あと、銃の名前はよく出てきますが機能等の知識はあやふやなのでご了承ください。
Chapter0-0「序曲」
コルトパイソン、4インチモデル。
1955年に、アメリカの銃器メーカーコルト社が開発した回転式拳銃。
リボルバーのロールスロイスと謳われるほど高い人気を誇るこの銃が、今私の手元にある。
これのモデルガンを、中学2年生の時に当時は元気だった祖母から貰ったお年玉で購入した事がある。モデルガンショップに女の子が1人で入るのにはそれほど抵抗はなかったし、とりあえずこのプラスチックの塊が欲しくてしかたなかったので特に周りの視線なども気にしていなかった。ただ、何回かの来店の時にその店の常連らしい脂肪たっぷりのおっさんに話しかけられて以降は行ってない。脳が警報を響かせていた。日本が銃社会じゃない事を本当に嬉しく思う。多分眉間をぶち抜いていた。
さて、そんな物騒な物の『本物』を日本人兼華のJKである私が手に持っている理由を説明すると、少しだけ難しい話になる。私自身、現在の状況をよく理解していなかったりするのも原因なのだが。
放課後にいつも通り帰路を歩いていると、なんと中学生時代に私に声をかけたあのおっさんが歩いていたのだ。偶然か運命か、何にせよ自分から思い出そうとは思わない程度には良い思い出ではなかったのでその光景を脳からデリートしてとっとと家に帰りたかったわけだが、ジャケットに隠れたM92Fの『本物』を見てしまえば、そう簡単にデリートするわけにはいかなかった。
偽物と本物の区別がいつの間にかつけれるようになっていた私は回れ右をして、おっさんの後をこっそりつけた。いや、本当は危ないんだが。
どうにもスパイ映画等を見て育ってしまった私は、そんな危険で未知の体験に感情が昂ぶるあまり、大人にその事を伝えるという行動ができなかった。
が、もちろん映画のように見つからないように追いかけれるわけがなく。廃ビルに入るおっさんを何も考えず追いかければ、その仲間らしき男に入り口でホールドアップされたのち、薬でも使って眠らされ、月の光がわずかに当たる狭い汚い臭い三拍子揃ったところにぶち込まれた。
もちろん携帯も鞄も取り上げられていたし、役に立ちそうなものも持ち合わせていない。おまけに両の手は手錠で固定されていた。マニアかと一瞬思ったが多分違う。
そこで、再びいつか映画で見た1シーンを思い出す。手錠をはめられた主人公が親指の関節を外して手錠の呪縛から解放されるシーン。今が実践の時ではないか。
まずは親指の関節をーー
「いったあぁぁぁぁぁ!?無理!無理だって!!外す前に痛さで死んじゃうって!?こんな事するとかあいつらバカじゃないの!?」
「うっせえぞアマ!」
「いや痛いんだって!試しにおじさんもやってみなって!!絶対同じリアクションだから!!」
「つか目の前で手錠外そうとしてんじゃねえよ!?緊張感あんのお前!?」
見張りのお兄さんに怒られた私は痛む親指を抑えながらその後の事を考えていた。
何にしろ、私がいなくなった事を知った家族が警察に連絡するに違いない。いやしてくれないと困る。……してくれてるかなぁ。
だが助けが来る前に、私が口封じで殺される可能性だってある。それは嫌だ。
その後は死んだ後の事とか食べておきたかった物の事とか逆に生きて出た後に一番最初に食べたいものの事を考えているうちに眠りについていた。食べ物の事ばかり考えているあたり、意外と緊張してないのかもしれない。
次に眼が覚めると、扉が破壊されていた。急展開すぎる。
しかしなんだっていい、脱出できるチャンスだ。なんて誰に聞かせるわけでもなく言いながら1日住まわせてもらった部屋に特に礼も言わず後にするとどうやら戦闘があったらしく、辺りはあちこち壊れたり壊れてなかったりしていた。
とりあえず走る事何秒か。私はようやくここがどこなのかわからないという事に気づき、とりあえず北へ向かって走ろうという事にしたものの、同じような景色ばかりだった。完全に道に迷っている。
だがそんな私にチャンスが到来した。模様が少し違う扉があったのだ。
自動ドアらしきそこに近づくと扉は勝手に開けゴマを行い、私は遠慮なくその中に入る。
そこにあったのは、無数の銃器。私はようやく、緊張感を持つ事ができた。
山のようにある武器を見て、私は相当ヤバい奴らに捕まってしまったらしいことを実感した。
と、そんな事を考えた直後。廊下が騒がしくなり、奴が逃げただの逃げなかっただの聞こえてきたため、慌てて物陰に隠れた場所に冒頭の通り、コルトパイソンがあった、というわけである。
「……欲しい」
『いやダメだって』
だよね、良くないよね。
『まあ、管理局の地上部隊が到着したらしいし、もう少しここで隠れるしかないね』
「そっか、管理局の地上部隊が。なら安心だね」
さて。
「どっから声が聴こえるんだろう」
『首〜。あなたの首〜』
「いやあげないよ」
『欲しくないし。っていうかそうじゃなくて、首元を見てごらん』
声に導かれるまま、首元を見てみる。というか、触ってみる。あ、なんかある。チョーカーというものだろうか。
まさかチョーカーが喋っているなどというファンタジーな展開じゃないだろうか。
『ファンタジーな割に、今風なデザインだよね。わたしはあなたのデバイス。よろしくね』
「あ、どうも。桜城絢乃っす」
『ご丁寧に。えっと、今の状況は多分あんまり理解できてないよね?』
「うん。というか、私喋るチョーカーなんか付けた覚えない」
『そこは私もわからないなー。スタートプログラムと思考プログラムが起動したのはついさっきだし』
うーん。まあ、そこはまた今度考えようかね。
「んで、今どういう状況?」
『マスターを誘拐したのは、とある違法魔術師集団。マスターの世界の武器を改造して別世界で売りさばく闇商人たちさ』
「あらら、そりゃ良くない」
ところで今さらっと魔術師だとか別世界だとか聞こえたが気のせいだろうか。
あれ、やっぱりこれファンタジーなの。
『マスター、フィクションじゃなくてこれは現実(ノンフィクション)。痛みもあるし感情もある』
「まあ、そこはおいおい聞かせてもらうとして。ここからの脱出方法を聞かせてもらえない?早く逃げたくてウズウズしてるんだよね」
『うーん……じゃあ、付近にいる管理局員に保護してもらおう。ただ、一緒に奴らもいるけどね』
それはよくない。その管理局員さんとやらにさっさと保護してもらおう。
『マスター、ここからは真面目な話だ』
「え、今までのは不真面目な話だったの」
『あなたはこれから、管理局員の所に行くまで命を賭けた戦いをしなきゃいけない。もちろんここに隠れる事も案の一つだけど、正直奴らに発見される可能性の方が高い。
私は出来る限りのサポートはするけど、実際に走るのは、マスター、貴女なの』
ーーだから、死ぬ覚悟は、ありますか?
シリアスモードになったデバイスさんは、機械的に、でも優しく、そして辛そうにそれを語る。
私の答えは、一つしかなかった。
手に持ったパイソンのグリップを握り、首元の『相棒』に触れる。
「ねえ、この銃さ、改造してるって言ってたけど、どういう改造してるの?」
『実弾から魔力弾に変えてあるね。扱いとしてはアームドデバイスになるから、認証すれば一応詳細な情報も閲覧できるけど』
「じゃあ、当たっても気絶する程度に痛いだけとかにできない?」
『非殺傷設定だね。ちょっと待ってて』
デバイスさんにしばらく沈黙が走る。
『OK、非殺傷設定に変更。デバイス認証も済んだ』
「優秀な事で」
『覚悟、決めたんだね』
まあ、死にたくないし。
両手でグリップを握りしめ、静かに立ち上がりドアの前まで歩く。
正直な話、銃は好きだけど本物はもちろん、エアガンも撃ったことなんてなかった。精々シューティングゲームでぐらい。
だけど、撃ち方なんて何千回と見た。それが正しいかどうかなんてわからないけど。
『大丈夫です。弾道補正などはこちらでカバーします』
だから、走ってください。ランナー。
「……了解!」
勢いよく、扉を開けた。
その先に待つ世界がどんなものなのか、私にはわからない。
だけどきっと、私にとって決して忘れることはできない。
そんな景色なのは、想像に容易かった。
桜城絢乃の、魔法の世界での戦いはこうして幕を開けた。