マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
バスター・ブレイダー「ドラゴンだ!!  ドラゴンだろう!?  なあ ドラゴンだろうおまえ!!」

オシリスの天空竜「いや、ドラゴンじゃ――」

あまのじゃくの呪い「ドラゴンがいるときパワーアップする旦那の攻撃力が上がってるからアイツ、ドラゴンっすよ、旦那!!」

バスター・ブレイダー「キ゛ィィイ゛ィル゛ゥティッッ!!」



第101話 リアルファイトはデュエリストの嗜み

 

 

「こ、このボクが……このボクが負けるなんて……」

 

 

 そう茫然自失な声色で膝を付くマリクの操る人形。そして対峙する遊戯。

 

 

 そんな両者の一戦を少し離れた個所で観戦しつつ遊戯に声援を送ろうとしていた月行を制していた海馬はポツリと呟く。

 

「ふぅん、いかに神といえども使い手次第では『ああ』も無様を晒すか……」

 

 海馬のその言葉は圧倒的なまでの力を持つ『オシリスの天空竜』を扱いきれなかったマリクに対するもの。

 

 だが海馬のマリクへの興味はすぐさま薄れる。

 

――やはり『神のカード』は真の強者の元へと集う……

 

 今、海馬の内を占めるのは「神のカードの所持者」となった遊戯の姿のみ――海馬の心に灯る熱がうねりを上げる。

 

 

 

 

 

 しかし遊戯の怒りに満ちた声が聞こえた。

 

「さぁ! ソイツを解放しろ、マリク!!」

 

 そんな遊戯に対し、パントマイマーこと人形を操るマリクは肩をすくめる。

 

「ああ、勿論こんな男の一人や二人、いくらでも解放してやるさ」

 

 マリクにとってグールズの構成員など替えの利く駒に過ぎない。『オシリスの天空竜』を失ったことが痛手とはいえ、その点に関してはマリクも無策ではない。

 

「だが一つ言っておいておこうと思ってね――神のカードはすぐまたボクの手に戻る」

 

「なんだと?」

 

 マリクの意味深な言葉に眉を上げる遊戯。

 

「今ボクには、三つの景色が見える。一つはボク自身が見ている景色。

もう一つは人形の目を通して見える貴様の姿。

そしてもう一つは街の雑踏。これは童実野町に放ったグールズたちの視点さ」

 

 そんな遊戯にマリクは嘲笑を浮かべながら語る。千年ロッドの力を持ってすればこの程度は造作もないと言いたげだ。

 

「その視点では、フフフフ……お前の仲間が見える――城之内というデュエリストに加えて、そのお仲間がね」

 

「まさか!!」

 

 遊戯の仲間が監視されている現状――遊戯には最悪の可能性が頭をよぎる。

 

「フハハハハハッ! 貴様の仲間を使えば『オシリスの天空竜』は簡単に取り返せる!」

 

 その遊戯の苦渋に満ちた表情がマリクに愉悦に溢れる――その顔が見たかったのだと。

 

「グールズたちに貴様の仲間をずっと監視させていたのさ! いつでも利用できるようにな!」

 

 そう、次にマリクが、千年ロッドの力が向かう先は遊戯たちの仲間。

 

「貴様のせいだよ――貴様がここで負けていれば、大事な仲間に不幸が訪れることもなかったのさ!」

 

「どこまで汚いんだ、マリク!!」

 

「何を言う! 我が一族の苦しみは……憎しみはまだまだこんなものではない! さあ遊戯、早く仲間のもとへ急がないと、取り返しのつかないことになるぞ!」

 

 遊戯のマリクへの怒りの言葉もマリクには心地よい――今の遊戯には負け犬の様に咆えることしか出来ないのだと実感できるのだから。

 

「ハハハハハッ!」

 

 そんなマリクの高笑いと共にマリクの操るパントマイマーこと人形は糸の切れた玩具の様に倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パントマイマーこと人形を操ることを止めたマリクは潜伏先にてその背に向けて言葉を投げかける。

 

「さてと、リシド。お前が来たということは――」

 

「はい、パズルカードを規定枚数集めて参りました」

 

 そこにいたのはリシド――マリクが遊戯とデュエルしている間に潜伏先に報告に戻った為、デュエルが終わるまで待機していた次第である。

 

「それと『オベリスクの巨神兵』の所持者は海馬 瀬人であることが判明しました。既に本戦への出場を決めているようです」

 

 任務の完了と重要な情報を持ち帰ったリシドにマリクは笑う――必要なものは揃ったと。

 

「フハハッ! やはり、やはりそうだったか! 良いぞ……やっとボクに運が向いてきた!」

 

 バトルシティに来てからマリクの行動は何一つ上手くことが運ばなかったゆえに、朗報が次々と舞い込んだ現状に歓喜に打ち震える。

 

 だがそんな上機嫌なマリクにリシドは神妙な面持ちで口を開く。

 

「マリク様……ご忠言が……」

 

「……どうした、リシド?」

 

「『オベリスクの巨神兵』を使用したデュエルでしたが、海馬 瀬人に加えて対戦相手もかなりの強者でした――ここは撤退し、今一度策を練り直すべきかと」

 

「何をバカな! ――いや、神の……『オベリスクの巨神兵』の力を間近に見れば不安にかられるのも当然か」

 

 リシドの弱気な考えにマリクは声を荒げる――マリクにとって名もなきファラオへの復讐は今すぐにでも果たしたい宿願ゆえに。

 

 そうは言うものの、マリクとてリシドの不安に駆られる気持ちが分からない訳ではない。単純に考えて三幻神の内の2枚が遊戯たちの手にあるのだから――数の上ではマリクたちが不利であった。

 

「だが安心しろ、リシド! 『ラーの翼神竜』の前では如何に『オベリスクの巨神兵』や、『オシリスの天空竜』の力といえども無力だ!」

 

 しかしあくまで「数」だけだとマリクは力強く語る。

 

「ですが――」

 

「ヒエラティックテキストを読むことの出来ないお前には分からないかもしれないが、『ラーの翼神竜』は三幻神の中で最上位の神! その力は想像を絶するものだ!」

 

 僅かに不安を残すリシドにマリクは言葉を重ねる――『ラーの翼神竜』さえあれば何も恐れることはないのだと。

 

「『ラーの翼神竜』にそれ程の力が……」

 

「そうだ――だからリシド、お前が心配するようなことは何もない。安心して――」

 

 瞳に活力の戻ったリシドを満足そうに見やりながら語るマリク。

 

「――何者だ!!」

 

 だが何者かの気配にマリクを庇う様に前に出たリシドによってその語らいは中断された。

 

 そのリシドの視線の先にいるのは――

 

「おっと、怖い怖い」

 

 白髪の青年――その首には千年リングが見える。バクラだ。

 

「貴様は……? それは『千年リング』!?」

 

 バクラの所有する千年アイテムに目を見開き驚きの声を上げるリシドにバクラは顎で「どけ」と指図しながらマリクを見やる。

 

「俺はバクラ――テメェに用はねぇよ。用があるのはテメェのご主人様さ」

 

「ボクに?」

 

「なぁに簡単だよ。お前の持っている千年アイテムを渡してもらおうか」

 

 マリクの手元の千年ロッドを見つつ要件を切り出したバクラにマリクは思案する――どこまで知っているのか、と。

 

「フフフ……なるほど、集めているのか千年アイテムを。目的は何だ?」

 

「目的ィ? 決まってるじゃねぇか――七つの千年アイテムを石板に収めることで闇の扉を開き、そこに封印された力を手に入れる為さ」

 

 かなり踏み込んだ情報まで知るバクラにマリクの警戒は強まるが、バクラの狙いの方向性がハッキリしたことはマリクにとって朗報だった。

 

「一族が守り通した墓守の秘を知っているとはな……だが、それだけでは闇の扉が開かないことは知らないようだな」

 

 そう、バクラの求めるものはマリクが持っている――それはマリクの背に刻まれた碑文。

 

 ゆえにこの場の主導権を握るのはマリクだ。

 

「ほう、だったら手間が省けてちょうどいい――テメェをぶっ倒して、千年ロッドを奪うついでに情報も聞き出させて貰うとするぜ」

 

 しかしバクラはそんなことは知ったことかと言わんばかりに強硬策をチラつかせる。

 

「マリク様!!」

 

 剣呑な雰囲気を漂わせるバクラを危険と判断したリシドがマリクに下がるように願い出るが、マリクはそのリシドを手で制する。

 

「下がれ、リシド。バクラとか言ったな? ボクの名はマリク――ここは取引と行こうじゃないか」

 

「取引だァ?」

 

 マリクの提案に眉を上げるバクラ――だが内心でほくそ笑む。望んだ流れに持っていけたと。

 

「ボクは名もなきファラオへの復讐さえ終われば、千年ロッドがどうなろうと知ったことじゃない」

 

「つまり遊戯への復讐の手伝いをしろってかァ?」

 

 バクラに取って遊戯は、「名もなきファラオ」が今、死なれるのは困る。

 

「ダメだな、それだけじゃぁ足りねぇ。そうだなぁ、テメェの持つ情報――」

 

 

 しかしそんなことはおくびにも出さずにマリクの足元を見て、更なる対価を要求するバクラ。

 

 

 

 

 だがマリクにとってもバクラが「墓守の秘」を望むことなど想定内だ。その為に背中の碑文の情報をチラつかせたのだから。

 

 

 

 

「――と『千年タウク』もセットだ」

 

 

 

 

「――ッ!?」

 

 されども、この要求はマリクの予想外であった。

 

 千年タウク――マリクの姉、イシズが持つ千年アイテム。

 

「この条件が呑めねぇなら……分かってるよなぁ?」

 

 バクラはこう言いたいのだ――「身内を売れ」と。

 

「貴様ッ!」

 

「リシド!! ――いいだろう。恐らく姉さんの邪魔も入る……その時に千年タウクを回収しよう」

 

 そのあまりの要求にこれまで沈黙を守っていたリシドは激昂するが、マリクが止める方が早い。

 

 相手は千年アイテムの所持者――生身のリシドがどうこう出来る相手ではない。

 

 

「ククク……交渉成立だな……何ならテメェの姉貴は俺様が直々に――」

 

「だが勝手な行動は慎んで貰うぞ! あくまでボクの指示に従ってもらう!」

 

 そんな両人を愉悦混じりな笑みで見やるバクラにマリクは釘をさす――余計なことはするなと。

 

「なら俺様の宿主を使うことをお勧めするぜ――なんせ奴らの固い結束の内側にいるからなぁ……」

 

「成程な……崩すなら内側からか、良いだろうボクの策に組み込ませて貰う。詳細は――」

 

 そのバクラの手間賃替わりの提案にマリクはしばし考え込む。あまり悠長にしている時間はお互いにない。

 

 

 そしてマリクはほくそ笑む――城之内を手中に収め、遊戯と殺し合わせるデスゲームを描きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして一方の遊戯たちは――

 

「くっ! 城之内くんが!!」

 

 すぐさまどこにいるかも分からぬ城之内の元へと駆け出そうとした遊戯。だがその腕は掴み取られる。

 

「待ってください! 遊戯さん!!」

 

「月行! それに海馬! 悪いが俺は――」

 

 遊戯の腕を掴んだのは月行――その後ろには海馬がパントマイマーこと人形の元からカードを手に取り遊戯に歩み寄る。

 

「――海馬! お前と戦うことはできない!」

 

 そう突き放すような言葉を海馬に向ける遊戯だが、海馬の要件はそこにはない。

 

「ふぅん、焦らずとも貴様との決着は本戦にて付けてやる……だがまずはレアカードとパズルカードを受け取れ、貴様の戦利品だ」

 

 海馬から渡された2枚のパズルカードと『オシリスの天空竜』を受け取った遊戯はすぐさまデッキホルダーにそれらを仕舞うが、その間に月行は遊戯を説き伏せにかかる。

 

「まずは一度落ち着いてください、遊戯さん」

 

「だが!」

 

「この広い童実野町をやみくもに探しても見つかるとは思えません――逸る気持ちは分かりますが、こんなときだからこそ、しっかりと方針を立ててから動くべきです!」

 

 月行の言葉に遊戯は落ち着きを取り戻していく。だが焦る気持ちは完全には消えはしない――友、城之内の安否が気掛かりだ。

 

「…………くっ! だがどうすれば……」

 

「ふぅん、俺がKC本部に連絡を入れてやろう――KCのシステムを使えば、凡骨の居場所など直ぐに分かる」

 

「海馬……」

 

 襟についたKCのロゴマーク型の通信機を操作しながら告げられた海馬の言葉に遊戯は感謝の念を込めて海馬を見やる。

 

「勘違いするな――俺は今の腑抜けた貴様に勝っても意味はない。最強の状態で勝ってこそ意味があるからな」

 

 だとしても海馬はその感謝を素直に受け取ることはしない――海馬にとって遊戯との関係性は競い合うものでなければならないのだから。

 

「チッ、KCの回線が込み合っているな。この様子ではKCスタッフ共も望み薄か……一度KCの大会本部に戻るぞ。そこなら凡骨の居場所も直ぐに探せる」

 

 しかし通信機は沈黙を守ったままだ。これでは遊戯の望む情報は得られない。

 

 遊戯の焦る気持ちが募っていく。

 

「直ぐにもマリクの奴は城之内くんを――」

 

「おっと、お困りみたいだな」

 

 だが遊戯たちの耳に見知らぬ男の声が届いた。

 

「誰だ!?」

 

「これは失礼。俺は『デシューツ・ルー』――しがない賞金稼ぎ(カードプロフェッサー)、さ」

 

 その声の主はカードプロフェッサーの纏め役、デシューツ・ルー。決闘者の王国(デュエリストキングダム)で遊戯の実力を知った故か黒いパーマの長髪を揺らしつつ、芝居がかった大仰な礼を見せる。

 

「ヤツの雇ったハイエナ共か……」

 

 そんなデシューツ・ルーに海馬は冷たく返す――必要悪とはいえデュエル界の裏は海馬にとって好ましいものではない。

 

「うぁ~ボクらスゴイ言われようだねぇ~ あっ、ボクは『ピート・コパーマイン』。よろしくね~?」

 

 その海馬の言葉の中の棘にロックンローラー風の男、ピート・コパーマインはおどけた調子で自己紹介をした。

 

「話は聞かせて貰ったぜ? アンタのお友達探しは俺たちが引き受けてやるよ――アンタが一人で走り回るよりかはよっぽど確かだろ?」

 

 そのデシューツ・ルーの提案に月行は訝しむ。

 

「アナタ方には依頼があったと記憶していますが?」

 

 あくまでカードプロフェッサーは依頼のグールズ狩りを目的としていたにも関わらず、城之内の捜索、所謂ボランティアに近い行為をする意図が月行には読めない。

 

 月行の疑いの眼差しに指で頬をかきながらピート・コパーマインは言葉を零す。

 

「ニャハハ……それなんだけど、今はデュエルどころじゃないからね~。お休みみたいなもんだよ?」

 

「どういうことだ?」

 

 デュエルどころではないとの言葉に眉を上げる海馬。

 

「どういうことも何も、今は町中でグールズが暴れてるもんでな――KCはその火消しに大忙しって訳さ」

 

「……ボクはデュエルの腕には自信があるけど――あの手の荒事は苦手なんだよね……ニャハハ……」

 

 2人のカードプロフェッサーの言葉に嘘はない。

 

 現在童実野町では城之内を手中に収める際にKCの邪魔が入らないようにする為、マリクが陽動として全てのグールズの構成員に騒ぎを起こさせている。

 

 

 その為、大半のKC職員が騒ぎを収めるべく、ヒーローショーの様にグールズの構成員を捕らえることでイベントのように誤魔化しつつ動き回っている。

 

 その現場にはやたらとフットワークの軽い《もけもけ》のキグルミがいたりするのだが、余談である。

 

 

「成程……それなら我々ペガサスミニオンも城之内さんの捜索へ回りましょう。ですので遊戯さんは大会本部へ!」

 

「済まない、月行!!」

 

 大まかなカードプロフェッサーたちの目的を察した月行は彼らを牽制しつつ、遊戯を送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてKCの大会本部を目指して駆けていく遊戯と海馬の背中を見送るデシューツ・ルーにピート・コパーマインは茶化す様に言葉を投げかける。

 

「サービス残業は嫌いじゃなかったっけ?」

 

「何言ってんだよ――その城之内ってヤツを張ってりゃ、グールズの総帥に会えるんだぜ? なら、取らせて貰おうじゃねぇか――」

 

 しかしデシューツ・ルーは小さく笑みを作りながら熱を灯した瞳で返す。そう彼の狙いは――

 

 

 

 

「――神のカードってヤツの首をよぉ」

 

 

 

 三幻神である。

 

 

 『オシリスの天空竜』は逃したが、最後の神、『ラーの翼神竜』にデシューツ・ルーは狙いを定めていた。

 

 

 

 

 

 

「あっ、その前にあの倒れてる人を運ばないとだね――ニャハハ」

 

 しかし、パントマイマーこと人形の傍で散らばったカードを片付けていた月行の視線に気付いたピート・コパーマインの言葉にデシューツ・ルーはガクッと肩を落とす。

 

 

 何事もそう上手くことは運ばないものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな色々な人間の思惑の渦中にいる城之内とその一行はつい先ほど梶木とのデュエルが終わり、水族館を後にした後であった。

 

「うん? あれって獏良くんじゃぁ……」

 

 そう言って2人の人影を指さす御伽の言葉に城之内たちの意識は向くが、何やら様子がおかしい。

 

 獏良はグッタリとしており、もう一人の褐色肌の青年が肩を貸さなければ立つことすらままならない程に弱って見える。

 

 

 そんな異常事態に慌てて獏良の元へと駆けつける城之内一同。

 

「大丈夫か、獏良!! お前怪我してるじゃねぇか!!」

 

 その城之内の言葉通りにバクラの左腕にはナイフで刺されたような深い傷跡が残る――包帯で応急処置はされているようだが、その傷口からは血が滲み出していた。

 

「君たち、この人の知り合いかい?」

 

「ああ、俺らのダチだ!」

 

 褐色肌の青年は獏良を庇いつつ、どこか警戒するように城之内たちを見やるが、本田の言葉に肩の力を抜き安心したような顔を覗かせる。

 

「良かった! 彼、誰かに襲われたらしいんだ……応急手当はしたけど、早く病院に連れてった方がいい」

 

「そうじゃったか……いろいろ、すまんかったな。後は儂らに任せてくれ――城之内、手を貸しとくれ」

 

 そう矢継ぎ早に説明を終えた褐色肌の青年から獏良を預かった双六は軽く頭を下げ、感謝の念を示す。

 

 

 傷の状態を確認する双六を余所に、獏良をしっかりと支えた城之内は自身の拳を握りつつ怒りを見せる。

 

「誰だ……こんな事した野郎は!」

 

「うぅ……」

 

「――ッ! 獏良、大丈夫か! 何があったんだ!?」

 

 だが僅かに城之内の言葉に反応した獏良に詳しい経緯を聞こうとするが――

 

「城之内君…… わ、分からない……覚えてないんだ。 うぅ……」

 

 うなされるように言葉を紡ぐ獏良。傷の痛みのせいかその言葉はどこか要領を得ない。

 

「無理に思い出さんでええ、まずは病院じゃ。城之内、獏良君は儂に任せておけ」

 

 そんな獏良に優しい言葉をかけつつ双六はすぐさま大まかな経緯を把握する。

 

「なら僕も手を貸しま――」

 

 そう助力を願い出た御伽だが――

 

「いや、御伽くんたちは城之内と一緒におるんじゃ――幸い病院も近くにある。恐らく獏良君はグールズに襲われたに違いない。じゃとすれば……城之内も気を付けるんじゃぞ」

 

 だが双六はその御伽の申し出をスッパリと断る。

 

 獏良を襲ったのはグールズと考えている双六にとっていま危険なのは、獏良よりも大会を勝ち抜いたゆえに傍から見ればレアカードを豊富に持っていると思われている城之内の方だ。

 

「あぁ! 獏良のことは頼んだぜ、じいさん!!」

 

 そんな双六のメッセージを受け取った城之内は力強く返す――もしグールズたちが自身を襲ってくれば獏良の仇討ち代わりにお灸を据えてやると息巻きながら。

 

 

 

 

 

 

 そうして獏良を連れた双六を見送った城之内たちは獏良の窮地を救ってくれた青年へと向き直る。

 

「いやぁ、獏良のことありがとな! え~」

 

 しかし礼を告げるも相手の名前すら知らないことに今気づく城之内。

 

「ボクは『ナム』って言います。よろしく!」

 

 そんな城之内にナムと名乗った褐色肌の青年は朗らかに笑う。

 

「いや、マジで助かったぜ! 獏良に代わって礼を言わせてくれ!」

 

「そ、そんな! ボクは当たり前の事をしただけで……え、えーっと………」

 

 ガバッと頭を下げた本田にしどろもどろになるナム――そこまでされると気後れすると言おうとするが、城之内たちの名前を知らないゆえか言葉を探すナム。

 

 

 そのナムの仕草に城之内は手をポンと叩き、自己紹介だと口火を切る。

 

「おっと、俺らの自己紹介もまだだったな! 俺は城之内だ!」

 

「俺は本田だ! 獏良のことは本当に助かったぜ!」

 

「僕は御伽――僕からも礼を言わせて貰うよ、ありがとう、ナム君」

 

 そうして互いに自己紹介を終えた一同だったが、城之内はナムの腕に装着されたデュエルディスクに目が付いた。

 

「おぉ! お前もデュエリストなんだな!」

 

「はい! ……とは言っても、実力はそれほどでも。僕と戦おうなんて、言わないでくださいね?」

 

 その城之内の言葉にデュエルディスクを腕で隠す様に身を引くナム――決闘者の王国(デュエリストキングダム)で見た城之内の実力から勝負にならないと言いたげだ。

 

 

「へっ、残念だが俺は既に予選抜けを果たしちまってよ! お前とデュエルする訳にはいかねぇのよ!」

 

 しかし城之内は既にパズルカードを6枚集めた身――これ以上はバトルシティの予選にてデュエルする意味はない。

 

「えぇ! すごいなぁ、強いんですね! 一度、アドバイスして貰いたいな~」

 

 予選抜けとの言葉に城之内が6枚のパズルカードを集めた事実を知り、城之内に尊敬の眼差しを向けるナム。

 

 お世辞も交えつつ会話に花を咲かせる。

 

「ん? 何だ、そんなことくらいお安い御用だぜ! まだまだチャンスはある! 諦めんなよ!」

 

「良いんですか!? 頼んでおいてこう言うのも何ですけど……見ず知らずのボクに……」

 

 ナムの願いがあまりにもあっけなく城之内に了承された為、図々しいかと思ったナムが思わず引きの姿勢を取るが――

 

「何ってんだよ! 俺らのダチの獏良を助けてくれたんだ! オメェだってもうダチみたいなもんだぜ!!」

 

 城之内からすれば獏良を助けて貰った恩人の願いを無下にするつもりなど無い。

 

「あ、はい! よろしくお願いします!!」

 

「おっしゃあ! まずはデュエル出来そうなところを探すぜ!」

 

 そうしてナムの願いを叶えるべく動き出す城之内一同。

 

「なら相手は俺だ――俺もデュエルは始めたばっかで大会に出てる訳じゃねぇから、気負いせずお互いに頑張ろうぜ!」

 

「じゃあ向こうでデュエルしましょう」

 

 練習相手を買って出た本田がナムの肩を軽く叩き、その衝撃にナムはつんのめりながら人気のない路地裏へと城之内たちを案内していき――

 

 

 

 

 人気が全くなくなった途端に城之内たちに近づく虚ろな眼をした集団が一同の視界に入る。

 

「ん? 誰だ? ひょっとしてナム、お前の知り合いか?」

 

 そう予想して無警戒に近づく城之内だったが、返答は強烈であった。

 

「ゴバァ!!」

 

 虚ろな眼をした集団の一人が城之内の顔を殴りぬく。突然の事態に城之内はそのまま吹き飛ばされる。

 

「城之内くん!」

 

「大丈夫か、城之内! テメェら、いきなり何しやがんだ!!」

 

 心配気に叫ぶナムを余所にすぐさま城之内の傍によった本田は城之内の様子を確認しつつ、虚ろな眼の一団に抗議の声を上げるが、彼らからの返答はない。

 

「いや、待って本田君! こいつらまさか――」

 

 その意思のないような姿に虚ろな眼の一団の正体に辿り着く御伽だったが、それよりも先にナムが声を上げる。

 

「グールズだ!! きっと城之内君のレアカードを狙っているんだよ!! グァッ!」

 

 しかし声を上げたゆえかターゲットにされ、一団の一人に殴られるナム。そしれそれを合図に虚ろな眼のグールズの一団は、次々とナムへと攻撃を仕掛けていく。

 

「大丈夫か、ナム!!」

 

「に、逃げてみんな……ボクが囮になっている間に……」

 

 殴られた衝撃から帰還した城之内が声を荒げるが、ナムの声は弱々しい。

 

 この状況で城之内が取る行動は一つだった。

 

「何言ってやがる! ダチを置いて逃げれるかよ!」

 

 そう言いながら飛び蹴りをかまし、グールズの一団を吹き飛ばしつつナムを抱えて距離を取る城之内。

 

「僕も久々に頭に来たよ!」

 

 ナムと城之内を追うグールズたちにサイコロを素早く投げ、牽制する御伽に本田は腕を回しながら問いかける。

 

「ん? なんだ、御伽――お前もイケる口(戦える)か?」

 

「それなりに動けるつもり――だよッ!」

 

 その本田の返答代わりにグールズの一人を蹴り飛ばした御伽の一撃を合図に3対多の一戦が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……開けたのだが、開けてみれば勝負にはなっていなかった。数で勝る筈のグールズ相手に全くやられる気配のない3人。

 

 無理もない――彼らは童実野高校にてリアルファイト強者の上位陣である3人なのだから。

 

 その戦力差はグールズたちが可哀そうになってくるレベルである。

 

――チッ! 使えない奴らだ! ボクを人質にとれ!

 

 そんなマリクの命を受けたグールズの一人はすぐさま行動に移す。その狙いの先は――

 

「うぅ……じ、城之内くん……」

 

「人質たぁ、きたねぇぞ! テメェら!」

 

 城之内が怒声を上げるようにグールズの人質になったナムの姿があった。

 

 

 そう、優し気な青年「ナム」の姿は城之内たちを騙す偽りの姿! その正体はグールズの首領、「マリク」だったのである!!

 

 

 

 マリクもとい、ナムを人質に取られた城之内は下手に動くことは出来ない。城之内はナムがマリクであることなど知りもしないのだから。

 

「グハッ!」

 

「城之内ィ! ガハッ!」

 

「本田君! このままじゃ――グァッ!!」

 

 ゆえにグールズたちに一方的に殴られていく城之内たち。このまま痛めつけて意識を奪った後で連れていくマリクの算段だった。

 

――よし、このまま奴らを……ん?

 

 しめしめと人質を装い状況を眺めていたナムことマリク。

 

 だがナムことマリクを人質に取らせていたグールズの一人がパタリと倒れた。

 

 訝しむマリク。そして状況が読み込めない城之内たちに一人の男が前に出る。

 

 

「相変わらずの猪突猛進っぷりだな、城之内」

 

 その覚えのある声に城之内は声の主の顔を見るが、そこにあったのは――

 

 詰襟の制服をぴっしりと着こなした、七三分けの髪形をした瓶底眼鏡の青年。そう! 彼は!!

 

「いや、誰だ、お前」

 

 城之内の記憶にない人だった。

 

 

 戸惑いしかない城之内に、瓶底眼鏡の青年はヤレヤレと肩をすくめる――妙にイラっとする仕草だ。

 

「おいおい、忘れちまったのかよ――――この俺を!」

 

 そして青年は手で髪形をオールバックに戻し、瓶底眼鏡を外す。そこにあったのは――

 

蛭谷(ひるたに)!? 何でここに!?」

 

 そう蛭谷(ひるたに)さんである!! だがきっと「誰?」と思う人が多いと考えられる為――

 

 ざっくり説明すれば城之内の中学の頃の不良仲間であり、その後は別々の高校に別れたのだが高校にて衝突し、ひと悶着あった仲であり、

 

 そして「フフ……なかなか良い眺めだぜ、城之内」でお馴染みの人である――今現在は、その……見違えていたが……

 

「近くの図書館で勉強してれば、どうも町の方が騒がしくてな……見に来たって寸法よ!」

 

 そうして襟を緩めつつ城之内の元へナムを引き連れ歩み出る蛭谷――ナムことマリクは状況が呑み込めていない。

 

「昔のよしみだ――手を貸してやる。本田はこの坊ちゃんを見といてやんな」

 

 そしてナムを本田に任せ、倒れた城之内に手を差し出す蛭谷。その澄んだ真っすぐな蛭谷の目に城之内はその手を固く握って応えた。

 

 

 

 

 やがてグールズの一団に向けて城之内と肩を並べた蛭谷はボソリと呟く。

 

「しかし、またテメェと肩を並べられるとはな――フフ……なかなか良い眺めだぜ、城之内」

 

 そんな蛭谷の言葉に中学時代を思い出したのか城之内は鼻を鳴らし、返す。

 

「腕はなまってねぇだろうな、蛭谷!!」

 

「誰に言ってんだ城之内!!」

 

 

 そうして再び始まるグールズたちとの衝突。

 

 

 その結果は――

 

 

 相も変わらずグールズたちが可哀そうになる現実があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とは言え、殴り飛ばされてもすぐさま虚ろな状態で立ち上がり続け、更には次から次へと現れるグールズたちに疲れが見え始める城之内。

 

「何人いるんだよ、こいつら! キリがねぇ! このままじゃジリ貧だぜ!」

 

「泣き言か? らしくねぇな、城之内!!」

 

 そうニヒルな笑みを作って返す蛭谷だが、その身体には疲労は確実に蓄積されていくであろう。

 

 

 

 そんな2人の姿をただ見ているだけしか出来ない本田と御伽は悔しさに拳を握る――本田と御伽はナムが再び人質にならぬように備えている為、加勢は出来ない。

 

 

 だが本田の頭にふと疑問が過る――これだけの騒ぎになっているにも関わらず、KCのスタッフが来ないことに。牛尾たちがグールズたちに後れを取りやられているなどとは思えない。

 

――ひょっとしてこの騒ぎが伝わってねぇのか?

 

 そう結論を出した本田はナムの肩を掴み願い出る。

 

「ナム! わりぃが 牛尾を――KCのスタッフを呼んできてくれ! 頼んだぜ!!」

 

「でも……いや、分かったよ!!」

 

 一瞬の逡巡の後に、そう力強く返し、駆け出すナムの姿を見届けた本田と御伽は城之内と蛭谷の加勢に躍り出た。

 

 

 本田の予想はあながち間違いでもない――ただ違うのは「騒ぎが伝わっていない」のではなく、「騒ぎが溢れかえっている」為、この場に手が回っていないことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその騒動を起こしたのが――

 

――フフフ……呼んできてやるさ……グールズ共をな!

 

 そうほくそ笑んだナムことマリクの顔を見たものはこの場に存在しない。

 

 

 






~入りきらなかった人物紹介、その1~
蛭谷(ひるたに)

最初期のデュエルしなかった頃の遊戯王に登場。

「フフ……なかなか いい眺めだぜ 城之内」でお馴染みの人

――原作では
城之内とは中学校時代からの付き合いで、当時は城之内と共に周囲の学校の不良と喧嘩に明け暮れていた。

だが卒業し高校に進学する際に城之内が通う童実野高校ではなく、隣玉高校に進学。継続して不良グループを束ねる不良少年に。

やがて不良グループの勢力を拡大の為に城之内に会いに童実野町に向かう蛭谷さん。

そして紆余曲折あって
反抗的だった城之内を「意識改革の処刑」という名目を持って紐で宙吊りにし、袋叩き+スタンガンで痛めつける。上述のセリフはこの時のもの。

その後はやっぱり闇遊戯に粛清された。



だが我らが蛭谷さんはそんなことでは諦めない。

後日、闇遊戯と城之内をおびき出し、リベンジを図る。

今度は手下をヨーヨーで武装化し、城之内を襲撃――いや、ヨーヨーって……

その後、紆余曲折あって、手下たちは闇遊戯に、蛭谷自身は城之内とのタイマンに敗北する。


この一件移行、原作での蛭谷さんの出番はなかった。


――今作では
三度目の正直とばかりに懲りずに不良たちを集めている所を牛尾が発見。

そのまま牛尾の手によってまとめて粛清された。

その結果、蛭谷さんは「キレイな蛭谷さん」となった。

そして瓶底のような分厚い眼鏡(伊達)に七三ヘアーの謎の姿になったが、本人は問題にしていない模様。

最近は図書館や書店で「フフ……まさに知識の宝庫。なかなかいい眺めだぜ」と呟く姿が目撃されている。





~入りきらなかった人物紹介、その2~
ピート・コパーマイン
遊戯王Rに出演
カードプロフェッサーの一人。

目の周りに隈取のようなメイクをした飄々とした青年。「ニャハハ」が口癖。

作中では自身の持ち場に現れる相手を驚かせる為に我慢して隠れていたりするなど、お茶目な一面も。

ちなみに超能力を使え、スプーン曲げが出来るらしい。


――今作では
自身の持つ超能力(スプーン曲げ等)に関して「どういうものなのか」をハッキリさせようとKCのオカルト課にて診て貰おうとしたが、

カードプロフェッサー総出で止められた為に断念。

その後、マイコ・カトウの伝手で診て貰うも、「可もなく不可もなく(大したメリットもデメリットもなし)」といった微妙な結果を得た。

最近は手品(超能力)に嵌まっている。


依頼人との集まりにて神崎とすれ違った際に、神崎がお偉方の子供をあやす為に見せた手品(物理)のタネが分からないのが悩み。

ちなみに彼が見た神崎の手品は「腕が伸びるマジック(物理)」である――異形となった腕は服で隠れている為、スプラッターな現実は見えない。


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