※各ウィッチの階級が原作と違いますが、ご了承ください。
いったいどこから、なんて考える暇すらなかった。
それは、まさしく光のような速さで空から飛来し、怪異に直撃した。
驚くべきはその威力だ。あの高い再生能力を持つ装甲を一瞬で粉々に砕いただけでなく、その衝撃で体内からコアを空中に放りだした。
「コアが!」
孝美は無意識に、銃口をコアに向けようと体を回転させる。
けれど、そこに武子から「待って!」と指示が飛んだ。と同時に、天頂に輝く太陽の中から、黒い影が飛んできた。
数は2つ。ウィッチだ。
突如現れた二人の航空歩兵は、白い航跡を描きながら、真っ逆さまにコアめがけて急降下する。
先頭の銀髪の少女が銃を構える。布を裂くような音を鳴らしながら、弾丸が発射され、輝く正十二面体の表面に無数の穴を穿つ。
そこに、僚機の黒髪のウィッチがダメ押しのフルオート一連射。コアはなすすべなく、粉々に砕けて消えた。
『ごめんなさい、遅くなったわ』
インカムに通信が入った。銀髪の少女からだ。
「いいえ、助かったわ。良いタイミングね、"先生"」
武子から安堵のため息がほっと出た。
先生と呼ばれた少女はそのまま降下。残った後部怪異の射程外に出てから再び上昇して、孝美たちと合流した。
小柄なウィッチだった。いかにも几帳面な顔立ちで、カールスラント空軍の軍服は下ろし立てのようにシミ一つない。けれど堅苦しさが感じられないのは、本人の人柄の良さが態度ににじみ出てるからだろう。
「先生、他の人たちは?」
「優刀にいわれて先行してきたの。到着まで時間を稼がないと……。行くわよ、下原さん」
「ハイ!」
先生は僚機に声をかけると、怪異に向かって降下。
「二人を援護して」
頷いて武子の後に続いた。二人がビーム発射口を破壊して弧を描くように上昇した後、左側面から急襲し、怪異の注意を引き付ける。
再び、上空から先生たちが攻撃。それを二度、三度と繰り返し、怪異の装甲を削る。
「ッ、堅い」
先生が表情を変えずに言った。
怪異もコアが露出したことに危機感を抱いたのか、装甲が堅くなっている。また外装を引っぺがしても、先ほど以上の速度で再生し、こちらの弾丸を防いでしまう。
「まるで首を引っ込めた亀ね。中尉、このままじゃ埒が明かないわよ」
先生の言う通りだった。
先ほどとは一転、怪異は一切の迎撃行動を行わず、その力を再生力に費やしている。この調子で根比べを続ければ、積載量の低い
さらに追い打ちをかけるような出来事が起きた。
突然、怪異の両尾翼ががくんと根元から外れた。そのまま海上に落ちるかと思われたそれらは、矢じり上に姿を変えた。
これには、武子も驚いたようで、
「っああ! もう、また‼ どんな生態してるのよ!」
と、悪態をついた。
「優刀! 敵中型が身体の一部を分離して、南西方面に進路を向けたわ。数は二つ、子機と思われる。頼める?」
武子が怒鳴っているのに近い声で通信する。
すると、
『……ん、こっちでも"リ―リヤ"がばっちり捕捉してる。各機、進路そのまま。射線開けてくれ』
呑気な声で返事が返ってきた。
「了解、外さないでよ?」
『善処するよ』
と、通信が切れるのと同時に、再び青い閃光が瞬いた。西の空から伸びてきたそれは、子機の中心部を正確に刺し貫いた。続けざまに二つ目の光の柱が立ち、片割れを破壊した。
そして、雷鳴が轟く中、新たに4人のウィッチがこの空域に飛び込んできた。
綺麗なV字編隊で、こちらに接近してくる。後方を飛んでいた二機は黒と白の対照的な軍服を着ているが、どちらも襟もとに赤い星を付けていて、オラーシャの所属のウィッチだとわかった。
編隊長の僚機は白衣と緋袴に手甲という扶桑のウィッチ古来の装束に身を包んでいる。
やはり国際共同開発の最前線なだけあって、メンバーもバラエティに富んでいたが、その中で件の人物、緋村優刀は、孝美が予想していた以上に際立った存在感があった。綺麗なグラデーションがかかった藍染の羽織に首元の白いマフラー、視認性など遠くに投げ捨てたかのような出で立ちは、"わざと目立たせる"ことで教導効果を高める、飛行教導群ならではの装備だ。
『お待たせ』
挨拶もそこそこに、優刀は僚機と共にネウロイに進路を取る。
その背中に向かって、武子が叫んだ。
「もう、遅いわよ! バルクホルン中尉と黒田さんは?」
「あそこ」
と優刀は、自分たちが来た方角に顎をしゃくった。
武子につられて、孝美も目を向ける。雲の合間にこちらに近づいてくる人影が見えた。速度はかなりゆっくりで、飛び方もおぼつかない。ともするとエンジンストールで落ちてしまいそうだ。
輪郭が徐々に大きくなっていく。人の顔がわかる距離まで接近してきたウィッチの姿を見て、孝美は目を丸くした。
その航空歩兵達は複座式のユニットに乗っていた。外見は訓練機の「赤とんぼ」に酷似しているが、後部がやけに膨らんでいて、大型エンジンを載せているのがわかる。試験機だからか、塗装はライトグレー一色に部隊章と思わしき円形のマークだけ、と至ってシンプルなものだ。
問題は装備の方だ。
M61 バルカン砲。航空機から艦艇、地上部隊用の機関砲として幅広く使用されているものの、砲身システムだけでも重量が114kg、弾薬、弾倉まで含めると300㎏もあり、とても人の腕で運べるような代物ではない。けれど、目の前のウィッチ達は後ろの操縦者が弾倉を背負い、前に乗っている射手がシステムを抱きかかえて、飛んでいる。その姿は二人羽織に近く、大出力の大型ユニットを二人で運用することで一人ひとりにかかる負荷を軽減しているようだ。
しかし、それでも相当無理をして飛んでいるのか、当人たちの表情は険しかった。
「ちゅ、中尉。……お、重い」
「なッ!? 私が重いんじゃない、装備が重いんだ!」
前のおさげの少女が即座に否定した。
だが、後ろの黒髪の少女は疑わしい視線を向ける。
「誰も中尉が重いなんて言ってませんよ! それに多少重くなってもしょうがないですって!ロスマン先生のごはん、すっごくおいしいんですもん。 かくいう私も、最近おなか周りがちょっと気になり始めて――」
「貴様と一緒にするな! 私は適正体重だ! 万が一、増えていたとしたら、貴様が原因だろう!! 毎回勝てもしないのにポーカーを挑んできて、デザートを巻き上げられるのはどこのどいつだ! 毎日二つ食わなければならないこっちの身にもなれ!! と、いうかもうギャンブルはするな!」
「嫌です、やめません! 負け分を取り返す、その日まで!」
断固とした口調で黒髪の少女は意思を告げた。
「……大丈夫なの? アレ」
言い合いを続ける二人を見て、武子が優刀に尋ねる。
「試験飛行では落ちなかったし、大丈夫だろ……たぶん」
実際、会話のドッヂボールで機体がふらふら揺れているが、落ちる気配はない。
優刀は言った。
「二人とも、じゃれつくのはそこまでにしてくれ。試験開始だ」
「な! 優刀、しかしだな……」
「いいから。先方が焦れてるぞ」
言われて、二人は視線を前に向ける。
怪異が徐々に近づいていた。
「わわっ! こっち来てる!?」
「黒田少尉、上昇だ! 敵の頭を取る!」
「了解です! めざせ恩給、特別手当!」
叫んで、黒田が気合を入れる。すると、二人の体がゆっくりと上昇を始めた。
「二人を援護する。サーシャ隊はバルクホルン達の直援。ロスマン隊は上、フジ達は左から。バルカンの有効射程に入るまで、ビーム発射口を徹底的につぶせ」
優刀はFN M2HB-QBCを構えると、あいさつ代わりに一発お見舞いする。
放たれた12.7×99mm NATO弾は、あっさりと怪異の外板を貫通。内部で爆発して大穴を開ける。
上がった白い破片が狼煙となって、ウィッチ達が攻撃を開始した。怪異の周囲を飛び回り、機を見て鋭い一撃を加えるその姿は、まさしく猛禽だ。
放たれる攻撃は精密で、寸分の狂いなくビームの発射口だけを破壊する。
そうして、すべての発射口を無力化すると、バルクホルンたちから通信が入った。
「こちらバルクホルン。射撃位置についた」
「全機退避。バルクホルン、射撃のタイミングは任せる」
「了解だ。黒田中尉、反動制御は任せたぞ!」
「わかってますって!」
黒田が威勢よく返事して、体を起こす。バルクホルンはその勢いを利用して、銃口を怪異に向けた。二人は魔法力を全力でエンジンに注ぎこむ。
足下に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
距離はおよそ400m。すでに再生を始めている怪異の機首に狙いを定めた。
「
バルクホルンの掛け声に数舜遅れて、銃口が火を吹いた。トリガーを押したのは一秒にも満たない。けれど、その間に約100発の20mm弾が放たれ、怪異の装甲を砕いた。
バルクホルンは薙ぐようにバルカンを撃ち、胴体に横一文字の傷をつける。
すると、突然、傷の再生が止まった。同時に飛行速度も落ち、高度も下がり始めた。
まるで電源を抜かれた機械のように、怪異の活動が停止。それを見た優刀が叫んだ。
「
障壁を張るのと同時、怪異が爆発した。
孝美は衝撃に吹き飛ばされそうになるが、何とか踏ん張って耐える。
爆発が収まると、マーリンから通信が入った。
『目標の反応消失。周囲に敵影なし。戦闘終了、全機
「ドラッヘ1、了解。帰還する」
通信を終えた武子が孝美に声をかける。
「雁淵さん、戦闘終了よ。お疲れさま」
「……はい」
その言葉でようやく、孝美の緊張の糸がほぐれた。