マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
蛭谷「ナムナム詐欺には気を付けな……しかし騙されているお前は――フフ……なかなか良い眺めだぜ、城之内」






第102話 この街をカオスに陥れてやれ!

 

 

 城之内がかつての友、蛭谷の協力を得て、グールズ達と終わりの見えない闘いに臨んでいるのだが――

 

 ここで時間はさかのぼり、遊戯とマリクのデュエルが終わった少し後へと戻る。

 

 

 空に上がっていく狼煙のような煙を見つつ牛尾はポツリと呟く。それはKCの大会本部からの緊急連絡――通信が込み合った際の処置。

 

「やべぇな……」

 

「どうしたの、牛尾くん?」

 

 ただ事ではない様相の牛尾に不安げな顔を見せる杏子だが、牛尾は安心させるように返す。

 

「いや、ちょっと緊急事態みたいでな、俺らもそっちの作戦に回らなきゃならねぇ」

 

「作戦?」

 

「あー……早い話が騒ぎ出したグールズ共を『仮装してぶっ飛ばす作戦』だ」

 

「なんなの……それ……」

 

 オウム返しに尋ねた杏子だったが、言い難そうに返ってきた牛尾の謎の説明にどこかゲンナリしていた――文字だけを見れば意味不明な作戦に頭を痛めている様子。

 

「いや~幹部のBIG5のお偉方が考えた策だからな~……上司が違う俺にそんなこと言われても困る」

 

 しかし牛尾とて杏子の気持ちはよく分かる――この緊急時の作戦を聞かされた時は頭痛を堪えたものだ。

 

「まぁ、分かりやすく言やぁ『騒ぎを騒ぎで誤魔化す』作戦だな」

 

 つまりグールズが暴れた事実を表向きに隠蔽することで、一般の人間に不安を与えぬ処置――ただ大人の汚い思惑も多々入り混じってはいるが。

 

 

 そんな物理的にも精神的にも遠くを眺める牛尾に元気いっぱいな声が響く。

 

「牛尾先輩! 私たちはどうすれば良いですか!」

 

 そうピシッと手を上げた静香に牛尾は少し先を指さす。

 

「その辺りはあそこにいるモクバのヤツに聞いてくれ、俺らは一足先に行ってっから」

 

 その牛尾の指の先にいたのはモクバ、と護衛のアメルダ。さらに先でやたらとアクロバティックな動きでグールズたちを倒していく《もけもけ》のキグルミ。

 

「それじゃぁ静香さん、杏子さん。お先に失礼します」

 

 杏子たちに気が付いたモクバとアメルダの姿を確認した牛尾は懐から何やら取り出す。

 

 それは赤い炎のようなデザインの《M・HERO 剛火》のマスク。北森も同様に取り出したのは黒い獣のようなデザインの《M・HERO ダーク・ロウ》のマスクだ。

 

 それらを装着した牛尾と北森はグールズたちを止めるべく駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 KCの管制室にて通信が混雑するレベルの連絡がひっきりなしに飛び交っていた。

 

 そんな中でBIG5のサイコ・ショッカーの人こと大門は声を張り上げる。

 

「各現場の鎮圧の状況の確認を怠るな!! 一定ラインをクリアした段階で人員の投入レベルを1段階下げ、他へ回せ!!」

 

 このグールズが起こした騒動はKC側の威信にかけて、何としてでも被害を最小限にして片付けなければならない。下手をすればKCの信用がガタ落ちしかねないのだから。

 

 それゆえに大門はいつも以上に気合が入っている。

 

「グールズ共の動きの規模から鑑みて、相手は此処で全ての戦力を使い切る腹積もりだろう! ここが正念場だ!! 各員、気を引き締めろ!!」

 

 そう言い切った大門に綺麗に揃った返事を返したオペレーターたちは流れるように情報を処理していく。

 

 かつては剛三郎の側近であった大門。ゆえにこの手の騒ぎにも動じることはない――あの剛三郎に側近を任されたのは伊達や酔狂ではないのだ。

 

 

 

 

 

 一方、そのオペレーターたちを余所にBIG5のペンギン大好きおじさんこと大瀧が楽しそうに童実野町の地図の上にペンギン型の駒を置いて状況の変化を見定めていた。

 

「グフフ……私の選りすぐったキャンペーンガールちゃん達もしっかりと仕事を果たしてくれているようですねぇ」

 

 そのペンギンの駒が置かれている位置はグールズたちが陽動を行っている地点――そこから人の流れを計算するようにいくつかに色分けされた線をペンで引いていく大瀧。

 

「フフフッ……順調! 順調! これならばこの騒ぎがこれ以上広がることはないでしょう! やはり私の眼に狂いはありませんでしたなぁ! ハッハッハッハッ!!」

 

 高らかに笑う大瀧を見るに情報管理は上手くいっている様子。

 

 普段はペンギン大好きっぷりが目立つ大瀧だが、仮にもKCの幹部にまで上り詰め、人事を取り仕切っていた男である――人の機微には鋭い。ゆえにこの程度はお手の物とでも言わんばかりだった。

 

 

 

 

 

 さらに少し離れた場所にてBIG5の一人《深海の戦士》の人こと大下は何やら連絡を取っている模様。

 

「ああ、そうだ。この騒ぎはあくまでバトルシティのイベントの一環――表向きはそう処理する」

 

 連絡している相手は不明だが、言葉の節々から何やら不穏さを感じさせる。

 

「なに、多少の被害が出ても口を塞ぐ方法などいくらでもある。致命的な被害が出ない限りは――ああ、勿論其方に飛び火はせんよ。此方で十分、対処は可能だ」

 

 そうニヤリと笑う大下――此方も「妖怪」と揶揄される程に企業買収を行ってきたスペシャリスト。その人脈はKCの中でも抜きんでていた。

 

 

 

 

 

 またまた少し離れた個所ではBIG5の《ジャッジ・マン》の人こと、顧問弁護士の大岡も何者かと連絡を取っていた。

 

「お願いしたいのはあくまで『交通整理』ということで――ええ、これさえ果たして頂ければ貴方がたは『世界的犯罪組織グールズ』を捕縛した栄誉が手に入る訳です。安い買い物でしょう?」

 

 此方も先程のBIG5の一人《深海の戦士》の人こと大下と同じく不穏さが感じられるやり取り。

 

「――おや、そうですか。ですがそういったご心配は無用です。我々KCはあくまで『協力した』スタンスを崩すつもりはありません。グールズ捕縛の立役者の座は――ええ、ではお願いしますよ……」

 

 そう言い終えて通信を終えたBIG5の《ジャッジ・マン》の人こと大岡はすぐさま別の相手へと連絡を取っていた。

 

 その「弁護士」という立場上、法関係の様々な伝手が大岡にはある――それらを利用すれば、黒いものでも白く出来るとばかりに眼鏡を光らせた。

 

 

 

 

 

 そんな管制室ではBIG5たち――の内1名、《機械軍曹》の人こと大田はこの場にいないが、その4人の姿を満足気に眺めているのは乃亜。

 

「フフッ、しかし瀬人が切り捨てた人間(BIG5)が、KCの窮地を救う助けになるとは随分と皮肉の効いた出し物じゃないか、神崎」

 

 それはこの場にはいない神崎へと向けられた言葉ゆえに返事が返ってくることはない。だが乃亜は上機嫌だった。

 

「この為の羽蛾の独断専行か……(羽蛾)がグールズの首領を倒せば良し、返り討ちに合っても良い訳か」

 

 このグールズたちの騒動の切っ掛けとなった羽蛾の失態も全ては神崎の掌の上だったと乃亜は悟る――実際は想定外に次ぐ想定外だが。

 

「回収された羽蛾を見るに良い経験が積めたようだし、今後は駒として一段上の活躍が望める」

 

 帰還した羽蛾の様子を聞き及んでいた乃亜は角の取れた羽蛾の姿を見て感心していた――こうやって「矯正」していくのかと。

 

「仮に羽蛾の回収に失敗していたとしても羽蛾が持つのは偏った情報――つまりグールズの足を引っ張ることになれど、助けにはならない」

 

 そして乃亜は思案する。

 

 例え羽蛾が人質にされたとしても、人質の存在に一切躊躇しないアクター(便利な駒)もいる――アクターの「仲間意識」とは無縁の存在ゆえの利便性に目が行く乃亜。

 

 多少の扱い難さを補って余りある程のメリットだった――良い避雷針にもなりえる。

 

 なおアクターこと神崎からすればお断り案件であるが、乃亜が知る由もない。

 

「そしてこの騒動もグールズの首領の洗脳被害にあった人間を纏めて捕縛できる絶好の機会になる訳か……しかも――」

 

 一見すればバトルシティでの大失態に繋がりかねない今回のグールズの騒動だが、入念に計画された罠の中では大した障害にはなりえないと神崎は判断したと乃亜は考える。

 

 ビビり、もといリスクを嫌う神崎からすれば大慌ての事柄だが。

 

「KCが全ての垣根を乗り越えて一丸となって困難に立ち向かうことで、より結束を強固にする――ああ、瀬人だけは除け者か、フフッ」

 

 最後にそう小さく笑った乃亜。

 

 

 今現在のKCはまさにあらゆる垣根を超えた総力戦ともいえる様相である。乃亜は海馬にも見せたかったと一人ごちる

 

 

 こんな「海馬 瀬人(トップ)がいなくともKCが回る状態」――本来は喜ばしいものだが、幹部たちBIG5と溝のある海馬からすれば色々と気が休まらないことは明白だった。

 

 ついでにそのBIG5たちと懇意にしている神崎の存在も海馬にとって目の上のたん瘤以上に厄介であろう。

 

 

 

 海馬と神崎が分かり合える日は果たして来るのか甚だ疑問だが、分かり合えなければ血を見る結果になる予感だけはヒシヒシと感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな会議室、もとい管制室を余所にグールズたちと直接対峙している現場は――

 

『もけっ! もけもけッ!!』

 

 身体を振り子のように揺らしながら拳を繰り出すやたらと動きにキレがある《もけもけ》のキグルミがグールズたちを次々とその拳で屠っていく。

 

 周囲の《もけもけ》のキグルミたちもそれに続くようにグールズたちを捕縛していく――やたらと動きにキレのある《もけもけ》はリーダー格のようだ。

 

「《もけもけ》さんの快進撃! 怪人たちは成す術がないぞ~!!」

 

 まるでヒーローショーのナレーターのような言葉で場を盛り上げるのはキャンペーンガールの一人に選ばれている野坂ミホ。

 

 騒動をイベントのように誤魔化し、本戦へのチケットを得るべく此処ぞとばかりに自身の能力をアピールしていた。

 

『もけッ! もけけッ!!』

 

 その言葉に応えるように怪人役の強制的に立たせたグールズにリーダー格の《もけもけ》の気合の入った声と共に繰り出された拳や蹴り、果てはタックルなどが加えられ、次々と吹き飛ばされていく。

 

「危ない! 《もけもけ》さん! 後ろから怪人が!」

 

 そんな野坂ミホの焦るような言葉にもリーダー格の《もけもけ》は動じない。

 

『――もけッ!!』

 

 その背後から迫るグールズに振り返らずに前に跳躍。

 

 そこから跳躍した先にあった壁を蹴って再度跳躍しながら体の向きを変え、攻撃を躱されたゆえに身体が硬直していた先程のグールズに向けて――

 

「でたっー!! 三角跳びからの回し蹴りだぁ~!!」

 

 その野坂ミホのプロレスのような実況と違わず、回し蹴り――と言ってもチョコンと伸びる足ゆえに横向きでタックルしているようにも見える一撃――を繰り出した。

 

 

 

 その一撃で吹き飛ばされたグールズの一人は他の倒されたグールズたちの山へと落ちる。

 

『もけ~!!』

 

 そして倒れ伏したグールズの山の上で雄叫びを上げつつ天に腕を突き上げるリーダー格らしき《もけもけ》のキグルミ。

 

 

 さらにその姿に他の《もけもけ》のキグルミたちも手を突き上げ――

 

『 『 『 もけ~ッ!! 』 』 』

 

 リーダー格の《もけもけ》の勝利を称えるが如く声を揃える。

 

 

 

 

 そんなもけもけした現場の近くで、奮闘していた牛尾は現実感なく呟く。

 

「あの動きは佐藤さんだな……相変わらず強えぇなぁ……」

 

 リーダー格の《もけもけ》の中の人はオカルト課に所属する佐藤――護送班の任務は別の人間に任せ、どこからかキグルミを拝借したらしい。

 

 キグルミを着てよくもあれ程動けるものだと感心しながら牛尾は傍のグールズの意識を刈り取っていく。

 

「とうっ!」

 

 傍ではそんな声と共に北森が軽めに吹き飛ばしたグールズたちが心配になるような速度で地面を転がっていたが、他のグールズたちがクッションになるように衝突していた為、北森も無策ではないのだろうと牛尾は現実から目を逸らす。

 

 

 牛尾の頼れる先輩、ギースも言っていた。「オカルト課の医療技術を加味して、問題ない程度の手加減を北森は出来ている」と――もの凄く不安を駆り立てる言葉である。

 

 

 

 現実逃避気味の牛尾はさておき、《もけもけ》のキグルミたちに歩み寄る野坂ミホ。

 

「ありがとうございます! 《もけもけ》さんたち! これでバトルシティの平和は守られました!!」

 

『もけッ!』

 

 そんな野坂ミホの言葉に「気にするな」とばかりに手で制したリーダー格の《もけもけ》こと佐藤は他の《もけもけ》のキグルミたちへと向き直る。

 

『もけッ、もけもけッ!! もけ~!!』

 

 

『 『 『 もけッ!! 』 』 』

 

 そしてリーダー格の《もけもけ》こと佐藤の指示に倒れ伏したグールズの山に殺到する《もけもけ》のキグルミたち。そして――

 

『もけっ!』

 

『もけっ!』

 

『もけっ!』

 

『もけっ!』

 

 掛け声と共に《もけもけ》のキグルミたちに次々と担ぎ上げられる意識を失ったグールズたち。やがて――

 

『もけもけッ!! もけけっ! もけ~!!』

 

 

『 『 『 もっけッ!! 』 』 』

 

 リーダー格の《もけもけ》が「次なる戦場へ参る」と思しき声を上げて先陣を切って駆け出し、他の《もけもけ》たちもその後に続き、裏路地の方へと走り去っていった。

 

 

 何ともカオスな世界がそこにはあった――こんな作戦を考えたのは誰だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして路地裏に消えていった《もけもけ》の一団は――

 

「お~い、お前ら~! こっちだぜい~!」

 

 そんなモクバの声の方へと突き進んでいた。その隣に便宜上の補佐役として杏子と静香は同行していたが――

 

「えっ!? なんか一杯来た!?」

 

 迫りくる《もけもけ》のキグルミの大群に杏子は引き気味であった――《もけもけ》の見た目は愛らしいものだが、だとしてもこれ程の勢いで迫られればかなりの圧力である。

 

「護送車はこっちになります!」

 

 しかし一方の静香は与えられた役割である「キグルミたちの誘導」を何とかこなそうと護送車の場所を示す。その先には護衛のアメルダが待機しており――

 

『もけっ!』

 

『もけっ!』

 

『もけっ!』

 

『もけっ!』

 

 そんな《もけもけ》のキグルミたちの掛け声と共にアメルダにパスされたグールズたちは護送車に押し込められていく。

 

 やがて《もけもけ》たちは次の現場へと駆けていく――嵐のような連中である。

 

「お仕事頑張ってくださいねー!」

 

 だが咄嗟に出た静香のそんな言葉に《もけもけ》のキグルミたちは走りながら綺麗に息を合わせてサムズアップし――

 

『 『 『 もけッ!! 』 』 』

 

 

 謎の掛け声を返した――頼もしい限りである。

 

 

 

 

 

 ちなみに、他にも《クリボー》のキグルミを装着した一団など様々なタイプのキグルミたちがグールズの騒動を片っ端から片付けている。

 

 

 その光景はやはり裏の事情をはらんだ殺伐とした気配などまるでなく、唯々カオスだった――「騒動を隠す」という意味では成果を上げていたが、素直に喜べないのは何故なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走る 走る 走る 走る 走る

 

 

 今は一秒でも惜しいとKCの大会本部へと足を動かす遊戯――その胸中にあるのは間一髪だったパンドラの一件。

 

 城之内が同じ状況に陥っているかもしれないと考えるだけで遊戯の心は締め付けられる。

 

 

 だがそんな先を急ぐ遊戯に立ちはだかるローブで全身をスッポリと覆った人物が2人。

 

 その2人の内の小柄な男の声が響く。

 

「おおっと、行かせないんかんな! 此処を通りたければオレたちを倒すしかないぜ!」

 

「くっ……こんな時に!!」

 

 グールズのレアハンターだと察した遊戯は足を止める――城之内をさらうまでの足止めであることは明白だった。

 

「オレはレアハンター、『光の仮面』!」

 

 そう名乗りを上げた2人のレアハンターの内の小柄な男、顔の右半分を覆う白い仮面を付けた『光の仮面』。

 

 その仮面は遊戯を嘲笑う様に笑みが浮かんでおり――

 

「同じくレアハンター、『闇の仮面』! ――さぁ、武藤 遊戯。どちらからお相手しようか、勿論デュエルでな」

 

 そうデュエルを提案したのは、もう一人の大柄なレアハンター、顔の左半分を覆う仮面を付けた『闇の仮面』。

 

 その仮面は遊戯の怒りを写しとったかの様な怒りの表情が浮かんでいる。

 

「どちらでも構わない!! さっさとかかってこい!!」

 

 一分一秒を惜しむ遊戯はすぐさまデュエルディスクを展開し、デュエルの構えを取るが――

 

「随分威勢がいいことだ――ならこの『闇の仮面』が相手になろう!」

 

「いやいや、相棒! そうはいかないかんな! 遊戯はオレがやる!」

 

 デュエルするべく一歩前に出た闇の仮面を制するように前に出る光の仮面。

 

「いや、俺だ!」

 

「いーや、オレだかんな!!」

 

 そして我こそが、と言わんばかりに遊戯とのデュエルの順番を譲らずコント染みた動きを見せる2人。

 

 遊戯の予想通り、2人の仮面のレアハンターたちがマリクに命じられたのは「時間稼ぎ」である。さらに可能であればそのまま神のカードの回収することも計画されていた。

 

「それじゃあ、『じゃんけん』で決めるかんな!」

 

「いいだろう! じゃん! けん!」

 

「 「 ぽん! あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ! あいこで―― 」 」

 

 そうして「じゃんけん」でワザとらしく時間稼ぎを始めた2人のレアハンターに遊戯は焦りから声を荒げる。

 

「貴様らいい加減にしろ!!」

 

「――悪いなぁ、遊戯。でもしょうがねえよなぁ? 二対一でデュエルするわけにもいかねぇしよ」

 

 そんな遊戯の姿に光の仮面は小馬鹿にするように笑う――冷静さを奪う試みは上手くいっているとほくそ笑みながら。

 

 

 

 しかしそんな三者に声が届く。

 

「ならばタッグで掛かって来い! 雑魚ども!! 俺は遊戯と組む!」

 

「海馬!?」

 

 その正体は海馬。

 

 先んじて駆けていた遊戯が仮面のレアハンターたちとのやり取りしている姿を背後から静観していた次第である。

 

 ゆえに一番手っ取り早い方法を提案した海馬。

 

「海馬……」

 

「だが勘違いするな――神聖なカードを邪悪な目的で扱う連中を放っておくわけにはいかん。 決してお前や凡骨に手を貸すわけではない」

 

 遊戯の頼もしい仲間を見るような視線に対し、互いはライバルである関係性を明確にしておく海馬だったが――

 

 

 

「 「 とっうっ!! 」 」

 

 再び新たな乱入者が空から宙返りしつつ現れる。

 

 

 その乱入者はスキンヘッドの男性用のチャイナ服、(ぱお)に身を包んだ2人組。

 

「なんなんだ!? こいつら!?」

 

 そのあまりのインパクトに引き気味な反応を示す光の仮面だったが、その2人の乱入者は遊戯たちの隣に着地した。

 

「 「 我ら迷宮兄弟!! 」 」

 

 息を揃えて名乗りを上げた2人組、迷宮兄弟。

 

 オレンジカラーの服装に額に「迷」の文字が書かれた迷宮、兄が仮面のレアハンターたちを牽制しつつ遊戯へと言葉を投げかける。

 

「『武藤 遊戯』殿とお見受けする――大まかな事情は聞き及んでおる!」

 

「ここは我らに任せて先を急ぐがいい!」

 

 そしてグリーンの服装に「宮」の文字が書かれた迷宮、弟が言葉を引き継ぎ、遊戯に先へ進むように促した。

 

「ヤツの差し金か……」

 

 あまりにもタイミングの良すぎる増援に海馬は思い出したくもない男の影を思い浮かべるが、その辺りの事情を知らぬ遊戯からすれば関係はない。

 

「すまない!」

 

 短い感謝の言葉と共に仮面のレアハンターたちの脇を駆けていく遊戯。そしてすぐさま後を追う海馬。

 

「いかせないかんな!」

 

 だが当然そのまま通す訳にはいかない光の仮面が動きを見せるが――

 

「 「 ハァッ!! 」 」

 

 迷宮兄弟のそれぞれのデュエルディスクから発射された鎖状の物体が仮面のレアハンターたちのデュエルディスクに接続される。

 

「こいつは!?」

 

「これは『デュエルアンカー』――我らとデュエルしなければ外れることはない」

 

 走り去った遊戯と海馬を尻目に立て続けに起こる想定外の事態に瞠目する闇の仮面に迷宮、兄はしたり顔で返す。

 

「人質がどうなっても良いのか!」

 

 そんな咄嗟の光の仮面のハッタリにも――

 

「それは困ったな、弟よ」

 

「全くだ、兄者――このデュエルアンカーを外す残った方法はKCにしかないというのに」

 

 かなりの情報を与えられた迷宮兄弟が惑わされることなど無い――仮に光の仮面の言葉が事実であってもどうすることも出来ないが。

 

「チィッ! 面倒なことになった!」

 

「落ち着け相棒! この変な奴らをさっさと倒して追い掛ければ良いだけだかんな!」

 

 闇の仮面は苛立ち気に舌打ちを打つが、光の仮面はまずはこの状況の打開を優先する。

 

 

 その光の仮面の言葉をデュエルの了承と受け取った迷宮、兄はデュエルディスクを展開し――

 

「ふっ……決まりだな! 遊戯殿を追いたくば――」

 

「 「 我らの迷宮を超えていって貰おうか!! 」 」

 

 合わせてデュエルディスクを展開した迷宮、弟と共に鏡合わせのようなポーズを取った。

 

 

 そのポーズに光の仮面は相手も「タッグ戦」を想定したデュエリストであると考える――くしくも互いに「タッグ戦」を得意とする対戦カード。

 

「だったら、このタッグデュエルは『バトルロイヤルルール』で行かせて貰うかんな!」

 

「 「 此方に異論はない!! 」 」

 

 4人で行うデュエル形式を提案した光の仮面に息を揃えて返す迷宮兄弟。

 

「相棒! 奴らを速攻で潰すかんな!!」

 

「任せろ!!」

 

 だが光の仮面はコンビプレーならば此方も負けてはいないと、闇の仮面と同時にデュエルディスクを展開し、4人制のデュエルに適した距離にアクロバットに宙返りをしながら距離を取る。

 

「果たしてそう簡単にいくかな?」

 

 その迷宮、弟の言葉と共に仮面のレアハンターたちと張り合う様にバク転や宙返りを重ねて距離を取る迷宮兄弟。

 

「新たな力を得た――」

 

「 「 我らの力を思う存分見せてやろう!! 」 」

 

 そして迷宮、兄の言葉に合わせた迷宮、弟――迷宮兄弟の息の合った言葉がデュエルの口火を切った。

 

 

「 「「 「 デュエル!! 」 」 」 」

 

 






今作の迷宮兄弟の
「伝説のデュエリスト武藤 遊戯と戦った」称号が削除されました。
「伝説のデュエリスト武藤 遊戯の危機を救った」称号が追加されました。NEW!!



~「バトルロイヤルルール」って?~

原作にて3人以上のデュエリストがデュエルする際によく用いられる特殊ルール。

基本的に3人以上が順番にターンを回していき、最後に残っていたデュエリストの勝利になる。

今回の場合は4人が2人ずつに分かれた上でのタッグデュエル形式の為、タッグを組んだ2人が敗北した時点で決着となる。

ちなみにタッグだからといってチーム間で相談や、互いの手札を見せあうなどの行為は出来ない。


大まかなルールは通常のデュエルとの大きな差異はない。だが――

最初のターンは全員にターンが回るまでバトルフェイズを行うことが出来ない。

互いのプレイヤーに影響を及ぼすカードは全てのプレイヤーに影響が及ぶ。
上述の「プレイヤー」が「モンスター・魔法・罠」の場合でも同様である。

――などなど、このような細かな違いがみられる(具体的な内容はデュエルで使用した際に説明を入れます)


一例としては、「遊戯王GX」にて迷宮兄弟が兄弟間で、
モンスターカード名を1つ宣言し、そのカードが相手のデッキにある場合に手札に加えさせる効果を持つ――魔法カード《闇の指名者》。

この効果を味方のプレイヤーに対して発動することで、疑似的なサーチ手段としていた。







~今作でのKCオリジナル品~

~「キグルミ型決戦兵器―タイプ《もけもけ》」について~

過去の剛三郎時代にて将来的に出来る海馬ランドが出来た際の警備用に神崎の要望を受けて
BIG5の《機械軍曹》の人こと大田によって開発されたアシストスーツならぬアシストキグルミ。

早い話が神崎の海馬への味方アピールの為に作られた一品――無駄に高性能。

そして開発された段階で実践的なテストの為に
神崎がアメルダ一家を救う際に戦場を潰しまわった際に、ついでの戦災復興の為の用途で使用されていた。

ゴツイ装備をした人間よりも愛らしいキグルミの方が人々に威圧感を与えず、戦乱で擦り減った人々の精神に負担を与え難いであろう、という考えの元でのテスト運用だったのだが、

現場にて愛らしい姿でエゲツナイ作戦を実行する姿ゆえに、逆に対峙した相手に恐怖を煽った。

なお子供受けは良い模様。


問題点として装着者はインカム越し以外では何を言っても対応したモンスター風の声しか外には出ない為、意思疎通が困難になる――どこのフモッフだ。

だが本部でそれぞれをモニターすれば問題はない。BIG5の《機械軍曹》の人こと大田がすぐさまやってくれました、とのこと。さす工場長!


肝心の海馬ランドでは普通のキグルミに紛れむ形で活動している――有事の際には闇に隠れてならぬ、キグルミの群れに隠れて障害を排除するらしい。


ちなみに――
タイプ《もけもけ》はオールラウンダーなタイプであり

タイプ《クリボー》は防衛タイプといった具合にモンスターによって用途が分かれる。

BIG5のペンギン大好き大瀧の強い熱意によって追加で開発された
タイプ《ペンギンソルジャー》は水場で無類の活躍を見せる。



だが操られたグールズ程度ではどのタイプでも一蹴できる為、今回の騒動では大した差は実感できない。



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