マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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マリクin人形VS遊戯 ダイジェスト版です。



前回のあらすじ
マリクin人形「眼鏡……いない?」

遊戯「いない」




第100話 「 8 」を横にすれば「 ∞ 」に見える

 

 遊戯と人形を操るマリクのデュエルは膠着状態に陥っていた。遊戯のフィールドには――

 

 2つの頭を持つ四足の幻獣が白い羽を広げ、尾の先の蛇の頭が口を開けて威嚇音を出す。

 

有翼幻獣(ゆうよくげんじゅう)キマイラ》

星6 風属性 獣族

攻2100 守1800

 

 そんな《有翼幻獣(ゆうよくげんじゅう)キマイラ》の隣で宙に浮かぶのはパンドラとのデュエルでフィニッシャーを飾った《ブラック・マジシャン》の弟子、《ブラック・マジシャン・ガール》。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

星6 闇属性 魔法使い族

攻2000 守1700

 

 その《ブラック・マジシャン・ガール》を守るように《有翼幻獣(ゆうよくげんじゅう)キマイラ》は前に出る。

 

 それは遊戯のフィールドの永続罠《ガリトラップ-ピクシーの輪-》による自分の攻撃表示モンスターが2体いるとき、一番攻撃力の低いモンスターを攻撃対象にさせない効果ゆえだ。

 

 しかしその遊戯の2体の仲間たちは黒い金属で網目状に交差した丸いドーム状の檻、魔法カード《悪夢の鉄檻》に遊戯共々囚われていた。

 

 

 やがてその魔法カード《悪夢の鉄檻》を発動しているマリクは操る人形越しにねめつけるように問いかける。

 

「どうだ、遊戯? 鉄檻の中で自由を奪われた気分は……屈辱? それとも絶望か? ――それが墓守の一族の……ボクの背負わされた宿命だ!」

 

 そして声を荒げながら遊戯を指さし宣言するマリク、もといマリクの操るパントマイマーこと人形。

 

「ファラオである貴様への復讐を遂げた時、ボクは真の自由を手にする! そしてボクが新たなファラオとなる!」

 

 そう復讐心を露わにするマリクに名もなきファラオの方の遊戯は内心で考えてしまう。

 

――俺は、マリクの一族に一体、何を……

 

 しかし名もなきファラオである時代の記憶を失っている今の遊戯が如何に考えようとも答えは出ない。しかし今の遊戯には確信を持って言えることが一つだけある。

 

――だが、仮に俺が許されないことをしていたとしても、関係のない人間を巻き込んでいい筈がない!!

 

 だがそんな遊戯の想いを余所に互いのデュエリストを閉じ込めるようにマリクの発動した《ブラック・ガーデン》の黒い茨が周囲を覆い隠す――話し合いが通じるような状況ではなかった。

 

 そこにいるマリクの操る人形のモンスターは――

 

 永続罠《安全地帯》によって守られた白銀の鎧を身に着けた白い虎がその身を伏せて、守備表示を示す――その体躯は王の名に違わず力強い。

 

《王虎ワンフー》

星4 地属性 獣族

攻1700 守1000

 

 そしてその隣に赤いバラのモンスタートークンが葉の手足を伸ばしながら、3体並んでいる。

 

『ローズ・トークン』×3

星2 闇属性 植物族

攻 800 守備 800

 

 更にマリクの魔法・罠ゾーンには魔法カード《悪夢の鉄檻》と永続魔法《補給部隊》が2枚に、そして永続罠《安全地帯》が《王虎ワンフー》を破壊から守り、1枚のセットカードが鎮座する。

 

 ライフに関してはマリクのライフは3000であり、遊戯が初期値のままの4000。ライフアドバンテージはやや遊戯が優勢だが、フィールドのカードの数、手札はマリクが優位に立っていた。

 

 

 しかし遊戯は悔し気に言葉を零す。

 

「くっ……ヤツの魔法カード《悪夢の鉄檻》の効果で攻撃は出来ない……俺は《ブラック・マジシャン・ガール》を守備表示に変更し、カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 《有翼幻獣(ゆうよくげんじゅう)キマイラ》の隣でしゃがみ込んで守備を取る《ブラック・マジシャン・ガール》。

 

 マリクの語った神のカードは3体のモンスターをリリース――つまり生贄に捧げる必要がある厳しい召喚条件を持つカードだ。

 

 だがマリクは魔法カード《悪夢の鉄檻》で攻撃を封じ、更にはトークンを巧みに扱い既に3体の贄を揃えている。さらに――

 

 

「遊戯、貴様のそのエンドフェイズにボクが発動していた魔法カード《悪夢の鉄檻》は2ターン目――よってこのカードは破壊される」

 

 遊戯を覆っていた鉄檻が仕事を終え、煙のように消えていく。

 

「さぁ、いよいよ鉄檻が消える……貴様の命を守ってくれた鉄檻がね……」

 

 そのマリクの言葉通り《悪夢の鉄檻》はプレイヤーの攻撃宣言を制限するカード――ゆえに間接的に遊戯は神のカードの脅威から守られていた。

 

 

 いよいよといった具合にマリクは手札の1枚を見やり、その後、デッキに手をかける。

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

 マリクの手札は永続魔法《補給部隊》のドロー加速によって今や8枚――その中に神のカードがいない等という甘い考えは遊戯とてない。

 

「ククク……さぁて、此処からが本番だ――頑張って足掻いてくれよ?」

 

 大いなる力を手札に加えたマリクは遊戯の反応を見るようにそのカードをユラユラと揺らし――

 

「遊戯! 見るがいい、これが神だ! 3体のモンスターを贄に捧げ――」

 

 3体の『ローズ・トークン』が贄となり、赤い光の柱となって天を裂く。

 

 

 

「――降臨せよ!! 『オシリスの天空竜』!!」

 

 

 

 その赤い光の柱が一つとなって弾け、そこから深紅に輝く長大で強靭な身体を持ったドラゴン――否、三幻神の一角たる天空の神が赤き翼を広げ、2つの口の一つから咆哮を上げる。

 

『オシリスの天空竜』

星10 神属性 幻神獣族

攻 ? 守 ?

 

「こ、これが……神……!!」

 

 その咆哮の前に金縛りにあった如く動きを見せない遊戯の姿にマリクは満足気に笑う。

 

「フハハハハハッ! そう! これが三幻神カードのひとつ、『オシリスの天空竜』だ!」

 

 その『オシリスの天空竜』の圧倒的な姿に遊戯は内心で戦慄を見せつつも攻略法を考える。

 

――膝を屈してしまいそうになる程に凄まじいオーラ……天地をも揺るがす神にどう立ち向かう……

 

「考えるだけ無駄さ! オシリスを倒す方法などないね!」

 

 だがそんな遊戯の内心を見透かすようにマリクが強気な姿勢を示すが、今思い出したような仕草と共に語り始める。

 

「おっと忘れるところだった――ボクがカードを召喚したことで、フィールド魔法《ブラック・ガーデン》の効果で召喚されたカードの攻撃力が半減するが――こんな茨が『オシリスの天空竜』に届くことはない!!」

 

 『オシリスの天空竜』に伸びる茨だが、神の威光の前に膝を屈するようにしおれていく。

 

「そして《ブラック・ガーデン》の効果で貴様のフィールドに攻・守が800の『ローズ・トークン』が呼び出される」

 

 遊戯のフィールドに小さなバラが一輪生えるが――

 

『ローズ・トークン』

星2 闇属性 植物族

攻 800 守備 800

 

「だがボクの《王虎ワンフー》がいる限り召喚・特殊召喚された攻撃力1400以下のモンスターは全て破壊される!!」

 

 《王虎ワンフー》の遠吠えにより、『ローズ・トークン』は枯れていき、遊戯のフィールドから消えていく。

 

「くっ……つまりソイツがいる限り、俺は攻撃力1400以下のモンスターを封じられる訳か!」

 

 遊戯は厄介な効果だと険しい顔になるが、『それどころではない』ことを教えてやろうとマリクは神の力を得意気に語り始める。

 

「そして『オシリスの天空竜』のステータスは手札の数×1000!! そして今、ボクの手札には7枚のカード……つまりその攻撃力は7000ポイントということだ!!」

 

 他の追随を許さぬ圧倒的な力が『オシリスの天空竜』から発せられる。

 

 そのステータスは『オベリスクの巨神兵』の攻撃力4000であっても、それを超える4500の攻撃力を持つ《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》ですら届かぬ数値。

 

『オシリスの天空竜』

攻 ? 守 ?

攻7000 守7000

 

「手札の数だけ無限に攻撃力を高めていく、まさに絶対的な存在!! それこそが『オシリスの天空竜』の力だ!!」

 

 マリクの感情の昂りに呼応するように『オシリスの天空竜』は天を裂くほどの雄叫びを発し、己が力を示す。

 

「バトルと行こうじゃないか――と言っても《有翼幻獣キマイラ》の攻撃力は僅か2100!! 攻撃力が7000のオシリスの一撃を受けて、貴様は終わりだ!!」

 

 守備表示の《ブラック・マジシャン・ガール》を庇うように前に出る《有翼幻獣キマイラ》に『オシリスの天空竜』の強大なプレッシャーが突き刺さるが《有翼幻獣キマイラ》の覚悟は揺るぎはしない。

 

「神の裁きを受けるがいい! 『オシリスの天空竜』で《有翼幻獣キマイラ》を攻撃! 超電導波! サンダー・フォース!!」

 

 

 そしてマリクの宣言と共に『オシリスの天空竜』の口から天のイカズチが如きエネルギーが解き放たれる。

 

 

「迂闊だぜ、マリク!! 俺は『オシリスの天空竜』の攻撃宣言時に罠カード《聖なるバリア -ミラーフォース-》を発動!!」

 

 そのイカズチに晒される《有翼幻獣キマイラ》だったが遊戯の発動した《聖なるバリア -ミラーフォース-》の半透明なバリアが覆い隠す。

 

「相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する!! 『オシリスの天空竜』には消えて貰うぜ!!」

 

 だが『オシリスの天空竜』のイカズチのブレスを受けた《聖なるバリア -ミラーフォース-》はピシリ、ピシリとひび割れていき、やがてあっけなく砕けた。

 

「なにっ!?」

 

「迂闊だと? それは貴様だ、遊戯! 神にその程度のカードが通じるとでも思ったのか!!」

 

 驚きに目を見開く遊戯をマリクは嘲笑う。

 

「『オシリスの天空竜』は『神』以外のあらゆる魔法・罠、そしてモンスター効果を受けない!!」

 

「あらゆる効果を受けないモンスターだと!?」

 

 まさに『オシリスの天空竜』を含めた神のカードは『絶対的』ともいえる耐性を持っている。小細工など早々通用しない。

 

 ゆえにマリクは自信を持って宣言する。

 

「モンスターではない――神だ!!」

 

 まさに『神』――何者も届かぬ領域に存在する力。

 

 

 そして《有翼幻獣キマイラ》は『オシリスの天空竜』のイカズチの裁きを受け、断末魔のような雄叫びを上げ、その余波が遊戯へと向かう。

 

「ぐぁあああああああ!!」

 

 三幻神の一撃はソリッドビジョンを超えて実際の衝撃となって遊戯を襲い、その身体を吹き飛ばす。

 

 

 この戦闘で発生するダメージは4900。一人のデュエリストを屠る程の威力。

 

 それほどの衝撃によりその身体を地に叩きつけられ、倒れ伏す遊戯。

 

「フハハハハハッ!! この程度か! この程度だったか!! 所詮神の前では名もなきファラオといえども敵ではなかったようだな!!」

 

 地に這いつくばる遊戯を見たマリクは、悲願だった復讐を果たしたと高らかに笑う。

 

「さぁ、後は『オベリスクの巨神兵』の所持者を見つけ出し、三枚の神のカードを揃えるとしよう」

 

 そして踵を返し、『オベリスクの巨神兵』の所持者がいると思われる本戦に向けて人形の歩を進めさせるマリク――もうすぐで、復讐が完全な形で終わる事実に胸を躍らせながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、背後から聞こえた地面を踏みしめる音に振り返る。

 

 そこにあったのは傷つきながらも、しっかりと地に足を着けて立ち上がっていた遊戯の姿。

 

遊戯LP:4000 → 100

 

 そのライフは僅かに残されていた。

 

「なにっ!? 何故、生きている!?」

 

 今度はマリクの瞳が驚愕に見開かれる。神である『オシリスの天空竜』の攻撃をどうやって凌いだのかと。

 

「……俺は《聖なるバリア -ミラーフォース-》にチェーンして速攻魔法《虚栄巨影》を発動させて貰ったぜ……」

 

 遊戯は息も絶え絶えに語り始める――勝負はまだ終わってはいないと。

 

「その効果で俺の《有翼幻獣キマイラ》の攻撃力は1000ポイントアップする……」

 

 『オシリスの天空竜』の一撃を受けて半身が消し飛んだ《有翼幻獣キマイラ》がその身を賭して神の一撃を僅かに逸らしていた。

 

「成程な、貴様の《有翼幻獣キマイラ》が攻撃力3100になれば、オシリスとの戦闘で受けるダメージは3900――僅かに命を繋いだか」

 

 事の経緯を把握したマリクは安堵に胸を撫で下ろす――ただの悪あがきだったのだと。

 

 

 しかし遊戯の足掻きはまだ終わってはいない。デュエリストたるものライフが残っている限り闘い続けるのだから。

 

「さらに《有翼幻獣キマイラ》の効果を発動……このカードが破壊されたとき、俺の墓地の《幻獣王ガゼル》か《バフォメット》を特殊召喚する!」

 

 半身が消し飛ばされ、倒れ伏した《有翼幻獣キマイラ》の身体がボコボコと脈動し――

 

「蘇れ! 《幻獣王ガゼル》!! 守備表示だ!!」

 

 そこから額に一本の角の生えた四足の狼のような獣が姿を現し、遊戯を守るようにその身を伏せる。

 

《幻獣王ガゼル》

星4 地属性 獣族

攻1500 守1200

 

「《幻獣王ガゼル》の攻撃力は1500! 《王虎ワンフー》では破壊されないぜ!」

 

 《王虎ワンフー》の召喚・特殊召喚された1400以下のモンスターを破壊する効果を躱しつつ守りを固めた遊戯。

 

「新たなモンスターを呼んだな? 『オシリスの天空竜』の恐るべき能力を見るがいい!!」

 

 しかし神のカードはその上を行く程の力を秘めている。

 

「『オシリスの天空竜』の特殊能力発動! 召・雷・弾!!」

 

 『オシリスの天空竜』の口の上側にあるもう一つの口が開き、球体状の雷撃が《幻獣王ガゼル》を打ち据える。

 

「なにっ!?」

 

「オシリスはいかなる時でも、召喚・特殊召喚・反転召喚された相手のモンスターに2000ポイントのダメージを与える!!」

 

 バトルを終えたにも関わらず《幻獣王ガゼル》へと攻撃を放った『オシリスの天空竜』。

 

 これこそが『オシリスの天空竜』の真骨頂たる力――フィールドの制圧。

 

「よって! その呼び出されたモンスターが攻撃表示なら攻撃力が、守備表示なら守備力が、 2000ポイントダウン!!」

 

 その球体状の雷撃を受けた《幻獣王ガゼル》は助けを求めるように苦し気に叫び声を上げ続ける――だが今の遊戯に成す術はない。

 

《幻獣王ガゼル》

守1200 → 守  0

 

「そしてこの効果を受けたモンスターの対応するステータスが『 0 』のとき! そのモンスターは問答無用で破壊される! 《幻獣王ガゼル》抹殺!!」

 

 やがて雷撃により身を焦がし、倒れ伏した《幻獣王ガゼル》は塵となって消えていく。

 

「そして貴様がモンスターを特殊召喚した段階で、チェーン処理により先んじてフィールド魔法《ブラック・ガーデン》の効果により貴様のモンスターを弱体化させ、ボクのフィールドに『ローズ・トークン』を1体、特殊召喚している!」

 

 その《幻獣王ガゼル》の命を吸った証が、マリクのフィールドの《王虎ワンフー》の横にバラとして咲かせる《ブラック・ガーデン》。

 

『ローズ・トークン』

星2 闇属性 植物族

攻 800 守備 800

 

「だが《王虎ワンフー》の効果で攻撃力1400以下の『ローズ・トークン』は破壊される!」

 

 いくら花を咲かせようとも吹き飛ばすと言わんばかりに《王虎ワンフー》が『ローズ・トークン』をその前足で踏みつぶす。

 

「更に、この瞬間! ボクのモンスターが破壊されたことで 2枚の永続魔法《補給部隊》の効果で2枚ドロー!!」

 

 これによりマリクの手札は増えた。それはつまり――

 

「これでボクの手札は9枚! よって『オシリスの天空竜』の攻撃力は9000に上昇! こうしてオシリスは無限にパワーを上げていくのさ!!」

 

 『オシリスの天空竜』の力の源たるカードが増えたということだ。

 

『オシリスの天空竜』

攻7000 守7000

攻9000 守9000

 

「だが甘いぜ、マリク! プレイヤーは自身のエンド時に手札を7枚以上持つことは出来ない!!」

 

 そう遊戯の言う通り「デュエル」のルールで定められている以上、神であっても覆すことは出来ない。つまり――

 

「よって『オシリスの天空竜』の攻撃力はエンドフェイズに6000まで下がる! 俺のターンのオシリスの攻撃力の最大は6000だ!!」

 

 マリクの言葉に遊戯はそう返すが、攻撃力6000でも十分過ぎる脅威である。

 

「フフフフ……最大6000だと? 甘いな、ボクは無限のパワーと言ったんだ!」

 

 しかしマリクは遊戯をまたもや嘲笑う――「無限のパワー」との言葉に偽りなどないと。

 

「ボクの手札には、更に攻撃力を上げるカードがあるんだよ! 無限の手札を可能にするカードがね! バトルを終了し、永続魔法《無限の手札》を発動!」

 

 デュエルのルールに介入するカード、永続魔法《無限の手札》――このカードがフィールドにて表側表示で存在する限り、互いの手札制限はなくなる。

 

「これでお互いに手札枚数の制限は無くなった!」

 

 手札が1枚減ったことで僅かに力を落とす『オシリスの天空竜』。

 

『オシリスの天空竜』

攻9000 守9000

攻8000 守8000

 

 だが永続魔法《無限の手札》によりエンドフェイズ時に手札が7枚以上あろうとも捨てる必要がなくなる為、『オシリスの天空竜』の力がこれ以上衰えることはない。

 

「そして最後のセットカード永続罠《聖なる輝き》を発動! これで互いはモンスターをセットすることは出来ない!」

 

 互いのフィールドに神の威光たる力が照らされる。

 

 

 これにより互いのプレイヤーはモンスターをセットできない――つまり『オシリスの天空竜』の特殊効果から逃れる術を失った。

 

 

 そしてマリクは意気揚々と宣言する。

 

「これで神の領域が完成した!!」

 

 この領域こそマリクに絶対の勝利を約束する布陣。

 

「このフィールドに揃えた8枚のカードこそ、究極のコンボ、ゴッドエイト!」

 

 神たる1枚、『オシリスの天空竜』にその特殊効果の抜け穴を塞ぐ永続罠《聖なる輝き》。

 

 神に付き従う《王虎ワンフー》とそれを守る永続罠《安全地帯》。

 

 そしてフィールド魔法《ブラック・ガーデン》に永続魔法《無限の手札》と同じく永続魔法《補給部隊》が2枚。

 

 計8枚のカード。

 

 

 これこそが『オシリスの天空竜』の『無限のパワー』を実現させるマリクの必殺の布陣。

 

「完全無欠にして無敵、攻略不可能な神の領域が完成したのさ! ターンエンド!!」

 

 

 圧倒的な陣を敷いたマリクに遊戯の額から汗が落ちる。

 

 辛うじてライフを残したとはいえ遊戯のライフは僅か100――後がないどころではない。

 

 しかし遊戯はパンドラの無念に報いる為にも、更にはマリクの復讐心からなる凶行を止める為にも負けられない。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 そんな想いと共に引き、神、『オシリスの天空竜』を打倒すべく思案する。

 

「クククッ! せいぜい頑張るといい――あがくだけ無駄だけどな。フハハハハッ!!」

 

 だがマリクは遊戯のその姿を今までの鬱憤を晴らすかのように嗤う――マリクの復讐は順調だった。

 

――これが『神』…………だが、あのカードなら……

 

 そう僅かに思案した遊戯は――

 

「俺は魔法カード《マジック・プランター》を発動! 永続罠《ガリトラップ-ピクシーの輪-》を墓地に送り2枚ドロー! …………カードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

 必要最低限の動きでターンを終える。

 

 下手にモンスターを呼び出せばフィールド魔法《ブラック・ガーデン》からの《王虎ワンフー》、そして永続魔法《補給部隊》の効果へのルートでマリクの手札が増え、いたずらに『オシリスの天空竜』のパワーを上げる手助けをしてしまうだけだ。

 

 

「ククク、動きを最小限にすればオシリスの攻撃力が上がらないと思っているのなら 浅はかだね!」

 

 

 成す術もない遊戯の姿にマリクはニヤリと頬を歪める――もっと己が味わった苦しみ、苦痛を、その身で味わえと。

 

 

「ボクのターン、ドロー!! 《ヒューマノイド・スライム》を召喚!」

 

 ヌルリと現れたのは黄色い防具で胴体を覆った水色の人型のスライム。

 

《ヒューマノイド・スライム》

星4 水属性 水族

攻 800 守2000

 

「だがコイツの攻撃力は1400以下、よって《王虎ワンフー》の効果により破壊される!!」

 

 しかしすぐさま《王虎ワンフー》の牙に砕かれ、その身を散らす。

 

「お前のフィールド魔法《ブラック・ガーデン》の効果で俺のフィールドにトークンが生まれるが……」

 

「そう《王虎ワンフー》がいる限り無意味だ!」

 

 フィールド魔法《ブラック・ガーデン》が弱体化するモンスターもおらず、呼び出された『ローズ・トークン』は傍から《王虎ワンフー》に破壊されていく為、フィールドに大きな変化はない。

 

「おっと、ボクのモンスターが破壊されたことで、2枚の永続魔法《補給部隊》で1枚ずつドローさせて貰うよ――これでボクの手札は10枚!! よってオシリスの攻撃力は――」

 

 だがマリクの手札は際限なく増えていく。

 

 それに連なり力を高めていく『オシリスの天空竜』――既に素の攻撃力で並べるカードなどありはしないレベルだ。

 

『オシリスの天空竜』

攻10000 守10000

 

「攻撃力1万……」

 

 その圧倒的な力に警戒を見せる遊戯――デプレとのデュエル以来の圧倒的な数値である。やがてマリクは宣言する。

 

「さぁ、オシリスよ! 遊戯を守る最後のしもべ、《ブラック・マジシャン・ガール》を消し飛ばせ!! 超電導波! サンダー・フォース!!」

 

 そして『オシリスの天空竜』から放たれたブレスが天の怒りを示すかの如きイカヅチとなって《ブラック・マジシャン・ガール》の頭上へと降りかかった。

 

 

 イカズチの衝撃が周囲を覆い、互いの視界が覆われる中でマリクはニヤリと笑う。

 

「フフフフフ……魔術師の少女もはかない命だったなぁ」

 

 このイカズチの奔流が晴れた先にあるのは、最後の守りを失い絶望した遊戯の姿があるのだと、マリクは信じて疑わない。

 

 

「そいつはどうかな?」

 

 だが遊戯のその言葉と共に視界が晴れた先にマリクが見たのは巨大な赤い2つの筒――その片側には『オシリスの天空竜』が放った一撃が吸い込まれている。

 

 その2つの巨大な筒を操る《ブラック・マジシャン・ガール》も健在だった。

 

「これは一体ッ!?」

 

「俺はその攻撃宣言時に罠カード《魔法の筒(マジック・シリンダー)》の効果を発動させて貰ったぜ!」

 

 巨大な筒の正体は罠カード《魔法の筒(マジック・シリンダー)》。

 

 片側の筒に集めている神の一撃をもう片方の筒から発射し、跳ね返すマジシャン渾身のトリック。

 

「その攻撃を《魔法の筒(マジック・シリンダー)》で吸収して無効! そしてその吸収した攻撃力分のダメージをマリク! お前に与える!!」

 

 その遊戯の宣言に《ブラック・マジシャン・ガール》が杖をマリクへと向け、《魔法の筒(マジック・シリンダー)》の狙いを定める。

 

 

 三幻神を、「『神』を倒せるのは同じ『神』のみ」だというのなら、神の一撃をそのまま返す遊戯の策だった。

 

――行けるか!?

 

 遊戯の内心の手応えにマリクは余裕の面持ちで返す。

 

「オシリスの、神の攻撃を跳ね返すつもりか……」

 

 だが『オシリスの天空竜』の一撃を吸い込んでいた《魔法の筒(マジック・シリンダー)》 にヒビが入り、《魔法の筒(マジック・シリンダー)》全体へと広がって行く。

 

 その光景を信じられないものでも見るように驚愕の面持ちを見せる《ブラック・マジシャン・ガール》。

 

「なっ!?」

 

「無駄だ!! 神の一撃を受け止める事すら不可能だと知れッ!!」

 

 そのマリクの言葉と共に《魔法の筒(マジック・シリンダー)》は砕け散り、そのまま神のイカズチは担い手である《ブラック・マジシャン・ガール》を消し飛ばした。

 

 魔術師の少女の悲痛な叫びが遊戯に届く。

 

「これで貴様を守る最後のカードも消えた――次のターンで壁となるモンスターが引けるように願うことだ!」

 

 マリクの言う通り今や遊戯の手札は0枚。そしてフィールドはリバースカードを1枚残すのみだ。

 

 次のターンのドローでモンスターを引かなければ己の身すら守るのは難しい。

 

「おっと、雑魚を呼んだところでオシリスの効果の餌食になるがなぁ!!」

 

 さらにマリクの言う通り、ただモンスターを引けば良い話ではない。

 

 《王虎ワンフー》の効果を躱せる攻撃力1500以上のモンスターであり、

 

 『オシリスの天空竜』の効果に耐えきれる攻撃力もしくは守備力が2000以上のモンスターでなければならないのだから。

 

 

――ククク……だがいつまでも守りを固めていられるとは思わないことだ。

 

 仮に遊戯が上記の条件のモンスターで守りを固められたとしても、マリクが表示形式を変更する類のカードを引けば、無意味である。

 

 まさに絶体絶命の状況。

 

「タ ー ン エ ン ド ッ!!」

 

 

 そんな状況にある遊戯の姿にマリクは意気揚々とターンを終える。

 

「フフフ……ハハハハハッ! さぁ、もっと見せてくれよ!! この絶望の中でもがき苦しむ貴様の姿をなぁ!!」

 

 マリクは楽しくて仕方がない――望みに望んだ遊戯の苦しむ姿を最前列で眺めていられるのだから。

 

 マリクの復讐の成就は近い。

 

「くっ……これでも神を倒せないのか……」

 

 頼みの策が不発に終わった遊戯が新たな策を考える姿に内心でマリクは嘲笑う。

 

――そうだ、考えろ。考えるがいい! 考える程に分かるだろう! 貴様が勝つ手段など、残されていない事がなァ!!

 

 

 そして絶望した遊戯に止めを刺す――その瞬間をマリクは待ち望む。

 

 

 

 そのマリクの思惑通りに遊戯は『オシリスの天空竜』の圧倒的な力に成す術がなかった。

 

――これが『オシリスの天空竜』……勝てない、のか……オシリスを倒す手段は…………

 

 遊戯の心に影が差す。

 

 あまりにも絶望的な状況だった。

 

 遊戯が対峙するのは神、『オシリスの天空竜』――あらゆるカードが通じぬ、まさに『無敵』の存在。

 

――『無敵』?

 

 しかし遊戯はその『無敵』との言葉に思い出す。

 

「フッ、そうか――『無敵』か」

 

「恐怖のあまりおかしくなったか? そう! オシリスは攻略不可能な『無敵』の存在だ!!」

 

 この絶望的な状況で笑みを浮かべた遊戯にマリクは「その絶望に膝を屈しろ」と高らかに謳う。

 

 

 しかし遊戯の耳に届いていたのはマリクの言葉ではない――それは過去に立ち会った2人のデュエリストの会話。

 

 

 

『さぁ、キース! ワタシの「無敵」のトゥーンモンスター相手にどう立ち向かいマスカ!』

 

『「無敵」……か。そんなモンはねぇと証明してやるさ!』

 

 

 

 そんなデュエルの最中のやり取りが遊戯の中に木霊する。

 

 

 

 対するは想像を絶する効果を持った無敵の存在――膝を屈するのか?

 

 否

 

 

 対するは絶体絶命の絶望的な状況――諦めるのか?

 

 否

 

 勝機は万が一にもない――戦うこと(デュエル)を放棄するのか?

 

 

 断じて、否

 

 

 

――ただ、()()()()()()()()()!!

 

 その覚悟と共に遊戯の顔から絶望の影が消えた。

 

 

「何だ、その眼は…………ボクが見たいのは貴様が恐怖する姿だ!! この絶望的な状況が分からないのか!!」

 

 この絶望的な状況で遊戯が何故そんな自信に満ちた顔が出来るのかがマリクには分からない。

 

 現実と闘ってこなかった(逃げ続けていた)マリクに分かる筈もない。

 

「マリク!!」

 

 遊戯の真っ直ぐな瞳がマリクを見据える。

 

「『無敵』の存在――ソイツをこのデュエルで打ち破ってやるぜ!!」

 

「ハッ! 何を血迷ったことを。この状況から貴様が勝つ可能性があるとでもいうのか!」

 

 『オシリスの天空竜』を指さし、そう宣言した遊戯にマリクは強がりのような言葉しか返せない。

 

――馬鹿な、この形勢を逆転する方法などあるわけがない。 ハッタリに決まっている……だがあの自信に満ちた顔は何だ!

 

 マリクにあるのは未知への恐怖。

 

「『神の力』を超える俺とカードたちの『結束の力』を見せてやる!」

 

 デュエルモンスターズには数え切れぬ程の数多くのカードが存在し、そのカード毎の組み合わせ、シナジー、コンボ――それは無限と言っていい程だ。

 

 

 

 『オシリスの天空竜』の圧倒的な力? 無限の攻撃力? 無敵の耐性?

 

 

 

 だからどうした。

 

 

 そんな『モノ』に屈する人間は――『デュエリスト』じゃない。

 

 

「結束? 神を超える力? ハハハハッ! 何をバカなことを言っている――神の力を超える力など存在しない!!」

 

 だがマリクにはそれが分からない――神の力に()()()()男には。

 

「俺はお前のエンドフェイズ時にリバーストラップ《裁きの天秤》を発動!」

 

 遊戯の逆転を賭けたリバースカードにより、空に厳かな天秤が浮かぶ。

 

 

 マリクのフィールドには「神の領域―ゴッドエイト」――つまり8枚のカードがあり、

 

 対する遊戯は《裁きの天秤》のみ。

 

「よって俺はその差の数7枚のカードをドローするぜ!!」

 

 やがてマリクの方へと大きく傾いた天秤だったが、天秤が均衡を求めるように遊戯の手札へと光をもたらす。

 

「そして俺のターン! ドロー!! まずはコイツだ! 《ビッグ・シールド・ガードナー》を守備表示で召喚!!」

 

 マリクの永続罠《聖なる輝き》の効果でセットできない為、表側守備表示で召喚された巨大な盾を持つ黒い長髪の男が、その盾を構え遊戯を守るべく膝を付く。

 

 その守備力は2600――『オシリスの天空竜』の効果による一撃にも耐えうるレベルだ。

 

《ビッグ・シールド・ガードナー》

星4 地属性 戦士族

攻 100 守2600

 

「ハッ! オシリスの効果に気を取られるあまり《王虎ワンフー》の効果を忘れてしまったようだな!」

 

 だが《ビッグ・シールド・ガードナー》の攻撃力は僅か100――1400以下の為、《王虎ワンフー》の効果からは逃れられない。

 

「《ビッグ・シールド・ガードナー》の攻撃力は僅か100! 《王虎ワンフー》の効果で破壊だ!」

 

 《ビッグ・シールド・ガードナー》の巨大な盾を飛び越え、その喉元に牙を突き立てる《王虎ワンフー》。

 

「だがその効果にチェーンされたフィールド魔法《ブラック・ガーデン》の効果が先に適用され、ボクのフィールドに『ローズトークン』が特殊召喚される――まぁ、直ぐに《王虎ワンフー》の効果で破壊されるがな!」

 

 そして倒れ伏した《ビッグ・シールド・ガードナー》の命を吸い上げ、赤いバラがマリクのフィールドに咲くが、《王虎ワンフー》によってすぐさま踏みつぶされる。

 

「そして2枚の永続魔法《補給部隊》の効果で2枚ドロー!! これでオシリスのパワーは更に上昇!!」

 

 高まりに高まる己が力に酔いしれるように咆哮を上げる『オシリスの天空竜』――その力にぶつかり合えるものなど、もはや存在しない。

 

『オシリスの天空竜』

攻10000 守10000

攻12000 守12000

 

――《ADチェンジャー》か、良いカードを引いた。これで貴様が壁となるモンスターを呼び出そうとも、コイツの効果で攻撃表示に変更すれば、ボクの勝ちだ!

 

 そして新たに引いたカードに内心で頬を緩めるマリク――これで勝ちは貰ったも同然だと。

 

 

 だが遊戯はそんなマリクを気にもせず手札を切る。

 

「魔法カード《闇の量産工場》を2枚、発動! その2枚の効果の重複で合計4体の通常モンスターを手札に! 《エルフの剣士》・《幻獣王ガゼル》・《デーモンの召喚》・《暗黒騎士ガイア》を回収するぜ!」

 

 《エルフの剣士》・《幻獣王ガゼル》・《デーモンの召喚》・《暗黒騎士ガイア》の4体が遊戯の手札へと帰還する――その4体は壁でも何でも任せてくれと言わんばかりの意気込みがあった。

 

「そして俺はカードを1枚セットし、魔法カード《手札抹殺》を発動! 互いは手札の全てを捨て、同じ数だけドローする!! 俺は手札を7枚捨てて、同じ数だけドロー!」

 

 そのカードたちの覚悟に報いるように遊戯はカードを発動させる――これが神攻略の一手目。

 

「さぁ、マリク! お前の12枚の手札を捨てて、新たに同じだけのカードをドローしろ!!」

 

「何を企んでいるかは知らないが、せいぜいいいカードが引けるように願うんだな!」

 

 自身の《ADチェンジャー》が墓地に送られたことでマリクは内心でほくそ笑む。

 

 それもその筈、《ADチェンジャー》は自身のメインフェイズに墓地で除外することで効果を発動するモンスターだ――マリクからすれば墓地へ送る手間が省けたに等しい。

 

「そしてセットした魔法カード《鳳凰神の羽根》を発動! 手札を1枚捨てて、墓地のカードを1枚デッキの一番上に戻すぜ!!」

 

 炎のような真っ赤な羽根がヒラヒラと遊戯のデッキの一番上へと降りていく。

 

「俺が戻すのは――魔法カード《手札抹殺》!!」

 

「一体何を考えて――ッ! まさか!?」

 

 此処でマリクの余裕は音を立てて崩れ始める――遊戯の「神攻略」の一手を理解したゆえに。

 

「フッ……俺はカードを3枚伏せて、ターンエンドだ!!」

 

 

 だが遊戯は多くを語らず静かにターンを終える。神攻略の策は既に始まっているのだと。

 

 

「ボクのターン! ドロー!!」

 

 マリクの手札が増えたことで『オシリスの天空竜』の力が上昇する。

 

『オシリスの天空竜』

攻12000 守12000

攻13000 守13000

 

 だがマリクはそれどころではない。

 

――コイツ……ボクのデッキを!?

 

 内心でそう確信しつつもマリクは確かめるように遊戯に挑発気に語りかける。

 

「遊戯……まさか神に勝てないからってボクのデッキに狙いを切り替えるとはね――往生際の悪いことだ」

 

 しかしその遊戯の策は1ターン遅い。

 

「だが貴様のフィールドはガラ空き! 神の攻撃を防ぐ手立てはない!! オシリスよ!! 遊戯を消し飛ばせ! 超電導波! サンダー・フォース!!」

 

 『オシリスの天空竜』の口からイカズチが迸るが――

 

「俺は墓地の《超電磁タートル》の効果を発動!! 相手のバトルフェイズを強制終了させる!!」

 

 その口元に磁力の力を身に纏う機械仕掛けの亀、《超電磁タートル》が現れ『オシリスの天空竜』の視界を奪う。

 

「これは神に対する効果じゃない! 如何に神のカードといえども、防ぐことは出来ないぜ!」

 

 そして視界を奪われた『オシリスの天空竜』の一撃はあらぬ方へと向かい、イカズチが放電して周囲を照らす。

 

 

「くっ!! フフフ……」

 

 しかし神の攻撃を躱され、次のターンの遊戯の魔法カード《手札抹殺》によりデッキ切れの危機にも関わらずマリクは嗤う。

 

「何がおかしい……」

 

「おかしいさ! 遊戯、貴様はこれで次のターンに魔法カード《手札抹殺》を発動し、ボクのデッキ切れを狙う魂胆だろうけど――」

 

 遊戯の愚かさをマリクは嘲笑う。

 

「――ボクが何の対策もしていない訳がないだろう!!」

 

 そしてマリクは手札の1枚に手をかける。

 

「ボクはフィールド魔法を再セット!! これでフィールド魔法《ブラック・ガーデン》は破壊される!」

 

 フィールド全体に広がり、2人のデュエリストをドーム状に覆っていた茨が力なくしおれていき、段々と消えていく。

 

「更に《王虎ワンフー》をリリースしてアドバンス召喚!! 来いっ! 《氷帝メビウス》!!」

 

 《王虎ワンフー》が最後の雄叫びを上げ、その身は氷に包まれていく。

 

 やがてその氷塊を砕き、氷のような白さを持つ甲冑に身を包んだ帝が冷気と共に現れた。

 

《氷帝メビウス》

星6 水属性 水族

攻2400 守1000

 

「そしてアドバンス召喚に成功した《氷帝メビウス》の効果を発動! フィールドの魔法・罠カードを2枚まで破壊する! ボクが破壊するのは――」

 

――俺のリバースカードを狙う気か! そうはさせないぜ!

 

 遊戯は自身のリバースカードを守るべくカードを発動させようとするが――

 

「ボクのフィールドの2枚の永続魔法《補給部隊》!!」

 

「自分のカードを!?」

 

 驚く遊戯を余所にマリクの命に従い《氷帝メビウス》は自軍のカードを2枚凍らせ、砕く。

 

「これでボクのモンスターが破壊されようとドローする必要はなくなった!」

 

 そう、マリクの狙いは自身の永続魔法《補給部隊》を遊戯が狙うデッキ破壊に利用されぬ為の対処。

 

「そしてカードを1枚セットしてターンエンド!! 手札が減ったことでオシリスの攻撃力は下がるが――」

 

 《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》の攻撃力に等しい3000もの力を失った『オシリスの天空竜』だが、その圧倒的な力は未だ健在。

 

『オシリスの天空竜』

攻13000 守13000

攻10000 守10000

 

「――今や神の攻撃力は十分過ぎる程の数値だ! 大した問題じゃない!!」

 

 ゆえにマリクには何の不安もない――遊戯が行う神攻略の策を打ち破ったのだから。

 

「フフフ、最後に一つ良いことを教えてやるよ……ボクが今伏せたのは貴様の手札を1枚、抹殺するカード――次の貴様のドロー時にコイツが発動すれば、最後の望みも絶たれるって訳だ」

 

 そう、マリクのデッキ破壊への対応は盤石だった。

 

「ターンエンド!!」

 

 

 だが遊戯の顔に絶望はない――その事実がマリクを苛立たせる。

 

「俺のターン! ドロー!!」

 

 ならばその顔を絶望に歪ませてやるとマリクはリバースカードを発動させる。

 

「貴様のドロー時に罠カード《水霊術-「(あおい)」》を発動!! ボクのフィールドの水属性モンスターをリリースし! 相手の手札を確認した後、好きなカードを1枚墓地に送る!!」

 

 澄んだ青い瞳とその瞳と同じ色の長髪の霊使いの物静かな少女、《水霊使いエリア》が静かに瞳を閉じ、陣を描く。

 

「ボクは《氷帝メビウス》を墓地に送り! 貴様の最後の希望となる魔法カード《手札抹殺》を消し去る!!」

 

 その陣には「葵」の文字が浮かび、水柱が立ち昇り《氷帝メビウス》を包んでいく。

 

 やがて激流となった水柱が遊戯の手札の1枚、《手札抹殺》を打ち抜き、墓地へと押し流した。

 

「これでボクのデッキを破壊するにはそれ相応の手間がかかる――果たしていつまでボクのオシリスの攻撃から逃れられるかな?」

 

 遊戯の逆転の一手を完全に潰したマリクは意気揚々と声を張る――絶望する姿を見せろと。

 

 どの道、遊戯が守備モンスターを用意しようともマリクのメインフェイズに墓地の《AD(エーディー)チェンジャー》を除外して表示形式を変更できるのだから。

 

「俺は魔法カード《無の煉獄》を発動! コイツは手札が3枚以上あるとき、自分のデッキからカードを1枚ドローする!」

 

「またドローカードか? せいぜい良いカードが引けるように願うんだな!」

 

 未だに諦めない遊戯にマリクは苛立ちながら言葉を返すが――

 

「なにを勘違いしているんだ? デッキからカードを引くのはお前だぜ! マリク!!」

 

 遊戯は強気な笑みで返す。

 

「俺は魔法カード《無の煉獄》にチェーンして、罠カード《精霊の鏡》を発動!!」

 

 フィールドの中央に鏡を持った長い髪の精霊が漂う。その鏡に映るのは遊戯の姿。

 

「この効果でプレイヤー1人を対象とする魔法の効果を別のプレイヤーに移し替えるのさ! つまり魔法カード《無の煉獄》の効果でデッキからカードを1枚引きな、マリク!!」

 

 だが精霊が鏡を翻し、その手の中の鏡がマリクの操る人形を映し出す。

 

 これにより魔法カード《無の煉獄》の()()()()()()()()()()()()()

 

「フハハッ! 随分とささやかなデッキ破壊じゃないか! 笑えるよ! この程度ではオシリスの攻撃力をいたずらに上げるだけだ!!」

 

 遊戯が態々2枚のカードを使って破壊したマリクのデッキは僅かに1枚。

 

 デッキ破壊よりも『オシリスの天空竜』の力が増した結果の方が大きい。

 

『オシリスの天空竜』

攻10000 守10000

攻11000 守11000

 

「さらに俺は魔法カード《死者蘇生》を発動! 墓地からしもべを1体呼び戻すぜ!! 今こそお前の出番だ!! 竜破壊の剣士! 《バスター・ブレイダー》!!」

 

 墓地から跳躍し遊戯を守るべく立ちはだかるのは藍色の鎧に身を纏った巨大な大剣を持つ竜狩りの戦士。

 

 そして主君にあだなす神の位階に存在する竜へと大剣を向ける。

 

《バスター・ブレイダー》

星7 地属性 戦士族

攻2600 守2300

 

「竜破壊の剣士だと? たしかにオシリスは竜の名を持つ――だが、その種族は『幻神獣族』! そこらのドラゴンとは一線を画す存在なんだよ!」

 

 《バスター・ブレイダー》は相手のフィールド・墓地に存在する「ドラゴン族」モンスター1体につき攻撃力を500上げる力を持つ。

 

 だがマリクの言う通り『オシリスの天空竜』は「竜」の名を持ってはいてもその種族は『幻神獣族』。

 

 更にはマリクの墓地にもドラゴン族モンスターはいない為、《バスター・ブレイダー》の糧となることはない。

 

「貴様のモンスターが呼び出されたことで、オシリスの効果が発動! 受けろ! 召・雷・弾!」

 

 それどころか『オシリスの天空竜』の効果に晒される運命にある。

 

 そして『オシリスの天空竜』の第二の口から放たれた雷球が《バスター・ブレイダー》を襲う。

 

 神のイカズチを受け、絶叫に近い声を上げる《バスター・ブレイダー》。

 

――耐えてくれ……《バスター・ブレイダー》!

 

 だが遊戯はその身を案じる事しか出来ない。

 

 

 やがて神の効果を耐えきった《バスター・ブレイダー》は苦し気に大剣を大地に突きさし、杖のようにして膝をつく。

 

《バスター・ブレイダー》

攻2600 → 攻600

 

 だが辛うじて倒れはしない。

 

「俺はこれでターンエンドだ!!」

 

 呼びだした《バスター・ブレイダー》で攻撃を仕掛ける訳でもなくターンを終えた遊戯のあり様をマリクは嗤う。

 

「フハハハハハッ! 『神を攻略する』なんて大口を叩いた割にはこの程度か!」

 

 攻略どころか自身の身を守る準備すら出来ていない状況なのだから。

 

「やはりファラオに相応しいのはボク――」

 

 だがマリクがその言葉を言い切る前に轟音が()()()()()()から響く。

 

 

 

 

 マリクの背後に存在していたのはたった1つ。

 

 それゆえにマリクはゆっくりと振り返る――そんな筈がないと自身に言い聞かせながら。

 

 

 

 そのマリクの視界に映ったのは信じられない、否、信じたくないような光景。

 

「オシリス!?」

 

 力なく倒れ伏す『オシリスの天空竜』の姿。そこには先程まであった強大な力も威圧感も何もない。

 

 まさに立ち上がる力すらない程までに弱り切った神の姿だった。

 

「どうした! オシリス――『オシリスの天空竜』!! お前はあらゆる効果が通じない無敵の存在の筈だ!!」

 

 そんなマリクの声にも『オシリスの天空竜』は何も返さない――そんな力すら残ってはいなかった。

 

『オシリスの天空竜』

攻11000 守11000

攻  0 守  0

 

 そのステータスは0――何者すら打ち倒せぬ無力の証。

 

「遊戯ィ! 貴様、神に何をした!!」

 

「俺は『オシリスの天空竜』には何もしちゃいないぜ!!」

 

 マリクは怒りのままに遊戯へと視線を戻すが、そんなマリクを遊戯は指差し返す。

 

「言った筈だ! 俺の敵はマリク!! 貴様だけだとな!!」

 

 そう、遊戯にとってマリクに操られたものたちは被害者――マリクの復讐に巻き込まれただけだ。

 

「確かに『オシリスの天空竜』は無敵に近い程の強大なパワーを秘めている! だが共に戦うデュエリストまでがそうとは限らない!!」

 

「なんだと!?」

 

「魔法カード《無の煉獄》でカードを引いたプレイヤーはそのエンドフェイズ時に自分の手札を捨てなければならないのさ!!」

 

 罠カード《精霊の鏡》によって移された魔法カードの効果は「全て」移された側のプレイヤーが受ける――そのデメリットでさえも。

 

「全ての手札をな!!」

 

 その遊戯の言葉にマリクは茫然自失となってその手からカードが零れるように落ちていく。

 

 今のマリクの手札は0枚。よって――

 

「バカな……神の攻撃力が0だと……」

 

 手札の数が攻撃力に直結する『オシリスの天空竜』の力も0。

 

 自力では起き上がれぬ程に弱った『オシリスの天空竜』の姿はどこか憐れみさえも覚える。

 

 

 やがてマリクは辛うじて意識を引き戻し、震える手でデッキからカードを引く――その震えはマリクの動揺が人形にダイレクトに伝わっているがゆえ。

 

「ボ、ボクのターン……ドロー……」

 

 マリクの手札が増えたことで僅かに力を取り戻し、起き上がる『オシリスの天空竜』だが、その姿に覇気はない。

 

『オシリスの天空竜』

攻  0 守  0

攻1000 守1000

 

 だが僅かに攻撃力が戻った『オシリスの天空竜』の姿にマリクの眼に希望の光が宿る。まだ手は残されている、と。

 

「だが遊戯! 貴様はたった一つミスを犯した!!」

 

 《バスター・ブレイダー》を指さし、声を荒げるマリク。

 

「貴様の《バスター・ブレイダー》は『オシリスの天空竜』の召雷弾(効果)を受け、その攻撃力はたった600!!」

 

 そして自身の背後で僅かに力を取り戻した『オシリスの天空竜』をマリクは視界に収める。

 

「攻撃力が1000までに下がった『オシリスの天空竜』でも問題なく破壊できる!!」

 

 その戦闘で遊戯が受けるダメージは僅かに400――だがそれで十分だ。

 

「そうなれば残りライフ100の貴様の負けだ!!」

 

「なら攻撃してみな!! マリク! お前の全ての想いを乗せてな!!」

 

 だが遊戯に恐れは見られない――そして遊戯のフィールドにはリバースカードが2枚。

 

 

 

「くっ……」

 

 その2枚がマリクの決断を迷わせる。

 

――罠か? ……いや! 神のカードにはあらゆるカードは無力!! 罠であっても問題はない!!

 

 内心で僅かに葛藤するマリクだったが、その決断は早かった。マリクは「如何に攻め込むか」を主眼に置くスタイルゆえに、多少のリスクは挽回できる自負があった。

 

そしてマリクの今のライフは3000――多少のダメージ程度、許容できる事実もマリクを後押しする。

 

「バトルだ!! 行けッ! オシリス!! 超電導波! サンダー・フォース!!」

 

 『オシリスの天空竜』から最後の力を捻りだしたかのようなイカヅチが迸り、膝を突く《バスター・ブレイダー》を打ち据える。

 

 

「これで貴様のライフは――」

 

 

 今、消し飛ばされんとする《バスター・ブレイダー》。その余波は遊戯を襲うことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()

 

「俺は罠カード《あまのじゃくの呪い》を発動!! このターンの終わりまで攻撃力・守備力のアップ・ダウンの効果は逆になる!!」

 

 カードの発動と同時にフィールド全体がその呪いによってうねりを上げ、全てのカードの(ことわり)を乱す。

 

「甘いな! その効果でオシリスの攻撃力を再び0にしようとしても無駄だ! 神にそんなものは通用しない!!」

 

 しかしその(ことわり)の乱れすら『オシリスの天空竜』に、神には届かない。

 

 

 ゆえに『オシリスの天空竜』のブレスに変化はない。

 

「誰が神に使うって?」

 

 だがそんな遊戯の言葉がマリクに届く。

 

 このフィールドにおいて攻撃力・守備力のステータスが変化しているのは『オシリスの天空竜』を除けば――

 

「ま、まさか!! この為に!? オシリスの力を!?」

 

 

 召雷弾(神の力)を受けた《バスター・ブレイダー》のみ。

 

「《バスター・ブレイダー》! お前が受けた神の力を! 竜の力を! 己の力にしろ!!」

 

 呪いによる(ことわり)の乱れを力に変え、《バスター・ブレイダー》がその大剣を以って神のイカズチを一歩一歩押し返す。

 

 やがて《バスター・ブレイダー》の大剣が赤く染まる――それは『オシリスの天空竜』の力。

 

《バスター・ブレイダー》

攻600 → 攻4600

 

「こ、こんな……ことが……」

 

「今こそ、神を打ち倒せッ! 《バスター・ブレイダー》!!」

 

 その遊戯の声に背を押され、《バスター・ブレイダー》が神のイカズチを切り裂きながら『オシリスの天空竜』へと迫り、跳躍。

 

 

「破 壊 剣 一 閃 !!」

 

 

 そして天高々に振り上げられた《バスター・ブレイダー》の大剣の一閃が『オシリスの天空竜』を切り裂き、その斬撃がマリクを襲った、

 

「バ、バカなぁあああああああああ!!」

 

人形LP:3000 → 0

 

 

 





原作のような無限ループは作者の技量では出来なかったよ……(燃え尽き)


~「遊戯の残り1枚のリバースカードって?」との疑問が意外と多かったゆえの追記~
遊戯の最後のリバースカードは
《氷帝メビウス》の効果から自身のカードを守るものになります。

ですがマリクは《氷帝メビウス》の効果でマリク自身のカードを破壊した為に
遊戯が温存する結果となりました。


~今作での神の効果 『オシリスの天空竜』編~
『オシリスの天空竜』
星10 神属性 幻神獣族
攻  ? 守  ?

(1)このカードを通常召喚する場合、
自分フィールド上に存在するモンスター3体をリリースして
アドバンス召喚しなければならない。

(2)このカードの召喚・反転召喚・特殊召喚は無効にされない。

(3)フィールドのこのカードは元々の属性が神属性のモンスター以外のあらゆるモンスター効果・魔法・罠カードの効果を受けず、相手によってリリースされない。このカードの効果は無効化されない。

(4)このカードがフィールド上に存在する限り元々の属性が神属性以外の自分フィールド上のモンスターは攻撃できない。

(5)特殊召喚されたこのカードは、エンドフェイズ時に墓地へ送られる。


(6)このカードの攻撃力・守備力は自分の手札の数×1000の数値になる。

(7)相手モンスターが召喚・特殊召喚・反転召喚に成功した場合に発動する。
そのモンスターが攻撃表示なら攻撃力を2000ダウンさせ、守備表示なら守備力を2000ダウンさせる。

この効果処理終了時にそのモンスターの対象能力が0の場合、そのモンスターを破壊する。


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