今回はついに原作(の冒頭に当たる部分ですが)に突入です。前回に比べて質が低下しているかもしれませんが、最後までお読み頂ければ幸いです。
後、しれっとですが主人公の容姿についての説明が登場します。(今更)
『ギャラルホルン』火星支部―――――通称『アーレス』―――――において司令官を任されている男、『コーラル・コンラッド』は不機嫌さと苛立ちを露わにしていた。
机の上で手を組みながら眉間に皺を作り、目つきは非常に険しい。そしてコーラルの視線の先には幾つかの書類が存在していた。
その視線の先にある書類こそが、コーラルを不機嫌にさせている元凶だった。早い話が、『テメェ怪しいから取り敢えず監査するね。その為に監査局の人間派遣するからちゃんと出迎えの準備しとけよ。』という内容の書類だ。つまり、コーラルからすれば、自分が今までに行ってきた不正や汚職が露呈してしまう危険があるのだ。しかも、送り込まれてくるのは自分よりも遥かに年下の人間。その内の二人はあの『セブンスターズ』の関係者。
自分が築き上げた地位を、若造共の手によって奪い取られる。それは、コーラルにとって何よりの屈辱であり、また絶望でもあった。
(私が築き上げたものを奪われる訳にはいかん。何としてでもあの若造共には隠し通さなければ。)
コーラルの頭には、最早『自分の権力と地位をどのようにして守り抜くか』を考えることしかない。というか、考えなくてはいけないくらいには自分がしてきたことに後ろめたさを感じている。兎に角、今のコーラルは自らの保身のみを考えている『小者』に過ぎなかった。
(特に警戒すべきは奴だ。奴の『鼻』をどう誤魔化すべきか。)
そんな様に自らの保身のみを考えているコーラルであったが、彼が一番警戒すべき相手だと真っ先に思い浮かべる相手は一人しかいなかった。
『セブンスターズ』の関係者二人の護衛として、『アリアンロッド艦隊』から派遣されてきた精鋭。『地球経済圏』でその名を知らぬ者はいないとまで言われる程の名声を持ち、更に嘗ての自分の部下であった『クランク・ゼント』と『アイン・ダルトン』の二名を何気ない顔で引き抜いていった憎き男。
(『レオナルド・ラインベルガー』!!)
憎悪に満ちた目で、一枚の顔写真に視線を向けるコーラル。その写真には、整った顔立ちに爛々と煌めくルビーのように赤い瞳と黒色の髪が特徴的な鋭い眼光の男が映り込んでいた。そう、その写真に映る人物こそ『レオナルド・ラインベルガー』其の人である。
(何が『黒狼』だ!所詮は『エリオン家』に媚びを売るだけの野良犬風情が!!)
思わず組んでいた手に力を込めるコーラルだが、彼自身はそのことに気付いていない。そして、更に自らの中にあるありったけの憎悪を心中で吐き出し続ける。
嫉妬や憎悪を心の中でまき散らし続けるその姿は何とも醜く見るに堪えないものである。
『コーラル司令、至急連絡させて頂きたいことが。』
そんなコーラルのもとに通信が入ってくる。考え事に没頭していた所を邪魔されたコーラルは内心で舌打ちをしつつも、通信に答える。
「・・・手短に話せ。私は忙しい。」
『はっ!』
簡潔に纏められた報告によると、『監査局』の人間とレオナルドが火星に直接降りたいと言い出したということでその許可が欲しいとのことらしい。ただでさえ、こっちに来てから色々と好き勝手にしているにもかかわらず、まだ何かをするつもりなのか。
(クソッ、余計な仕事を―――――)
そう思い、却下の言葉を口にしようとした矢先にコーラルは閃いた。これは絶好の機会なのではないかと。
(あの二人も、そして忌々しい野良犬もいない。この間に作業を進めてしまえば―――――)
「良いだろう、許可する。色々と便宜を図ってやれ。」
『はっ!』
それだけ言って通信が途切れる。今まで不機嫌だったコーラルの表情は、今は不敵な笑みを浮かべている。
(これで奴らはいなくなる。後始末がしやすくなるというものだ。)
それだけを胸中で呟いた後、今まで組んでいた手を解いて受話器へと向ける。そして何処かへと繋ぎ始めた。
「私だ。例の件について―――――」
コーラルはまた動き始める。自らの地位を守るために。尤も、その努力が水泡に帰すことになるのはもう少し先のことだ。
コーラルはまだ、そうなることを知らない―――――
「あー、誰かさんの運転のせいでお尻が痛いんですけどー。」
「悪かったな、下手な運転で。」
俺の隣に立っている紫髪の大男に悪態を吐くと同時に、凸凹の激しい道を走行してきたことで、少し痛みを訴えかけてくる自分の尻を左手で擦りながら、右手で双眼鏡を構える。
双眼鏡から見えるのは、何かで抉られたような状態となった赤茶けた剝き出しの大地だ。形跡から見て、MSサイズの鈍器か銃弾を受けた可能性が非常に高い。つまり、ここで戦闘があったという痕跡に他ならないのだ。
こんなにハッキリと痕跡が残ってしまう程のMS戦は地球では滅多に行われることはない。精々がギャラルホルンでの模擬戦闘位なものだ。ならば、此処は何処なのか?それはもう分かる人になら分かる筈だ。
そう、今俺は『鉄血のオルフェンズ』が始まることになったあの火星に来ているのだ。何故俺が火星にまでやってきたのかについてだが、それは俺の上司である『ラスタル・エリオン』から直々に特命が下ったからだ。ラスタル様から下される特命の殆どは『セブンスターズ』絡みの案件だ。今回も例によって例の如く、『セブンスターズ』に関連のある二名の護衛が主な任務となる。まあ、誰が護衛対象なのかはもう察しているだろう。
どうして俺に『セブンスターズ』絡みの任務が舞い込んでくるのかという疑問を抱く人間も居るだろうが、そこはまあ、色々とあるんだよ。そう大人の事情って奴さ。
え?『アーレス』での遣り取りはどうしたって?いやいや、特段珍しいこともなかったからカットしたんだよ。赤色の制服を着た某三佐との遣り取りなんて見たいと思う人居る?居ないでしょ?それに、あの野郎何故だか知らんがやけに俺に突っかかって来るんだよなぁ。同じ階級だからなのか、それともアインとクランクを引き抜いた時のことをまだ根に持ってるのか・・・細かい事はよく分からん。まあ、『アーレス』のような支部を丸ごと一つ任されているという点を見れば向こうの方が遥かに立派だと思うんだがね。
それに比べて、支部どころか艦隊の一つですら任されることがない俺って奴は・・・。これが、MSの操縦技術しかない男の限界か。(涙目)
ま、まあそんなことはさておき、ここで戦闘が行われたという痕跡が残っているということは、何事もなく『ガンダム・バルバトス』は起動したということを意味している。つまり『原作』が始まったということだ。
あのシーンには本当に鳥肌が立ったね!不謹慎かもしれないが、出来ることならば当事者として『ガンダム・バルバトス』の起動シーンを見てみたかったとは少し思う。
(ついに始まったんだな。)
本来ならばここでクランクは死ぬ筈だった。だが、俺がアインと共に自分の部下として引き抜いてしまったから、『クランクが死ぬ』という未来は必然的に回避されてしまった。少しずつだが、『歴史』は変わり始めている。今はまだ小さな変化だが、いずれもっと大きな変化を引き起こすことになるかもしれない。
(気を引き締めていかないとな。)
『原作』の流れと知識のみを過信しないように気を付けていかないとな。因みに、『オーリス・ステンジャ』は恐らく此処で戦死したと思う。いや、一応彼にも声は掛けたんだよ。でも、見事に一蹴されたよ。後でアインから聞いたんだが、俺からのスカウトを『弱小下級貴族からのスカウトなど片腹痛いわ!』と鼻で笑っていたそうだ。多分、増長していた時期だったんだろうし、アインやクランクが俺に引き抜かれるのを『ライバルが減る』程度にしか考えてなかったんだろうよ。
まあ、誘いを断られた以上関わる事は出来ない。結果として『オーリス・ステンジャ』についてはそのまま放置という結果になってしまった。全てを救うのは不可能だ。拒否されてしまえば猶更だ。
(ままならんものだよ。本当に。)
そう思いながら双眼鏡を覗き続ける。
「正に不毛の大地だな。」
「いや、まだハーフメタルとか色々残ってるから、完全に不毛な大地って訳じゃないぞ。」
世間知らずそうなお坊ちゃまが言いそうな感想に、しれっと自分の言葉を返しておく。紫髪の大男は俺の言葉に少しムッとしたような様子を見せるが、すぐに表情を戻した。
「んんっ!しかし、何故こんな所に?」
紫髪の大男はわざとらしく咳払いをしてから、俺と同じように双眼鏡を構えている金髪の大男に向かってそんな質問を投げかける。
「クーデリア・藍那・バーンスタインが行方を眩ませている。」
双眼鏡を構えながらそう言う金髪の大男にキョトンとした表情を受けべながら口を開き始める紫髪の大男。
「クーデリア?資料にあった、『ノアキスの七月会議』のか?」
紫髪の大男がさらっと口にした『ノアキスの七月会議』という単語。これは簡単に言えば、『独立運動家をまとめた』会議のことだ。つまり、今までバラバラに活動していた独立運動家がその会議を通じてある程度だが共同歩調を取ることが出来るようになったということだ。そして、この会議を成功へと導いたのは『クーデリア・藍那・バーンスタイン』。だからこそ、彼女は『革命の乙女』などと言われながら、革命の要として持ち上げられていることになったのだ。
たかが会議一つで何を大袈裟な、と思うことなかれ。その会議が行われた当時はまだ十代だったことを考えると、彼女がどれだけ凄いのかがお分かり頂けるだろう。俺だったら絶対に出来ない所業である。個人的には惜しみない称賛と尊敬を送りたい気分だ。
まあ、手放しで称賛できる立場じゃないんだけどね。
「実は地球を出る際、彼女がアーブラウ政府と独自に交渉しているとの情報を耳にした。」
「はあ?まさか、『圏外圏』の人間が『地球経済圏』の一つと直接交渉を持つなど、ある筈が・・・。」
「いや、彼女に関心を持つ人間は多いぞ。アーブラウで彼女に興味を持ちそうな人物となると、蒔苗東護ノ介氏だろうな。」
金髪の大男の言葉に『有り得ない』というニュアンスが込められた言葉を返した紫髪の大男。そんな紫髪の大男の言葉に俺からも言葉を返しておく。まあ、『鉄血のオルフェンズ』を視聴したことのある人間なら、クーデリアが誰と交渉を行っていたのかは自ずと理解できる筈だ。所謂、『原作知識』という奴の範疇にある知識だ。
「はあ!?蒔苗東護ノ介程の人物と『圏外圏』の人間が直接交渉を行うなど、有り得る筈が・・・。」
「『有り得ない』、なんてことは『有り得ない』ってことさ。ガエリオ。」
紫髪の大男――――――『ガエリオ・ボードウィン』は俺の言葉にまた『有り得ない』というニュアンスを込めた言葉を投げ返そうとしたが、俺もその言葉を否定する言葉を口にしておく。じゃないと、鼬ごっこになりそうだし。
「相変わらずの『嗅覚』だな。」
「お褒め頂き光栄だよ、マクギリス。」
金髪の大男――――――『マクギリス・ファリド』から発せられた褒め言葉に対して、軽く受け流しておく。コイツの褒め言葉は殆どが社交辞令のようなものだ、鵜呑みにして過信してはいけない。軽く受け流すくらいが丁度いいのだ。
俺に褒め言葉を言ったマクギリスは、静かにガエリオへと自分が持っていた双眼鏡を手渡す。ガエリオはマクギリスから双眼鏡を受け取ると、その双眼鏡を覗き込む。
「ん?何だ、あれは?」
恐らく、不自然な形になっている岩でも見たのだろう。純粋な疑問だけが籠った声でそう言うガエリオ。
「此処で数日前、戦闘が行われたという情報があってな。そしてその前日、クーデリアの父であるノーマン・バーンスタインはコーラルの元を訪れている。」
「それはつまり、コーラルが彼女を狙ったってことか。」
「そういうことだな。そして、未だに行方不明の一個中隊が此処で戦闘を行ったとすれば・・・。」
ガエリオとマクギリスの会話の中にそれとなく介入する。両名共、俺が会話に加わることに顏を顰めたりはしなかったので、そこは少しホッとした。
「全ては繋がる、ということか。」
そして、俺の言葉に納得するように相槌を打つガエリオである。ちゃんと会話の意図を察してくれる所に、その優秀さが見て取れる。まあ、優秀なのは学生時代に嫌という程理解させられているんだがね。何せ、ペーパーテストで二人には一度も勝てなかったんだもの・・・。
いや、一回だけ勝ったことがあったけ。確か外国語の科目で俺は日本語を選択してたんだが、何をトチ狂ったのか二人共一緒に日本語を選択してな。そこでまあ、『前世』での経験が大活躍しちゃってね。結果として、日本語での成績は二人を上回ったという訳さ。まあ、その後は二人にあっという間に並ばれたけどね・・・。
「彼女の身柄を拘束出来れば、統制局の覚えも目出度いだろうからな。我々の監査など、どうということも無い程に。」
そう言うマクギリスの顔はちょっとだけだが笑っているようにも見える。それはまるで、何か悪いことを企んでいるようにも見えてしまう。偏見なんだろうか?
「で?確証は得られそうか?」
俺がマクギリスに質問を投げかけるが、マクギリスは静かに首を横に振る。
「まだ証拠が足りないな。もう少し情報が欲しい。」
「じゃあ、もう少しこの近辺を探索するってことで良いんだな?」
マクギリスからの返答に対して、俺は更なる質問を投げかける。今度は首を縦に振っているということは、肯定ということで良いのだろう。
「ああ。ガエリオ、運転を頼む。」
「ああ、分かった。」
マクギリスから車の運転を頼まれたガエリオは、返事を返すとそのまま車へと足を向ける。それに倣って、マクギリスも車へと歩き始めていた。
(次は、いよいよ『三日月・オーガス』との対面か。)
そう思いながら、じっと火星の大地を睨み続けていた。
「おい、レオナルド。置いていくぞ。」
「ん?ああ、悪いちょっと考え事をしてた。」
それだけ言うと、俺も車に向けて歩き始めた。この後に訪れるであろう、波乱の予感を感じながら。
今回はここまでになります。いきなり火星まで視点を飛ばしたので、すこし脈絡が無くなってるかもしれません。不快に思われた方もいらっしゃると思います。
そして、やっと冒頭とは言え原作に突入&マクギリスとガエリオを出せました。ようやくここまで来れました。後は三日月とバルバトスを出せれば完璧です。
次回も早めに更新できるよう努力致しますので、これからもこの作品を見守って頂けると幸いです。