ストライク・ウィッチーズ 灰被りの魔女   作:シュウ禅

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恥も外聞もなく、再リメイクです。
よかったらお付き合いください。


第一話 扶桑から来た少女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまで来るのに、紆余曲折あったな。

 それが、輸送艦の甲板から黒海沿岸の街並みを見た、雁渕孝美(かりふちたかみ)の最初の感想だった。

 故郷の扶桑を出たのが三か月前。士官学校を卒業するなり、校長から直々に国際共同開発部隊へ出向の辞令を言い渡された。そして、ブリタニア行きの航空券を渡されて、着の身着のまま羽田から出発させられた。

 気が付けば、そこはもう遥か遠くの異国の地。そこで二カ月の研修を受けて、やっとこさテストパイロットになるのかと思ったら、今度は東欧のダキアに駐留している試験部隊に行ってこい、なんて命令だ。

 そして、現在は補給物資と共にブリタニア海軍の輸送艦に放り込まれ、ダキアの港湾都市、コンスタンツァに向かっている最中だった。

 

「……これからどうなるんだろう」

 

 孝美は呟いた。

 黒海周辺は有史以前から東西貿易の重要なルートとして、何かと争いの絶えない地域だ。

 近年も、黒海沿岸を囲む国同士で小競り合いが続いていた。

 けれど、そんな人類の内輪もめを文字通り吹き飛ばす事態が起きた。

 黒海北岸のクリミア半島の上空に怪異が出現したのだ。

 遥か神代から存在する、人類の天敵種。時代の節目にどこからともなく現れて、文明に大きな打撃を与えていく。

 突如現れた脅威に対して、世界は団結して対処する事になったが、昨日までいがみ合っていた相手と急に手を取りあえるはずもない。

 北大西洋条約機構は部隊を即座に黒海西岸に派遣する。しかし、東岸非加盟国とうまく足並みがそろえられず、思うように作戦行動がとれないでいる。

 そんな国の思惑が絡み合った闇鍋状態の場所で、試験部隊が日夜テストを行っているというのも驚いたが、そこが自分の配属先になるなんて夢にも思わなかった。

 

「なんだ雁淵。悩み事か?」

 

 物思いにふけっていると、後ろから声をかけられた。

 

「坂本さん」

 

 振り返ってみると、ブリタニアで教育係だった坂本少尉が立っていた。

 後ろで一つに結った長い黒髪、右目の眼帯、そして背中に扶桑刀を背負った、まさに剣客といった風貌の人物だ。

 坂本は言った。

 

「もうすぐ港に着く。荷物の整理は終わったのか?」

 

「はい。……と言っても、そんなにありませんけど」

 

 なにせ、突然の辞令だったのだ。荷物といっても卒業して寮から出たときに持っていたトランクが一つと、ブリタニアで買った生活必需品くらいなものだ。

 

「はっはっはっ! そう言えば、そうだったな」

 

 坂本は呵々大笑する。

 そうこうしているうちに、船は港に着き、二人は部隊宛の物資と共に降ろされた。

 ここから先は陸路になり、部隊の人が迎えに来てくれる手筈になっているというのだが……。

 

「……来ないな」

 

「そう、ですね」

 

 待てども待てども人は来ず、だんだんと人気がなくなり、ついには孝美と坂本の二人だけが埠頭に残された。

 

「坂本さん、向こうに連絡が言っていないなんてことはありませんよね?」

 

「さすがにない……と、思うんだがなあ」

 

 そう言う坂本の声に力はなかった。

 軍とて官僚組織だ。こうまでたらいまわしにされるのだから、どこかで書類が滞っても不思議じゃない。

 孝美はもう一度見回すと、遠くから近づいてくる人影を見つけた。

 

「あれは……」

 

 見た瞬間、坂本の表情がこわばった。 

 

「久しぶりね、坂本少尉」

 

 その人物に声をかけられると、坂本は慌てた様子で敬礼した。孝美もそれに続く。

 歳は孝美より一つか二つ上。肩口で切りそろえられた黒髪。扶桑国空軍の紺色の常装の左胸には機械化航空歩兵の証であるウイングマークが光っている。

 坂本は言った。

 

「お久しぶりです、加藤中尉。息災なようで何よりです」

 

「貴方も元気そうでよかった。ごめんなさい、引き渡しのサインに手間取って遅くなっちゃった」

 

 にこやかな加藤とは対照的に、坂本は緊張した様子で石のように動かない。

 加藤は坂本から視線を外し、孝美の方を見た。

 

「貴方が雁淵少尉ね? 加藤武子よ。階級は中尉。ようこそ、ダキアへ。歓迎するわ」

 

「雁淵孝美少尉です。本日着任しました。よろしくお願いします」

 

 差し出された手を孝美は握り返す。

 加藤武子(かとうたけこ)。二年前に勃発した扶桑海事変で活躍した、「扶桑海の隼」と呼ばれる扶桑空軍きってのエース。

 その人気は、かの「扶桑海の巴御前」に勝るとも劣らず、彼女が出演した映画が公開されるや否や、養成校に入学希望者からの問い合わせが殺到して電話回線がパンクした、なんて逸話もあるくらいだ。

 最近はとんと噂を聞かなかったが、まさか欧州に渡っていたとは……。

 

「さてと……。加藤中尉、私は行きます」

 

 そう言ったのは坂本だ。

 彼女はこれから空港まで向かい、航空機でブリタニアまで戻らなければならない。

 

「もう行くの?」

 

「ええ、宮藤博士が待っていますから。大尉によろしくお伝えください」

 

 坂本は孝美に視線を移す。

 

「坂本さん。短い間でしたが、お世話になりました」

 

「なに、私にとっても良い経験になった。……雁淵、死ぬなよ」

 

「はい!」

 

 去っていく坂本の背に、孝美は敬礼した。

 訓練の最中は鬼かと思うくらい厳しかったが、ブリタニアに来たばかりで右も左もわからなかった自分に親身になって何かと世話を焼いてくれた恩人だ。感謝してもしきれない。

 坂本の後ろ姿になにか思うところがあったのか、武子は呟いた。

 

「泣き虫だったあの子が、教え子を持つようになるなんてねぇ……」

 

「泣き虫……ですか?」

 

「彼女とは扶桑海事変からの付き合いでね。昔は自分に自信がなくって、いつも上官の後ろに隠れていたのよ」

 

 なんでも少尉に任官されるときに内気なままではだめだと、一念発起して性格矯正に励んでいるらしい。

 人に歴史ありってことね、と武子は言った。

 

「さて、行きましょうか」

 

 と、踵を返した彼女の後に孝美はついていく。

 

「加藤中尉は、いつから欧州に?」

 

「加藤でいいわよ。そうね、三か月くらい前かしら。それまでは岐阜の飛行開発実験団にいたんだけど、いきなり国際共同開発計画に参加しろって辞令がきてね。あとは、少尉と似たような感じよ」

 

 お役所仕事にも困ったものよね。と、彼女は笑って言った。どうやら噂通り、穏やかな気質の人物のようだ。

 しばらく歩くと、数台のトラックが止まっているのが見えた。

 試験部隊のトラックなのだろう。補給物資の積み込みをおこなっているのか、周りでは作業服姿の兵士たちがせわしなく動いている。

 武子は孝美に先頭のトラックの助手席に乗るように言うと、自らは運転席へ回った。

 

「加藤中尉!」

 

 一人の兵士が、慌てた様子で武子に駆け寄った。

 ただ事ではない雰囲気を感じた孝美は、半分開けていたドアを閉め、武子の元に行く。

 

「どうしたの?」

 

「緋村大尉より緊急の通信が!」

 

「優刀から?」

 

 武子が通信機を受け取ると、若い男性の声がした。

 

『フジ、新人と合流したか?』

 

「ええ、丁度今から基地に戻るところよ」

 

『戻ってこなくていい。怪異が出た。中型がセヴァストポリから黒海を横断して、こっちへ向かってる』

 

 "怪異"という単語を耳にしたとたん、柔和だった武子の表情は一変し、鋭いモノになった。

 

「400キロもないじゃない、一時間もしないで上陸するわよ?」

 

『リベリオンの空母打撃群が遅滞戦術に当たってる。新人と先行して、本隊が合流するまでの時間を稼いでくれ』

 

「雁淵少尉も一緒に? 大丈夫なの?」

 

 周囲にいた兵士たちに「回せ」と、手で合図を出しながら、武子が聞き返した。

 

『美緒ちゃんが鍛えたんだから、大丈夫だろ』

 

「そっちは間に合いそう?」

 

『今回の試験装備は重いからなあ……。 黒田次第って、ところだな』

 

「最悪、到着前に他部隊と連携して撃破する事になってもいいわね?」

 

『いいよ、フジの判断に任せる』

 

「了解、それじゃ」

 

 武子は無線を兵士に返すと、孝美に向き直った。

 

「雁淵少尉、聞いていたわね? 悪いけど予定は変更、出撃よ」

 

「はい!」

 

「貴方のユニットは二番目のトラックに、垂直発進は出来るわね?」

 

「大丈夫です。 一通りの発進方法は士官学校で習得しています」

 

 兵士に案内され、孝美は後方のトラックへ向かう。

 荷台には鉄製のコンテナが一つ置いてあった。簡易的な発信装置なのだろう、側面には筒状のモノが二つ、太いアームで固定されている。

 これこそが、現代の魔法の箒、ストライカーユニットだった。

 孝美は荷台に飛び乗ると、勢いよくユニットに足を通した。

 その瞬間、体をふわりとした感覚が包み込む。頭から使い魔であるタンチョウヅルの翼が生え、お尻の尾翼が制服の裾を押し上げた。魔法力が体内を循環し始めた証拠だ。

 魔導エンジンを始動。魔法力で形成された呪符がプロペラとなって回転し始める。

 

「……行くわよ、チドリ」

 

 孝美はユニットに語り掛ける。その声に応えるように、ユニットはエンジンの回転数をグングン上げていく。

 宮菱重工製十二試艦上戦闘脚は、少ない魔法力でも稼働可能なユニットだ。

 孝美のユニットはその3号機。EMD試験機の為、ウィッチに合わせたセッティングなどされていないフラットな状態だが、まるで身体の一部になったと錯覚するくらい癖がなくて扱いやすい。

 

「こちらをどうぞ!」

 

 兵士がエンジン音に負けないくらいの大声で叫んだ。

 渡されたのは、「FN SCAR‐H」のロングバレル仕様。扶桑本国では今だ正式採用になっていないものの、ブリタニアでの訓練中に扱っていた銃なので問題ない。

 

「準備、整いました!」

 

『それじゃあ、行くわよ』

 

 前方のトラックの荷台の上で既に発進準備を整えていた武子が、兵士たちに離れるように手で合図するのが見えた。

 離れる間際、兵士の一人が彼女に声をかける。

 

「中尉、戦果を期待してますよ!」

 

「期待してるのは戦果じゃなくて、データの方でしょ!」

 

「違いない!」

 

 そんな軽口を置いていって、武子は空ヘ上がった。

 孝美も後に続こうと、エンジンの回転数を一気に上げる。

 

「雁渕孝美、出ます!」

 

 ユニットのロックを外す。

 その瞬間、孝美の身体が上空へ跳ね上がった。

 螺旋を描くようにして旋回しながら上昇する。高度三千メートルまで昇り、先に着いて周囲を警戒していた武子と合流した。

 

「お待たせしました」

 

「少尉は私の二番機の位置について。初の実戦だろうけど、そんなに緊張することないわ。訓練通りにやれば大丈夫だから」

 

「はい!」

 

「いい返事ね。じゃあ、行きましょうか」

 

 武子の後に続いて、孝美は北東に進路を取って飛行した。すぐに街並みは視界から消え、眼下には黒海と白いわた雲だけになった。落ちれば一貫の終わりだ。急にそんな恐ろしい考えが頭をよぎった。

 

「……あの、加藤さん。質問よろしいですか?」

 

 緊張を振りほどこうと、孝美は気になったことを尋ねてみた。

 

「なにかしら?」

 

「先ほどの通信相手は隊長からでしょうか?」

 

「ええ、そうよ。それがどうかしたって……ああ、そのことね」

 

 孝美が何を聞こうとしているのか、得心がいった加藤。

 

「と、いう事は……まさか」

 

「ええ、うちの隊長は男のウィッチよ」

 

 古来より魔法力を使役する男性は存在していたが、現代においては、御伽噺や神話の域の話だ。

 そのような人物が、隊長で、自分の上官になろうとは……。

 よっぽど驚いた顔をしていたのか、中尉は笑いを噛み締めていた。

 

「びっくりしたでしょうけど、堅苦しく考える必要ないわ。男性と話すのが苦手って訳でもないでしょう?」

 

 確かにその通りなので、「ハイ」と頷いた。

 そうなると一体どんな人物なのかと興味が湧いてくる。

 孝美は加藤に人となりを聞いてみると、

 

 

「バカね」

 

 

 と言って、自分の言葉を噛み締めるように、首を何度も縦にふった。

 

「……あの、加藤中尉?」

 

 目的空域までの雑談とはいえ、上官に対してその物言いはまずいのではないだろうか。

 万が一、通信で聞かれていたら、という孝美の心配をよそに、彼女は続ける。

 

「飛ぶことが生きがいの航空機オタク。上官に希望のTACネームを聞かれて、堂々と「マーべリックがいい」って、言ってのけたのよ? 空気の読めなさ加減は一級品よ」

 

 扶桑きってのエースからの人物評は散々だった。とはいえ、正規にT P C(試験飛行操縦士過程)を履修し、テストパイロット資格を取得した後、飛行教導群に着隊したという特異な経歴を聞く限り、飛行に関して並々ならぬ情熱を傾けているのがうかがえる。

 無線に通信が入った。

 

『こちらマーリン。ドラッヘ2、現在位置を報告せよ』

 

 先ほどの男性のものとは違い、硬質な声。早期警戒管制機からのものだった。

 

「こちらドラッヘ2。現在、黒海上空3000メートル北東へ向けて飛行中。マーリン、状況は?」

 

『目標の速度が落ちない。急いでくれ』

 

「了解。あと、新人を二番機につけてるから、データ登録をお願いします」

 

『ドラッヘ1から報告は受けている。すでにドラッヘ12として登録済みだ』

 

「相変わらず仕事が速くて助かります。AMRAAM(アムラーム)FF(フレンドリーファイア)なんて洒落になりませんから」

 

『同感だ。フロイラインに送るプレゼントとしてはセンスがない』

 

「個人的にはプラナー135mmF2MMとかいいですね」

 

「それで喜ぶのは君くらいだ」

 

 といって、マーリンは通信を切った。

 

「マーリンにもせっつかれたことだし、少し飛ばすわよ」

 

 言って、武子は高度とスピードを上げた。孝美もその後に続く。

 5000メートルに当たりで身体を水平にして飛行。しばらくは静かな状態が続いたが、やがて遠方の積雲の合間で時折、火と黒煙が上がっているのが見えた。

 

「ドラッヘ2よりマーリンへ。ネウロイを目視で確認した」

 

『こちらマーリン。交戦を許可する。すでにリベリオンの空母打撃群は後方に下がった。代わりにF-16戦闘機部隊を直援につかせる。コールサインはウィルオウィスプ1だ』

 

「了解」

 

 武子は通信を切ると、孝美の方に顔を向けた。

 

「雁淵さん、高度1900mまで降下。雲に紛れながら近づきます」

 

「雲量が多くて、見失う危険があるとおもいますが」

 

 孝美は聞き返した。

 それに雨の心配もある。今朝の天気予報では北岸の降水確率は高かったはずだ。雨粒で視界が悪くなるだけでなく、服が濡れて体力と機動性が奪われるのは避けたかった。

 けれど、武子は淡々とした様子で言った。

 

「これくらいの雲量なら、まだ雨の心配はないわ、敵影の方もね。私の固有魔法は三次元空間把握よ。この距離なら逃さないわ」

 

 そう言い残して、雲へ飛び込んだ武子。孝美も後を追う。

 一瞬、視界が灰色に覆われたが、すぐに青色の海原が覆った。彼女の言う通り、雲の下は雨が降っていなかった。二人は雲と空の境目触る様に飛行する。

 時折、爆発音が雷鳴のように響いた。それは目標に近づくにつれ、大きくなっていく。

 大気の振動が肌で感じられるようになったとき、武子が叫んだ。

 

「今!」

 

 声に引っ張られるように孝美は急上昇。再び雲に突っ込んでいく。

 抜けた先には怪異がいた。

 

「ッ!!」

 

 始めて相対する怪異、その大きさに思わず息を呑む。

 全長は80メートルほど。円錐状で縦に伸びた姿をしていて、銀色の装甲は陽射しを反射して鈍く光っている。

 あちこちから火が出ているが、一向に高度が下がる気配はない。悠々と雲海に揺蕩う姿は、まるで大海原をいくクジラだ。

 

「右尾翼の発射口を狙って!」

 

 武子の指示に、孝美はFN SCAR-Hを構える。後部から出た水平尾翼と思われるところに、昆虫の複眼のような赤い部分が数か所ある。坂本に教わった通りなら、あそこが発射口のはずだ。

 迷うことなく怪異に突っ込んでいく武子の後を追う。

 

「今よ!」

 

 引き金を引く。タタタンっと子気味いい音と共に、銃口から弾丸が吐き出された。命中。怪異の赤い装甲が砕け、大きな飛沫となった。

 

「やった!」

 

 魔法力は怪異には猛毒だ。例え小口径の銃弾でも、扱う者の技量次第では大型の怪異を倒すことだってできる。そう教練で習ったとはいえ、実際に効果を確かめるまでは不安だった。

 怪異の後方に抜けて、距離を取った。呼吸を整えながら、怪異の状態を観察する。

 今の一撃が効いたのだろう、右尾翼が半分吹き飛んでいた。しかし、火が上がっていた部位は何事もなかったかのように消えている。教科書に乗っていた自己再生能力なのだろうが、想像していたよりもずっと早い速度で回復している。

 

「雁淵さん、その調子よ」

 

「はい!」

 

 一瞬、腰が引けそうになったところに、武子の檄が飛ぶ。

 恐れることはない。敵に攻撃が通るのだから、倒せない相手ではないのだ。

 深呼吸して、崩れかけた気組みを整える。

 もう一度、攻撃を仕掛けようとした、その時。

 金属を引っ掻いたような耳障りな音が空に響いた。

 怪異の体のいたるところが赤く明滅する。

 

「ブレイク!」

 

 武子が叫ぶ。つられて孝美はその場から飛び退いた。

 瞬間、空に何条もの光線が走った。攻撃は孝美のいた場所を通過していった。

 

「こちらドラッヘ2! ウィルオウィスプ1へ火力支援を要請!」

 

『ウィルオウィスプ1了解。 右翼後方より攻める。攻撃位置に着くまで少し待て』

 

 通信が切れると同時、光線が二人をかすめた。

 

「注意を引き付けるわ」

 

 武子は回避行動をとりながら怪異の左上方に移動。孝美は側面に周りこみ、牽制弾を放つ。

 ものの見事に注意が二人に向いた。激しい放火にさらされるが、直撃を食らわないように避け、時には魔法力の障壁で光線の軌道をそらす。

 なかなか仕留められないことに焦れたのか、赤いパネルがより強く明滅した。光の弾幕が二人を襲う。

 このままでは埒があかない、孝美は発射口の一つを破壊するために近づこうと、エンジンの回転数を上げる。しかし、そこに武子の声が飛んだ。

 

「駄目!」

 

 すぐにその意図が分かった。怪異の右後方で大きな爆発。それが立て続けに四回起きた。

 衝撃で怪異の体勢が崩れ、光線の勢いが弱まった。

 そのすきを逃さず、孝美は発射口を破壊する。武子は右後方へ移り、傷口にフルオート射撃。ダメ押しとばかりにグレネード弾を叩き込んだ。

 

「よし!」

 

 煙を上げる怪異の姿を見て、孝美は歓声を上げる。それに応えるように、ネウロイの上空をF-16の編隊が横切った。先ほどの爆発は彼らが放ったAAMによるもののようだ。

 怪異の再生力の前に、通常兵器の効果は薄い。しかし、再生能力を大きく減ずる航空歩兵とうまく連携すれば、その破壊力は十分に発揮される。

 身体を半分以上破壊されたにも拘わらず、怪異のスピードは落ちる気配を見せない。怪異にはコアと呼ばれる部分があり、そこが破壊されない限り、いくらでも再生するのだ。

 

「コアを探して!」

 

 怪異の周囲を旋回しながら、コアがありそうなところに見当をつけて銃弾を浴びせる。けれど、吐き出された7.62x51mm NATO弾は次々装甲を破壊するが、コアは見当たらない。

 早く見つけなければ、損傷個所が再生してしまう。

 マガジンが空になった。マガジンキャッチを右手人差し指で押して、弾倉をリリース。予備と交換し、チャージングハンドルを引く。動作一つ一つを口に出して確認し、逸る気持ちを押さえつけた。再度攻撃を仕掛ける。

 そして、中央部の外皮をはいだとき、篭った光が見えた。

 

「見つけた!」

 

 直感でわかった。鈍い赤光を灯す正十二面体の物体。あれがおそらくコアだ。

 

「雁淵さん、狙って!」

 

 ダッドサイトを除き、狙いをつける。緊張で銃口がぶれる。深く息を吸う。魔法力を反動制御に回して、震えを無理やりなだめる。

 引き金に力を入れようとしたその時、予想外の出来事が起きた。

 怪異の中央で二つに分離し、先端部分が一気に加速したのだ。

 

「雁淵さん、離れて!」

 

 とっさにその場から飛び退く。光線が孝美をかすめた。見れば、既に尾翼と発射口が再生を終えていた。

 再び、二人は光の放火にさらされる。

 その隙に、先端部が戦闘空域を抜け出そうとした。

 

「しまった!」

 

 武子が毒づく。

 しかし、頭上からF-16が飛来。怪異にAAMが叩き込まれた。

 

『ウィルオウィスプ1よりドラッヘ2。先端部は我々が足止めする。そちらを頼む』

 

「もう少しで本隊が到着します! それまでなんとか持ちこたえてください!」

 

『了解』

 

 下方に抜けたF-16の編隊は、機首を上に向け上昇、機銃で攻撃する。しかし、20m口径弾は表面装甲に無数の穴を穿つが、すぐさま再生してふさがれる。

 

『クソ、こっちに見向きもしねえ!』

 

 誰かの悪態が飛ぶ。

 F-16が一糸乱れぬ連携で攻撃をしかけるが、脅威ではないと判断したのか、怪異はさらに速度を上げて、直進していく。

 

「加藤さん、このままじゃ!」

 

「わかってる!」

 

 もう陸地がそこまで来ている。今、離脱されてしまえば、陸上への攻撃を許してしまう。そうなればどれだけの被害が出るかわからない。

 頭で理解していても、目の前の敵を相手にするだけで手一杯だった。

 打つ手無しかと思われた、その時。

 マーリンから通信が入った。

 

『こちらマーリン。ドラッヘ2と12、ウィルオウィスプ各機、合図共に離脱せよ』

 

「そんな、どういうことですか!」

 

 突然の命令に、孝美は思わず聞き返す。

 だが、マーリンは取り合う素振りも見せない。

 

『竜が息吹を放つ。10、数える。カウントゼロで一斉に上昇しろ』

 

「……了解! 雁淵さん、合図で高度四千まで全速上昇!」

 

「加藤さん、しかし!!」

 

「いいから! 射線を開けるのよ!」

 

「え、射線?」

 

『10秒前、9、8……』

 

 マーリンがカウントダウンを開始する。

 困惑する孝美をよそに、他の機体はカウントゼロに備える。

 

『3、2、1……発射!』

 

 スロットルを全開にして急上昇。

 その瞬間、空域を離脱しようとしていた怪異を、青い閃光が貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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