を軽い口調で窘めながら戒翔は此方を呆けて見ている二人の前に着地をする。
「早く行きますよ?」
「「ハイ」」
永と孝は今の光景にただそうして返事するしかできなかった。
――――――――――――――
「さて、これで漸く一息吐けますね。」
戒翔の目の前には展望台の中にあった机や椅子がうず高く積まれてバリケードとなっていた。当分の間はこれで時間稼ぎが出来る様に男手三人で迅速に作られていた。
「永、大丈夫?」
「なんとかかな。 御坂先生の処置も良かったからそれほど痛みも無いし」
「しかし、これからどうするんだ?」
「取り敢えずはこの学校からの脱出が第一目標ですね。 それにはまず車の鍵を取りに行かないとですけど生憎と職員室に行かなければいけないんですよね。 そうなるとヤツらの中を掻い潜らないといけない訳ですね。」
「ヤツら・・・アレの総称ですか?」
「まぁ、B級映画の様な光景ですがこれは現実であり架空では無いのですから区別の意味も込めて私はそう呼んでいるだけです。」
展望台の手すりから見える範囲にいるヤツらを視界に入れながら戒翔はそう告げる。その時、永に変化が現れる。
「がはっ!」
「「永?!」」
蹲っていた永が突如として口から大量の血を吐いた事に驚いた二人が悲鳴のように永の名を呼ぶ。
「・・・あの時ですか。 脇坂教諭に噛まれた時に感染ですか・・・ますますB級映画の様ですね・・・冗談の様で冗談では無い状況ですね」
「先生、なんとかならないのかよ!?」
「と、言われましても私にも出来ない事と言う物があるのです。 ましてや謎のウィルスに感染している状態で既に死にかけている者に何をしてやれるのか・・・」
「御坂先生・・・頼みがあります。」
孝の言葉に戒翔が困り顔でいると血を吐いて息も絶え絶えの永が戒翔に声を掛ける。
「・・・なんですか井豪君?」
「こんな事は頼む事自体可笑しいんですけど・・・俺を殺してください」
「永!」
「何を言ってるんだ! まだ何かあるはずだお前が死ななくてもいい方法が!」
「分かるんだよ。 自分の体の事なんだから」
麗と孝の言葉に永は苦しい中でそう答えると再び戒翔の方へ顔を向ける。
「お願いです。 ヤツらの仲間になる前に人のままで死にたいんです。」
「・・・良いでしょう。 これは大人のする事ですからね」
「駄目だ! 永は殺させないぞ!」
「小室君・・・友人を大切にするのは良いですが時にはそれが残酷な結末に繋がると思いなさい。」
「な」
永に近づこうとした所で孝が戒翔の目の前を遮るように立塞がるが、戒翔は孝の首に手刀を落として意識を刈り取るとその体を受け止めるとそれを宮本に預ける。
「・・・宮本君は何も言わないのですね。」
「ここで恨み言を言っても永が助かる訳でもない・・・だけど、永が望んだ事を・・・お願いします。」
「分かりました。」
孝を受取った麗は戒翔の疑問に目を真っ直ぐ見て応える。 その言葉に込められた様々な想いを戒翔は汲み取る。
「・・・井豪君お待たせしましたね」
「御坂先生・・・最後にお願いがあります。」
「そうですね・・・私が殺すのですから一つと言わずに幾つでも構いませんよ?」
「それは欲張り過ぎですよ。 ただ一つ孝と麗の事をお願いします。」
「分かりました。 私の出来る全力で彼等を護りましょう。」
「ありがとうございます。」
「井豪君、キミは尊敬に値するよ。 死ぬ間際まで親友たちの心配をして自身が死ぬ事を受け入れる・・・それは常人には出来ない。 死に際になれば大抵の人間は生に醜くしがみ付くそれに比べてキミは些か潔すぎる。」
「買い被りですよ。 こんな状況じゃ無ければ俺だって泣き叫んでいるでしょうから」
「真に極限状態にあるモノ特有の者ですか。 井豪永君、君の名前は私は生涯忘れないでしょう。」
「はは、ありがとうございます。」
「私はキミを殺すのですからお礼を言うのは違いますよ普通は恨み言を言っても良いのですからね。」
「ですけど、人のままで逝かせてくれるのですから」
「そうですか・・・では来世には祝福がありますように」
戒翔はそう告げるのと同時に永の心臓を刀で突き刺すのであった。