小国とて王女は王女。肩身の狭い思いをするのは至極当然。
アレがやりたい、コレがしたい。そんな勝手は許されない。
自分の行動を縛るだけの肩書きなんていっそのこと、この窓の外にでも放り投げてしまいたい。
「フィーネ様、そんなに窓から身を乗り出しては危ないですよ。万が一にでも落下すれば、痛いでは到底済まない怪我を負ってしまいます」
出たな……厄介者のウィル。
「いいことウィル? 私はエイルシュタット公国の公女よ。そんな詰まらない粗相は滅多な事でもない限り――きゃっ?!」
しまった――
「それでフィーネ様、公女がどうしたのですか?」
「……何でもないわ」
助かりはしたけど……やっぱりウィルは意地が悪い。
涼しい顔をしてるけど、その裏でシメシメとほくそ笑んでいるに決まってる。そう思うと無性に腹が立ってくる。
――ウィルベルット・オーストイック。
今はこうして私のお目付役を受け持ってはいるけれど、かつては諜報部の方で活躍していたらしい。元諜報員という事もあってか、普段からそのお澄まし顔を崩す事はなく大抵の事はやってのける。
お父様からは自ら無闇に敵を作るなと申し付けられているけれど、正直言って私はウィルが大嫌い……いえ、何だか同じ人間とは思えない。
彼はそう、例えるのならば機械だ。
精密で無機質で、無感情のままに人を傷付ける銃のような人間。
「べえぇ、だ」
「公女らしからぬお姿です。お父上が目にしたらさぞ、お嘆きになられるでしょう」
ほら。引き合いにお父様を持ち出せば私が困るのを見透かした上でこの物言いだ。
今度、お父様へお目付役の交代を直談判しに行こう、そうしよう。
「おやフィーネ様、そろそろお時間になりますが向かわなくても良いのですか?」
「時間……? あ、ああっ、イゼッタ?!」
「しぃ――他の者に聞かれますよ」
「ん……っ」
いけない。あの子の事は私とウィルだけの秘密だった。
「それじゃウィル、今日もよろく頼むわ」
「畏まりました。ですが、くれぐれもお気を付けて下さい。フィーネ様に何か有れば、あの子との密会に協力した私めが咎められますので」
「分かってるわよ。それじゃ」
あれ、何か忘れてるような……まあ、いいか。
何よりも今はあの子の元へと急がねばならない。約束を反故にしたともなればエイルシュタット公女の名折れと言うもの。
*公女移動中……*
あの湖へ急ぎ駆け付けると、あの子は初めて会った日と同じように湖の上に浮かんでいた。
まるで緑色の綺麗な光の玉と戯れているだけだよ、とでも言わんばかりにどこまでも自然体を保っている。
私には――いえ、誰にだってこの光景は浮世を乖離した物に違いないハズ。それなのにあの子、イゼッタは当然の事であるかのように湖の端に立った私を見つけ、いつもと変わらぬ笑みを浮かべた。
「こんにちは」
「全く……イゼッタは自分の事をまるで理解していないのね」
「え、ええっ、わたし何かしましたか?!」
「ふふ……別に怒ってなんかいないわよ」
「そ、そうですか」
不思議な力を持っているのに、このイゼッタという子自身はとても素朴で良い子。むしろ、他人の顔色を誰よりも意識しているようにすら思える。
けれど、私はイゼッタのそんな所が――
「好きなのだけれど」
「え、何か言いました?」
「ふふふ、何でもないわ」
「あうぅ……今日のフィーネちゃん、なんか変だよぉ」
「あら、変とは失礼ね」
「え、いや、そういう訳じゃないのっ」
本当にこの子と一緒にいる時間はとても楽しくて、あの肩身の狭い思いをするだけの鳥籠の中のような日々を忘れられる。私の毎週末の楽しみだ。
OPに一目惚れした結果がコレだよ……。