その男、貧弱につき。   作:ジョン・ドウズ

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4th.クラス代表決定戦(前編)

  授業も終わり、ようやく解放された一夏・雪次の両名。教科書やノートを鞄に詰め込むと、下校すべく教室を出る。台車を押す雪次の歩調に合わせ、一夏もゆっくりと歩いている。

 

「明日からこれが毎日続くのか………?」

 

「それより、クラス代表決定戦をどうすれば………」

 

「織斑、浦路。こちらへ来い。話がある」

 

  愚痴を互いに垂れ流しつつ歩いていると、唐突に千冬に呼び止められる。

 

「お前達は自宅から通うという話になっていたがな………事情が事情だ、それは危険だという話になってな。事後報告になってしまうが、寮生活をしてもらうことが決まった」

 

  手渡された鍵には、同じナンバーが刻まれていた。同室、ということらしい。

 

「ホントにいきなりだな。千冬姉、着替えとかはどうすんだ?」

 

「織斑先生だ」

 

「いってぇ!?」

 

  つい自宅での呼び方をしてしまった一夏が出席簿で殴られ、痛む頭頂を押さえる。苦笑する雪次に、他人事だと思って、とぼやく一夏の恨めしげな視線が向けられる。

 

「着替えと携帯の充電器、他必要最低限のものは持ってきてやったぞ。雪次、お前も親御さんが朝一で同様の荷物を送ってくれてある。当面はそれで過ごせ」

 

「分かりました」

 

 それだけ伝えると、用は済んだとばかりに千冬は立ち去る。男二人の部屋だ。女子と相部屋になる訳でもなし、間違いは起こらないと考えているのだろう。

 

  最も、災難は部屋の外からやって来るのであろうが。

 

「雪次、改めてよろしく」

 

「うん。確認だけど織斑、男のケツに興味は」

 

「ねぇよ」

 

「良かった。僕もだ」

 

 

 

 

 

 

  クラス代表決定戦が決まってから二日。

 

  おお織斑よ、ISに乗らないとは情けない。

 

  というか、クラス代表決定戦に向けて何で剣道の練習してんの?負ける気なのか?篠ノ之さんはオルコットさんに塩でも送ってるのか?

 

  体力的にも付き合ってられないので、僕は放課後は織斑と別れて、アリーナでラファールを借りて飛行練習だ。歩くことにはすぐに慣れたが、飛行することに関しては全然ダメだ。喘息もあるので15分毎に休憩を挟みつつ、とにかく練習あるのみだ。

 

  織斑には専用機が来るらしいが、僕には無いから練習機を使うしかない。そらそうよ。こんなひ弱な奴にまるで期待してないのは良く分かる。羨ましい。羨ましいぞ織斑!!技量はともかく機体はオルコットさんと張り合えるんだからな!!

 

  ─────と、雑念にまみれていた所、制御をミスってアリーナの壁に激突した。痛い。主に心が。痛い。それと視線が。

 

  それもその筈。急に咳き込んだりくしゃみしたりで、この一時間だけで10回は壁や床に衝突している。穴があったら入りたい。一回床に穴開けたけど。

 

「ユッキー、大丈夫ー?」

 

「主に心が満身創痍」

 

「初心者だからねー、しかたないよー」

 

  ゆったりと歩み寄ってきたのは、のほはん布仏さん。何故か練習初日から僕の飛行練習をずっと見ている。何が面白いんだろうか。

 

「ねえユッキー。飛ぶだけでいいのー?武器はー?」

 

「それこそ初心者だからさ、剣道経験者の織斑みたく刀は振れないし、オルコットさんのような射撃も出来ない。だから、そこは諦めてる」

 

「えー、諦めちゃうのー?勝てないよー?」

 

「そもそもクラス代表になりたくないんだけど………。けど、勝たないつもりじゃないんだ」

 

  少なくとも、当日の戦法は既に決まっている。そのために、今は少しでもラファールを動かせるようになりたい。

 

「何か策があるんだねー。教えて教えてー」

 

「まあいいけど、内緒だよ?」

 

「約束するよー。むふー、口は固いよー」

 

  布仏さんに作戦を伝えようとした時、ラファールがアラームを鳴らした。どうやら貸出時間が終わったらしい。次の人に交代しなくては。

 

「ごめん、布仏さん。今ラファールを返してくるから、後でいい?」

 

「待ってるよー」

 

  余った袖に隠れて見えない手に見送られ、僕は格納庫に入り、ラファールを降りる。膝を曲げて降りないと次の人が乗るのに大変、というのは初日に怒られたからよく覚えている。

 

  それにしても喉が渇いた。アリーナの外にある自動販売機でポカリを買いたい。そんなことを思いながら更衣室に入り、ISスーツを脱ぐ。風呂上がりに見た織斑の身体と違って、実に貧相な身体をしている我が身である。くそう。

 

  着替えを済ませて外に出ると、布仏さんが待ち構えていた。そして、

 

「ユッキー、お疲れさまー。あげるー」

 

「うわウゴッ!?」

 

「ユッキーーーーっ!?」

 

  緩やかな動きで、ペットボトルを両手持ちしてアンダースローで放り投げてきた。避けられずに顔面で受け止める羽目に。500MLの重量が地味に痛い。床に落ちたボトルが鈍い音を上げた。あっ、メガネ飛んだ。よく見えない。

 

「ご、ごめんね!当てるつもりじゃなかったんだよー!」

 

  珍しく少し慌てている布仏さん。眼鏡が無くて顔がぼやけて見える。痛かったけど、悪気は無いと見た。

 

「いいよいいよ、それよかメガネ知らない?」

 

「あったよー、はい!」

 

  手渡されたメガネをかけ直し、投げ寄越されたボトルを拾う。黒いドリンク………ドクターペッパーって………。炭酸じゃないか。何で投げたし。

 

「ありがとう布仏さん。でもこれ、開けても大丈夫かなぁ」

 

「あっ、………うー、ごめんね?」

 

  申し訳なさそうにする布仏さんの前で、おっかなびっくり蓋を開ける。────良かった、そんな吹き出さないや。待たせても悪いので、ぐいと一気に飲み干す。身体は細いけど、食は細くないのだ。空になったボトルのキャップを閉め直し、ゴミ箱に投げ込む。

 

「お待たせ布仏さん」

 

「ユッキー………凄いねぇー」

 

  飲み終わってみれば、布仏さんに驚かれていた。それもその筈。僕は後ろにあるペットボトル用のゴミ箱に、見ないでボトルを投げ入れたからだ。

 

  僕は運動はからっきしダメだが、物を投げることにだけは自信がある。それはそれはしょうもない理由で得意なのだが。

 

  あ。

 

「………布仏さん、ありがとう」

 

「どーしたのー、急にー?」

 

  こくり、と小首を傾げる姿が可愛らしい。彼女には本当に感謝しなければならない。

 

「武器、決まった」

 

  作戦に、修正を加えることを決めた。

 

 

 

 

 

 

  クラス代表決定戦。遂に迎えた当日である。

 

  おお織斑よ、ISに乗らないとは情けない(二回目)。この一週間、本当に剣道しかやってなかったらしい。もうバカかと。篠ノ之さんとイチャコラしよって。別に悔しくないし。僕だって布仏さんがずっと見てたし。ぼっちじゃねーし。

 

  で、やって参りました第3アリーナ。何度も僕が練習した場所である。今日はある意味晴れ舞台なのだが、見慣れた場所なのでそれほど緊張しなかった。

 

「織斑、専用機来てるんでしょ!?見せてよ!!倉持の第三世代!!倉持の第三世代とか胸が熱い!!苦しい!!ゲホッ、ゴホッ」

 

「試合前から死にそうだぞ雪次ィイイイイィィィッ!?」

 

  僕の血が騒いでるのも原因かもしれなかったが。

 

「倉持、倉持、倉持ィイイイイィィィッ!!第三世代ISゥゥウッ!!」

 

「いや、それがまだ搬入が終わってないんだよ。だから雪次の試合が先で、その間に準備済ませるんだってよ」

 

「うっそぉ!?僕を生殺しにするつもりか!?気になって仕方無いんだけど!?」

 

「目の前の試合に集中しろよ」

 

  無理です(断言)。悔しい、見たい………試合後に見るしかないか、チエッ。エア石ころを蹴っていじけていると、織斑先生が近付いてきた。

 

「浦路、準備しろ。完了次第、アリーナに出て待て。試合開始の合図が出たら、まあ足掻いてこい」

 

「了解です」

 

  勝てとは言われなかった。察した。山田先生は………あっちで搬入の指示出してる。

 

「雪次、勝ってこいよ」

 

「無茶言わないでよ。代表候補生に勝てる筈ないってば。────まあ、行ってくるよ!!」

 

「ああ!!」

 

  ラファールに乗り込む。訓練を共にした、IS学園が所有するラファール・リヴァイヴの三番機。お前を何回壁に当てたか、この一週間で忘れちゃったよ。最後の方は、回数が減ったけどさ。

 

「頼むよ、ラファール」

 

  ()()は答えない。けれど応えてくれる。ハイパーセンサーが起動し、エンジンに火が入る。初めから持たせてある実体剣を振りながら、軽く身体を慣らすようにアリーナに歩いて入ると、オルコットさんが空中に制止して待ち構えていた。

 

「よく逃げずに来ましたわね。その覚悟に免じて、今からでもハンデを差し上げても、よくってよ?」

 

  不敵に笑うその姿。纏う『ブルー・ティアーズ』。かつて夢見た舞台が、今、目の前にある。

 

「一度練習風景を見かけましたが、アリーナの壁に当たるようではまだ未熟………手加減して差し上げないと、まともに戦えないでしょう?」

 

「ありがとうございます。でも、いいんです。あなたはこの病弱にとって憧れの一人─────寧ろ、世界を体感したい!!」

 

「結構。ならば望み通り────完膚なきまでに叩き落として差し上げますわ!!」

 

  響くブザー。ラファールのウィンドウに『GO(行け)』の二文字が浮かび上がる。直後に耳をつんざくアラート。既にロックオンされている!!

 

「踊りなさい!!わたくしと『ブルー・ティアーズ』が奏でる円舞曲(ワルツ)で!!」

 

  〈スターライトmark.Ⅲ〉。精密射撃に優れたライフルだ。それにオルコットさんの技量が合わされば、僕など動かぬ的も同然。

 

  ならば、動かない。

 

  敢えて直撃を受ける。

 

「なっ!?」

 

  驚いたオルコットさんだが、引き金は躊躇わない。ラファールのシールドエネルギーが削れる。しかし、代わりに準備は完了した。

 

「オルコットさん」

 

  拡張領域(パススロット)から呼び出された武装が、機体背部に出現する。それは────

 

「今、そこに行きます」

 

  左右一対の、追加スラスターだ。

 

「それは、〈キャノンボール・ファスト〉のっ!?」

 

  そう。分かりやすいだろう。僕の作戦は『とにかく突っ込んで斬る』、の一言で片付く。

 

  ただし、()()()だ。常に最大出力で行く。そのために、ISのレース………〈キャノンボール・ファスト〉仕様にラファールを調整したんだ。第三世代機にも追い付ける。いや、相手が通常の調整なのだ、こちらに分がある。元々喘息持ちだ。試合中は休めない以上、速攻勝負をかけるしかない。自ずと装備選択は絞られた。

 

  更に、僕は暴挙に出る。

 

「シールド、パージ」

 

  ラファールが持つシールドを、外した。徹底したゲインウェイト。防御するより、突っ込めばいい。

 

  スラスターが火を吹く。頭から突っ込むように、オルコットさんに向けて最速最短で一直線に飛翔する。

 

  しかし。

 

「そんなもの!!ご自分で無様を晒しなさい!!」

 

  避けられた。いや、避けられない筈がない。幾ら速くても、飛行ルートが分かれば怖くはない。オルコットさんならば容易いこと。

 

  そして、迫る壁。通常機でも壁に当たっていたのに、徹底して速くした今のラファールを、僕が制御出来る筈がない。

 

  ならば。

 

  ()()()()()()()()()()()()()()

 

「〈グレイプニル〉ッ!!」

 

  武装をコール。右手に現れる籠手状の装備。そこから黒い鏃状のものを取り出し、遥か後方に投げる。

 

  直後、ラファールが急旋回する。

 

「なっ!?」

 

  壁に当たって動けなくなった所に集中砲火を浴びせようと、BTを展開していたオルコットさんが驚く。

 

  〈グレイプニル〉。神話でフェンリルを縛ったという紐の名を冠するこの武器は、先端にアンカーの付いた、手投げワイヤーだ。投げると同時に、アンカーに付いたスラスターで加速、目標に打ち込まれる。

 

  それを、アリーナの壁に投擲。ワイヤーに引っ張られることで、ラファールの動きを無理矢理変えた。

 

  投げる。僕の唯一得意とすること。布仏さんのお陰で思い付いた。これにより、僕の作戦に現実味が増した。

 

  侮ってくれてありがとうございます、オルコットさん。

 

  お陰で、一撃叩き込める!!

 

「くっ!?」

 

  眼前に迫るオルコットさん。僕は実体剣を強く握り締め─────

 

  振らない。振り被らない。

 

  織斑のように剣は振れない。ならば、剣で打ち合うのは馬鹿だ。

 

  剣を固く握り締め、相手の意表を突いて全速力で突っ込み、撫で斬る。この方が、遥かに成果を出せる。

 

「やっちゃえー!ユッキー!」

 

「浦路くん!!」

 

「雪次ッ!!」

 

  皆の声が、聞こえた気がした。いや、自惚れかも知れないし、ラファールが聞き取ってくれたのかも知れない。

 

  でも、どちらでも構わない。関係無い。

 

「──────!!」

 

  剣を握る手に、衝撃が走る。確かな手応え。

 

  アリーナのスクリーン。『ブルー・ティアーズ』のシールドエネルギー表示が、減少した。

 

  クラス代表決定戦、第一試合。

 

  僕の試合は────それなりに盛り上がりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  余談だけど。

 

「ねぇユッキー、どうやって投げる練習したのー?」

 

「ああ………花粉症の時にゴミ袋を忘れてもいいように、鼻かんだティッシュを、いつ如何なる状況からでもゴミ箱に入れられるように練習したんだ。教室の一番奥から入り口側までの対角線の距離だとしても入れられるよ」

 

「謎の努力だねぇー」

 

  これが僕の投擲技術の理由だったりする。

 

 

 

 

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