是非ご覧下さい。
5戦目開始のアナウンスがなる中、太刀川慶は目の前に立っている青年を見据えて、楽しそうに笑みを浮かべていた。自分に勝負を挑んできたC級の隊員、稲葉良次。そもそも自分に勝負を挑んでくる時点で普通ではないのだが、戦ってみると良い意味で期待を裏切らなかった。1,2,3戦目は、まだトリオン体に慣れていないようで、素人らしい戦いぶりだった。しかし、今の4戦目である。一応、強者としての自負がある自分と、まさかここまで戦うとは。
(この1戦で、・・・流れを持っていかれるかもしれないな)
そう考えると、益々楽しみになってくる。まさかこんなに面白い展開になるとは思わなかった。こんなにも早くトリオン体に適応してくるとは。
しかし、太刀川自身も簡単に負けてやるわけにはいかないと考えていた。そのためにも、今までのように正面から斬りに行くわけにはいかないだろう。直前までは先ほどと同じ動きで、今度は突きを狙ってみようか。
そこまで考えたところで、太刀川は動き出した。狙うは相手の心臓部、そこさえ突ければ一撃で決められる。
先ほどとは違い、待ち構えている良次は何故だか全く動かない。明らかに隙だらけ、このままいけば、太刀川は心臓部を貫き、一刀のもとに勝利を収めるだろう。
(いや、これは。誘い込まれているのか?)
先ほどの3戦目と違い、明らかにうまくいきすぎているために、誘い込まれていることを太刀川は悟る。しかし、ここで怯んでいては、むしろ相手の思う壺であろう。それならば、と。
(相手に対応されるよりも速く貫く!)
あえて全速力で良次へと突撃する。当初の作戦とは違い、持てる力を全て注ぎ込むためもうすでに突きの体勢に入る。小細工なしの、文字通り突貫である。
見物人たちの殆どの者がその動きを捉えられないほどのスピードで迫る太刀川を、対する良次ははっきりと見据えていた。鋭い目付きで睨む顔つきは、とてもこの間まで中学生だったとは思えない。
「それでは、まずひとつ」
唐突に良次が口を開く。その言葉に、一瞬驚く太刀川だったが、すぐにまたその一撃に集中する。激突する瞬間、良次が口を開いた。
「いただきます」
2人の体が交錯する。
常人では対応できないスピードで繰り出される突き。
それを良次は紙一重で避ける。そして、
「葬刃」
一閃。
流れるような動きで相手の胴を捉える。
太刀川のトリオン体が真ん中から二つに別れ、床へと倒れ伏した。
『太刀川、ダウン』
そのアナウンスが流れるも、しばらくの間、ブースにいる人々は状況を把握できないまま、静寂に包まれていたのだった。
▼
それからは圧倒的な展開だった。序盤の劣勢はなんとやら、勝負の開始とともに剣先を太刀川に向けると、良次は自らの間合いに一度たりとも入らせることはなかった。鋭い目付きを一度も崩すことなく、徹頭徹尾太刀川を睨み付けていた。
良次の振るう剣は、初めて剣を握った者が振るえる様なものではないことは、誰の目にも明らかだった。人にとって呼吸するのが当たり前であるように、まるで日常の一部の如く、振るわれていたのだ。
『太刀川、ダウン』
最後の10戦目終了のアナウンスまで、観客の沈黙は破られることなく、勝負が終わった。結果は6-4で良次が勝利したが、そこにいる誰もが眼前の光景を信じられずにいたのだった。
「ありがとうございました」
「おう!お前みたいな新人が出てくるとはな!これは益々ランク戦に力をいれるとするかな!」
終了後、両者は握手を交わす。太刀川は悔しさこそあるものの、新たな強者の出現に胸を踊らせていた。その後、二人揃ってブースを出る。異様なほど静まり返る観客に、良次は少し疑問を抱くも、すみません、と声をかけながら掻き分けるように進んでいく。そうして進んでいるなか、良次の目は一人の女性を捉えた。彼の憧れである、オペレーターの少女だ。
「あ!はる姉さん!見てくれてたんですか!?」
沈黙の原因である人物が唐突にそれまでの表情を一変させ、満面の笑みを浮かべる。手を挙げてブンブンと振りながら声を掛ける先には、綾辻遥の姿がある。
「ああ、うん!見てたよ、よし君」
「無事、初勝利することができました!はる姉さんが見まもってくれていたおかげです!」
仲良さげに話す様子に、周りは騒然とする。姉さんと呼んでいることから、まさか兄弟か?いや、でも苗字違うしな。などなど。様々な考えが交錯するなか、太刀川が二人に声をかけた。
「お?綾辻の知り合いだったのか。もしかして恋人か?」
「いえいえそんな!ちょっとした親戚です!」
その言葉の意味を理解し、少しばかり赤面しそうになる遥だったが、それよりも先に良次が否定する。微妙に複雑な気持ちになったが、すぐに話題を変えようと次の言葉を発した。
「お久し振りです。太刀川さん」
「おう、久しぶり。にしても凄い親戚がいたんだな、綾辻。というか、お前より年下なのか?俺と同じくらいだと思ったんだが」
「ええ、私より一つだけ年下ですよ」
そこまで話したところで、太刀川が嵐山隊の面々に気づく。
「お、よく見たら、嵐山隊勢揃いだな。・・・いや、佐鳥はいないみたいだが」
「まあ、佐鳥のことは・・・うん」
「追試的な何かなので気にしないでください」
「ああ、うん」
そう会話を交わす嵐山隊と太刀川を見て、良次は少しの間思案する。嵐山隊?どこかで聞いたことがあるな。そんな風に考えていると、そういえばはる姉さんが所属している部隊の名前がそうだったな、と思い至る。そうであれば挨拶しなければ、と即座に嵐山隊の面々に声を掛ける。
「あの、すいません。はる姉さんと同じ部隊の皆さんですよね?いつもはる姉さんがお世話になってます。はる姉さんの親戚筋にあたります、稲葉良次です」
「ああ、ご丁寧にどうも。こちらは、」
そうして嵐山隊の面々も、自己紹介を済ませる。
「ところで、良次さん」
「あ、はい。何でしょうか」
自己紹介を終えると、突然後ろで控えていた木虎が良次に話しかける。その表情はすこし厳しめだ。
「あなた、何者なんですか?」
「ああ、それは俺も気になっていた。まさか、太刀川に勝つとはな」
「あの、先ほど言った通りはる姉さんの親戚ですが」
木虎と嵐山にそう尋ねられ、すこし困惑するも、先ほどと同じように返答する。
「いや、そうではなくてですね。あなたが何で太刀川さんに勝てたのか知りたいんです」
「んん?えっと、それはどういった質問ですかね?」
「だからですね!」
質問に対して首を傾げる良次に埒があかないという風に口を開こうとするが、それを遥が緩やかに宥め、良次に問いかける。
「そのね、よし君。太刀川さんは、ボーダーのなかでは、最強っていうか、そのくらいの地位にいる人でね。そんな太刀川さんにどうしてよし君が勝てたのかなー、って藍ちゃんは聞きたいんだよ?」
「ああ、やっぱり太刀川さんってそんなに強かったんですね。このレベルの人がゴロゴロいたらどうしようって思ってたところです」
「負けた俺には嫌みにしか聞こえないぞ?」
「あ、いえ、すみません。そう言うつもりはなくてですね!」
「はははっ、冗談だ。気にするなよ、よし君?」
「よ、よし君って、太刀川さん突然なにを!?」
ニヤニヤした太刀川にからかわれて、あたふたとする良次を見て、あれ?意外と可愛いかも、と思う嵐山隊の面々。木虎はそんな考えを頭を振って振り払い、再び問いかける。
「それで、何で太刀川さんに勝てたんですか?」
「あ、いえ。何でと言われましても、いくつか要因はあると思いますが」
「じゃあ、それを話してください」
木虎の圧力を受け、すこし後ずさりながらも、勝負が決まった要因を頭のなかで整理する。良次はそれを順々に口にする。
「えっと、まずリーチですかね。太刀川さんよりも自分の方が目測で2㎝ほどリーチが長いので、間合いを作れたことが一つ大きな要因でしょうか。あと、武器もそうですかね。太刀川さんは、普段は二刀流ですよね?」
「ああ、そうだが、どうしてわかった?」
「一刀の持ち方に違和感はないんですが、振り方に多少の違和感を感じました。斬るときの両手の力の入り具合が若干均等すぎるというか。まあ、その時点で俺に分があると思います。まあ、結果としては辛勝でしたし、まだまだ俺も未熟といったところです」
その話を聞き、成る程と思う一同。しかし、皆が本当に聞きたいのはそういうことではない。良次が告げた要因は、同等かそれに近い実力を持つもの同士の間でしか作用しないようなことばかり。根本的な疑問がまだ残っているのだ。それを聞き出そうと、再び木虎が口を開く。
「いや、そうでなくてですね。貴方の動きがその、常人離れしている理由を聞きたいのですが」
「それは、日頃の鍛練の賜物、ですかね」
「あれ?よし君って剣道かなにかやってたっけ?」
「え?ああ、はる姉さんにも言ってませんでしたっけ?家業と言いますか、一応武術の家系の血を引いてます。まあ尤も、今は門下生もいないんですけどね」
そこまでいって、ああそういえばそうだったな、と良次は思い返す。10年前も、遥といるときは甘えっぱなしだったし、全くその話にはならなかったっけ。そう考えた良次は居ずまいを正し、改めて自分の素性を名乗ることにした。
「改めて、稲葉流武術の18代当主、稲葉良次です。以後、お見知り置きを」
勝負の結果はどうするか悩みましたが、このような形にさせていただきました。太刀川さんファンの方々、すみません。
武器が剣一本だけの勝負では、少なくとも最強レベルという設定にしました。シューターとかスナイパーとかが絡んでくると話は別ですが。
次は少し遅くなるかもしれませんが、待っていていただけるとありがたいです。