その男、貧弱につき。   作:ジョン・ドウズ

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7th.セカンド・フェイズ

  代表決定戦から、はや数日。毎日放課後は、ISに乗っての訓練漬けだ。僕と織斑は、セシリアさんをコーチに、そして篠ノ之さんを師範と仰ぎ、クラス対抗戦に向けて励んでいる。僕には専用機は無いので、訓練機の予約を毎日取っている。ラファールに乗れない日もあるが、その場合は理論や技術のレクチャーを受けている。毎日練習出来る織斑が羨ましい、爆発しろ。

 

  篠ノ之さんの指導はスポコン熱血精神論の上に感覚理解を重ねるというビックリする程解りにくいもので、どう考えてもセシリアさんに教わった方がISは上達する。

 

  セシリアさんは理詰めに理詰めを突き詰めて説明してくれるため、難解なのは変わらない。が、取り敢えず言われた通りやってみるとこれが中々効果的だ。攻撃回避をするのにマニュアル操作で角度まで計算してムーブを決めるのは正直使える。僕はセシリアさんに付いていこうと思う。分からないところはそれこそ感覚理解で補強すればいい。

 

  逆に織斑は完全感覚派なため、聞いていて頭の痛くなるセシリアさんより、僅差で篠ノ之さんの話の方が聞く気になるらしい。『どーん、という感じ』『ぐぐっときて、だな』とかいう指導でいいのか、それで満足なのか。してないよね。諦めずにセシリアさんにもっと聞けよ。

 

  とまぁ、そんな調子でクラス代表決定戦から考えるとメキメキ上達した僕らなのだが、今日は少し趣向が違う。

 

「一夏さん、雪次さん、準備はよろしくて?」

 

「おう!いつでもいいぞ!!」

 

「やんなきゃダメですかねこれ」

 

  アリーナ中央にて相対する、僕と織斑。脇からセシリアさんと篠ノ之さんが見守っている。

 

  何でこうなったのか分からないが、僕は()()()()()()()()()ことになった。誰が言い出したんだ、誰が。セシリアさんでした。平伏すしかねぇ。実力の近い、かつ戦闘スタイルが似ている相手との試合は肥やしになるとか。ううむ、反撃出来ん。

 

  外野が『初の男子対決』と盛り上がり出したお陰で、他に利用していた生徒が一斉に引き払い、第2アリーナは事実上の貸しきりとなった。観客席には、非公式戦にも関わらず結構なオーディエンスが。止めてくれよホント。

 

  というか、最新型第三世代IS『白式』対量産型第二世代IS『ラファール・リヴァイヴ』(またもレース仕様)の戦いとか織斑有利じゃねえか。え?射撃武器?………そういや織斑の白式って超ロマン太刀こと雪片二型しか積んでないのか。勝ち目あるかも。どのみち勝率は低いだろうけど。

 

「お前とは一戦やってみたかったんだ、雪次。何せクラス代表決定戦で戦い損ねたからな」

 

  おうおう、織斑はやる気満々だよ。僕としては鬱々しい気分に溢れているよ。

 

  僕は試合自体やりたくないんだけど………まあ、セシリアさんに二週間強面倒見てもらった成果は出したいし?ついでに僕の問題点が洗えればいいし?文句は垂れたけど、そこまでやる気が無い訳じゃない。

 

「あんま乗り気じゃなさそうだな。じゃあ晩飯でも賭けるか?」

 

「どうせ賭けるなら僕は1/7ブルー・ティアーズのPVC彩色済モデルが欲しい。27000円+税だ。それでも賭ける?」

 

「高ッ!?やっぱ無しにしようぜ」

 

「賢明な判断で助かる」

 

「始めてもいいのか?悪いのか?」

 

  下らない話をしていた所で、打鉄を纏った篠ノ之さんが見かねて割って入ってきた。いや申し訳無い。僕らが黙った所で篠ノ之さんは、僕と織斑を交互に見ながらルールを復唱してくれた。

 

「分かっているだろうが確認だ。試合時間は浦路に合わせて10分間。それまでにシールドエネルギーが無くなった、或いは試合時間終了時にシールドエネルギー残量の少ない者を敗北とする。いいか?」

 

「ああ」

 

「問題なし」

 

「ああそれと、模擬戦のはずがいつの間にか見世物になっていてな………二年生の先輩方がアリーナのモニタにシールドエネルギー残量を表示してくれている」

 

  ありがたいけど迷惑とはこらいかに。

 

「では、私の合図で試合開始だ。死力を尽くせ、だが死ぬなよ」

 

  アリーナの隅、試合の邪魔にならない位置に篠ノ之さんが移動した。腕組みする姿は、打鉄と合間って鎧武者の風格だ。うん、様になってる。だが………眺めてはいられないな。織斑を正面に見据えれば、既に織斑はこちらに視線を向けていた。

 

「始めッ!!」

 

  篠ノ之さんの怒号がアリーナに響き、直後に客席が湧く。その熱量に圧倒されつつも、PICを起動。体を30度背中側に傾けた状態で後ろに向かって滑るように移動する。

 

「おおおおおおおっ!!」

 

  向かってくる織斑は策も何も無し、雪片二型を中段に構えると、とにかくまっすぐ突っ込んでくる。そらそうだ、飛び道具無いからなぁ。という訳で、クラス代表戦の時には用意してなかったグレネードを織斑の目の前に投げてやった。

 

「うおっ!?────だぁあああっ!!」

 

「はあ!?」

 

  しかしこの天才肌は何をどう思ったか、加速してグレネードに接近すると蹴り上げた。上空で爆発、アリーナの空に黒雲が一瞬現れ、霞と消えた。野郎、やってくれる。

 

  とここでラファールが警告(アラート)を鳴らす。うっかりグレネードの行方に意識を割きすぎて織斑を見るのを忘れていた。間合いはもうあと2mもない。太刀を振り上げた一夏が吠える。

 

「貰うぜ雪次!!でやぁぁあああっ!!」

 

  しかし。しかしだ。僕だってセシリアさんに色々教わったのだ。二週間強とは言え伊達ではない。

 

  特に、()()()()()()()

 

「それはどうかな!?」

 

  0.7秒、それが僕のベストタイム。拡張領域からショットガンを両手にコールすると、眼前の織斑目掛けて弾切れも一切考えずにひたすら撃つ。

 

「うわっ!?くそ!!」

 

  散弾の壁に阻まれ下がる白式だが、至近距離では避けられる筈もなくシールドエネルギーが削がれる。それでも7%………どうも僕の奇襲の成果はしょっぱいらしい。

 

  だが、織斑が下がった。逃すわけにはいかない。右手だけショットガンを背後に放り捨てると、近接戦用のショートブレード『インターセプター』を展開する。オルコットさんのブルー・ティアーズにも同型のものが採用されているが、イギリス製ISには普通に装備されるもので、別に珍しくない。一回訓練で見せてもらってから、中々気に入って使っている。

 

  その理由はいくつかある。一つ、僕は打ち合いをする気は無いので長い剣は要らないが、ナイフよりは長くないともしもの時不安。二つ─────投げやすい!!

 

「チェストーーーーーッ!!」

 

  振りかぶって放り投げ、円を描いて飛んでいくインターセプター。しかし雪片で叩き落とされ、金属音とともに床に転がる。

 

「お前剣を消耗品にし過ぎだろ!?」

 

「やっかましい!!篠ノ之さんに教わった所で駄目だったんだから仕方ないだろ!!」

 

  毎日の日課は、放課後の練習だけでない。朝早くに起きて、剣道場にて篠ノ之さんに剣道の練習をさせられている。………のだが、素振りを30回もやれば既にそこにはへばる僕の姿が。あまりの貧弱ぶりに、篠ノ之さんから「立ち会いは数年後か………?」と言わしめた。その後は、織斑と仲良く練習する姿を体育座りで眺めている。

 

  こんな状態で、剣技が上達するものか。毎日運動してるせいか体力がじわじわと上がっている気はするが、剣の道は諦めた。僕にとって剣は投げるものだ。そして、今は絶好のチャンス。

 

  右手でワイヤーアンカー〈グレイプニル〉を、左から右に横凪ぎで投擲。剣に対応して反応の遅れた織斑を縛り上げる。

 

「しまった!?」

 

  ワイヤーから脱出しようとしているが、流石に両腕まで縛られていてはもがく他無い。それに、雪片二型でワイヤーを切ろうにも、威力がありすぎて白式自身を傷付けることになる。さあ悩め、僕は今が稼ぎ時だ。ここからどうするか。

 

  ………。

 

  あ、そうだ。

 

「よいしょ」

 

「げ」

 

  左手のショットガンを格納、代わりにミニガンを展開。照準も糞も何も無く、織斑目掛け連射する。先のショットガン乱れ撃ちなど比較にならない量の弾をばら蒔く。織斑、蜂の巣にしてあげよう。そうしよう。

 

「うおおおっおっおおおおおお!?!?さっきから殺意が凄くないか雪次ィ!?」

 

「別に?専用機が羨ましいとか、細マッチョイケメンくたばれとか思ってないよ。爆発してくれ、可及的速やかに」

 

「割りと根に持つタイプかお前!?」

 

  フフフ………とにかく逃げようとしているが、ワイヤーで繋がれていては僕から逃げられないぞ。しかも今ワイヤー巻き上げて徐々に距離を詰めてるからね。一発当たったら逃れられないと思っていいよ。フフフ………デッドエンドフフフ………。

 

「だったら………白式!!」

 

  逃げ回る織斑だったが、突如ラファールから警告が飛んできた。目標のエネルギー増大?あっ、察した。

 

「『零落白夜』ァ!!」

 

  雪片二型が輝き、閃光の刃を造り出す。でも縛られてて振れないよね織斑。どうする、気─────

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

「縛られたまま突っ込んでキターーーーーっ!?!?」

 

  何とワイヤーを切るでも無し、直立したまま、まるで衝角の如く剣を突き出して猛進してきた。カタカナの『ト』みたいなポージングと言えば視覚的にもお分かり頂けるか。怖いからこっち来んな。

 

  しかし織斑よ、分かっちゃいないな。こちらにはミニガン先輩がいる。接近すればお前はボコボコのチーズのように────

 

  あれ?織斑が消えた?

 

  おっ、いたいた。僕の目の前じゃないか。

 

  ………………目の前?

 

「どりゃぁぁああああっ!!!!」

 

「ぬわーーーーーーーっ!!??」

 

  必殺のモノをビンビンに勃たせて僕に突き刺す………やはりホモか。いや現実逃避いくない。要するに土手っ腹に零落白夜の直撃を貰いました。

 

  どうやら織斑、練習中でまだ完全にものにしていない『瞬時加速』をぶっつけでやってのけ、一気に間合いを詰めてきたらしい。量産型の少ないシールドエネルギーが半分以上持ってかれるという大惨事。ついでにミニガン先輩の砲身が両断されて無惨な姿に。多分撃ったら爆発する。くそう、仇は取る!!

 

「だらっしゃあ!!」

 

  スラスターを全開にして織斑に抱き付く。剣を持つ手が上向きになり、織斑にも零落白夜の刃が触れる。結果、白式のシールドエネルギーも激減する。それでも四割減っただけだが。くそう、シールドエネルギーの量が200近く差があるからなぁ!!

 

「うおっ!?くそ雪次………離せよ!!」

 

「離さないさ………行くよ!!」

 

  絶対防御を抉る暴力の余波を浴びるだけで、互いにゴリゴリ削れていくシールドエネルギー。決着は早めにしよう。機体の全出力を使って大空を目指す。織斑の抵抗に遭いながらも何とか上昇、加速していく。

 

「ねえ織斑、僕だって瞬時加速は練習したよ。成功率はお前より更に低いけど………見せてやる!!」

 

「げっ!?お前まさか────」

 

  時は来た。織斑に巻き付けたワイヤーを切り離し、装填された次弾のワイヤーを地面に発射。アリーナの床に刺さった所で巻き取りを開始し、強引に方向を変えて僕の持つ最大の武器(地面という名の凶器)に向かって最後の加速を極める。

 

  瞬時加速。それは元からある程度加速していなければ使えない一撃。故に────大地に墜ちる時、その効果は最大となる!!

 

  ぶれる視界。ハイパーセンサーが捉える高速で流れる世界。どうやら成功したらしい。ならば。後はやることは一つ!!

 

「爆発しろ、織斑ァ!!」

 

  ミニガンの引き金を引く。行き場の無い弾により内側から炸裂する銃。ついでにグレネードも呼び出してみた。同時に床に激突し、僕らは上手いことアリーナの中央で暴炎に呑まれた。

 

  うん、爆発オチですね。

 

「うおぁぁああああっ!?!?」

 

「ぎゃああああああっ!?!?」

 

  試合時間、7分53秒。

 

  両者同時にシールドエネルギーが尽きたため、引き分け。

 

  気を失って保健室に運ばれたので、ある意味僕の負けかも。

 

 

 

 

 

 

  鳳鈴音は困惑した。

 

  愛しの織斑一夏がISを動かし、IS学園に入学したと聞いて、入学を決めた。手続きの関係で入学式には間に合わず、やむ無く転入という形でやって来た。クラス代表にはなれなくなってしまうが、その分自由な訓練が出来ていいだろう。それに、一夏の側に居やすくなる。

 

  鈍感な上に男友達との付き合いが無くなる学園での生活は、きっと一夏には厳しい世界だろう。気心の知れた自分がいれば、負担も減る(ついでに悪い虫を払える)。そう考えて、既に夜中ではあるが、明日からの生活に期待を込めて意気揚々と門を潜った。

 

  が。

 

「だから受付はどこにあるんだっての!!」

 

  校内に入ってはや数分。迷っていた。大体不親切なメモを渡され地図もなく歩いているからだが。しかし埒が明かない。誰か人は居ないものか。辺りを見回すと、訓練施設らしき場所から話し声が聞こえ、人影があった。道を教えて貰おうと、足早に鈴は駆け寄ろうとする。

 

  そして見た。

 

「だから、そこはずんと行ってどかーんだ!!何故分からん一夏!!」

 

「日本語で頼む!!なあ箒、頼むから擬音でなくてだなぁ!!」

 

  自分の知らない女と、何やら親しげに話す一夏の姿を。

 

「あーーーー…………ぅー…………………」

 

  それと、二人の背後でIS運搬用の台車に体育座りしている、何やら燃え尽きている男子を。

 

  ─────思った時には、既に行動していた。

 

  一夏と女子の脇を速やかに走り抜け、眼鏡をかけた男子の載った台車を掴むと、脇目も振らずに全力で走り去る。

 

「あっ!?お、おい!?雪次ィイイイイッ!?」

 

「人浚いとは斬新な!!」

 

  二人の声を背中に受けつつ、疾走する。とにかく走り続けながら、鈴は男子に問うた。

 

「ねえアンタ!!聞きたいことがあるんだけど!!一夏の隣にいた女は誰!?」

 

「僕は何故浚われたのか知りたいんだけど!?」

 

「いいから話す!!さもないとアンタをこのままごみ箱に入れにいくわよ!!」

 

「幼馴染みだってさーーー!!」

 

「何ですってェ!?」

 

  怒りと驚きの余り急停止してしまい、台車から男子が転がり落ちる。大の字に寝そべり伸びている男子を完全に無視し、鈴は己の中で憤怒の炎を燃え上がらせる。何だそれは。しかもあの雰囲気、一夏と話していた幼馴染みとやらは一夏に惚れている!!自分のポジションと被っている上に一夏の隣に収まろうとするとは!!

 

  降って沸いた殺意に歯を食い縛り、天を仰いでふと気づく。

 

  あれ?ここ、受付じゃない?

 

  本当に偶然ではあるが、目的地に辿り着いていたとは。ここで男子の存在を思い出した鈴だが、そちらに目をやれば俯せになって動かない少年の姿が。

 

「………………ごめんね?」

 

  取り敢えずたまたま持っていた飴を少年の背中にお供え物のように乗せると、鈴は一夏に見つかる前に速やかに受付へと飛び込んでいった。

 

 

 




》根に持つタイプ
イケメンはしめやかに爆発すべし。

》雪次ィイイイイッ!?
浚われる系ヒロイン。
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