その男、貧弱につき。   作:ジョン・ドウズ

5 / 7
5th.クラス代表決定戦(後編)

  オルコットさんに、一発かました。

 

  やった。

 

「やった?………やった!!やったんだ!!オルコットさん、見てくれました!?」

 

「あら!?わたくし対戦相手ですわよね!?間違ってないですわよね!?」

 

  いかん、はしゃぎ過ぎておかしくなってら。落ち着け落ち着け。よく考えてみろ、ありゃ大したダメージじゃない。アリーナのスクリーンを見れば一目瞭然。機体性能差もあるけど、こっちのシールドエネルギー残量は87%なのに対して、オルコットさんの方は93%なのだ。所詮は撫で斬り、へっぴり腰の素振りよりマシな程度。うへぇ、明らか不利だよ。さっきは観客席の空気が一瞬盛り上がったけど、皆現実見て苦い顔してるよ。思い知ったか織斑、代表候補生の壁は高く険しいぞ!!

 

  あのさぁ、まず勝てないから!!勝てる訳ないから!!奇襲に成功してこのしょっぺぇ雀の涙だよ!!素人で勝てたら代表候補生なんて要らないよ!!

 

「油断………不覚を取りましたわ!!中々の策士ですわね!!」

 

「いやもうネタ切れっす」

 

「早ッ!?」

 

  そう。僕の手札は既にほぼフルオープンなのだ。しかもそれで決定打にならず。でも他に浮かばないんでやるしかない。得意の投擲で何とかしろって?ハハッ、手投げアンカーの威力なんて無いようなもんだし。あと残ってる武器も予備の実体剣だけだし。

 

  まあ、負け戦なのは分かってる。行くしかない。ラファール、悪いけど僕に付き合ってくれ。後はオルコットさんの奏でるワルツに付いていけずに、足こんがらがって転げるだけだ。

 

「では、バカの一つ覚えの披露と行こうか!!」

 

  スラスターを改めて吹かし、オルコットさんに突撃する。当然のように避けられる。なのでワイヤーを投げて向きを変え、再突撃。回避。再突撃。回避。再突撃。回避。再突撃。回避。再突撃───────

 

  やっべーー、当たらねー。何か目が回ってきたぞ。どんだけアリーナをぐるぐる回ればいいんだ僕。

 

「ふふっ、まるで闘牛ですわね」

 

  しかも、オルコットさん全く撃たない。BTを自分の周囲に浮かせたまま、突っ込んでくる僕を右へ左へひらりひらり。ダンスの舞踏(ステップ)もかくやという優雅さである。うへー、ジリ貧ーー。あ、ヤバいくしゃみ出そう。

 

「では、遊んで差し上げますわ」

 

「へっ?」

 

  と思っていた所で突如動き出したオルコットさん。僕が投げたワイヤーをライフルで狙撃したのだ。破壊にこそ至らなかったけれど、弾き飛ばされて壁には刺さらず。

 

  これは、まずい。

 

「止まれねぇえええええええっ!?」

 

  轟音と共にアリーナの壁に直行コース。減速、減速しないと!!スラスターを逆向きにして────あっ、

 

「っくしゅん!!」

 

  悪あがき終了。最悪のタイミングでのくしゃみにより、自爆しました。もうエライみっともなく壁に突き刺さる。名付けるなら横スケキヨ。頭から突っ込んだために、絶対防御が発動してゴリゴリ削れるシールドエネルギー。うへー、今ので20%減ったー。

 

「手加減は、必要ないのでしたかしら?」

 

  ここぞとばかりにBTとライフルの集中放火が降り注ぎ、動けない僕のラファールを蹂躙する。広がる壁面の穴。結果的に壁からは出れたが、一連のダメージは痛い。床に落下した時の衝撃で損傷が70%を超えた。

 

  やはり明らか駄目だ。流石に馬鹿の一つ覚えではダメか。何か────よし。

 

  改めて突撃。これで何度目の突撃か分からない。しかしそれでも初志貫徹。やってやるしかない。先の衝突で少し出力が落ちたスラスターの全力で飛び立つ。

 

「懲りませんのね。失望しましたわ」

 

「それは────まだ早い!!」

 

  ひたすらに同じことを続ける僕に、オルコットさんの冷たい眼差しが向けられる。だが今回は違う。持っていた実体剣を、オルコットさん目掛けて思いっきり投げた。

 

「なっ!!」 

 

「そして喰らえっ!!〈シュタール〉ッ!!」

 

  避けられるのは明白。しかし今のは捨て石だ。予備の剣〈シュタール〉を呼び出し、すれ違う直前に、得物を投げて空いた手に握らせる。名前呼ばないと呼び出せないのが痛いが、前と同じく不意打ちの奇襲。これなら、どうだっ!!当てたと僕は確信する。

 

「甘いっ!!」

 

  しかし、そう現実は優しくない。経験してきた数が違う。覚悟が違う。確かに不意は突いた。しかし、オルコットさんは()()()()()()()()受け流してみせたのだ。

 

「嘘だろ………ガッ!?」

 

  放心した僕は、オルコットさんが何をするでもなく、ただ注意力散漫故に壁に激突する。シールドエネルギー残量は………6%、か。もう、後がない。いや、最初からか。なら、まだ動けることを喜ぶべきか………。

 

「ゲホッ!!ゴホッ、────くそっ」

 

  粉塵を吸って、噎せる。咳が止まらない。どうやら本当に限界が近いらしい。ISによる体調管理のキャパシティを超えて喘息の症状が出てきた。そんなに戦ったのか。試合開始から、何分経った?え、2分!?嘘だろラファール!?

 

  相棒(ラファール)は答えない。だが、応える。ウィンドウが開く。試合時間、2分28秒。たった、2分だ。

 

  ダメだ。分かってたけど勝てない。これが世界か。

 

  打ちひしがれる僕の前に、オルコットさんが近付いてきた。その距離、2m。BTで僕を囲みながらも、ライフルは下げている。

 

「ギブアップ、されます?」

 

  オルコットさんの言葉が、魅力的に聞こえる。まだ終わりたくない─────けど、それは小さなプライドでしかない。もう、心は折れている。

 

「今日までの一週間、どれくらいISに乗られましたの?良くて10時間ではなくて?わたくしは、入学までの時点で250時間は乗っておりますのよ。無謀もいいところ、ですわよ」

 

  その通り。僕は9時間しか乗ってない。なるべくしてなった敗けだ。一杯食わしただけいいじゃないか。そうだろう?

 

「あなたは良くやりましたわ。正直、無傷で勝つつもりでしたのに。先程もひやりとしました。ですが───もう、身体を労るべきですわ」

 

  確かに。もう咳がひどい。それに、既に身体には無理を言わせている。普段の練習以上の速度を出し続け、更にワイヤーでの軌道変更で振られている。ラファールを降りたら、筋肉痛が酷いだろうなぁ。

 

「わたくし含め、誰も無様などとは申しませんわ。ですから、もう─────」

 

「黙れェェエエエエッ!!!!」

 

  突然の乱入。織斑の声が、アリーナに響く。観客席から身を乗り出して、織斑が叫んでいた。

 

「雪次!!黙ってんのかよ!!そいつにいいように言われて悔しくねぇのかよ!?好き勝手ベラベラ言われて、何にも言い返さねぇのかよ!?」

 

「あわわ、織斑君!試合中なので抑えて下さい!!」

 

  山田先生が織斑を止めようとアワアワしているが、まるで聞く耳持たずだ。織斑は、僕を見据えて動かない。

 

「いいのかよ!?お前、この一週間毎日頑張ってたじゃないか!!何のためにやってのかまでは知らねぇけどよ!!諦めちまったら、一週間頑張ってたお前自身を否定しちまうんだぞ!?いいのかよ!!俺は嫌だぞ!!」

 

  ─────。

 

  僕の中で何かが切れた。

 

「うるさいなぁ!!何だよ織斑!!お前こそこの一週間、ISも乗らずに剣道だけやってて何急に言い出すんだ!!勝ちたいならちゃんとやれよ!!いいよな、お前は専用機があってさ!!僕には無いんだぞ!?」

 

「機体なんか関係ねぇよ!!肝心なのは心の持ちようだろうが!!」

 

「知るかよ!!最強の姉貴に幼馴染み、イケメンで筋肉質で人生薔薇色ですか!?イージーライフが羨ましいよこの野郎!!」

 

「関係無いだろうが!!お前だって病気持ちなのにそんな頑張っててすげえじゃねぇか!!」

 

「こんなもん凄くも何ともないッフ、ゲホッ!!お前代わってみるか!?辛いぞ!!走れないし学校も休みがちだ!!全然嬉しくねぇよ!!」

 

  完全に口論となる。バカ丸出しだ。オルコットさんが呆れているのが見える。しかし血が上ってもう歯止めが効かなくなっている。

 

「だから僕は!!ISに乗りたかったんだよ!!ISがあれば僕も走れるし、もっと言えば飛べるんだよ!!ISは自由だ!!」

 

「そうかよ!!だったら余計にここで諦めんなよ!!」

 

「何でそうなる!!」

 

「お前、持病を言い訳にしてISを降りようとしてるじゃねえか!!」

 

  ─────ッ!!

 

「走るんだろ?飛ぶんだろ!?だったら、やれる限りやってみろよ!!そうしないとお前………夢を諦めちまうんだぞ!?せめて………せめてギブアップだけはするなよ!!」

 

「病人を焚き付けてどうしますの………。悪くなったらあなたの責任ですわよ。わたくしは彼を心配して────」

 

「だったら俺が責任負う!!」

 

  何言ってんだこのアホ。どうやって責任取るつもりだ?キングオブバカじゃないか?オルコットさんが逆に困ってるじゃないか。あー、もういいや馬鹿馬鹿しい。さっさと終わろう。

 

「織斑」

 

「何だ雪次」

 

  剣を足元に放り投げる。オルコットさんが溜め息を吐き、織斑が目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────お前は絶対勝て」

 

「────ああ!!」

 

  カラン、と剣が床に落ちる。

 

  それを合図に、オルコットさんが動いた。

 

「残念ですわ!!では、とどめ!!」

 

  一斉にBTからレーザーが放たれる。間一髪。本当に間一髪、レース用調整の加速性能で奇跡的に攻撃を逃れた僕は、オルコットさんに向かって突進する。油断を誘おうと武器を捨てたので、まあ仕方ない。殴るしかないね!

 

「先の繰り返しでは!!」

 

  しかし避けられる。再び迫る壁。

 

「ラファール!!止まれ…………いや、避けてくれラファール!!」

 

  相棒は答えない。答える術を持っていない。

 

  しかし相棒は応える。

 

  上向きに修正した軌道。機体を軋ませながら、壁に足先を擦らせて上下反転。初心者の無茶な操縦に耐えてくれた。エネルギーを1%更に削りながらもワイヤー無しでオルコットさんに向き直る。

 

「今更成功した所で………ッ!!」

 

  こんな動き、オルコットさんには朝飯前だ。代表候補生を決める戦いやこれまでの訓練で、幾らでも見てきただろう。ライフル。BT。五つの砲口が、僕を捉えていた。

 

  《Alert》

 

  敵機のロックオンを確認。

 

「避け────あっ」

 

  さっき、足擦った時のね。アリーナの壁削って出た粉がね。

 

  今ね、鼻に入ったっぽいのよねー。最悪だこれ。

 

「─────くしゅん!!」

 

  これは酷い。酷すぎるオチだ。

 

  くしゃみで目を瞑る。

 

  自分が負けた瞬間すら、僕は見れないようだ。

 

 

 

 

 

 

  一夏は見た。

 

  雪次が、自力で向きを変えて見せたのを。

 

  そして見た。

 

  雪次が撃たれたのを。

 

  目の前で。

 

「────チクショウッ!!」

 

  安全柵に、拳を振り下ろす。

 

「どうした織斑。何か不満か?」

 

  いつの間にやら、千冬が一夏の傍らに立っていた。平然と、ただ事実を事実として受け止めたという様子で、その表情は普段と変わらない。

 

「千ふ、いや、先生!!雪次がやられちまったんですよ!!悔しくない訳がない!!」

 

「そうか。それは痛み入る」

 

 

 

 

「────では、ならば何故試合は続いているのだ?」  

 

「へ?」

 

  驚いた一夏が、素頓狂な声を上げた。次いで、箒がアリーナの一点を指差した。

 

「見ろ一夏!!オルコットの下だ!!」

 

「なっ!?雪次、あんなところに!?」

 

  一夏達から見てセシリアよりも奥、アリーナの床ギリギリの所に、雪次のラファール・リヴァイヴがいた。背中を向けているセシリアに向かって、全速力で突撃していた。

 

「スゲェ!!やりやがった雪次!!でもどうやって一瞬で、アリーナの反対側まで………」

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)だ」

 

  興奮しつつ、ふと浮かんだ疑問を漏らした一夏。元々一夏がいた席に腰掛けた千冬が、それに答える。その横に、千冬が真横に座ったことに戦々恐々とする箒の姿があった。

 

「瞬時加速は、背部のスラスターなどから機体のエネルギーを一度外部に放出。再度取り込んで瞬間的に使用することで、爆発的な直線加速を得る技術(テクニック)だ」

 

「で、でも先生ー、私ユッキーが練習でそんな技使ったとこ、見たことないですよー?」

 

「そうですね………私にも、瞬時加速が使える程の技量には、まだ達していないように見えました。それに、瞬時加速には多量のシールドエネルギーを消費します。ラファールのエネルギー残量では、使える筈がありません」

 

  千冬に意見することに尻込みしつつも本音が疑念を呈し、真耶も教師としてそれに賛成する。

 

「ああ、そんなことか。あれはどう見ても偶然の産物だ。神がやっと浦路に味方したと言ってもいい」

 

「それは、一体………!?」

 

 

 

 

 

「くしゃみだ」

 

 

 

 

 

「「「「えっ!?」」」」

 

  一同の口が開ききって塞がらない。しかし構わず千冬は続ける。

 

「瞬時加速に必要なエネルギーは、別に外部のものでも構わん。浦路は方向転換した際に、くしゃみをした。その結果操作を誤り、オルコットの予想した軌道とは異なる動きをした。つまり、まず現時点で奴は回避に成功している」

 

  そしてここからが奇跡的だが、と前置きを挟み、腕組をする。

 

「回避した際に、オルコットが撃ったレーザーが背部スラスターの間近を抜けた。そこそこの熱量だ、これを偶然取り込んだことで瞬時加速の条件が整った。後は、浦路が再度全速力を出せば、勝手に瞬時加速が発動するという訳だ」

 

「あ、あり得ない………」

 

「全部見ていたからな。あれは私でも狙ってやるのは難しい。さしずめ『鼻炎瞬時加速(ノーズ・イグニッション・ブースト)』とでも言ったところか」

 

  フ、と笑う千冬が見つめるのは、背後からセシリアに組み付いた雪次の姿。三度目の奇襲、それも背中を取った完璧なもの。両手でガッチリとホールドされて初めて状況を理解したセシリアだが、既に遅い。

 

『運も病も、実力の内だあッ!!』

 

『いつの間に!?ハッ!?しまっ────』

 

  アリーナのスピーカーから二人の声が響く。雪次は突撃した時の勢いをそのままに、上昇しつつも更に加速、セシリアを壁に叩き付ける。

 

『あうっ!!く、この!!』

 

  ブルー・ティアーズのシールドエネルギーが削れる。雪次にも衝撃が伝わるが、しかしブルー・ティアーズがクッションとなりラファールは健在。シールドエネルギーは底に近いが、機体のダメージレベルは今だB。最後の一撃を叩き込むには十分だった。

 

  正面衝突しても離さなかったセシリアを後ろから抱き上げるようにして仰け反り、もう一度最大加速で、今度はアリーナの床に向かって頭から落下する!!

 

『これが………僕の意地だぁああぁぁッ!!!!』  

 

『ああああーーーーッ!?』

 

  背中に組み付いたことで、ライフルは当てられない。BTは壁面が近く回り込めない。ナイフは展開が苦手で間に合わない。隠し玉の実弾BTさえも、機体正面で当たらない。セシリアは為す術なく、地面に向かって墜ちていく。

 

  そして─────

 

  地面に同時に激突した両者に、絶対防御が働き、双方ともシールドエネルギーが減少した。

 

  アリーナに電子音が響く。

 

 

 

 

『勝者:セシリア・オルコット』

 

 

 

 

  ブルー・ティアーズのエネルギー残量、63%。

 

  意地を通しても、その先に勝利は無く。

 

(何度も味わったけど………世界、遠いなぁ………)

 

  ISが強制解除された雪次は、身体が限界を迎えて意識を手放した。

 

  戦闘時間にして、4分12秒。

 

  浦路雪次。クラス代表決定戦─────初戦敗北。更に無理が祟って高熱を出し、その日一日、目を覚ますことは無かった。

 

  事実上の、全敗である。

 

 

 




セシリアの説得
》精神攻撃は基本。悪気無し。

一夏の説得
》説得力に欠ける+無神経。

千冬
》知っているのかちっひー!?

ラファール
》尽くす系ヒロイン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。