英利政美の件で出てきた沢山の私も私だし、lainも……そして、れいんも私……。何で、私って沢山いるんだろう。
―――玲音は遍在するのよ。玲音は神様なんだよ。
違う……。あなただって、違ったじゃない。
―――でも、あなたはわたしに勝った。じゃあ、あなたが神様よ。
違うよ……。
『『そんなの、どっちだっていいじゃない。なんだっていいじゃない。玲音はあなたで、lainはあたし。れいんはあんたで。体が同じでも、意識は違うんだから』』
もしかしたら……同じかもしれない。lainがそう考えているのも私で、れいんが私を消そうとしたのも、私なのかもしれない。
『『そんなこと……』』
じゃあなんで…みんな私の姿をしているの?lainだけなら良かった。lainだけなら耐えられた…。でも、あんなにも沢山いると……気がどうにかなってしまいそう。普通でありたいなんてもう思ってない……。でも、あれは嫌……。
『『……玲音……。手牌を見て……。まだオーラス……終わってないよ。さっき役満和了したけど、まだ逆転もしていない……』』
lainに言われた通りに、私は手牌を見た。
オーラス
13巡目
西家 玲音 手牌
{③③③⑥⑥⑥三三三五五五西} ツモ {五}
◆
また……懐かしい形……。私はおじさんに麻雀を教えてもらった、あの時を思い出した。麻雀って、一枚ツモって一枚切る。そういうゲーム。私が何人いようと、切る牌は一枚……。
おじさんはこの形から{西}を切ってリーチした。私は{西}を残せば四暗刻じゃないのって言った。そしたらおじさんは言った。「俺の暗刻はそこにある」って。裏ドラ三つめくったら、それが全部{二}。私はすごいと思った。今でもすごいと思っている。視えるはずのないものが視える…。それは私にとっては恐怖でしか無かった。それをそうではないって思えたのは、やっぱりおじさんのおかげだ。
でも……私の選択は違った。その時はあまり麻雀を知っていなかったのもあるけど、その手牌で、私は何も切りたくなかった。それは、私が無い気がしたからだと思う。私がそのことをおじさんに伝えると、おじさんは四枚ある{五}をそっと倒した。だったら、一つにしちまえって。
そう、全部がそろったら……一つに出来る。それも麻雀。私は嶺上牌で{三}をツモって…それも一つにした。次に{③}も、その次に{⑥}も一つにした。そして最後に{西}をツモッた。おじさんは、やるじゃねぇか、って言って頭を撫でてくれた。
◆
玲音 手牌
{西} 暗カン {■五五■} 暗カン {■③③■} 暗カン {■⑥⑥■} 暗カン {■三三■}
ツモ {西}
ひろゆき -11700(-24000)
玲音 136600(+96000)
英利 -23900(-24000)
れいん -1000(-48000)
「四暗刻単騎はダブル役満扱いなので、3倍役満で全員トビで終了です」
「最後の最後で盛り返したね、玲音ちゃん」
「先輩、すごいです!トリプル役満なんて初めて見ました。あ、あと四槓子も……二連続役満も」
「ふふっ。偶然よ。れいんちゃんは、こんな打ち方マネしちゃ駄目だよ。和了れる時に和了らないとね」
この五回戦目でなんとか私はトップを取り戻した。最後の二連続役満はさすがにやり過ぎちゃったかな。後輩にはあまりいい麻雀を見せれたって感じじゃなかったし、次からは気をつけないと。
れいんちゃんはラス半だったので、私やひろゆきさんと少しだけ話して、それから帰った。あの『れいん』は、もう視えなくなっていた。
結局、あれも私なんだ。私が望んでいる姿の一つ……。ああいうのと出くわすと、少しだけど不安になる。私はどうありたいのかな、って。私は一番強くなりたいの?死にたいの?遍在したいの?それとも……みんなと一つになりたいの?色んな私が、色んな目的を持っていて……時々私は、今『どこに居る』のか分からなくなる。
『『ねぇ玲音?』』
何?
『『玲音ってよく暗槓するけど、やっぱり……それって………その………』』
願望と一致しているかってこと?打ち方が……。
『『う……うん……』』
かもしれない……。でも……嫌………。
『『どうして?その気になれば、出来るよね?』』
みんなと一つになっちゃったら、lainが消えちゃう。ひろゆきさんや天おじさんも消えちゃう。記憶が、過去や未来も含めるとしたら、しげるおじさんや、れいんちゃんも……きっと消えちゃう。それは、やっぱり嫌……。
『『そ…そう……』』
大丈夫だよ。lainが居れば、きっと私大丈夫だから。
これからも、よろしくねlain。
『『ま……いいんじゃないの?……それならそれで……』』
◆
【翌週 赤木しげるの墓】
しげるおじさんへ
玲音は今日も元気です
おしまい
Site-C終了
この直後、玲音は『FATALIZER』の青山和と出会います。
serial experiments akagi は以上です。