主役はオリジナル主人公ですが、メインは大吾てす。
どこまでが「龍が如く」の二次創作なのか、が裏テーマです(笑)。
実録 東城会 ― 龍の系譜
私は、信成(のぶなり)孝(たかし)。フリーのジャーナリストをしている。主に実録系の記事を書いており、特にヤクザに取材をする事が多い。
まだ駆け出しの頃、神室町を震撼させた「カラの一坪」騒動で、大活躍(?)を見せた堂島の龍こと桐生一馬と出会い、それからは彼を中心に東城会を追い掛けた。
桐生一馬の人生は、東城会の激動の歴史そのものである。そして、彼に影響を受けた人間も、また多い。他人の人生を大きく動かすという意味で、彼の存在は東城会にとっても、彼の周りにいる人間にとっても、無視する事の出来ない大きなものである。
桐生一馬は、既に堅気になっており、今は、沖縄で孤児院を運営している。しかし、東城会に何かあるたび、彼は呼び出されている。結果、彼は東城会のトラブルを解決する事で、益々カリスマ性を高めている。
ー度は直接沖縄まで出向いて、直撃インタビューを試みた。しかし、養護施設アサガオを経営する彼に接触する前に、澤村遥に止められた。彼女は、桐生の生涯最愛の女、澤村由美の忘れ形見で、中学生ながら施設の運営を手伝っている。
「帰って下さい」
学校帰りで制服姿の澤村遥に、きっぱりと断われた。
「おじさんは、アサガオのみんなにとって、とっても大事な人なんです。お父さんであり、お兄さんであり、先生であり、私の…。とにかく大事な人なんです。だから」
そこで、澤村遥は大きく息を吸って、間を取った。
「おじさんに構わないで」
沖縄で空振りをした私は、今まで通り外堀から攻める事にした。
"神室町の駆け込み寺"こと「スカイファイナンス」の社長、秋山駿。つい最近の事だが、警察と暴力団との癒着が暴露された件で、この秋山と現冴島組組長の冴島大河、"神室町のダニ"こと谷村正義、そして桐生一馬の四人で、事態を収拾した。また、神室町ゾンビ事件の時も、彼は桐生と行動を共にしている。
「まあ、桐生さんがいなければ、今の俺もいないんですけどね」
煙草に火を付けながら、秋山は切り出した。
「俺、昔は銀行マンだったんですよ、これでも。でも、色々あって、全てを無くしちゃったんです。なので、一時はこの神室町でホームレスしてました」
秋山はそこで一度言葉を切った。黙って煙草を差し出す。私が首を横に振ると、今度はペットボトルの茶を示した。私は目礼してからフタを開け、ひと口飲んだ。
「すんませんね、こんなのしか無くて」秋山は頭を掻いた。「今、秘書がバカンスに行ってるもんで。何がどこにあるか、さっぱりで」
私は小さく首を振ると、手帳を取り直した。
「ああ。それで、あったでしょう、百億事件。あの時、俺は百万手に入れました。それを運用して、今のスカイファイナンスがある訳ですよ。だから、直接では無いんだけど、桐生さんは俺の大恩人」
私は頷くと、先を促した。
「初めて本人に逢ったのは、宗像副総監の事件の時でした」そこで秋山は小さく笑った。「でも、何だか初めてじゃないみたいでしたよ。何せ、周りのヤクザの全ての口から、桐生さんの名前と噂は散々に聞いてましたからね。ああ、この人が桐生さんなんだって」
彼はそこで二本目の煙草に火を付けた。
「あの人は、不思議な人ですよ。何て言うか、こう、何でも出来ちゃいそうじゃないですか。桐生さんが『大丈夫だ』って言ったら、きっと大丈夫なんだろうって思っちゃうんですよ。一番上の兄貴分って感じですか」
そう言えば、ちょっと前に取材した陸自の浅木美涼三曹も、似たような事を言っていた。
彼女は、ゾンビの巣窟と化した神室町で、桐生と共に闘った稀有な経験を持つ女性なのだが、その彼女はこう言っていた。
「彼は、私が答えを見つけるまで、待ってくれたんです。何というか、絶対的な包容力とでも言うんでしょうか。だから私は、自ら決着をつける事が出来たんです。
彼は私に、『泣くなら、後だ』と言ってくれたんです」
その二日後、秋山から私のケータイに連絡が入った。たまたま取れなかったのだが、留守電に「今日の二十時頃、是非ウチの店に来てくれ」と残されていた。
「ウチの店」とは、『エリーゼ』というキャバクラで、彼がオーナーである。
「エリーゼ」に出向くと、そこに一人の男が待っていた。私も、名前こそ良く耳にするものの、生で顔を見るのは初めてだった。東城会の「踊る広報室長」こと名越稔洋。踊る、の意味はよく判らないが。
「名越さん、ウチの上客でしてね」秋山が笑いながら言った。面と向かってそう言うところに、ホンモノの親しさを感じる。「昨日も来てくれてたんで、信成さんの事、話したんですよ。そしたら、繋ぎを取ってくれるって言ってくれたので」
この展開には、思わず唾を呑み込んだ。「踊る広報室長」は、本部付きの大幹部である。つまりそれは…。
「六代目と会えるよう、手配させてもらいます」
私の考えが纏まる前に、名越氏が口を開いた。外堀どころか、とんだ本丸である。
日本最大の極道組織、東城会。その会長ともなれば、いちブンヤのインタビュー如き、シカトされて当然なのであるが、何故か私は、その東城会本部の会長執務室に居た。名越氏と逢った、翌日の事である。やはりこれも「桐生一馬」というカードの力なのだろう。
目の前に、東城会三万人を束ねる大親分が居る。齢は三十四。これ程の組の長としては例を見ない程若いが、そのカリスマ性は群を抜いている。ただ黙って座っているだけなのだが、その存在感は圧倒的なものがある。
すぐに、六代目が目で合図を送り、名越氏と側近の安住氏は室外に出て行った。重い扉が閉じると、一気に室内が静かになった。
私は気圧されてしまい、目の前の茶に手を出すのが勢一杯だった。
「名越から聞きました」
六代目から切り出されて、私は動揺してしまった。
「何でも、桐生さんの話しを聞きたいそうですね。随分前から取材をしているとか」
低い声で静かに話す堂島大吾氏は、磐石で隙が無い。私は声も出せず、頷くだけだった。
彼はゆっくりとマホガニーの書架に近付くと、丁度中央あたりの扉を開けた。そこは、バーのセットになっていた。堂島会長はそこからショットグラスを二つ取り、バーボンを注いだ。一つは私の前に置く。
「呑めない訳じゃないんでしょう?」
堂島会長はそう言うと、自らも一杯呑み干した。私も、それに倣って一気に呑んだ。強いアルコールに、思わずむせる。
「良かった、あんた、イケる口だね」
突然の、会長の軽い口調に、私は一瞬思考が停止した。会長は、既に上着を脱ぎ、ネクタイまで緩めている。
「いやあ、俺も、六代目って立場があるからしかめっ面してるけど、どうにもシンドくてね」
目を丸くして身を固めている私のグラスに、なみなみとバーボンが注がれた。
「あんた、桐生さんの事、聞きたいって言ってたよな。まあ、あの人は、言ってみれば、バケモノだ。フツーの人間が太刀打ち出来る相手じゃねぇ」
それを聞いて、この間のゾンビ騒動の時のオオイカヅチを思い出した。
「あの人と対等にやり合えるのは、今じゃ三人くらいしか思い付かないな」堂島会長は少し自嘲ぎみに笑った。「そのうちの二人のお陰で、今の東城会は保ってるようなモンだ。残念ながらね」
私は曖昧に頷くしかなかったが、三人というのは心当たりがあった。
「桐生さんは、自分が強い事を良く判ってる。だから、周り全てを守ろうとする。あの人にとっては、全ての人間が庇護の対象なんだ。ただ、強すぎるから、皆自分の様に強くなれると思ってるフシがある。だから、たまに優しくねえ時もあるんだよな」
確かに、桐生一馬は強い。ステゴロでも負け知らずである。ただ、今、堂島会長が言っているのは、その強さという事では無いらしい。
「桐生さんの強さは、一言で表現するなら、『他人の為』なんだ。東城会、俺、真島の兄さん、冴島さん、風間のおやっさん、柏木さん、錦山さん、由美さん、峯、伊達さん、そして遥ちゃん、とにかく桐生さんは、誰かの為に命を懸けられる、そんな人なんだ。だからこそ、勝てっこない。なりたくないのに、世話になりっ放しだ」
堂島会長はそう言ってグラスを干した。すぐにまたなみなみと注ぐ。
「桐生さんに比べたら、俺なんか、自分の事だけで手一杯だ。畜生」
何だか少々風向きが変になって来た。
そこへ、けたたましい笑い声と共に、勢い良く扉が開けられた。
「何や六代目、もう出来上がっとるんかいな。わしらも混ぜてぇな」
飛び込んで来たのは、「そのうちの二人」の心当たりの一人、真島吾朗だ。すぐ後ろに、もう一人の心当たり、冴島大河もいる。扉の向こうでは、二人の侵入を阻止出来なかった名越氏が、済まなそうに顔をしかめた。
「おう、信成チャーン、神室町ヒルズ起工式の時はウチに来てくれとったな。今日は六代目の何を知りたいんや?スリーサイズは秘密やで」
「違いますよ兄さん、信成さんは、桐生さんの事が知りたいんですよ」
「何やそうかいな、わしなら、桐生チャンのおいどのシワのひとつひとつまで知っとるで~」
「兄弟、その答え、変な誤解を招くで」
真島氏のその言葉に、流石に苦笑しながら冴島氏がツッコミを入れた。
「桐生チャンはなァ甘いねん、あまあまやねん」真島氏は、ツッコミをスルーした。「あかん奴は、バットでガンってやってポイすりゃええのに、何かと掬い取ろうとすんねん。無駄やと判っとっても、そうしてまうねん。ホンマ、砂糖に蜂蜜かけて、それをつぶ餡でくるんだぐらい甘い。どんだけ過保護やねん」
「何や判り難い喩えやなあ」冴島氏が笑った。「まあそれだけ芯が強いっちゅう事なんやろうな。折れるとか、諦めるっちゅう事を知らへんもんなあ。ホンマ、あいつにかかったら、誰もが桐生物語の一員や」
「何が甘いもんですか」堂島会長が、二人にグラスを手渡して、バーボンを注いだ。「むしろ激辛だと思いますけどね。全く楽をさせて貰えないですから。茨の道ですよ」
「ホンマやなあ。東城会会長ともなると、遊びにも出られへんもんな」
「そうなんですよ、兄さん。桐生さん、遙ちゃんとバカンスへ行ったらしいですよ」
『何やと?』
堂島会長の言葉に、真島氏と冴島氏がハモッた。
「ゾンビ騒動の後で、遙ちゃんの事が心配だったんで、アサガオに電話してみたら、琉道一家の名嘉原親分が出て、『桐生は、遙と一緒にバカンスだ』なんて言うんですよ」
「何や羨ましいなあ。わしもどっか行きたいのお」
「組放ったらかしてどこも行かれへんやろ」
「わしも北海道でも行って、グルメ三昧したいわ」
「何やそれ」
「なあ六代目、何か理由こしらえて、北の大地を拝ませてぇな」
「判りました。丁度、お願いしたい事があるんですが」
「あ、何か六代目、目がマジやで。やっぱりエエわ、仕事したないし」
ひとり取り残された私は、三人の遺り取りを見ながら、ここに桐生一馬が居る事を想像した。そして、今の東城会はこの四兄弟の絆によって支えられている事を実感した。
無軋動で活発な長兄(真島氏)に愚直で堅実な次兄(冴島氏)、利発で不器用な末弟(堂島会長)を陰で助ける柔軟で苦労人の三男(桐生一馬)という所か。
ただ、結局は個性の強すぎる兄達に末弟が振り回される、という構図が出来上がってしまっている。今も堂島会長は、先輩二人にいじられっ放しである。
私が思わず手帳に書き入れたメモをのぞき込んだ名越氏が、堂島会長の方をチラ見して、小さく吹き出した。
「何だ名越、何が可笑しいんだ?」
それを目敏く見付けた堂島会長が、逃げる様にやって来ると、隠す間もなくメモをのぞき込んだ。
「 堂島大吾 総受け 」
「違う!断じて違う!!」
堂島会長の怒声が東城会本部に響き渡った。
終わり
2016年9月16日了
註
名越稔洋 言わずと知れた『龍が如く』シリーズの生みの親。
どんだけ過保護やねん 『しゃばけ』シリーズより拝借しました。