かの天才、篠ノ之束がこの世に産み落としたISは、技術的な光明と女尊男卑をもたらした。それは、彼女が望んだものであったと、なかったと、誰が想像したであろう。
かの世界最強、織斑千冬の弟:織斑一夏がこの世にもたらしたのは、世界をひっくり返す驚愕の事実。女性でなければ動かせない筈のISを、男でありながら動かした。
世界は動く。この世でISを動かせる男性が、まだいるやもしれない。全ての男性を対象に、IS起動試験が行われた。それは女尊男卑が崩れることを恐れた者達の焦りか、虐げられた者のすがるような希望か。
そして、第二の男が現れた。
男の名は
しかし、彼には重大な問題があった。それは─────
◇
織斑一夏はそわそわしていた。
初め、IS学園に入学する頃には、全校生徒女性しかいない中に放り込まれるのかと思い、酷く憂鬱だった。しかも、学園を出るには相応の手続きが必要で、外出して友人に会いに行くのも一苦労。不安に駆られていた。
しかし、天は彼に救いの手を差しのべた。ISを動かせる男性は、自分一人では無かったのだ。その名を浦路雪次。黒縁のメガネの似合う、まさに文系という見た目の同い年の少年。彼もIS学園に入学することが決まっていた。
そして彼は、自分と同じ一組。席は隣。これはもう、友人になるしかない。前向きポジティブなエネルギーの塊である一夏はそう考えていた。
────しかし。
「おかしいな………来ないぞ?」
そう。入学式が終わり、続々と生徒が教室に集まる中。件の少年が現れないのだ。担任と思われる童顔の女性教師も現れ、今にもホームルームが始まらんとしているのに、だ。
「はぁい、皆さん!ホームルームを始めますよーー!」
「………先生、浦路君が来てません」
「あれ?どうしてでしょう、入学式にはちゃんといましたよ?誰か見てませんか?」
教師が生徒たちに尋ねるが、誰も見ていないと言う。一旦廊下に出て見回すが、いなかったのかすぐに戻ってくる。
「おかしいですね………でも、間違えて他の教室に入ってしまったのかもしれませんし、皆で自己紹介しながら待ってましょう!はい!」
私は副担任の山田真耶です、と教師が名乗ってから、順々にクラスメイトが自己紹介を進めていく。それを一夏は上の空で聞いていた。
ひょっとして、雪次はIS学園に入学するのが嫌だったのだろうか。既にファーストネームで呼ぼうと勝手に決めていた一夏は、そう考える。雪次は、授業をボイコットしているのかと。
「織斑くん、織斑一夏くん!!」
「うわあっ!?」
頬杖を突いてぼうっとしていた一夏の眼前に、真耶の不安そうな顔が急接近する。驚いて顔を引いた一夏に、真耶まで慌て出した。
「あの、今『あ』から来て『お』だから、織斑くんの自己紹介の番なんだけど、あの、やりたくなかったら別に────」
「あ、すいません!そういう訳じゃなくて!!やります、すぐやります!」
ガタンと音を立てて席を立つ。クラスの好奇の視線が一点に集まる中、一夏は叫ぶ。
「織斑一夏です!!─────以上です!!」
「ろくに挨拶も出来んのか、馬鹿者!!」
脳天に響く強打の衝撃。振り返れば、そこには姉:織斑千冬の姿。
「いってーー………何すんだよ千冬ね────」
そこまで言ってから、気付いた。千冬の背後に、台車があることを。
そして、その上に乗っている、IS学園の制服に身を包んだ少年の姿に。
「山田先生、一人でホームルームを任せて済まなかった。まさか保健室前で倒れている生徒がいるとは思わなくてな」
「うう、先生………ありがとうございます………やっと落ち着いてきました」
「身体は鍛えておけ。そら、お前の席はあの空いている奴だ。さっさと座ってお前も自己紹介しろ」
「りょ、了解です」
台車からヨロヨロと立ち上がり、見てて危なっかしい足取りで席に辿り着くと、クラスメイトを一望して声を発した。
「浦路雪次です。いつかISに乗れたらとは思っていましたが、本当に乗れるなんて光栄です。僕の夢は、ISに乗って外宇宙に出ることです!」
夢を語る雪次の表情は、とてもやる気に満ちていた。一夏は認識を改め、共にやっていけそうな奴だと考えた。
「あと、僕のことは、花粉症・偏頭痛・喘息の三重苦野郎と覚えておいて下さい」
─────訂正。一転して不安になった。
意欲はいい。しかし、問題が大きすぎる。
その男、貧弱につき。
そもそも、卒業出来るのか?
入学早々、クラスの総意が一致した。