ダンまちの世界に転生したので 作:黒うさぎ
「よっと」
切り裂いたゴブリンを壁際に蹴り飛ばしつつ、俺はふう、と一息をついた。
この世界に来てから1週間が経った。ヘスティアファミリアに入った俺は無事冒険者となり、一本のロングソードと簡単な防具を一式支給され、『神の恩恵』も授かる事が出来た。
『神の恩恵』とは神が下界の子に与える、その対象のステイタスを可視化させ、成長させる事が出来る、ファミリアの一員としての証のようなものだ。
ちなみに俺のステイタスは以下の通りだ。
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クロヤ・ココノエ
LV.1
力;G150
耐久:I60
器用:H90
俊敏:H20
魔力:F80
《魔法》
【影ノ刃】
・魔力でできた武器を創造する。
・魔力の増減により大きさと質が向上、もしくは劣化。
《スキル》
【転生者(テンプレート)】
・異世界に転生してきた者に与えられる称号
・成長に大幅な補正
・あらゆる言語を理解する
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…うん、まあこんなもんだろう。
耐久と魔力が高くて、他はそこまでもない。基本俺の基本方針が『弾幕はパワーだぜ!』と『ガンガン行こうぜ!』なので不満はない。
ヘスティアは「うおお…なんだよこれぇ…」って唸ってた。人のステータスを見てしかめっ面浮かべるたあ失礼なやつだぜまったく、って言ってやったら、
「誰の所為だと思ってるんだい…!」
と逆切れされた。理不尽だぜ。
「おーい、クロヤ君!」
「おお、ベルか」
向こうで同じように短剣でゴブリンを殺してやってきたベルを片手を上げて迎える。ベルは汗のにじんだ額を袖で拭って笑顔を浮かべた。
「ふう、もういないかな」
「お疲れさん。そろそろ上がろうぜ。もう時間だろ」
ちなみにベルはまだアイズ・ヴァレンシュタインとは出会っていないらしい。俺に『神の恩恵』を授けた後、疲れた顔でベルのステイタスを更新して安堵の表情を浮かべていたヘスティアの姿が頭に新しい。
「うん、そうだね」
地面に落ちた魔石を拾い集めていると、自分の分を集め終わったベルが口を開いた。
「それにしても、クロヤ君は本当に強いんだね!あの黒い剣すっごくかっこいいよ!」
黒い剣ってのは俺の【影ノ刃】で作り出した剣の事だ。
【影ノ刃】は効果のまんま、影みたいに黒い武器を作り出すことのできる魔法だった。
今俺が生み出せる質量は、武器としてまともに使えるのが最低と考えても一本のロングソード程度で限界だ。本当はもっと大きい大剣レベルの剣を作り出したいんだが、それだとスカスカすぎんだよな。
ちなみに、ベルにはスキル【転生者】のことは伝えていない。
ヘスティア曰く。
「そのスキルは色々な意味で危なすぎるんだ。本当は君にも内緒にしておきたかったんだけど、君は結構賢そうだからね。すぐにばれちゃうと思うし、それならもう初めから伝えておくよ…いいかい、ベル君には絶対内緒だ。人の口に戸は立てられないんだからね?」
という事らしい。
「ふん、それほどでもねえよ…おら、とっとといくぞ」
「いてっ」
そういって寄ってきたベルの背中をばんと叩いて横に並んで入口へ進む。
今俺たちがいるのは5階層。ベルが突然「そろそろ上の階層に行ってもいいんじゃないかな!」って張り切っていたので仕方なくついてきてやったのだ。
ストーリーが始まるとしたらもうそろそろかとも思っていたが、結局来なかったんだよな。まあ俺は未来を知ってるってだけで未来を読んでるわけではねえので、あんまりアニメの知識に頼り切りじゃあいけねえな。
「クロヤはすごいなぁ…LV1で魔法覚えてて…僕なんかとは比べ物になんないよ」
「はあ?」
ベルがなんか湿った表情でそんなことを語りだしたので俺は思いっきりだ蔑んだ目を浮かべた。
「何ひと様と自分とを勝手に比べて勝手に落ち込んでるのばかなの死ぬの?男がんな女々しい事してんじゃねえよ気持ち悪い糞ウサギがその綿の入った脳みそかっぽじってそこら辺の土と詰め替えてやろうかそうしたら少しはマシなウサギに生まれ変われるんじゃねえのどうなんだこのド阿呆が」
「うぐぅ…そ、そこまでいう事ないんじゃないかな…」
ベル君涙目。なんだこいつ本当に主人公なのか?根性足りてますかぁ?
「ふん、強くなりてえって言葉は噓だったのかよ?んな無意味なことしてねえで、とっとと満足に戦えるようになれバカベル」
「あはは…ごめん、クロヤ君」
そういうベルの表情はまだ暗いままだ。俺はそれを怪訝な表情で見つめて、頭の中でアニメのベルと今目の前にいるベルとを比べて、ため息をついた。
こいつはまだ何のために強くなりたいのか、そこを見つけられてないのだ。アニメのベルはアイズ・ヴァレンシュタインと出会う所から始まるが、こいつはまだ出会えてない。
それに加えて、同じLV1で魔法を最初っから持っててステータスもどんどん上がる俺という名のイレギュラー。まあ、多少気分が落ち込むのも仕方がねえってわけか。
しかし、だからといって優しくしてやる訳ないんだけどな。
「そうやってほいほい謝ってるうちはバカウサギのまんまだぜ。少しは言い返してみろっての」
「うっ…」
涙目で肩を落とすベルの姿に興味を失くして、とっとと前を向いて歩き出す…その瞬間だった。
「…っ、クロヤ君っ!」
「ぐえ」
後ろから思いっきり抱き着かれてごろごろと地面の上を転がる。と同時に地面が大きく揺れて、俺とベルが元いた場所で土埃が巻き散らかされた。
「く、クロヤ君…こ、これ…」
「…ちゃんと見えてるって」
ついに来やがったか。
隆々と膨れ上がった筋肉に、灰に水をかけたような色をした肌。よだれを垂らす頭部はまさしく牛そのものであるが、身体は人のそれとよく似ていた。
牛の頭に人間の体。その名も『ミノタウロス』。本来こんな下層にいるはずもない、超強力な魔物だった。
今の俺たちで太刀打ちできるはずもない…が、逃げ出した場合ベルだけならともかく、俺の俊敏じゃああっという間に追いつかれてしまうだろう。
「…くそ、どうする…?」
ストーリーの始まりをちょいと見てやろうと軽い気持ちでついてきたのが仇となった。ミノタウロスと俺が出くわした際の対処の方を一切考えていなかったとか、流石に大馬鹿すぎだろうがよ。
「…ベル。いいか、俺が合図を出すから、その瞬間に後ろへ思いっきり逃げるんだ」
「く、クロヤ君…もしかして」
「お前の頭はウサギ並みか。俺もちゃんと逃げるに決まってるだろボケ。行くぞ、一、二の…」
俺は手に魔力を集中させ、それを思いっきり凝縮させる。すると手の中に真っ黒い魔力の塊が浮かび上がり、ソレがするすると伸びていって一本の剣を形作った。
そして、俺はそれを目の前で息も荒々しくこちらを睨みつけるミノタウロスに向けて大きく振りかぶって…
「…三!」
「っグ、ヴォオオアアアアアアア!!!」
目に思いっきりそれをぶん投げた。
と同時に後ろへと駆けだす。ベルが俺の服を引っ張って初速を得た俺は、ベルと並んで全力でダンジョンの中を走り抜けた。
「く、クロヤ君!どこに逃げるの!?」
「とにかく足を動かせバカベル!そんなもん後から考えりゃあいいんだよ!」
「そ、それは結構無茶じゃない!?ねえ無茶じゃない!?」
「ゴルゥアアアアアアアアア!」
ちっ、もう追いついてきやがった!
「クロヤ君!行き止まりだ!」
「うっそだろお前…」
とっさに曲がった曲がり角の奥は行き止まり。引き返そうにもすでにミノタウロスが顔を覗かせていた。
「く、クロヤ…君…」
「…ベル。墓石に刻む辞世の句はどんなのがいい?」
「あきらめるの早くない!?」
自分でもわかるほど青ざめた顔でベルに尋ねると、こんな時だというのにめっちゃ元気なツッコミが返ってきた。こいつは天性の芸人だな。俺にはわかる。
「ブルァアアアアアアアアアア!」
「ひっ」
「くっ…」
ミノタウロスが拳を振り上げ、俺とベルに迫る。
その時だった。
「ブルガッ…!?」
ひゅんひゅんと風の切る音が響き、それと同時にミノタウロスの体に何本もの軌跡が生まれる。それは徐々に幅を生み出し、ミノタウロスをただの肉片にしてぶちまけた。
そんな肉と血のカーテンの向こう、金髪が良く映えた、美しい少女の姿があった。
「…アイズ・ヴァレンシュタイン…」
俺は思わずつぶやいていた。その技の冴えはLV1の俺では見ることすら困難で、剣がいつミノタウロスの体を通過したのかすら分からなかったが、言葉に出来ない感動を俺の中に残していった。
「…はっ」
見とれちまってた!俺は意識を取り戻し、急いでベルの方を見た。
「…」
血だらけのまま目を見開いて、依然として現在進行形で見とれているベルの姿が、そこにはあった。
「…はあ」
俺は思わず口元をゆがめた。同じファミリアの仲間が恋に落ちた瞬間を茶化すほど俺も野暮じゃねえ。
「…あの」
「…っ、うわああああああああああああああ!」
ベルがとち狂った。
奇声を上げながらどこぞへと走り去っていくバカウサギ。惚れた女を前にしてなんて無様な姿だよ、本当に。
まあいいや。俺は立ち上がって顔の血を服の大丈夫だったところで拭って、目の前で驚愕に体を固めたまんまの美少女に話しかけた。
「別に助けてくれと頼んだわけじゃないんだがな。一応礼は言っておくぜ。サンキューな」
「…これは、私たちの失態…それに、あなたの仲間を怖がらせてしまった…お礼なんて、言われる筋合いはない」
「結果だけ見ろ。俺とあいつは助かった。それがすべてだ。人の礼は黙って受け取れやバカ」
「バカ…」
呆然とつぶやくアイズ・ヴァレンシュタイン。
「まあいいや。俺はあいつの後を追わにゃならんのでな。この恩はまた後日返しに行くぜ」
「…そういう事なら、待ってる」
「それとな。あいつは怖がってるわけじゃねえよ、あれはあんたが…」
俺はそこまで言って言葉を途切れさせた。
アニメでは、アイズはベルを怖がらせたと勘違いしていたはずだ。ベルに色々と気をかけていたのは、その罪悪感もあったからじゃないのか?うーん、でも俺のアニメ知識じゃあそこまでは覚えてねえしなぁ…。
…まあいいや。面白そうだから黙っておこう。
「いや、何でもねえ。それじゃあまたな」
そういって俺はベルが去った方角へ歩き出した。どうせ俺の足じゃあベルには追い付けねえしな。
途中で目つきの鋭い駄犬そうな男、ベートとすれ違ったが、あいつは爆笑しっぱなしで俺には気づかなかった。
「まあいいや。とりあえず血を洗い流そう」
そういう感じで、この物語は幕を開けたのだった。
【影ノ刃】はフリガナ考えてません。
主人公の名前は九重黒也と相成りました。深い意味はありません。