ストライク・ウィッチーズ 灰被りの魔女   作:シュウ禅

3 / 3
扶桑から来た少女♯3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雁淵、お疲れ」

 

 戦闘終了後、ようやく基地にたどり着いた雁淵に声をかけたのは、優刀の二番機を務めていたウィッチだった。

 

「お疲れ様です……ええと」

 

「ああ、悪い。そういえば自己紹介がまだだったな」

 

 そう言って、彼女は手を差し出しながらいった。

 

「私は黒江綾香。見てのとおり所属は扶桑空軍で、階級は中尉。これからよろしく」

 

「雁淵孝美少尉です。よろしくお願いします」

 

 孝美は名乗って、手を握り返した。

 すらりとした長身に纏う白衣と緋袴は、扶桑でウィッチがまだ巫女と呼ばれていた時代からの戦装束だ。航空歩兵として空を飛び回る様になった当初こそ、飛行服として採用されていたが、使用者に合わせたオーダーメイド品で大量生産に向かないことから、扶桑海事変後に正規の装備品からは外された経緯がある。

 とはいえ、着慣れた者たちにとっては動きやすい恰好らしく、自費で衣装をそろえるベテランウィッチは多く、新米と見分ける一つの指標にもなっていた。

 

「しかし、災難だったな」

 

「……え?」

 

「今日の戦闘の事さ。着任早々に初陣とは……。優刀も人使いが荒い」

 

「まったくだ」

 

 黒江の話を引き取ったのは、先ほど豪快にバルカンを振り回したおさげの少女だ。

 

「カールスラント空軍、ゲルトルート・バルクホルンだ。階級は中尉。よろしく頼む」

 

 孝美も自己紹介して、手を握り返す。

 

「新人をいきなり戦闘に参加させるなんて、無茶にもほどがある。あいつは一体何を考えているんだ」

 

 ウィッチは階級を気にせずに、ざっくばらんに会話することが多い。それは堅物と噂のカールスラント人も同様のようだった。

 

「そう言うな、バルクホルン。先生の教え子に先を越されるわけに行かなかったんだから」

 

「先生?」

 

「最初に合流した銀髪のウィッチのことさ。教え上手で有名でな」

 

 黒江によると、部隊が使用する基地には、カールスラント空軍の航空歩兵部隊も駐留していて、先生ことエディータ・ロスマン少尉は、以前そこの教育係を務めていたそうだ。

 部隊間の仲は別段悪いわけではないが、試験部隊の性質上、データ取りの為に獲物の取り合いみたいなことが起きるらしい。

 

「夕飯時にでも顔を合わせることになるさ。だが、連中には気を付けろ。優秀なんだが、一癖も二癖もある奴ばかりだ」

 

「それはどういう……」

 

「そのままの意味だ、雁淵少尉」

 

 バルクホルンは渋面を作って、

 

「消灯後は部屋の鍵をきちんと閉めておけ、絶対に。なんなら枕の下に護身用の拳銃を隠しておくといい。身の危険を感じたら構わず撃て。私が許す」

 

 と、物騒なことを言った。黒江の方を見ると、笑いをかみ殺している。

 反応に困っていると、

 

「雁淵少尉、よろしいですか?」

 

 後ろから、小柄な少女に声をかけられた。

 

「おお、サーシャ。お疲れ」

 

「お疲れ様です、黒江中尉」

 

 手を挙げて軽く挨拶する黒江に、サーシャと呼ばれた少女はきちんと一礼。

 

「雁淵、彼女はアレクサンドラ・イワーノヴナ・ポクルイーシキン中尉。オラーシャ出身だ」

 

 黒江に紹介されたサーシャは今度は孝美に向かってぺこりと頭を下げた。つられてお辞儀する。

 

「よろしくお願いします」

 

「ポクルイーシキン中尉、よろしくお願いします」

 

「サーシャでいいですよ。皆はそう呼んでいますから」

 

 そう言って、サーシャは柔らかい笑みを浮かべた。

 

「雁淵少尉、執務室で隊長がお待ちです。着任の報告をお願いします」

 

「わかりました」

 

「では、中尉、失礼します」

 

 と言って、サーシャは踵を返す。

 孝美は黒江たちにお辞儀して、その場を後にした。

 サーシャの後に続いて、格納庫を出る。今日はだれかの背中を追ってばっかりだ。

 だからだろう、故郷の佐世保にいる妹のひかりのことを思い出した。

 突然の欧州派遣で何の連絡もできずに心配をかけた。落ち着いたら、また手紙を書こう。メールの方がお金もかからないし簡単で早いが、相手のことを考えて一筆一筆したためる手間暇が、孝美は好きだった。

 隣の大きな白い建物に入る。石作りの古い建築物だ。周囲に石柱がいくつも立っているが、かけているものがほとんどだった。

 

「大理石ですか?」

 

「ええ。古代ダキアの神殿を利用しているのです。こういった遺跡がある土地はエーテルを大量に含んでいて、ユニットのエンジン始動にいろいろ都合がいいですから」

 

 中に入ってみると、以外にもモダンな雰囲気の空間が広がっていた。壁は塗りなおしたかのように真っ白で、とても1000年以上前の建物とは思えない。想像以上に天井は高く、回線がむき出しのLEDライトが等間隔でならべられていて、石畳の床を照らしていた。

 廊下を歩いていると、壁際に段ボールが平積みされているのがちらほら見えた。

 

「私たちも、最近こっちに越してきたんです」

 

 孝美の視線の動きに気が付いたのか、サーシャは言った。

 

「以前はダキア空軍の基地に駐留していたのですが、NATOが航空部隊を増強することが決定したので、我々はより内陸の基地へ移動となりました」

 

「それだけ戦況が悪い、ということでしょうか?」

 

 と孝美が尋ねる。

 

「元々、この国は航空戦力が心もとなかったのです。……ダキアが航空機産業の最先端を走っていたのも今は昔。NATOに加盟して組織と装備の再編成を行っているようですが、経済不況の煽りを受けて、遅々として進んでいません」

 

 サーシャは答えた。

 

「ここ百年は、大規模な怪異発生の記録はありませんし、出てきても陸上型の旧来の怪異ばかりでした。飛行型怪異との交戦経験があるのは、ヒスパニア戦役に派遣したカールスラントやオラーシャ、ブリタニア、扶桑海事変の当事国である扶桑、そして同盟国であるリベリオンなどの主要国だけ……。仕方がないといえば、それまでなのでしょうけど……」

 

 奥まで進むと、大きい扉があった。サーシャは静かにノックして開けた。

 

「失礼します。雁淵孝美少尉を連れてきました」

 

 およそ広さにして十畳ほどの狭い執務室には、三人のウィッチの姿があった。エディータと武子、そしてこの部屋の主である、緋村優刀だ。

 エディータ達はデスク横の安物のソファに座って、コーヒーを飲んでいた。

 

「ご苦労様、サーシャ」

 

 孝美たちが入室したのを確認すると、三人は立ち上がった。

 

「雁淵孝美少尉、着任の報告にまいりました」

 

「自分が共同先進航空戦術研究試験飛行隊(JAATRTSQ)"ドラッヘ"を任されている緋村優刀だ」

 

 そう言って、優刀は孝美の前まで移動する。

 背の高い男性だ。今は藍染めの羽織とマフラーではなく、グリーンのフライトジャケットを着ている。右胸に部隊章、肩には教導隊の証であるコブラのマークのワッペンをつけていた。魔力を使えることから、まだ成人していないだろう。けれど、歳不相応に落ち着いた雰囲気は、武子の人物評とまったくつながらない。

 

「ダキアについて早々に出撃を命じてすまなかった。おかげで助かった」

 

「いえ、私こそ、お役に立てたかどうか……」

 

「その点は大丈夫、初陣とは思えぬ動きだったと、フジから聞いてるよ」

 

 ちらりと武子の方に視線を移すと、彼女はにっこり笑っていた。

 

「さて、いろいろ聞きたいことがあるだろう。まず、君の原隊の話からしようか」

 

「はい」

 

「まず、君の原隊は扶桑国空軍航空戦術教導団飛行教導群教導隊。通称、アグレッサー部隊の所属になる」

 

「……え」

 

 孝美は思わず声を漏らした。一瞬、何を言われたのかわからなかった。

 目を丸くする孝美に、優刀は、

 

「まあ、普通はそういう反応するよな」

 

 と言って、ソファに座るよう促す。

 サーシャと言われるままにすると、いつの間に淹れていたのか武子が目の前のテーブルにコーヒーの入ったカップを置いた。彼女は優刀の隣に腰を下ろす。その反対側にはエディータが着席していた。

 

「さて、どこから説明したらいいものか……。そうだな、まず率直に言うと、今の扶桑には人材がない」

 

「オブラートに包んでいいなさい」

 

 武子にぴしゃりと言った。

 

「ム……、本当のことだろうに。扶桑海事変で開戦以前からいたウィッチのほとんどは再起不能、もしくは長期療養で離脱し、どこの飛行隊も定員割れ。苦肉の策で「扶桑海の閃光」なんてプロパガンダ映画を作ったんだから」

 

 優刀は続ける。

 

「映画は大成功。養成校には大量の志願者が押し寄せて、航空歩兵部隊補充の目途は立ったが、あの戦いで得られたノウハウを検証と研究、伝えられる人材は不足してる。……それは戦技の調査研究を任務とする教導隊にとっては死活問題だ。実戦部隊から引き抜く余裕もない以上、一刻も早く優秀な人材を確保して育成する必要がある。そして、士官学校でもとりわけ優秀と評判だった君が引き抜かれたというわけだ」

 

 飛行教導隊は誰もが希望して入れる部署ではない。現隊員から一本釣りのような形で打診があると、もっぱらの噂だ。

 孝美は気になっていたことを尋ねた。

 

「なぜ教導隊所属の緋村大尉が、前線それも国外で戦闘しているのでしょうか?」

 

「そこらへんはちょっとややこしいことになっていてな」

 

 優刀は言った。

 

「最初から実戦への参加が目的だったわけじゃない。俺やエディータ、サーシャは航空歩兵の共同航空戦術研究計画に招聘されたんだが、同時期に行われていたストライカーユニットの共同開発計画と合併。クリミアに怪異が出現すると、戦術や戦技の習熟と問題点の洗い出しのために前線に送られたんだ」

 

「試作の装備と一緒に前線に、ですか?」

 

「ああ」

 

 優刀は頷いてから、コーヒーを一口飲む。

 

「怪異については謎の部分が多い。航空歩兵は生まれてから日が浅い発展途上の分野だ。最新の調査情報と航空戦術の意見をすぐにユニット開発に反映出来れば都合がいいと、上は考えたんだろう」

 

 おかげで無理難題を押し付けられて大変だ、と付け加えた。

 

「そんな経緯から、部隊は兵装試験班と君の所属する戦術研究班の二つの飛行班に分かれているが、そんなに気にする必要はないよ。まずは航空歩兵として一人前になるのが先だからな」

 

 余計なことは考えず、まずは目先のことをこなせという事らしい。

 

「とりあえず、今日はこんなところかな。明日からしばらくは飛行訓練の日々が続くが、必要とあれば実戦にも出てもらうから、そのつもりで」

 

 優刀の話は終わった。

 立ち上がると、孝美はサーシャと共に敬礼して退出する。夕食までは自由時間という事で、彼女に基地内を案内してもらうことにした。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。