serial experiments akagi   作:叶芽

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―――ねえ…いつまでそんなとこにいるの?

 

 

 何…?

 

 

―――はやく、こっちおいでよ…

 

 

 誰…?こっちって…どこ…?ワイヤード?

 

 

―――違うよ…。もっと素敵なところ…。玲音もきっと好きになるよ

 

 

 何?何なの…?いったいあなたは誰?

 

 

―――私は………れいん……………

 

 

ピピピ、ピピピ、ピピピ……ピピピ、ピピピ、ピピピ…

 

 

ピピピ、ピピピ、ピピピ……ピピピ、ピピピ、ピピピ…

 

 

 

 アラームの音、私はその音源を左手で叩いた。カーテンから差し込む日が強くて、なかなか目を開くことが出来なかった。それに汗がひどくて、目醒めの悪い朝だった。それに加えて、また…あの夢だ……。もうああいうのは視ないと思っていたのに、最近になってまた…。でも…あれはlainじゃない…よね。

 

『『違うわよ。アタシだって視るんだから…。いったいあれは何なの?』』

「わか…らない。…ワイヤードでもないって……」

『『お願いだからまた病院とかにはいかないでよね?アタシじゃないんだから』』

「うん…大丈夫……でも知りたい」

『『声もノイズも強くなってるし…どーせ向こうから行動起こしてくるって。それより、今日仕事でしょ?時間大丈夫?』』

「あ……そうだ……急がなきゃ……ありがとうlain」

 

 目覚ましの針は8時半を刺していた。9時まで後30分しかない。

 

『『もっと早い時間にセットしたら?玲音すっとろいんだから』』

「じゃあlainが起きてよ…」

『『いやよ。面倒くさい』』

 

 lainと普通に話せるようになってどれくらい経つだろう。人前ではさすがにしないけど、一人でいるときは良く話す。アパートの一人暮らしなものだから、話す機会は多い。昔は…怖かったんだっけ。これ。

 私は急いで支度して、バイト先の雀荘へ走った。

 高校生になってから私は週末、雀荘で働いている。昔はいけなかったんだけど、今は小学生でも雀荘を利用している時代で、高校生以上は雀荘で働けるようになっているみたい。学費等は天おじさんに工面してもらっているけど、いつまでも頼りっぱなしは駄目だと思って。

 

『『フリーで稼げばいいのに』』

「それは駄目だよ…」

 

 平日は学校と部活、土日はバイトの生活も二年が過ぎて、この春、私は三年生に進級した。ちなみに麻雀部では副部長を務めている。去年も全国の団体戦で優勝したし、今年も頑張りたい。

 

『『それだけじゃないでしょ?個人戦、世界ジュニア、国民麻雀大会(コクマ)制覇して、今じゃ世界ランク8位の玲音さん?』』

 

 あ…まぁそれは……それなりにがんばろっかなぁ……。

 

 

 

 

 

 5分前、何とか間に合った。今日は一年生の後輩が一人練習に来ている。名前は赤木れいん。同じく一年の赤木ほむらちゃんの従妹なんだけど、その名前にびっくりして、一発で名前覚えちゃった。私と同じショートカットの子で、左のもみあげを伸ばせば私そっくり。でも背は私の方がちょっと高い。

 

「今日はよろしくね。れいんちゃん」

「はい。お願いします。岩倉先輩」

 

 自分と同じ名前を呼ぶのって不思議な感じ。でも赤木ちゃん…でもなんかなぁ。

 彼女は私の対面に座った。ちなみに、今日はひろゆきさんも来ていて、私の上家に座った。下家に座ったのは英利政美っていう会社員。常連さん。独り言が多くて、正直苦手。会社でのストレスを発散させるためにここに来ているのだろうけど、この人自身はそんなに強くない。一応お客さんだから、それなりには勝たせてはいる。一年ほど前に、この人はちょっとした事件を犯したけど、もう同じことをする気配はない。

 

「今日はひろゆきさん来てるから、れいんちゃんにはちょっと厳しいかな?」

 

 先輩面し過ぎてるかな?

 

「え……?あ……ひろゆきさんって……あのネットの?」

「管理人の方じゃないよ」

 

 ひろゆきさんは苦笑いで返した。

 

「知ってます。ネット麻雀界で岩倉先輩や『のどっち』に並ぶ雀士だって」

「でもネット上のひろゆきさんと、リアルのひろゆきさんは結構違うから、覚悟していた方が良いよ、れいんちゃん」

 

「………リアル………」

 

 彼女は私の目を視て小さな声でそう言った。口元が少し笑っていた。その瞬間だけ、彼女の雰囲気が冷たかった感じがする。あれはまるで……。

 

「あの…早く始めてくれませんか?」

 

 英利政美がボソッと呟いた。言うならもっとはっきり言ってほしいな。

 

「あ、はい。すみません」

 

 でも愛想だけはよく振る舞って、私は卓のボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 三回目の半荘が終わった頃、順位は、ひろゆきさん、私、英利、れいんちゃんとなっていた。彼女は雀荘は初めて、ということで結構緊張している様子だった。牌を取りこぼしたり、少牌している局が数度あったけど、でも筋は悪くない感じだった。両面を作ってリーチ。素直で好感の持てる麻雀だった。でもそれだけじゃ勝てない。先輩として、そういうことを教えていかなきゃ。

 

「れいんちゃん、さっきのオーラスは……」

 

―――ねぇ玲音?

 

「え?」

 

 聞き覚えのある声が私の頭を走った。

 

「どうしたの玲音ちゃん」

「ひろゆきさん……誰か私の名前を呼びました?」

「え?玲音ちゃんがれいんちゃんを呼んだんだろ?」

 

 

―――玲音……

 

 

 また、聴こえた。

 

((来たわね))

(え?どうしたのlain)

((玲音ちょっと鈍感すぎじゃない?この声、夢に出てきた『アレ』よ))

(あ……)

 

 確かにそうだ、これはあの夢に出てきた………

 

「先輩?どうしたんですか?」

 

 

―――玲音……どうしたの?

 

 

 れいんちゃんの左のもみあげがだんだん伸びていく……。これは、幻視?幻覚?

 

((しっかりしなさい玲音!つまり『そういうこと』よ!))

 

 わ……かってる……。この声も…彼女の髪のことも……私しか聴こえない、視えない……。でも彼女は……いったい何者なの?

 

 

―――私は……れいんだよ……。

 

 

「ねぇ…早く四回戦を始めてくれないかな……」

 

 英利……!でも……確かに中断するわけにはいかない。少なくとも『調子が悪いので誰か変わってください』なんて言いたくない。私は…知りたい。知るためには……打たないと。

 

 

 

 

 

 四回戦が始まってから、彼女の打ち方が明らかに変わった。そして、強さが変わっていた。愚形、地獄単騎も何度か見受けられて、先ほどまでの素直な麻雀はかけらも無かった。それだけならまだよかった。彼女の待ちにまるで引力が作用しているみたいに、私の捨て牌が尽くアタリ牌だった。

 

「この感じ……」

 

 ひろゆきさんも感じたみたい。この感じ……しげるおじさんだ……。

 

 

 

―――ねぇ玲音?……赤木しげるは、なんで勝ち続けたと思う?

 

 

 

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